学園祭~前日~
2013年1月3日改修
夏休みも終わり、サイアス魔法学校は二学期に入っていた。
僕は、水竜のカリーニから聞いた、
以前にも異世界からの来訪者がいた形跡があったという話と『白竜』の事を確かめるべく、
クラブ活動の合間や、競技大会の時に学校やカストラートの大図書館で、
『異世界人』と『白竜』の記述を探していた。
ちなみに、今回の競技大会は、選手としては参加していない。
指名されたが、辞退していた…
そのおかげで、図書館での調べ物に時間をついやせていた…
結果として、解ったのは、この中央大陸では、
過去、異世界人らしい異邦人が数人確認され、それぞれ、
その出現した国家で異世界の知識が役立てられた事が解った。
特に建築や道路や上下水道の設備は異世界の知識かららしい…
だが、異世界人とは種族的にかけ離れているらしく子孫は出来なかったとの事だ。
元の世界に帰れたとの記述も見当たらなかった…
また、『白竜』に関する記述は、殆ど無く、
カリーニが言っていた『東の大陸』にでも行かない限り、情報は無さそうだった。
そんな調査作業も一通り終わり、競技大会後には、『文化祭』が開かれる予定だ。
去年は、ベイトでの戦闘で僕は文化祭を楽しむ気になれず、参加しなかったが、
今年は、競技大会の選手でも無く、また事件に巻き込まれてもいないので、
クラスの催し物に参加することにしている。
自分達のクラスの今年の出し物は…
なんとメイドカフェだった。
僕は裏方で調理担当にされていたので、
メニュー作りや、やり慣れない調理に悪戦苦闘していた。
女性陣は粗方メイドに扮装している…
文化祭もいよいよ差し迫り、調理室で僕がオムライスの練習をしていると
女性陣(ユーリ、ティファ、エリザ)が、味見と称し、
調理室に当日着る予定のメイド服で訪れていた。
「どう?
リンネ調子は?」
とユーリがミニスカメイドで正に実物の『ネコ耳メイド』と化した姿で聞いてきた。
メイド服は黒を基調にし、白のフリル付きのエプロンと白のニーソックスという具合だった。
他の二人も『ネコ耳メイド』だ。
僕は、心の中で、
『いやーーまさか…
実物のミニスカネコ耳メイドを見られるとは…
今まで見てきたメイドさん達は、スタンダードの長いスカートだったから…
こっちは秋葉で見そうなメイドさんだな…』
などと考えていた。
僕が調理の手を止めて三人に見入っていると
ティファが慌てて僕の手元を指差し叫ぶ。
「リンネさん!リンネさん!
焦げてる、焦げてるよ!」
僕が手元を見ると、フライパンのオムライスが煙を出していた。
僕は慌てて火を止め、フライパンをコンロから離す。
「ふー危なかった…
ティファありがとう。」
すると横合いからユーリが
「もう!
リンネ!
私たちが可愛いからって見とれていちゃダメでしょ!」
と人差し指を立てて注意してきた。
僕は苦笑し
「いやーー、
あまりにみんなのメイド姿が似合っていたから…」
と少し照れて視線を外す。
ティファはそんな僕の態度を見て
「ほんとですか?
ならちょっと嬉しいかも…」
と少しはにかんでいた。
「でも…
ティファやエリザはクラブの方の出し物を手伝わなくて良いのかい?」
「私たちのクラブは結構な大人数だし、
去年と違って下級生もいるからそんなに人手はいらないのよ。」
「そうなんだ?
ところで、クラブの方の出し物はなに?」
「えっと…
屋台での串焼きだったはず…
まあ、売り子に文化祭の3日間の内、
一日参加すれば良いって言われているからその時は抜け出させてもらうけど…
後はクラスの方を手伝うわ。」
「そうか、こっちのクラブは実演を午後に何回か行うから…
その時、抜けさせてもらう予定だよ。」
僕らは、明日の文化祭本番に向けての予定を話あった。
文化祭はいよいよ明日に迫っていた。
◇◇◇◇◇
文化祭の予定を話をした後、女性陣は一旦着替える為、調理室を出て行く。
最後に調理室を出ようとしたティファが、突然、向きを変えてこちらに走りより
耳打ちした。
「リンネさん…
文化祭で少しの時間でいいので一緒に回ってもらえませんか?」
「え?別に良いけど?」
「ほんとですか!
やった!
あ!…このことは他の人には内緒でお願いしますね!」
と言って、走り去っていった。
僕は、返事をした後、
「あれ?
もしかして…まずかったかな…?
でも…一緒に少し回るぐらいなら…大丈夫かな?
友達なんだし…」
と心の中でユーリに言い訳していた…
◇◇◇◇◇
調理道具を片付け、学校から帰宅しようとした時、雨が降って来た…
「あっちゃー…
今日は傘持ってきてないよー」
僕が空を見上げて呟いていると、ユーリが後ろからやってきて僕に声を掛ける。
「リンネ傘持ってる?」
「いや…今日は持ってないな…
ユーリも持ってないの?」
「そーなのよねー
二人して持ってないんじゃ…
濡れちゃうね…」
今日は、僕の後片付けに時間がかかりそうだったので、みんなには先に帰ってもらっていた。
ただ、ユーリだけは、僕に付き合って居残っていたが…
僕らは、意を決して、走って帰る事にした…
「仕方ない!
ユーリ、そんなに距離があるわけじゃないから走ろう!」
「まぁ…しょうがないわね…って、ちょっとまってよ!リンネ!」
この強行が後に後悔する羽目になるとも知らずに…
◇◇◇◇◇
私は、自宅に自室で、悩んでいた…
リンネと出会ってからもう一年半の時が過ぎようとしている。
出会った時は、帝国軍の兵士から助けられたこともあって、運命的なものを感じたが、
その後、一向に進展する気配がない…
それは、やはりリンネの双子の妹のユーリを気にして、
積極性に欠けていたということもあるが、
それなりにアピールしているのも事実…
…にも関わらずリンネの反応が今一なのは…
「やっぱり…
ユーリの事が好きなのかな?
貴族や王族は近親者の結婚は認められているし…
でも、あまり推奨されていることでもないのよね…」
実際、近親者同士の結婚で生まれた子供は『天才』か『愚者』であるかの
両極端なことで知られているし、
その確率は圧倒的に『愚者』もしくは『欠陥者』の確率が多いと言われている。
その為、貴族や王族であってもよほどの理由(相続関係など)の事情が無い限り、
避けるのが普通だった。
あったとしても、『妾』や『第二、第三夫人』を保険として用意している場合が多い。
「でも…
リンネだったら…第二夫人とかでも良いかな…?
だけど、最初から二番目狙いなんて…
やっぱり、私らしくないわ!
狙うなら一番よね!
スタイルだって、ユーリに負けてないし!
いいえ!むしろ勝っているはず!
せっかく、文化祭で一緒の回る約束をしたんだから!
このチャンスを物にしないと!」
私は決意を新たに明日の文化祭初日を迎えることを決めたのだった。
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