夏休み
新章の始まりです。
ベイト脱出作戦から8ヶ月…
僕はサイアス魔法学校の7年生になっていた。
『ベイト脱出作戦』の後、2回程、アルベール兄さんから助力の依頼があったが、
兄の窮地での依頼ではなく、戦闘への参加要請だった為、
僕は、その依頼をすべて断っていた…
6月末日…季節は、初夏となりつつあった。
この時期から、カストラート王国は、かなり暑い時期に入る。
学校の夏休みも前世の日本の夏休みが1ヵ月少しだったのに比べ、
カストラートでは、7月~9月初旬まで2ヶ月少し取っている。
それは、暑さの為、勉強に集中できないからだ。
どうやらカストラートは、日本よりかなり南で、赤道に近いように思えた。
実際、冬の時期の気温でも15度を下回ったことはなかった。
その代わり、夏の暑い時期は40度前後にもなり、外での活動はかなり困難を極めた。
その為、初夏のこの時期であっても、30度超えの日が多かったので、
学校や外での仕事は日中は避け、朝と夕方に限定していた。
この時期の学校は、もう直ぐ夏休みとなる為、
学生は、皆かなり浮ついた様子で、勉強に集中できていない様子だった。
かく言う、僕らのクラスも例外無くその浮ついた空気だったのはいうまでも無い…
昼休み、僕ら5人《僕、ユーリ、ティファ、エリザ、キース》は、
何時も昼食を一緒にとるのが日課になっていた。
そんな昼食中、ユーリが口火を切った。
「みんな!
夏休みの予定は決まっているの?」
ティファがそれに答え、
「え?
私はまだ考えて無いけど?
みんなは?」
とみんなに確認する。
エリザと僕は首を横にふり、
「別にまだ決めてないぜ?!」
キースが返事を返していた。
ユーリはみんなのまだ予定か決まっていないという反応を確かめた後
「じゃ!
みんなで、うちの別荘に行かない?
うちの別荘がこのサイアスの沖の小島にあるのよ!」
とみんなに提案する。
するとティファが、聞き返す。
「サイアス沖にある小島って…
『水竜』様が祭ってある島の近くの小島?」
その質問に、とユーリは勢い込んで、返事をする。
「そうそうその島!
主に、祭りの時の来賓用の別荘なのだけど、今の時期は利用は殆どしてなくて、
管理している執事とメイドが数人いるだけなんだって!
せっかくだし、みんなでそこに遊びに行かない?」
水竜…とは古代竜を指す。
古代竜は、全部で魔法と同じ6種存在する、
水竜、火竜、地竜、緑竜、金竜、黒竜だ。
ちなみにカストラート王家の守護竜は紋章でも描かれている『火竜』だが、
ここサイアスは港町という事もあり、
『火竜』だけでなく『水竜』も信仰の対象となっている。
古代竜は、伝説の存在として崇められ、その力は神の如きと伝えられていた。
その『水竜』に対して、祈願する為の神殿をサイアスは、港の沖の島に作っていた。
祭り自体は、晩秋に行われる。
その祭りは『水竜神際』と呼ばれ、
祭りの日には、サイアスの港の船が総出で出港し、
大漁を祈願するため、夜通しかがり火を焚く勇壮なお祭りだ。
今の真夏の時期は、かえって人気が無い場所で、その為、
サイサスに海水浴目当てでくる、観光客も来ないので、
ゆっくりすごせそうな場所だった。
その別荘は、もちろん僕らの父、
現サイアス領主『エイナス・アルベール』のものとなっている別荘だ。
真っ先にキースが賛成する。
「お!いいじゃん!
あそこって、かなり綺麗な砂浜があったよな!
それにお前達の家の別荘だと旨い物も食えそうだし!」
するとティファが、その返事に対して、非難した。
「ちょっと!
キース意地汚い事いわないでよ!」
「じゃ!
決まりね!
夏休み初日から別荘に行けるようにお父様に相談するわ!」
ユーリはみんなの反応を肯定と判断して返事をする。
ティファはそのユーリの言葉を聞いて、提案した。
「ね!ね!
ユーリ、それじゃ今日の帰りとか、女性陣で新しい水着買いにいかない?」
「いいわね!
エリザも行くでしょ?」
「うん、行く。」
と女性陣で買出しの話をし始めた。
僕はどうしたものかとキースに振り向くと、キースは、
「くーー!
水着姿の女子!
今から楽しみだ!」
と呟いていた…
「キース…取り合えず僕らも水着でも買いに行くかい?」
「おうよ!
もちろんこっちも女子に負けてられないからな!」
と、キースは、即座に返事を返してきた。
「じゃ、クラブが終わったら見に行こうか?」
僕は苦笑しながら、事を返していた。
こうして、僕らは、夏休みを別荘で過ごす約束をした。
◇◇◇◇◇
夏休み初日7月1日は、清々しいほどの快晴だった。
僕は、飛竜《アスラン》で別荘まで行く事も考えたが、
ドラグーンには、せいぜい2人しか乗れないので、4回は往復しなければならない。
そこで『アスラン』は、屋敷の竜舎で、待機してもらう事にした。
8ヶ月前からアスランは屋敷の竜舎で世話をしてもらっている。
時々、ユーリも乗せて、近場を遊覧するのを日課にしていたが、
この夏休み期間は、留守にする事になるので、
運動不足にならない程度に運動させるよう、竜舎の世話係に頼んでおいた。
アルベール家では、僕のドラグーンの他に養父の飛竜も飼っているので、
世話係としては、そんなに負担ではないとの話だったので、安心して、別荘に向うことにした。
飛竜は、余程の貴族か、軍隊で無いと所有が許されないので、
2頭も所有しているのはかなり、特別と言える。
飛竜は野生のものを飼いならすのは困難な為、
現在、人が飼われている飛竜からの繁殖が殆どだ。
それは卵から育てないと懐かないと言うこともあるが、
野生の飛竜から卵を採るのがあまりに危険なことも要因のひとつで、
さらに、飛竜は5年に1回程度しか繁殖行動を起こさないことも
数を増やせない要因になっていた。
◇◇◇◇◇
僕らは結局、ヨットで別荘まで向かう事にした。
サイアスの子供は、海が近い事もあり、船の操船はお手の物と言えた。
僕とユーリは操船は不慣れなので、養父に借りたヨットの操船は、
キース達に任せて別荘に向かうことにした。
少し、大きめのヨットだったので、5人ならば十分な広さがある船だった。
僕は、そのヨットを見たとき、前世でのヨットと殆ど変わらない作りに驚いた。
この世界は結構、前世の文明から見ると中世ぐらいの文明に見えるが、
その実、魔法が科学の変わりとなっている部分が多々あり、
一概に文明が大幅に遅れているとは言い切れない部分がかなりあった。
船などは、基本は帆船なのだが、風魔法を付与した帆や、水魔法を付与した船体などで
前世の世界の船より、乗り心地もよく、速度もかなりでたので驚かされる。
もっとも持続して魔法を付与するには『魔法石』が必要ではあったが…
『魔法石』というのは、
魔法を付与し継続的に発動できる鉱石だ。
『魔法石』もずっと魔法を発動し続けるわけではないが、バッテーリーが電気を蓄積するように
魔法を蓄積する。
といっても、一種類の魔法に限られるので、複数作用させる必要がある場合は、
魔法石も複数必要ではある。
このヨットにも帆への風を制御する魔法石と船体を制御する水魔法を付与した魔法石が
装備されている。
僕らが、別荘のある島の船着場に到着すると、別荘の屋敷の執事達が迎えてくれた。
僕らは、荷物を預け、早速、砂浜に繰り出す。
昼前のこの時間は日差しが厳しく、僕は、砂浜に広げたパラソルの下のリクライングベンチ
に即座に避難していた。
僕の肌は極端に白く、かなり日差しに弱いので、この日差しは殺人的と言えた。
他のみんなは、ボールでビーチバレーを始めている。
この世界の人間は、それぞれの魔法で日よけ対策ができるからうらやましい。
水魔法なら体の表面の温度と水分を調整できるし、
風魔法なら空気の流れを利用して温度調節が可能だ、
光魔法なら、自分に掛かる光の制御が可能だった。
僕だけ、なんの対策もだきないので、今は避難しているというわけだ。
もっとも魔法にしてもせいぜい2時間程度の制御が限度ではあるが…
僕が、パラソルの下で、ぼんやり海を眺めていると、
不意にティファが駆け寄ってきた。
ティファの水着は髪の色と合わせたのか黄緑色のビキニだった。
ティファはかなりスタイルの好いバストを見せ付けるように僕をのぞき込む。
そのしぐさに僕は、あせらずにはいられなかった。
ティファは、
「リンネさん!
どうしたんです?
いっしょに遊びましょうよ!」
と詰め寄る。
僕はドギマギしながら、
「い…いや…ちょっと日差しがきつかったからさ…」
と、しどろもどろに返事を返していると、他のメンバーも僕のところに集まってくる。
ユーリが
「ティファの言うとおりだよ!
せっかくこんな綺麗で誰もいない砂浜なんだから!」
と僕の手を取って、立ち上がらせようとする。
ユーリもティファに負けず劣らずのスタイルだか、ティファに比べると細身に見える。
ユーリの水着は水色のビキニだ。
そして、賛同するようにエリザも
「リンネさん、そんなところに引きこもっていると不健康ですよ。」
と言ってくる。
エリザの水着は白のワンピースだ。
他の二人に比べると控えめなスタイルと言える…
そんな僕らの姿をキースが眺めながら…
「リンネ…相変わらず、大人気だな…
羨ましい…」
と呟いていた。
ちなみに、僕は格好は、緑色のロンパンの水着で半そでのシャツを羽織っていた。
キースはなんと黒で金のラインの入ったブーメンランパンツの水着だ。
ちょっとキースのこの水着には女性陣は引き気味だったのは、言うまでも無い……
僕は、諦めて、少しの間でも日差しを避ける為、ルールスペースを薄く纏って
立ち上がり、ビーチバレーに参加することにした。
こうして、僕らの夏休みが始まった。




