帝国
2013年1月1日改修
ウルク帝国…
ウルク帝国は、ガリア大陸北部の半分を統治している大帝国だ。
以前、10年ほど前までは、大陸の四分の一を治めていたが、
10年前、現在の皇帝、『アドリアン・アレキサンドルⅥ世』になってから、
大陸の侵攻が進み、現在その帝国領は、以前の倍の大陸の二分の一にまでなっていた。
また、同盟国や属国を含めれば、ほぼ『ガリア大陸(中央大陸)』を掌握していると
言っても過言ではなかった。
侵攻の速度はかなり速く、3年で今の半分を領土としていたが、
西の要所である『エルウィン王国』攻めには、苦戦を強いられた。
ウルク帝国にも港はあるが、冬になると、流氷などで、船の出港などはできない状態だったので、
南の国々を攻めるにも、物資を運ぶにしても西の温暖な海流がながれ、
大きな港を持つエルウィン王国がどうしても必要だったのだ。
…にも関らず、一ヶ月程度で終わると思われていた戦闘は、
5年にも及び、帝都からは遠い東周りの陸路での侵攻を余儀なくされてしまった。
それと言うのも、エルウィン王国の隣国のモンゴール公国の貴族を反逆させて、
密かに進めた奇襲攻撃にも関らず、虎の子の爆撃機の6機の内、3機を落とされ、
その後の戦闘でも、再三に渡り、『雷の狙撃者』によって、前線の指揮官が殺害されたためだ。
今は、その国も支配下に置いているが、最後のエルウィン王国国王代理を名乗っていた、
『アルベール・ウォーター・ペンドラゴン』は行方不明のままだ…
また、最後まで、正体の解らなかった『雷の狙撃者』も…
皇帝『アドリアン・アレキサンドルⅥ世』は、そんな事を、
玉座で、退屈な定期報告を受けながら、考えていた。
アドリアン・アレキサンドルⅥ世は、歴代の皇帝がそうだったように、
両目の色が違う『オッドアイ』だった。
この世界のオッドアイは、複数の魔法が使用できる証だ。
アドリアン皇帝の右目は青、左目は赤で、髪の色は赤だった。
火系、水系の魔法が使用でき、特に火系の魔法に長けている証拠だ。
皇帝は、退屈な定期報告の後、後ろに控えていた真っ黒のフードを目深に被った男に話かけた。
「『ダニエル』よ…」
「は、陛下」
「お前の特殊部隊での『アルベール』と『雷の狙撃者』探索の状況はその後、どうなっている…」
「時間が掛かりましたが、『アルベール』に関しては、
間も無く居場所を特定できるものと思います。」
「『雷の狙撃者』は?」
「目下、捜索中です…」
「あれから…二年も立っているのにまだ手がかりもつかめないのか!」
「恐れながら陛下…『雷の狙撃者』はその後の活動をまったく行っておらず、
敵の捕虜からも何の情報も得られていない状況です…『アルベール』の直属だったらしく、
アルベール本人か、よほどの側近でないとその正体は知りえない状況です…
今しばらくお待ちください。」
「お前ほどの男がこれほど手古摺るとは、な…
まあ、よい!
この大陸は殆ど手に入れたもの同然だからな…
この後は、属国と同盟国に圧力をかけて、帝国に組み入れる算段をしないといけない時期だな。
お前にも参謀長として、その会議に参加してもらうからそのつもりでいよ!」
「は!
陛下の仰せのままに…」
と黒衣のフード男は頭を下げた。
◇◇◇◇◇
『ダニエル・ノートン』は謁見の間を後にし、自室の参謀長室に向かっていた。
自室に入ると部屋に控えていたフードを被った人物が振り返り、敬礼した。
「少佐」
と声が掛かった。
「おい!
今は、少佐ではない!
参謀長だ!
もしくは、黒竜将軍とよべ。
その呼び名はこの世界では通用しない!」
すると声を掛けた男が目深に被った黒のフードを跳ね上げ、
金髪の頭と碧眼をあらわにし、敬礼をしなおした。
その男の耳は猫耳ではなくリーンの前世の世界の通常の耳(猿耳)で、
胸には『星条旗』の刺繍のはいった、迷彩服を着ていた。
「これは失礼しました。
参謀長閣下。」
ダニエル参謀長も、フードを外し、顔をあらわにする。
その髪は控えていた兵士と同じ金髪で、目は薄い青色だった。
耳はやはり、この世界では見ない通常の耳だった。
「で、進展はあったのか?
騎士、ジョーンズ君。」
「は!
アルベールの潜伏先がほぼ解ってきました!」
「そうか。
やはり、旧エルウィン国内か?」
「いいえ!
カストラートの領内と思われます。」
「カストラートだと?!」
「は!
旧エルウィン王国内だと、我が軍の監視の目が厳しいため、
離れた場所で反撃の準備をしているものと思われます。
また、カストラートに支援者がいるようです。」
「なるほど…
支援者とは…まさかまだ帝国に歯向かうやからが反乱分子以外にもいようとはな」
「参謀長、お言葉ですが、我が軍の下士官や一般兵の錬度は、決して良いものとは言えません。
この十年、急速に軍備を増強した結果、十分な訓練が行き届かず、
統率力に欠けていると思われます。
同盟各国や前線での我が軍の兵士の態度は大変悪く、
各国から苦情がきているのはご存知かと思います。」
「そうだな…
これからは、下士官だけでも十分に訓練してから、前線に配備すべきだな。
だが、今早急に処理すべきは、アルベール率いる、反乱分子の制圧だ!
やつには、我が同胞『アメリカ第八空挺師団』の兵士8名と我々の世界からともに来た
『爆撃機』3機を落とされているからな。
仇はうたねばならん!
我々がこの世界に来て10年…
結局、今の所、元の世界に帰る手立ては見つかっていない…
かくなる上は、この世界を我々で第二の故郷とすべく、手にいれようではないか!
なにも獣人どもなどに治めさせてやることもなかろう…」
と声を潜ませて、ジョーンズに語りかけた。
「は!
私も同じ意見です。
我々12名の空挺師団と、我々が直接鍛え上げた、機械化兵団の『黒竜騎士団』があれば、
可能だと思います。
それに、兵団2千人分の自動小銃と、
量産に成功した『爆撃機』5機が加われば問題ないと思われます。」
「うむ。
それには、我々に対抗しうる能力があると思われるアルベールとその配下の『雷の狙撃者』を早急に
排除せねば。」
「は!
アルベールが確保できれば、『雷の狙撃者』も捕らえられるものと思います。」
「よし!
早急にアルベール率いる反乱軍の拠点を掴め、そうすれば我らの悲願も叶えられよう!」
「了解しました!」
とジョーンズは敬礼し、足早に、ダニエル参謀長の部屋を後にした。
一人、ひとけの無い自室にダニエル参謀長は椅子に腰掛け、考えていた…
「カストラートか…確か、近々訪問予定だったはず…直接討伐の指揮を取れるか?」
と一人つぶやいた。
八咫烏です。
今回は、敵国の状況を書いてみました。