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Reincarnation saga(リーンカーネーション・サーガ)  作者: 八咫烏
◇少年期編~第三章~◇
29/66

学園祭~一日目(後半)~

2013年1月3日改修

 リンネ・アルベールは、やっとクラスのメイドカフェのメイド姿から解放され、

いつもの制服に着替えて一安心していた…

クラスの男子は何故か残念がっていたが…

僕は、そんな男子連中を無視し、廊下に出る。

暫くして、ティファが制服に着替えて廊下に出てきた。

僕は、軽く手を挙げ声を掛ける。

「ティファこっちだよ!」


ティファはその声に振り向き、笑顔で駆け寄ってきた。

「リンネさん、お待たせしました。」


「いや、大して待ってないよ。

僕が着替えてからティファが着替えたんだから、かなり早く着替えたんじゃない?

何だか急がせちゃってごめん…」


それ(急いで着替えた事)を証明するようにティファは少し息を切らしていた。


「そんな!

私が一緒に行きたいから急いだだけですよ。

だから、気にしないでください。」

とティファは笑顔で答える。


◇◇◇◇◇


 僕らは、連れ立って、『投てき部』が実演する予定の投てきの練習場に向かった。

会場は、以外にお客が来ていたので、僕はびっくりした…

練習場の方から先輩が僕に声を掛けてくる。

今の部長のクリフォード先輩だ。

「リンネ!

丁度よかった!

今、誰かに呼びに行かせようと思っていたところだ。」


「そうですか。

それは丁度良かったですね。

それにしても…随分見物人が多いですね?」


「まぁな!

記録保持者の実演ってことで、大々的に宣伝したからな!」


僕は、眉間に指を当てて考え込む

「そ…それは…やはり僕がメインなんですかね…」


「当たり前だろ!

期待しているからな!

すごい所を見せ付けてくれよ!」

と言い、僕の肩をバンバン叩いて、会場の方に戻っていく…


僕は、ため息をつき、ティファに振り返り、声をかける。

「じゃ、ティファちょっと行ってくるよ…」


「リンネさんがんばって!

応援していますよ!」

とティファは、軽くガッツポーズを作って見送ってくれた。


僕は、苦笑して、手を振り、練習場に向かう。


◇◇◇◇◇


 ティファ・エヴァンスは、リンネさんを見送った後、

リンネさんの実演が見られる場所を探していた。

会場は、思っていたより人でごった返している…

どうも女性の人数の方が圧倒的に多いようだ。

所々で女生徒の話声が聞こえる…


「今年は、大会に出てなかったけど…

7年生の投てき競技の記録保持者のリンネ・アルベールって子がかっわいいのよー♪」


「ほんと!ほんと!白い肌に綺麗な顔立ちで、一見すると女の子にしか見えないんだけどねー

なんだか凛々しくて、少し陰がある感じが又たまらないのよねー」


などといった声が耳に入ってくる…

私は、内心少し焦った…

リンネさんって意外と人気なんだ…


リンネさんの周りの女子といったら、ユーリか私かエリザぐらいしかいなかったので、

ここまで人気があるとは思っていなかった…

リンネさんはどう見ても男らしい容姿ではなかったので、

私は少し油断していた…

可愛い系は、この国ではあまりもてる対象ではないからだ…

どちらかといえば男らしい男性が好まれる傾向だと思う。

なので、キースあたりは、結構人気があるのは知っていたが、

リンネさんも人気があるとは思っていなかった…


「油断していたわ…

考えて見れば、容姿こそ女顔だけど…それ以外は、他の男子より運動神経は良いし、

成績もトップなんだから…

それだけで、もてないわけないのよね…

いつも側にいるからって油断できないわ!」

と私は一人、呟いた…


◇◇◇◇◇


 暫くして会場が少しざわめき出す…

どうやら実演が始まるようだ。

部長が練習場の中央に出てきて、声を張り上げた。


「お集まりのみなさん!

本日は、『投てき部』の実演によくおいでくださいました!

当、投てき部は、このカストラート王国内の競技大会で大会記録を出した選手を抱えております!

本日は、その選手に実演をさせますので、どうぞご存分にその実力のほどをご覧ください!

では…ご紹介しましょう!

当『投てき部』のエース!

リンネ・アルベール君です!」

と部長が紹介すると、会場から拍手が鳴り響き、リンネが、会場の中央に歩み出てくる。


リンネさんは中央まで行くと、客席にゆっくり一礼し、言葉を発した。

「只今、ご紹介いただきました、

リンネ・アルベールです。

拙い実演ですが、ご覧頂ければ幸いです。」

と言って、今一度一礼する。


それを確認した、部長が、

「それでは、リンネ君に、実際に投てき競技を実演していただきましょう!

まずは、正面の動く的を競技用ダガーで射抜いてもらいます!」

と言い、リンネさんに向き直り、頷く。


リンネさんもそれに返すように、頷いて、用意できていることを確認する。


「…では、用意!………

始め!」

と部長が、叫んだその瞬間!

リンネさんは、最初から手にダガーを持っていない状態で、

両腿に巻いたベルトからダガーを一瞬で引き抜き、五本を殆ど同時に投げた!

ダガーは狙いたがわず動くすべて的の中央に突き刺さる!


あまりの一瞬の出来事に会場は、静まっていたが、

不意に歓声と拍手が会場をつつんだ…


それに対して、リンネさんが客席に振り返り、ふかぶかと一礼する。

所々で黄色い女子の声が聞こえた…

私は、うかうかしていられないと感じずにはいられなかった…


◇◇◇◇◇


 実演が終了し、リンネ・アルベールは、先輩達に後を任せ、

ティファの元へ向かった。

観客席のティファを見つけて近づこうとした時、

数人の女生徒に囲まれる…

見たことの無い女生徒たちだった…どうやら下級生らしい。

生徒の学年は、制服の襟元に学年毎の学年章で確認できる。


女生徒達は、代わる代わる声を掛けてくる。

「リンネ先輩!

始めまして!

私達は、一学年下の6年生です!」

「さっきのリンネ先輩の実演すごかったです!」

「目にも止まらない早業ってあれを言うんですね!」

と興奮ぎみにまくしたててくる…


「私たち、リンネ先輩のファンなんです!

握手してもらってもいいですか?!」


僕は、勢いに押され了承し、

彼女達に代わる代わる握手する。

彼女達は、お互い手を取り合って、興奮しながら

「リンネ先輩!

これからもがんばってください!

私たち応援していますので!」

と言って、走り去っていった。


僕は、その後ろ姿を少し疲れた笑顔で見送ると、

目線の先に少し冷たい視線を感じ、背中に寒気を覚える。

その視線はティファのものだった…

ティファはジト目で、僕を暫く見て、立ち止まっていた。

僕は、慌ててティファに駆け寄る。


「や…やぁ…

ティファ、お待たせ…

い…いゃあ…なんだかまいっちゃうよね?」


「…何が、ですか?」


「…いゃ…いまの娘達……」


「…そうですか?

なんだか嬉しそうに対応していたように見えましたけど?」


「そ…そんなことないよ…」


ティファは、一呼吸入れて、僕に向き直る。

そして、「まぁ…いいです!」と言って、

「今日は、私に付き合ってもらいますからね!」

と人差し指を立てて言ってきた。


僕は、少し引きつった笑顔で返事を返す。

「分かってるって…今日はとことんティファに付き合うよ。」


ティファは満面の笑顔で頷き。

「じゃ!行きましょ!」

と僕の手を引いて歩き出した。


◇◇◇◇◇


 僕らは、その後、文化祭を大いに楽しんだ。

文化祭は、クラスやクラブが思い思いの出し物を多種多様に出していた…

楽器演奏、各クラブの実演、演劇、クイズ大会、お化け屋敷、各種食べ物の屋台など等…


そんな催し物を一通り回り、時刻は、5時半になろうとしていた…

文化祭時の学校は、6時で閉校なので、周りは、店じまいの作業に追われている。

僕も、今日は早めに帰るとユーリに約束していたので、

そろそろ帰らないといけないと考え始めていた…

そして、教室に戻る為に人気の無い校舎裏の階段を上がっていた。


そんな足早に教室に向かおうとする僕の態度にティファが、

「リンネさん…

もう帰ろうとしているでしょ?」


「?…うん…今日は少し早めに帰ろうかと…

ユーリの事も心配だし…」


すると、ティファは寂しそうに俯き、

「…やっぱり…リンネさんは、ユーリの事が好きなんですか?」


僕は、少し驚いたが即座に返答する。

「うん…僕はユーリの事が好きだし大切だと思っているよ…」


「それは、恋愛対象として…それとも家族として?」


「…家族として…と言うのは間違いないよ…

でも、恋愛対象なのかは…まだ良く分からないんだ…

それに、今は誰とも付き合えないって言うのが本音かな…


仮に僕が今、誰かを好きになって付き合ったとしたら…

その娘につらい思いをさせてしまうと思うから…」


「どうしてですか?」


僕は、どう返事をして良いか迷って、黙ってしまった。

「………」


すると、ティファは意を決したような真剣な表情で僕を見つめて言葉を発した。

「私!リンネさんが好きです!

この気持ちは誰にも負けません!

私と付き合って下さい!」


僕は、少し驚いたが、頷き

「…ありがとう…ティファ…そう言ってもらえて、とっても嬉しいよ。

ティファは好きだし、仲間だと思っているよ…

……

だけど…さっきも言ったように今は…誰とも付き合えないんだ…」


「…訳を…聞かせてもらえませんか?…」


「……ティファ……

僕は、ティファや他の仲間…キースやエリザ達を信頼している…

だから正直に話すよ。

……

でも…すまないんだけど…今から話す事は…誰にもしゃべらないでほしい…

僕だけじゃなく、僕に関わるすべての人に迷惑をかけてしまうから…

約束してもらっていいかな?…」


ティファは頷き

「はい!約束します!」

と返事を返してくれた。


僕もそれに頷いて返し

「…僕は、本当は、この国の人間じゃないんだ…

僕の祖国は、『エルウィン王国』…僕はその国の第四王子…

本当の名前は…『リーン・ウォーター・ペンドラゴン』……」


ティファは口に両手を当てて驚いて…

そして、呟くように言葉を発する…

「じゃ…じゃあユーリとは?…」


「うん…ユーリとは本当の兄妹じゃない…

僕の母とユーリの母は姉妹だから僕とユーリは、従兄弟にあたるんだ…

そして、今、『エルウィン王国』はウルク帝国の一部になっている…

僕は、帝国への反逆者として、帝国に追われている立場なんだ……

僕に関わるって事は、後々帝国に反逆者扱いにされる恐れがある…

それに…僕はいずれ、このカストラート国を離れることになると思う…

…だから…ティファに限らず、今、誰とも付き合うことは出来ないんだ…

辛い思いをさせるだけじゃなく、迷惑をかけると思うから…

だから、ティファも自分の将来を思うなら…本当はこれ以上僕に関わらない方がいい…」


僕は、ティファの顔をまともに見ていられなくて顔を背ける…


ティファは、驚きで目を見開いていたが、

僕の少し辛そうな顔を見て、真剣な顔になって話し始める。


「リンネさん…そんな事情があったんですね…

でも!平気です!

私の家は、上に兄が二人いますし!

この国を離れても問題ありません!

それに帝国とは夏休みに一度戦っています!

帝国は、この中央大陸で侵攻を繰り返して、征服した国に圧政をしいて、

重い税率や兵役を強要してたり、

敗戦国の人たちを奴隷にしたりしています。

これは、私も許せません!

今更、無関係でいるつもりはありません、リンネさんと一緒に戦います!」


「いや…ティファ!

今ならまだ引き返せるんだ、夏休みの件も、敵には素性を知られていない!

実際にあの場で生き残ったのは僕らだけだし…

今なら、このカストラートで平和に暮らせていける可能性の方が高い!」


「そんなことないですよ…

帝国は、今、属国に対しても、

帝国の一部になるよう圧力をかけているって話をお父様から聞いています。

このままでは、いずれこのカストラート王国も帝国の一部になるか…

最悪、戦争になるってもっぱらの噂です…

帝国の一部になった元属国の国民は、三等市民扱いされて、

それは酷い扱いをされるって話です。

なら…自分達の権利を守る為に私は戦うべきだと思います。

…だから!

リンネさんは自分の素性なんか気にしないでください!」

とティファは一気にまくし立てて、言い放った…


「ティファ…ありがとう…

ティファの気持ちは良く分かったよ…

でも…まだ今は…」

とそこまで、言って僕は押し黙ってしまった。


そんな辛そうな僕の顔を見てティファは意を決した表情で突然顔を近づけ

両手で僕の顔を両手で押さえると唇を重ねてきた!


僕は、あまりに唐突な行動に動けないで、暫くされるがままキスをし続けた…


どのくらいたったのだろう…

実際は一分もたっていなかったかもしれない…

暫くして、ティファがゆっくり唇を離す…


そして階段を数歩駆け上がり、振り返る…

「リンネさん!

リンネさんの気持ちがまだ決まってないんだったら、

まだ私にも可能性がありますよね?!

私、諦めませんから!

どこまでも、ついていきます!

覚えておいてくださいね!

いつか振り向いてもらうんですから!

今日は、ユーリも病気な事だし、このくらいにしておいてあげます!

でも、これから覚悟しておいてくださいね!」

と、微笑みながら、言い放ち、階段を駆け上がっていった…


僕は、その後姿を呆然と見送り…

ひとり呟く…

「…ティファにはかなわないな…」


こうして、文化祭の一日目が過ぎるのだった。

ご意見・ご感想お待ちしております。

よろしくお願いいたします。

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