魔法兵器
2013年1月3日改修
僕は、敵、蒸気フリゲート艦の船内に潜入していた。
船内は薄暗く、通路はかなり狭かった。
運悪く、船員にすれ違いそうになった場面もあったが、
窪みや船室に隠れる事で上手くやり過ごし、目的の船倉に慎重に向かっていた。
どうも、この船は3層ほどで船内は構成されているようだ。
一層目は、居住区、二層目が武器庫、三層目がどうやら最下層で、
何か大きな魔力を帯びた層ようだ。
ちなみに操舵関係は甲板後方に装備されているようだ。
最下層まで、たどり着いた、僕は階段を下りた先を確認する。
階段を下りた先には入り口らしき扉があり、扉は開け放たれているが、
警備の兵が一人立っていた。
自軍の船の中なのに扉の入り口に警備兵がいると光景は、
この場所が、この船の中でも特別な場所であることを感じさせた。
僕は、音を立てないように注意しながら、警備兵の横をすり抜ける。
最下層は、壁の区切りも無い広い空間が広がっていた。
水で満たされている空間に足場の浮き板で7~8m間隔で区切ってあり、
何かの養殖場をイメージさせる。
その一つ一つの区切りには、水竜が首と各四肢を鎖で繋がれ、
身動きとれない状態で、背中に銛が刺さり、銛からは銀色の管が伸び、
その管は、船倉の中央部にある巨大な『魔法石』に繋がっているのが確認できた。
僕が、入ってきたのは、船の前の方らしく、船倉の船尾の方には、
部屋の扉のようなものが確認できる。
船倉内には、白衣を来た10名ほどが、竜の様子を診ていたり、
中央部の魔法石のあたりでなにやら作業をしているのが確認できた。
僕は、その中に、一人、猫耳で無い人物を発見した。
耳が横に付いている僕の前世の世界の人間だ。
その人物の容姿は、赤毛に目は茶色、肌は白っぽい白人で、眼鏡をかけている。
この世界は、魔法の助力があるせいか、今まで眼鏡をかけている人を見たことが無かった。
僕は、予想が的中したのを確信する。
『やはり…
アメリカ兵が関与している?!
でも…この装置はなんだ?
前世では見たことが無いが…?
…後、この人数を沈黙させるには、今の敵に見えないこの状態ならば簡単だが…
なんとか、この装置が何なのか確かめたい…』
そんな事を考えていると、アメリカ兵と思われる人物が、
何やら他の白衣の人々に指示を出した後、
船尾の部屋に入って行くのが確認できた。
僕は、『好機』だと思い、急いで船尾にある部屋に向かう。
扉の外から中の気配を伺うと何やら話し声が聞こえた。
「魔法石を『エーテルクォーツ』で制御して大魔法を発動する実験は成功です。
これで、我々異世界人でも魔法が使用可能となります。
後は、縮小化と大魔法の連続使用を現在検討中です…」
僕は、驚いた。
先のベイトでのアメリカ兵は、魔法は使用せず、物理兵器を使用していた。
それは、異世界人には、魔法を寄せ付けないようだからだが、
それをなんらかの方法で、補って、魔法が使用できるようにしたと言うのだ。
確かに魔法石を使えば、少し魔法は使えるのだが、精々生活レベルのもので、
攻撃魔法や大魔法は、術者自身が魔法を使えないと使用できないのが現状のはずだ。
僕は、そっと扉を開け、船尾の部屋に忍び込む。
中は結構広めの執務室の様だった。
壁には、ぎっしりと本が並び、奥の中央に大きい机があり、
白衣のアメリカ人が机の上に置いた通信用の魔法石で、誰かと話をしているのが確認できる。
白衣のアメリカ人は、通信用魔法石に向かって、
「は!参謀長閣下!
実験がすみ次第、まずは大魔法の連続使用実験を開始いたします。」
と声をだし、通信を終わらせるところだった。
白衣のアメリカ人は、話に疲れたのか椅子に身を沈め、呟いていた。
「まったく…
この所の参謀長はどうも機嫌があまりよろしくないようだ…
やはり、ベイトで同胞が5人も『雷の狙撃者』に殺られたのが原因か…
これで、私達も残り、7人か…20人いたのが、10数年で半分になってしまったな…
しかも、全て『雷の狙撃者』の仕業なのだから、たまらない。」
僕は、その言葉を聞き、思い返す…
『僕は、ベイトで5人の米兵と戦ったが…
後の8人は?何時だ?エルウィン王国に最初に攻めてきた爆撃機か?
それとも、エルウィン王国に侵攻中だった部隊にいたのか…?』
と考えたが、今は船倉の装置の事を聞きだすのが先決だと思い、考えを中断する。
僕は、白衣のアメリカ人の背後の忍びより、
椅子に深く腰掛け、何か考えこんでいる白衣のアメリカ人に対し、
咽元にダガーナイフを当てる。
白衣のアメリカ人は、その冷たい感触の驚き、声を上げようとする。
僕は、口をもう片方の手で塞ぎ、
「騒ぐな!
静かにしないと命は無いぞ!」
と脅しをかける。
白衣のアメリカ人は、頭を上下にコクコクと動かし同意する。
相手は感触があるのに見えない状態なのでかなり驚いているようだった。
僕は、声を落としながら
「これから、少し質問する…
下手な行動はしない方が身の為だぞ!」
再度、相手は同意の意思を示し、頷く。
僕は、相手の口に当てていた手を放し、
「まず、船倉の装置はなんだ?」
と命令口調で聞きただした。
白衣のアメリカ人は
「あ…あれは、魔法制御装置だ…」
と少し怯えた感じに話始めた。
「魔法制御装置…
詳しく説明しろ!」
「…あの装置は、魔獣や竜の魔力を吸出し、『魔法石』へと溜め、
『エーテルクォーツ』を使って魔法を発動、制御する装置だ・・・
通常、魔法石には、一つの魔法しか発動させられないが、『エーテルクォーツ』を
使う事によって、複数の魔法が使用可能になる…」
「『エーテルクォーツ』とはなんだ!?」
「『エーテルクォーツ』とは…
この世界の生物ならみんな持っている機関だ…
通常は心臓の中にあり、魔法を制御している…
普通『エーテルクォーツ』は極小さい紫色の結晶なのだが、
大魔法を使うような古代竜などはかなり大きい『エーテルクォーツ』を持っていて、
人間の様に魔方陣や魔法語を併用しなくても、大魔法が使用可能だ…」
「なるほど…
お前達は、魔力とその『エーテルクォーツ』をあの竜達から奪っているのか!?」
「まあ…そうなるな…」
「お前達はどうやってその『エーテルクォーツ』なるものを発見したんだ?
この世界では聞いたことがないぞ!」
「ふ…この世界の獣人どもは、普通に魔法を使えるのが当たり前で、
その原理には無頓着なようだからな…
だが、私たちは魔法を使えないので、その原理に私は興味を抱いたのだよ。
そこで、帝国にあった『いろいろな検体』を調べさせてもらったのさ…」
「まさか!?…死体を解剖したのか?」
「ふ…その通りだ。
せっかく大量の検体があるんだ、
私の知らなかった魔法が如何にして起こっているのか興味があるじゃないか!
まあ、解剖したのは死体だけじゃないがね…」
白衣のアメリカ人はそこまで言うと急に熱を帯びたように雄弁に語りだした。
「私は、この世界が『エーテル』で満たされている事をこの世界に来た時に確認した。
目を凝らすと世界が虹色に見えたのだ!
最初は私の気のせいだと思っていたが、他の者達にも聞くと見えるという。
次に魔法の発動者を観察したとき、『エーテル』が集まり、
オーラとして魔法発動色が発生しているのを確認した。
私は、これは、生物が大気中の『エーテル』を集め、
使用魔法として最適化して、事象を起こしていると思ったのだよ!
そこで、生物には何らかの事象を起こす為の発動機関が備わっている判断し、
検体を解剖することによって魔法元素を制御する結晶体、
『エーテルクォーツ』を発見したのだ!
だが!ここでこの『エーテルクォーツ』を人の手で制御するにはどうすればいいか私は悩んだ…
その答えは、この世界の魔法語や魔方陣にあったのだよ!
そう!魔法語や魔方陣は『エーテルクォーツ』に命令を出していたのだ!
これで、魔法は、
大気中の『エーテル』を体内に集め、『エーテルクォーツ』によって魔法を制御して行うことで起き
る
『事象』だということが解明されたのだよ!
さらに私は、『エーテルクォーツ』に魔法語や魔方陣を書き込み、外部から発動キーワードを入れる
だけで簡易に大魔法を発動させることに成功した!
これにより、魔法石に蓄えた魔力を使い、
魔法を使用できない人間にも魔法が使用できるようになったのだよ!
これは、特定の魔法しか使用できなかった、この世界の人々もこの装置を使えば、
自分の属性魔法以外の魔法も使用できるという画期的な発明なのだよ!
これはまさに、魔法と科学融合だ!」
と、一気にまくし立てた。
「…確かに、すごい発見と発明だと思うが…
その為にどれほどの人や竜を犠牲にしてきたんだ!」
「…何をいっているのだ?
科学の発展には犠牲はつき物だよ。
一々実験動物の数なんか数えちゃいられないが?」
と白衣のアメリカ人はさも当然と言った口ぶりで返してくる。
僕は、殴り倒したい衝動に駆られたが、
今、騒ぎを起こすのは得策とは思えなかったのでグッと我慢した。
「で…その『魔法制御装置』は他にもあるのか?」
「そ…それは…」
と白衣のアメリカ人は言いよどむ。
僕は、咽の当てているダガーナイフに力を込める。
首筋に血が少し流れ出す。
すると白衣のアメリカ人は慌てて
「今はここにあるものと、本国の研究室にある二基ある…
全部で三期だ…」
と苦渋の表情で答えた。
僕は、ここにあるものだけでも、処分することを心に決める。
僕は、白衣のアメリカ人に自分達以外をこの最下層から出させるよう命令した。
白衣のアメリカ人は、
見えない状態の僕と咽に突きつけられている感触があるだけの剣に怯え、
素直に指示に従い、自分以外の研究員をこの部屋から退去させた。
僕は、全員が退去した事を確認し、出入り口の扉に鍵をかけさせると、
白衣のアメリカ人に当身を食らわせ、気絶させ、手足を縛り上げる。
僕は、素早く竜達の鎖を破壊し、銛を引き抜いて回る。
すべての竜を開放したのを確認すると、ポケットに入れていた、
通信用の魔法石を取り出す。
通信用の魔法石は、自分が直接触って魔法力を失わないよう、布でくるんである。
「ティファ、聞こえるかい?」
「リンネさん!
聞こえますよ!」
とティファの元気な声が帰ってくる。
「ティファ、これから場所を特定できるように船体の壁を叩くから、
ユーリに水魔法で、そこまでの空洞の空間を海中に作ってほしいと伝えてくれないか。
作り終えたら、キースにその空間を伝って、船体に半径7~8mぐらいの穴を開けてほしいと
伝えてほしい。」
◇◇◇◇◇
俺はヨット上、でリンネの連絡を受け、
俄然やる気を出していた。
そう昨夜特訓した、光学迷彩とは別の魔法…
『レーザー』を試せるからだ。
ユーリが、船体から発生した音を聞き取り、そこまでの水を避けた空洞を作り出す。
それ確認し、俺は昨夜、リンネから渡されたものを取り出す。
それを見たティファが
「キース、それはなに?」
と指差した。
俺はそれをみんなに見えるように手のひらに載せて見せて
「これは、昨日、リンネから貰った『凸レンズ』だ!
光を焦点に集中させることによって、高熱を作り出し、
物を溶かしたり、切ったりできるんだ。
このレンズは、光を収束させるために使う。
ちなみにこのレンズは、リンネが、自分の能力で作り出した『人工ダイヤ』だとか…」
みんなが『それ』(人工ダイヤ)に注目する。
「ユーリがおもむろに、
え!ダ…ダイヤなの?
その大きさで!?」
そうその人工ダイヤの大きさは、直径15、6センチはあった。
俺は肩を竦めて、言葉を付け加える。
「なんでも、炭素を高圧縮すると出来るとか…出来ないとか言っていたが…
ああ、炭素っていうのは墨のことらしい。」
するとティファが素っ頓狂な声を上げる。
「えーー!
キースだけずるい!私も欲しい!」
俺は、その声にビックリし、注意した。
「しーー!
声がでかい!」
ティファは口を押さえ、目で謝罪していた…
「後で、リンネに作って貰えよ!
結構簡単に作っていたから。」
と言って、一応フォローしておく。
叫んだのは、ティファだけだったが、
女性陣の三人共、目の色が変わっていたのは言うまでも無い。
俺は、そんな女性陣を尻目に両手で『凸レンズ』をかざし、
光魔法を発動させる。
「光の粒子よ!我の呼びかけに応じここに集え!」
すると、腕の間に眩い光が集まる。
俺はレンズに光が流れるイメージを作り、光を放出させる。
光はレンズで収束させ、目標の船倉外壁に当たる。
船の外壁は白い煙を出しはじめ、鉄板でできていると思われる外壁を溶かし始めた。
俺は目標がずれない様に慎重に8mほどの円を描きように外壁を切っていく。
5分もかからずに、外壁が円状に切り取られ、
円状に切り取られた外壁は、海底に落ちていった。
◇◇◇◇◇
キースが、船体に穴を開けた事を確認した僕は、
竜達にその穴を通って、外に出るように動かそうとするが、中々動かない。
僕は、再び、通信用魔法石を取り出し、
「ティファ!
カリーニに水竜達を今空けた穴から外に出るように説得するように言ってくれ!」
と呼びかける。
「解かりました!」
とティファが返してきた。
ティファは、カリーニに向かって、
「今空けた穴から、水竜達が中々出て行かないらしいの!
その穴から、外の海に逃げるようにあなた(カリーニ)から説得して!」
と呼びかけた。
カリーニは、頷き、水中に顔を沈めるとなにやら音を出す。
それに答えるように、船内にいた水竜達が動き出し、次々に海へと出て行った。
僕は、もう竜が残っていないか確認する…
5体ほどすでに事切れていて、これ以上の救出が出来ない事を悟った…
竜達が一斉に動いた事により、船にはかなりな振動が発生していた。
不審に思った船員が、最下層の扉を破ろうとしている事に僕は気づく、
僕は、水竜の出た穴から外に飛び出し、海に出、ヨットのみんなと合流する。
ヨットに這い上がった僕は、立て続けに指示をだす。
「ユーリ、空間を閉じていいよ!
ティファ全速力でここから離れて!
沈没に巻き込まれる恐れがあるから!」
ユーリが空間を閉じると、帝国の軍船の船倉に海水が流れ込んでいく。
ヨットは急速に軍船から距離を置く…
◇◇◇◇◇
僕らは、5km程度離れた所で、軍船が沈んで行くのを見ていた。
僕は、軍船の中で見た光景を説明する。
みんな、声を失い聞き入っていた。
その話が、丁度終わろうとした時、ほとんど沈みかけた軍船から轟音が響いてきた。
僕らは、驚いて、その方向を見ると、3mほどの魔法石が10mほど空中に浮いている!
その魔法石には、台座があり、台座の上にはあの白衣のアメリカ人が座って、
何か操作しているようだった。
目を血走らせた白衣のアメリカ人が空中から叫ぶ。
「はーはっはっはー!
脱出してやったぞ!
薄汚い鼠め!
何処に隠れている!出て来い!」
といって、周囲を見渡す。
僕らは、その光景に恐ろしいものを感じた。
白衣のアメリカ人からは、キースの光学迷彩の魔法で見えていないはずなので
このまま、逃げる事は可能だったが、
あの兵器を野放しにするのは危険だと感じ、逃げるのを踏みとどまる。
今、僕の手持ちの武器はダガーが10本とショートソード…
みんなの武器も各自ショートソードを持っている程度だ。
僕は、頭の中で、考えた。
『レールガンなら…ヤツを打ち抜けるか?』
僕は、みんなに向き直り、言葉を発する。
「今から、ヤツを攻撃しようと思う。
ユーリは知っているだけど、僕はこの距離で狙撃する手段があるんだ。
…あれは危険な兵器だし、あの人物も危険だ。
出来ればここで確実に仕留めておきたい…」
みんな黙っていると…キースが、聞いてきた。
「人を殺すのか?」
僕は、頷き、答える。
「ああ…
もう既にさっきの軍船の沈没で少なくない人が死んだはずだ…
だからといって、早々、簡単に人を殺すのは良いことじゃない…
でもあの魔法石の機関もあの人物もこの世界に取って良くない事は、
直接話をした僕が断言できる…」
そう僕が、断言し、みんなの了承を得たとき、
白衣のアメリカ人が拡声の魔法を使いながら、叫びだした。
「卑劣な鼠よ!
さっきのように姿を眩ませているな!
いいだろう!
そっちが出てこないなら、この海域を『すべて』攻撃すればすむ事だ!」
すると、見る見る内に魔法が発動前のオーラが集まる現象が、
空中の魔法石に見え始め、
あっと言う間に巨大な竜巻が八本も発生した。
八本の巨大竜巻は、空中の魔法石を中心に八方向にそれぞれ海水を巻き上げながら進み始める。
僕らのヨットはその竜巻に煽られ、木の葉の様に波に翻弄された。
僕は、激しく波打つ船上で、敵に狙いをつけあぐねていた。
すると、急にヨットの揺れが収まる。
よく見ると、ヨットが水の球体の中に入っていた。
ヨットの後ろでカリーニが声を掛けてくる。
「今、水の球体結界を張った、
今なら攻撃できないか?」
僕は、頷き、礼を言う。
「ありがとう!
カリーニ!」
そして、敵の白衣のアメリカ人を見据え、目を凝らし、
光の反射を調節し、望遠で敵を確認し、ダガーに電磁レールの付加を最大限の5mを付与し
投げはなった。
ダガーは狙いたがわず、敵に当たるはずだったが、寸前で方向を曲げられ、
相手に当たらず、飛んでいった。
その後にソニックブームの轟音が当たりに鳴り響く…
僕は一人呆然とし、呟く。
「なぜ?
当たらなかった?」
その答えは、思わぬ人物…エリザからもたらされた。
「敵の周りに風の結界が感じられます…」
僕は思わず聞き返す
「風の結界?」
エリザは頷き、
「はい。
しかもかなり強い結界です。
敵を中心に暴風雨並みの風が流れているはずです…」
僕はよくよく敵を見てみる…
確かに風魔法をかけているようなオーラは見て取れる…
僕はエリザに向き直り、聞き返す。
「あの結界を無効化できないかな?」
エリザは首を横に振り、言いよどむ。
「同程度の風魔法なら打ち消す事は可能でしょうが…
あの規模は大魔法に属しますので、大魔法となると、私達では…」
そうしている間に、敵が魔法の効かない水の球体に気づいた。
「!!!
そこに隠れているな!」
…カリーニの張った結界に気づいたようだ。
僕は、舌打ちし、
何か攻撃の手段が無いか考えた。
『直接の攻撃が届かない…
ならば…広範囲を攻撃すれば…
でも…『あれ』はあまりにも危険だし…
敵の近くまで、物質に当たらないようにしないと…』
僕は、ティファとエリザに向き直り、腰に巻いていたポシャットから
野球ボール程度の大きさの『薄っすら黒いガラスの球体』を取り出す。
球体の中心には、『小さい黒い玉』が宙に浮いていた。
黒い玉は、パチンコ玉よりかなり小さい大きさだ。
パチンコ玉が5g程度なので、その五分の一程度の大きさ…
1g程度か…
僕は、それをティファとエリザに見せ、話しかけた。
「この玉を敵の近くまで衝撃を加えずに届かせることができるかな?
僕の能力だと加減が難しくて、近くまで衝撃を与えずに届かせるのは難しいんだ。」
二人は、顔を見合わせ、エリザが答えた。
「一人が衝撃を与えない風の結界のこの玉に張った状態で、
もう一人が、弓矢で使う遠投系の魔法をかければ…
何とか届かせられると思いますが…」
僕は、頷き、念を押して、ガラス玉をエリザに手渡す。
「じゃ!
直ぐにお願いするよ!敵の近くまでいったら、魔法を解いていいから!
敵結界付近じゃこんなガラス玉は直ぐに壊れるだろうからね。
でも、くれぐれも、僕達の近くに落とさないように…」
僕は、カリーニに向き直り、声を掛ける。
「カリーニ!
彼女達が玉を投げたら結界を最大にしてくれ!
それとカリーニ自体もできるだけ丸まってくれ、
僕も、能力を最大限にして、結界をはるからその結果内で防御したい!」
その後、みんなに振り返り、叫び声を上げた。
「みんな、このヨットまでカバー出来そうにない!
カリーニの背中に移るんだ!」
そして、カリーニの背中に飛び乗る。
みんなもそれに続き、飛び乗った。
カリーニの全長は25mほどだが、首を背中側にたたむ事で15mほどになる。
僕のルールスペースの範囲は通常直径10mだが、一瞬ならば、
倍近く(20m)までカバーできるので、爆発の瞬間だけ最大にすれば何とかなるはずだ。
ティファが恐る恐る尋ねてくる
「リンネさん…
もしかしてこのガラス玉は、爆弾なんですか?」
僕は、ニヤリと微笑み
「ああ!
超強力なヤツだから!
扱いには気を付けて!
あ!でも僕の結界内なら、何とかするから大丈夫。」
と、付け加える。
ティファはエリザの持つガラス玉を青ざめた顔で見ると、
コクコクと頷いた。
エリザはどう思ったのかは、表情からはうかがい知れない。
エリザは、ティファに向き直り、指示する。
「ティファ私が、この玉に結界を張ったから、敵に投げて。」
そして、ガラス玉を手渡す。
ティファはそれを恐る恐る受け取ると、
意を決して
「えーーーい!」
と少し可愛い掛け声で敵に向かって投げた。
ガラス玉はその掛け声に反し、『剛速球』となって、敵に向かって飛んでいく。
僕とカリーニは、お互い頷き、結界を最大限にし、
光で目を傷つけないようルールスペース内を、
サングラスをかけたような薄暗い視界にする。
ガラス玉は敵の確認できる範疇にまで来たとき、敵の結界に当たり破裂した。
すると、当たりに膨大な衝撃が走る!
海はその当たりだけ蒸発し、半径数十キロにわたり衝撃波が襲い掛かった。
そう…ガラス玉の中の『小さな黒い球体』は『反物質』だったのだ。
そのエネルギーは1gでスペースシャトルの外部燃料23機分に相当する。
原爆に換算すると広島型原子爆弾の3倍弱の威力だ。
反物質は物質と接触すると対消滅をし、恐ろしいエネルギーを拡散する。
僕は、昨夜、通常は粒子加速器などを使用しないとできないこの反物質の製造
をルールスペースを使う事で難なく物質変換させて、製造できていた。
製造できたのはいいが、あまりに威力がありすぎるので、処理に困ってもいた。
取り敢えず、僕は、ガラス玉の内部を真空にし、物質と接触しない状態を作り出し、
反物質とガラス玉に反発する磁力を付与して玉の中央に固定する形で、持っていたのだ。
なお、ガラス玉には磁力を持たせる為、砂鉄を含ませた。
その為、ガラス玉は、サングラスの様な薄っすら黒いガラスとなっていた。
僕は、あまりの高温と圧力にルールスペースを維持するのにまさに
死ぬような苦労をしいられていた。
その爆発力は想像を絶していた。
僕は、頭の後ろを鈍器で殴られたような衝撃と圧力に耐えた。
今まで、能力の発動の維持を外部からの圧力で壊されるようなことは決してなかったが、
今回の爆発は、少しでも気を抜けばルールスペースともいえども、破られるのではないかという
衝動をうけるほどだった。
爆発の衝撃が収まったころ、僕は能力の限界の倦怠感と、能力を最大発現した影響からか、
嘔吐していた。
ルールスペースが突如なくなり、僕たちはカリーニごと、海に落ちる。
海が少し蒸発したせいで、かなり、落下する羽目になった。
僕は、意識が遠くなりながら、
「カリーニ…後は頼む…」
とだけ何とか口に出して、気を失った。
今後の参考や励みとさせていただきたいので、
是非、ご意見・ご感想をお願いいたします。
今後ともよろしくお願いいたします。