準備
2013年1月3日改修
僕らは、一旦、別荘に帰り、今後の方針を検討することにした…
別荘に帰った頃には、すっかり日も落ちて真っ暗になっていた。
別荘の執事達が、僕らをかなり探していたようだった。
僕らは、そんな執事達に謝り、今後こんな事をしないと約束させられた。
僕らは、夕食後、再度みんなで集まり、
竜狩りの軍船をどうやって発見するか話し合うことにした。
夕食後、僕の部屋に集まったみんなに、僕が話しを切り出す。
「さて…
どうやって『竜狩り』の軍船を見つけるか?」
「取り合えず、
アイサスの港に戻って、聞き込みをするのはどうだ?
軍船でも、補給は必要だろうし、ここら辺で補給が出来そうなのは、サイアス港ぐらいだし…」
とキースが言ってくる。
「でも、帝国軍の軍船とか、黒い軍船の話って、聞かなかったんじゃないの?」
とティファが話に割り込む。
「そうだけどよ…
詳しく、その黒い軍船について、聞き込みしたわけじゃないからな。
詳しく話せば、何か話が出くる可能性はあると思うが?」
そこで、僕は、少し考え
「みんなの、その船がサイアス港を利用しているはずって話は、
船の一日の移動距離から考えて、サイサス港を、
補給基地にしているって予測から話しているんだと思うけど…
もしかすると、『黒い軍船』はみんなが考えていうより、早く長距離を移動できるんじゃないか?
と僕は思っているんだ。」
「どうしてだ?」
とキースが言ってくる。
「『カリーニ』の話だと、黒い煙を出していたっていっていただろう?
僕は、それは『蒸気機関』を使った『蒸気船』だと思うんだ。」
「『蒸気船』?、ってなんだ?」
とキースが怪訝そうな顔をする。
「『蒸気船』っていうのは、水を沸騰させて作った『蒸気の圧力』を利用して、
歯車などを回転させて動力とする機械を使った船の事だよ。」
「そんなのが帝国にあるのか?」
「ああ…あるはずだよ…」
僕は、ベイトで戦った『アメリカ兵』の事を思い出し、確信していた。
するとその話を聞いていたエリザが、
「リンネさんは、何だかずいぶんと物知りなんですね?
その知識はどこで、得られたものなのですか?
私達が知っている一般的な知識とは違うようなのですが…?」
と疑問をぶつけてきた。
僕は、心の中で少しあせり
「いやーーー…
ちょっと帝国の事情に詳しい人と知り合いでさ…
そこからの情報なんだよ…」
と言葉を濁す。
「その人って帝国の人なんですか?」
と首を傾げながらエリザが聞き返す。
「いや…ちょっと素性とかは…勘弁してくれないか…」
エリザは今一納得いっていないようだったが、
あまり深く聞いてはいけない人物なのだろうと思ったのか、頷いてくれた。
僕は内心ほっとする。
「で、ユーリに確認したいんだけど…
水魔法の中で確か、かなり遠方の音を確認できる魔法があったと思うんだけど?」
「ええ、あるわよ。
音を聞く以外に、こっちから音を水中に発生させて、『何かいるのか』とかそこまでの距離がわかる
んだけど?」
『やはり…潜水艦のソナーと一緒か!』
「で、どのくらいまでの距離のものなら把握できるかな?」
「うーーん?
多分最長だと…10kmぐらいだったとおもうけど…」
「10km?
すごいじゃないか!」
『潜水艦のソナーと同等だ!』
「でも、水竜ならもっと先まで、解るんじゃないかな?」
「そうか…なら、『カリーニ』にも少し、協力してもらうか…」
「でも帆船の進む音は、かなり聞き取りづらいから…私でも5kmぐらいかな?
音波をこっちが発生させる場合は、大きな漂流物か船かは解り図らいとおもうけど…
水竜なら倍の距離でも判別して、聞き分けられるとは思うわ。」
「いや、僕の考え通り『蒸気機関』を併用した船なら、蒸気機関で動かしている時はかなり音がでて
いるはずだから、見つけやすいとは思うんだけどね。」
「で、リンネ!
その軍船を見つけたとしてどうするんだ?」
と、キースが勢い良く体を乗り出して、聞いてきた。
「まずは、なんで竜を狩っているか調べないと…」
エリザが怪訝な顔で聞いてくる
「竜を狩る行為は、今は竜の数が少ないので、各国で禁止していますが、
昔はかなり盛んに行われていたらしいですよ。
その用途は主に、竜の皮や牙などが武器や鎧などに適していたとか…
まあ、その他にその皮や牙にはそれぞれの竜の魔力が残っていて、
その系統の魔法が強化されたってことの方が大きいのですが…」
「いや…エリザ…多分、帝国はそれ以外の使い道を考えついたんじゃないかな?
武器や防具にするには、帝国の兵数から考えて、足りないだろうしね。
だから、竜狩りをしている軍船は、ただ沈めるんじゃ無くて、
その前に、少し調査したいんだよね…」
するとキースが難しい顔をして、
「でもよ…
まあ、水魔法で、その船を見つけるとして、だ…
その後、その船に乗り込むにはどうやって近づく?」
僕は、ニヤリと笑いキースに向かって
「そこは、キースの腕にかかってるんだけどね!」
キースは、自分に振られ、驚いた顔で
「え!俺か?!」
「そう!
…キース、君の光魔法で、「遠見」の魔法があるだろう?
光の屈折を操作して視る。」
「ああ…あるけど?」
「その魔法で、他人にも映像として表示できたよね?」
「ああ…できるけど?」
「その最大表示はどのくらい?」
「うーん、俺なら100㎡ぐらいまでなら…表示できると思うが…
遠くの映像をその大きさで表示する意味はないけどな…」
「100㎡か!
なら丁度、僕らのヨットの長さが9mで、帆を張った高さが18mぐらいだから、なんとかなるな…」
「?ヨットに映像を写すのか?」
「まあね。
正確には、ヨットの背景を敵側に写すのさ。」
「ヨットの背景を写す?
遠くの状況を写すんじゃなくて?」
「ああ。
ヨットの背景を写すとどうなると思う?」
「ヨットの背景って?殆ど海だろ?」
「じゃ、敵側には何が見える?」
すると、ティファが驚いて、
「海が見えます!
敵には、私達の船じゃ無くて、海しか見えなくて、私達の船は見えないんですね!」
「そういうこと。」
「おお!そうか!
それは気がつかなかった!
そんな使い方、教わらなかったぞ!」
「ああ、僕も魔法の授業を聞いていて、なんでその使い方をしてないのか不思議に思っていたんだよ
ね
…」
『光学迷彩の概念がないのだろうけど…ね』
「で、方法としては、水魔法で、敵を探し出し、光魔法で姿を隠して、敵の船に近づき、
船内を調査するって感じで進めたいんだ。
探す範囲は、『カリーニ』に、自分が襲われた場所を聞いて、
その場所を中心に探して行こう。」
みんなは頷き、明日から行動に移す事を確認する。
◇◇◇◇◇
僕は解散する時、キースを呼び止める。
「キース!
ちょっと君の魔法で、試したい事があるんだけど。
これから付き合ってくれないか?」
「俺の魔法でか?」
「ああ。
以前、君は自分の魔法は、後方支援や偵察にしか使えないって、ぼやいていたよね?」
「ああ…そうだが?
どうも光魔法っていうのは、明かりか望遠鏡代わりにしか思われてないんだよな!」
「ちょっと、その考えを覆してみようと思ってね。」
「お!そんな事が出来るのか?」
「それをちょっと検証したいのさ。
付き合ってくれるだろ?」
「ああ!喜んで付き合うぜ!」
僕らは、結局、朝方まで、検証を繰り返し、寝不足で、翌日の調査に向かう事になった…
◇◇◇◇◇
朝食後、船着場に集合予定だったか、僕とキースは、昨夜の疲れから、
一度着替えに部屋に帰った時に眠ってしまったらしく、
女性陣にたたき起こされて出かける羽目になった。
僕らは、水竜に会う為、再び竜神島を目指す。
キースには、軍船が見つかった後に、働いて貰わなければ、ならないので、
ヨットで仮眠をさせることにした。
僕らは、神殿の地底湖で、水竜に会い、カリーニが襲撃を受けた場所を確認した。
「私が襲撃を受けた場所か?
あそこはここから、北西に数十キロ行った沿岸だったが…
確か近くには、ぬしらの町で…ベイトとかいう港町があったが…」
それを聞いたティファが
「ベイトって!
ここから船でも2日ぐらいかかるよ!」
と驚いた声で言ってきた。
僕は、『カリーニ』に向かって、
「カリーニ、あなたのテリトリーってかなり広いのですか?」
と聞き返す。
するとカリーニは目を細め
「そうだな…人間の基準で言えば…おぬしらの国の2個分の広さはあるな…」
「そんなに…
で、カリーニはどのくらいの範囲なら、船とか把握できますか?」
「そうだな…一度にならば、全体の10分の一の範囲ならば何とか、検討はつくとは思うが…」
確か…
カストラートは500,000k㎡ぐらい…スペインぐらいの国土だったはず…
その倍って事は、1,000,000k㎡…エジプトぐらいの広さの10分の一…
100,000k㎡…韓国ぐらいの広さを一気に把握できるのか…
人間の水魔法では、10k㎡ぐらいだから…
1000倍…桁外れだな…
流石に、魔力も桁外れか。
「それにしても、あなたの魔力は相当なものに感じるんですが…
なんで、銛を受けたり、反撃して、沈めたりしなかったんですか?」
『カリーニ』は、苦渋の表情で
「攻撃も防御ももちろんしたのだよ。
だが、相手の対抗魔法で、すべて弾かれ、銛にも水魔法への対抗処置を付与された状態で打ち込まれ
たようだ。」
「あなた程の魔力を防いだり貫いたりできるなんて!
人間の魔力では考えられない!」
「私もそう思うが、実際、そうなのだからどうしようもなかったのだよ。
言っておくが…
ぬしの様に魔力が効かなかったのではなく、魔力で対抗された感覚は確かにあった…
少なくとも私と同程度の魔力を相手は個人なのか、複数なのかは解らないが、
使えるのは確かだ。」
僕は心の中で、呟いた。
『やはり…何かカラクリがありそうだ。
ますます、調査するべきだな…』
僕は、気を取り直し、『カリーニ』に向き直り、
軍艦の所在を確認して貰うため『カリーニ』に聞いた。
「では、今は、その軍艦らしい気配というか、音は感じませんか?
恐らく、かなりな音が出ているとおもうんですが?」
『カリーニ』は、目をつぶり、魔法を発動し、感覚を研ぎ澄ます。
《どうやら、『カリーニ』はわざわざ水に潜らなくても、
水中への音波探査魔法が使用可能なようだ》
「…北西に50kmほどの海域で、それらしい音が聞こえるな…」
「そうですか!
日が昇って移動しはじめたんでしょう!
50kmなら僕らのヨットでも1時間半から2時間でいけるはず!」
「ぬし達にばかり面倒はかけられん!
私も同行しよう。
ぬし達の船の下から水魔法を付与するので、しっかりつかまっているのだぞ!
私自身なら、40分ぐらいだろうが、ぬし達と一緒だとやはり、1時間程度か?」
僕らは、急いで、ヨットに戻り、カリーニと共に、
竜狩りを行っていると思われる軍船へ向かった。
仮眠していたキースがあまりの船の速度に仮眠どころじゃなかったのは言うまでもない…
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