クラブ活動
2013年1月1日改修
僕は結局、クラブを『投てき部』に決めた。
もちろん、『ユーリ』も同じクラブだ。
多少、ユーリに押し切られる形となってしまったが、何かを投げる正確性は、
僕の能力を活かせるとも思ったからだ。
僕の能力(Rule space)内半径5メートルは自由自在に物を動かせるが、
その範囲を超えると魔法と違って、普通の物理法則に従い、
《慣性の法則である程度、投げた方向には突き進むが》
コントロール不能となる。
…で、あるならば、
コントロール不可になる前に正確に標的に当てる技術を磨くのは悪くないと判断したからだ。
投てきの競技は以下のようなものだった。
1、5メートル先の的に正確に投てき用ダガーを当てる。
2、30秒以内に5本のダガーを連続して投げる。
3、的は5つで、無軌道に動く
というものだった。
的に当てた数が同じ場合、時間が早い方が勝ちとなるとの事だった。
前世のガンシューティングゲームをダガーでやるといった感じだ。
なんだか、これはこれで結構面白そうだった。
先輩の演技を見せてもらうと、右手の指の間に3本、左手の指の間に2本のダガーを持って、
交互に投げていた。
この競技は、速さと正確性を求められるので、
基本両手で投げられるようにならなければいけないとの話だった。
僕は右利きで、右手で投げる分には問題無かったが、
やはり左手のコントロールと的に刺さる威力に欠けていた。
右手投げなら的に刺さっていたダガーも、左だと、威力が無いせいで、
的にはじかれて、落ちてしまう。
まあ、能力を使えば簡単だが、そんなズルをするために入ったんじゃないので、
気長に努力するしかないと諦める。
実際、能力を使うにしても(Rule space)の連続使用は危険だ。
以前の戦闘で経験したレールガンのマシンガン使用では、毎分500発を10分打ち出しただけで、
使用限界に達し、気絶してしまったのだから…
やはり、『重力制御』『ベルトリンク維持』『電磁レールへの高速かつ円滑な誘導』『遠方標準』
などの複数制御は、自分への負担がかなりあることが解っている。
一方、ユーリの方を見てみると、やはり、左投げが上手くできていない…
それだけじゃなく、右も威力が無くて、的にはじかれていた。
さすがに、女の子だと力が足りないか…
でも、女子には特別に魔力効果《投げた後に重くなる地魔法》が付加されたダガーの使用が
許可されていたので、そちらだと、的に刺さっていた。
僕も左だけでいいので、そのダガーを使わせてほしいと思ってしまった。
まあ、僕が持って、間違って、能力を発動してしまったら、
ダガーの魔法付加は消えて使えなくなってしまう恐れはあるが…
秋も深まり、僕らが転校してきてから2週間がすぎ、
カストラート国内の上級学年での対抗試合が近づいていた。
学内やクラブ内での区別としては、
1年(5歳)~5年(9歳)を「低学年」
6年(10歳)~9年(13歳)を「上級学年」
となっていた。
僕らは、上級学年でも一番下のうえ、転校して間もない事もあり、
競技には出ないものと思っていたが、
投てき部は、どうも他のクラブより不人気で、
選手の数の10名(個人戦5名、団体戦5名)が揃っていなかった。
この競技では、
個人戦と団体戦の選手は二股をかけてはいけないらしかったのも原因ではあったが…
上級生の部での団体戦の選手が一人足りなかったので、
急遽、転校してきたばかりの僕かユーリが選手になることになった。
ちなみに、競技は男女混合で、女子は女子用のダガーの使用が可能だった。
僕とユーリだと、日頃からダガーや個人的に指弾を常に練習している僕の方が
この競技に向いていたと見えて、急遽、団体戦の参加選手に選ばれた。
ユーリは自分の事のように喜んで
「私、一生懸命応援するから頑張ってね!」
と言ってくれたが、僕には一抹の不安があった…
それは、祖母の『エヴァ・カストラート』が僕の目立つ行動を極端に嫌っていたのだ。
エルウィン王国の王子であることが露呈してしまうことを恐れてのこと、とは思うが…
実際、今のカストラート王国の立場は微妙なものだった。
エルウィン王国の攻撃に参戦することで、一応、同盟国としての立場は維持できているが、
王妃がエルウィン王国の血縁者で、しかも王子を極秘裏に匿っていたとなれば…
ウルク帝国への立場はすぐに悪化するだろう。
しかも、祖母にも秘密にしている、帝国が目の仇にしている
『雷の狙撃者』が僕だとわかった時はなおさらだと思う…
◇◇◇◇◇
クラブ活動の後は、仲良くなった同じクラスの
『ティファ』と『エリザ』と『キース』と僕ら兄妹で帰るのが日課になっていた。
みんな、僕が団体戦に出る事を喜んでくれていた。
キースは、
「やったっじゃん!
6年で代表選手になる事なんてめったにないぜ!
何の競技でも、いい成績が出せれば、卒業時に貴族階級でしかもらえない『準騎士爵』が
もらえるからな!
ま!お前の家は元々貴族だから関係ないとは思うが…
俺は平民だからな…うらやましいぜ!」
と言っていた。
ティファも
「私のクラブは選手層が厚くて…
とても最上級生になっても選手になる自信ありませんよ~」
と言い。
エリザは、コクコクとティファの発言に頷いていた。
僕は少し照れて、みんなの言葉に答える。
「たまたま、選手が不足していただけだよ。
実際、大会までにあとどれくらい上達するか、不安だしね。
特に左投げがね…」
すると、ユーリとティファが
「リンネ(リンネさん)なら大丈夫!」
と同時言ったので、僕は苦笑した。