大会~一日目~
2013年1月1日改修
カストラートの学校対抗の競技は、8校から9種目が行われる
『剣術試合』『魔法剣術試合』『弓魔法競技』『体術試合』『魔法体術試合』
『投てき競技』『学校対抗模擬戦』『各種魔法別競技』『遠隔魔法競技』
の9種目だ。
大会競技場は、首都カストラートにある会場が使用される。
『各種魔法別競技』『遠隔魔法競技』は厳密に言うと各種属性魔法毎となるので、
さらに細分化される。
特に人気があるのが『学校対抗模擬戦』と『魔法剣術試合』だ。
この模擬戦と魔法剣術は、実践的なこともあり、現在、国としてもかなり優遇している。
実際この競技での優勝者は、『準騎士爵』ではなく『騎士爵』を与えられる。
学校を卒業しても貴族でないと与えられない『準騎士爵』の上の称号である『騎士爵』を学生が、
学校に在籍中に獲得できるのだから、みんなこの競技の選手を目指すのも解る。
実際、この競技の競争率はかなりなものだった。
この学校対抗の競技大会には、王族や貴族の子供も多く競技者として、出ている為、
来賓として、王族、貴族の来賓席が設けられている。
だが、今回の大会では、さらにウルク帝国の皇帝と側近も来賓者としてくるとあって、
会場はかなり、厳重な警戒態勢をとっていた。
僕は、ウルク帝国皇帝や側近が来ていると聞き、かなり緊張した。
まさか、学生の大会に他国のしかも皇帝がくるとは思っていなかったからだ。
自分の素性はバレないとは思うが…
あまり目立たないようにしないと…
まあ、自分が出る競技は、不人気な部類なので、直接観覧にくることはないと思うが…
メインの『学校対抗模擬戦』と『魔法剣術試合』は、2日目からなので、
初日は、メイン会場の競技の『各種魔法別競技』『遠隔魔法競技』を見ているだろう。
自分の出る『投てき競技』は、
メイン会場から少し離れた室内場で行われるので僕は少し安心していた。
応援の学生もほとんどメイン会場に行っているので、選手とは言え、気はかなり楽だった。
ちなみに、この部の顧問は『マルゴット先生』だったので、引率もマルゴット先生がしている。
投てき競技団体戦の代表選手は、
最長学年、9年生でキャプテンの
「アンソニー・ブルックマン」
同じく9年生の
「ブレット・ワイズマン」
8年生の
「クリフォード・センチネル」
7年生で紅一点の
「ビアンカ・ロペス」
そして、僕、6年生の
「リンネ・アルベール」
だ。
競技は5人の合計得点で決まる。
対戦相手も同じ得点の場合は、トータルの競技時間が短い方が価勝ちとなっていた。
一人、ダガーは5本、五本命中させて5点だ。
5人のそう合計は、満点なら25点となる。
どの競技もトーナメント戦となっている。
8校なので、どの競技も丁度割れる数だった。
試合が始まる前、マルゴット先生が
「みんな~
緊張しないでがんばってね~」
と気の抜ける応援を掛けてくれた…
先生に送り出された後、キャプテンの『アンソニー』がみんなに声をかける。
「みんな!
勝ちにいくぞ!」
と円陣を組んで気合を入れなおしたのは当然だろう。
競技の順番は、相手校と交互に行う。
第一試合のこちらの一番手は、
キャプテンの「アンソニー」
二番手は7年生の
「ビアンカ」
三番手に僕、
「リンネ」
四番手に8年生の
「クリフォード」
五番手に9年生の
「ブレット」
という順番だった。
僕が丁度中堅なのは、最初や最後では緊張するだろうとの配慮からだった。
僕としては、人に向けて投げる訳ではないので、狙撃に比べれば、
かなり気が楽だったので、順番はどこでもよかったのだが。
そんなことは、顔には出さず。
「先輩方ご配慮ありがとうございます」
と言っておく。
第一試合は難なく突破できた。
1番手5点、2番手4点、3番手5点、4番手4点、5番手4点
合計22点だった。
相手校の合計点は20点だった。
会場は、観客が少なく、『ユーリ』や『ティファ』だけでなく、
6年生の選手が他の競技に出場していなかった事もあって、
僕のクラスの女子生徒が多数応援に駆けつけていた。
この応援で、特にこちらの男子部員は張り切った感が感じられた。
女性のビアンカは少し男子部員の態度に引いていた感があったが…
ビアンカは年下で女顔の僕に対して、話しかけやすかったらしく、
「どう思う?
あいつらのデレーとした顔!
あんなので、ちゃんと競技に集中できるのかしら?」
と同意を求めて話掛けられた。
僕は、苦笑して答えた。
「先輩達のことだから試合中は平気でしょう。
まぁあまりかっこつけようとして力が入り過ぎなければですが・・」
案の定、キャプテンと僕以外は、1投づつ外してしまっていたが。
2試合目は、8校のトーナメントなので、準決勝に当たる。
この試合は、先輩の男性陣も気を引き締めなおし、
全員で満点の25点で、決勝行きを決めることができた。
しかし、相手校は貴族の魔法学校だったが、投てき用ダガーに風魔法の細工をして、
失格となったので、後味の悪い勝利ではあった。
決勝戦は、カストラートの貴族の魔法学校との対戦となった。
さすがに、不人気な競技と言っても決勝戦なので、観客は結構入っている。
相手校が貴族の学校ということもあって、かなり多いようだ。
そんな中、会場がざわついた。
学生の大会にふさわしく無い、黒の甲冑を着た兵士に囲まれて、
真紅のマントを翻し、『ウルク皇帝』が会場に入ってきたのだ。
僕は息を呑んだ。
まさか、決勝戦とはいえ、こんな競技を見にくるとは思っていなかった。
噂には聞いていたがその容姿は精悍で燃えるような赤い髪に、
右目が赤、左目が青のオッドアイだった。
その皇帝には、影のように、黒衣のローブの男がつき従っていた。
僕は、その黒衣のローブ男に違和感を感じた。
目を凝らすと、その男の周り(ほんの1センチにも満たない空間)が色が無いように見えたのだ。
これは・・僕の「ルールスペース(Rule space)」に似ている…
この世界の魔法力を弾いているように僕には見えた。
『ウルク皇帝』は来賓席の真ん中に座り、その後ろに黒衣のローブ男が立っている。
その周りを黒の甲冑の兵士が囲んでいた。
皇帝が席に座ると、ザワついていた会場も「シン…」と静まりかえっていた。
僕は、ここで逃げ出すわけにもいかないので、緊張しながら、試合の開始を待った。
僕以外の選手も全員緊張し、こわばった顔をしていたので、
不自然ではないだろうと思ったが、冷や汗が止まらないのを感じていた。
そんな中、審判の先生が緊張しながら決勝戦の開始の宣言する。
先行は、コイントスで、カストラートの貴族校が先行となった。
一番目の選手は、長身の男子生徒…緑髪、緑目で185cmはありそうだ。
基本通り、右手に3本、左手に2本のダガーを指の間に挟んでいる。
開始の合図と同時に両手から、目にもとまらないような早業で、
ダガーが飛び、的の中心を的確に射抜いた。
これは…非の打ち所が無い技だった。
会場から割れんばかりの拍手が沸き起こる。
それを見ていたキャプテンが咽をならして、つばを飲みこんだ。
かなり、緊張しているようだ。
すると、隣に座っていた『ビアンカ』が、声を出して励ます。
「先輩!
先輩なら大丈夫です!
いつも通りやれば、今の浅選手にも負けていません!」
キェプテンは少し驚いたようだったが、苦笑して、頷く。
「ありがとう。
ビアンカ。
全力を尽くすよ!」
緊張の取れた顔立ちで立ち上がり、競技スペースに向かう。
キャプテンは、相手選手ほどの早業ではなかったが、順当に的を正確に射抜き、
5点をきっちりと獲得した。
相手の第二選手も一番目の選手ほどの早業ではないが、確実に的を射抜き、
やはりこちらも5点を挙げていた。
第二選手のこちらの選手「ビアンカ」も、慎重に的を射抜き、5点を挙げている。
だが、慎重になりすぎて、制限時間一杯を使用してしまっていた。
相手の第三選手も危なげなく5点をたたき出す。
このまま、両高校とも、得点が同じになれば、速さで勝る相手校の勝ちとなってしまいそうだった。
僕は、少し考えた…
僕はここまで、本気を出していなかった。
実際、能力を使っていない状態でも、僕の投てき技術はかなり向上していた。
おそらく、相手の一番目の選手並みに投げて、当てる事ができるだろう…
せめて、今、この段階でそうしておかないと負ける可能性が大きいと思われた…
だが…あまり目立つ真似はしたくない…
なにせ、ウルク皇帝も見ているし…あの黒衣のフード男がどうしても気になった。
しかし、能力を発動するわけではないのだから…という気持ちもある。
そんな時、会場の応援席から応援の声が聞こえた。
キースが声を張り上げて応援していた。
「リンネ!
負けるんじゃねえぞ!
サイアス魂見せてやれ!」
ティファも大声を出している…
「リンネさん!
勝ってください!
あなたならできます!」
エリザも大声では無い意が、声援を送ってくれていた。
「がんばれー」
ユーリも少し間の抜けた応援をしている…
「リンネ!
勝たなきゃ夕飯抜きだからね!」
…四者四様の応援をしてきた。
僕は苦笑し、覚悟を決めた。
開始線の線上に立つと妙に落ち着いているのを感じる。
僕は、動く的に視線を向け、開始の笛の合図を待つ。
笛が鳴った瞬間、僕の両手は電光石火の如く動き、5本のダガーを同時に投げ、
ダガーは正確に5つの的の中心を射抜いていた。
5つ、的にダガーが当たった瞬間に記録されるようになっている魔法時計は、
大会最速記録を表示していた。
歓声が、会場を埋め尽くした。
キース達クラスメイトも何か叫んでいる。
僕は、ゆっくり、右手を挙げてそれに答えた。
すると、背中に冷たい視線を感じ、振り向く。
振り向いた先には、皇帝の後ろの黒衣のフード男の青い目が、
僕を冷酷に見つめていた。
僕は、冷や汗をかいたが、そ知らぬ顔を装い選手席に戻る。
席に戻ると、先輩達から背中を叩かれる手厚い歓迎をうけた。
「やってくれたな!」
「このーいままで手を抜いていたんじゃないだろうな!?」
「すごいじゃない!リンネ君!」
「これは俺たちも負けてられないな!」
と言って祝福してくれた。
その祝福の中で、僕は、あの黒衣のフ-ド男がまだ、
こちらを見ている感覚があったので素直に喜べずにいた。
試合は、結局、こちらの最後の選手が、4本止まりで、1点差で負けてしまった。
準優勝だ。
しかし、近年では一番良い記録となったので先輩達は大いに喜んでいた。
控え室に戻るとユーリが抱きついてきて
「リンネすっごいね!
できるとは思っていたけど大会記録だなんて!」
すると耳元で
「まさか…
使ってないでしょうね?」
と囁いた。
僕は慌てて、
「使ってない!使ってない!」
と体を離して否定する。
すると横にいたキースが怪訝そうに聞いてくる。
「何を使ってないんだ?」
僕は慌てて、返答する。
「ユーリが魔法でズルをしてないかって言ったんだよ。
魔法を使ったら審判が黙ってないから、使うわけ無いじゃないか?!」
するとエリザが
「そうです。
魔法が発動されれば、審判だけでなく会場の騎士などにもわかります。」
とフォローしてくれた。
「ティファ」にいたっては、
「リンネさんがそんなズルをするわけないじゃないですか!
ユーリさん!リンネさんを疑うなんてひどいじゃないですか!」
と弁護してくれた。
「ユーリ」は少し不貞腐した様子で
「ちょっとした冗談よ!
みんな本気にしちゃって!
しつれいしちゃうわ!」
といってそっぽを向いた。
僕が変な弁解をしてしまった為、ユーリが攻められてしまった。
ユーリにしてみたら、僕の事を思って言ってくれていると知っているので
急いでみんなに言い訳をする。
「みんなごめん!
ユーリの冗談なんだよ!
ユーリ本気にしてごめん!」
両手で拝む形をとって、ウインクしながらあやまった。
ユーリは顔を背けたまま
「ま、まあ、リンネがそこまで言うなら許してあげなくはないけど…」
僕は頭を下げながら苦笑した。
◇◇◇◇◇
黒衣のフード男こと『ダニエル参謀長』は、
先ほどの投てき競技のサイアス魔法学校の選手がどうにも気になっていた。
なぜ気になるのか自分でも解らない…
同じ匂い?の、ようなものを感じる…
だがどう見てもあの選手は、この世界の人間《獣人》にしか見えず、
同じ匂いというか雰囲気をだしているとは思えなかった。
ダニエル参謀長は、会場の柱にもたれかかり、柱の影に話かけた。
「アベルそこにいるな?」
すると柱の影から黒衣にターバンを巻いた暗殺者風の男がにじみ出てきた。
「は!
マスター、ここにおります。」
「先の投てき試合で大会記録を出した選手の素性をしらべよ!」
「は!
何か気になる点がございましたか?」
「念のためだ!
お前は、要らぬ事を考えずに情報を集めろ!」
「了解しました。
今夜にはご報告出きると思います。」
「よし!
いけ!」
すると、暗殺者風の男は、何事も無かったように影と一体化して掻き消えた。
ダニエルは、
「まさか…
あんな子供が・・
だが、念には念を入れるべきか…」
と一人、つぶやいた。