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聖女ドラゴンヴァルキリー  作者: BALU-R
第Ⅱ部   魔女・ドラゴンヴァルキリー編
9/41

第九話 ライバル

「聖女ドラゴンヴァルキリー…」

彼女はそう呟いて頭をガリガリと掻いた。

茶色い長い髪も母親が死んだあの日以来、ちゃんと手入れをしていないのでボサボサであった。

彼女の母親は魔女事件に巻き込まれて殺された。

そう、彼女は信じている。

でなければあんな無残な姿で死ぬのが説明できない。

「何が聖女だ…何が正義の味方だ…!」

魔女事件を調べるうちに「聖女ドラゴンヴァルキリー」の噂に彼女もぶつかった。

しかし、彼女に言わせれば。

「魔女も聖女も同じじゃないか…!!」

彼女の憎しみは魔女よりもドラゴンヴァルキリーに向けられていた。

「聖女ドラゴンヴァルキリー…!必ず母さんの仇を…!!」

彼女の名前は夜葉寺院やはじいん 友知ともち

志穂の親友である。


「いや~ライバル出現っスよ!」

唐突に香矢が話し始めた。

「どうしたのですか?またフラれたんですか?」

志穂がそっけなく返す。

「ちょ、読者の皆さんに誤解を招くような事を!!フラれてません、告ってもいません、恋してません!!発言には気をつけてくださいっス!!!」

香矢が興奮する。

「はいはい、私が悪かったです。それで、何の話ですか?」

「気を付けてくださいっスよ。エンコーするような今時の女子高生と一緒にされたくは…」

「ねっ、恋の話からそこまで飛ぶなっつーの!」

コーチに首筋に氷を当てられる。

香矢は叫んだ。

「あひゃあ!?その攻撃は小学4年の時の学級会で禁じ手になったっスよ!」

「ねっ、お前の過去での決まりごとなざ知るか!!」

「あの~。」

志穂が口を挟む。

「あっ、はいはい。ライバルの話でしたっスね。」

「いや、そうじゃなくてエンコーって何ですか?」

コーチが溜息をつく。

「ねっ、お前の今時はもう死語なんだよ…田合剣、生きていく上で全く必要ない言葉だから忘れた方がいいぞ。」

「はい、コーチ。それでは脱線した話を戻してライバルというのは何の話ですか?」

香矢がブスっとして言った。

「何か今の話題には納得いかない点が何点かあるんっスけど…」

「ねっ、ほらほら話が進まないからさ?」

コーチにうながされて香矢は話し始める。

「先日、ドラゴンヴァルキリーのホームページを立ち上げたじゃないっスか?魔女事件解決のために。」

「そうでしたね、あの恥ずかしいサイト…」

「恥ずかしくないっスよ!そんで似たようなサイトができあがったんっスよ。魔女に対抗するってサイト。」

コーチが言った。

「ねっ、という事は田合剣以外にもドラゴンヴァルキリーが?」

「いや、こっちのサイトは魔女事件の被害にあった人が立ち上げた奴で、正義の味方とかはいないみたいっス。でも、正義の味方を抱え込んでるうちよりもこっちのサイトの方に魔女事件の相談をする人が多いみたいっスよ?世間は分かりませんっスねぇ…」

正義の味方がいると公言している怪しいサイトにまじめに相談にくる人が少ないのが当り前な事に香矢は気づいてなかった。

「でも、危なくないですか?この人達は普通の人間なのでしょ?」

志穂が心配する。

「大丈夫じゃないっスか?本物の魔女事件なんてそう簡単にお目にかかれないっスよ。」

「ねっ、でも私たちはそう簡単に何回もお目にかかってるじゃないの…」

コーチの言葉に香矢はぐぬぬと黙りこむ。

「何とかこの人達に会えませんか?力になれるならなりたいですし…」

志穂の言葉に香矢は少し考え言った。

「ドラゴンヴァルキリーが力を貸します、ってメールすれば出てきそうっスね?」

「ねっ、逆効果だってば。普通に被害者同士、力を貸したいとかメールしなってば。」

とりあえず、志穂の名前と蜘蛛魔女の件を書いて香矢がメールをする事になった。

ドラゴンヴァルキリーのところは伏せて。


次の日、香矢がくると志穂は聞いた。

「返事はきましたか?」

香矢はVサインをし言った。

「ばっちりっスよ!志穂さんの3サイズ書いたのが効果的だったみたいっス!!」

「そんな事を書いたら逆効果でしょう!というか香矢さん、私の3サイズ知らないでしょ?いや、測った事もないのですけど…」

「そこは想像で…」

「しなくていいです!じゃなくてどんな返事だったのですか?」

香矢はプリントアウトしてきた紙を見せて言った。

「会っても良いみたいっスね。3サイズは冗談っスけど小学生っていうのが彼らのツボだったみたいっスね。」

志穂は手紙の文章を読みながら言った。

「…ここに私達にもあなたと同い年ぐらいの子がいます、って書いてありますね。」

「ええ、その年で悲劇に会うなんて神も仏もないっスね…」

同い年…

何か志穂は引っかかった。

そんな志穂の思いも知らずに香矢が話しかけてきた。

「それじゃぁ、時間になったら鳥羽兎に迎えにきますっスね?」

「…すみません、今回は一人で行かせてもらえませんか?」

「えー!!あちきと志穂さんは一心同体なのにー!」

「でも、香矢さんが出したメールは私の事しか書いてありませんよね?それなのに他の人が一緒にきたら怪しまれますよ。」

「ぐぬぬ…香矢、一生の不覚…」

「それに…」

そこまで言いかけて志穂は止めた。

香矢は首をかしげて聞いた。

「それに何っスか?」

「いえ、何でもないです。」

嫌な予感がする。

それは言えなかった。


“魔女対策本部”

それがそのグループの名前であった。

指定されたのは駅前の改札前であった。

見つけやすい場所の定番なのだろう。

(それにしても…)

目印に香矢に渡された巨大なリボンはよく目立った。

(目立ちすぎる!通る人通る人がみんな私の顔を覗き込んで行く…いや、すぐに相手に見つけてもらえそうだけどさぁ…)

「えーと志穂さん?」

声をかけられ顔をあげるとラフな格好をした女性が立っていた。

「はい。」

女性はホっとし言った。

「いや~、人が多いからすぐに見つかるかと思ったんだけど一発で見つかってよかったよ~。」

「…そうでしょうね。」

志穂は自虐気味に笑った。

相手の女性は首をかしげて言った。

「あれ?口調がメールでのイメージと違うかな?」

「メールは私がパソコンを使えないので代わりの人に出してもらいました。内容は大体想像できます。忘れてください。」

女性はそっかと言い自己紹介を始めた。

「私の名前はマリ。私達のリーダーが他の事件を調べてて不在だから代理できたの。ん~。」

マリは志穂の顔をじっと見つめて言った。

「よし、合格!あなた悪い人じゃないわね!!」

「分かるのですか?」

「分かるわよ~、目を見れば。じゃあ、アジトに行こうか?リーダー以外は全員揃って君を待ってるよ!!」

マリは志穂の手を引いた。

しかし、すぐに引っ込めて言った。

「っ冷たっ!もしかして寒かった?ごめんね~。」

「…いえ。」

志穂の体は機械だから体温がないのだがそれはマリが知る由もなかった。


アジトは教会だった。

「こんなところ勝手に使って怒られないんですか?」

志穂の疑問にマリは答えた。

「ここ私のうち。だから問題なしだよ。」

「へー、マリさんってクリスチャンなのですか。」

「私は無宗教だよ。クリスチャンだったのは私の両親。」

だった。

(そうか、この人も…対策本部に集まる人はみんな魔女事件の被害者なんだっけ。)

志穂が暗い顔をしたのを察しマリが元気づける。

「昔の話だって!今はリーダーのおかげで大分元気になったし…志穂ちゃんもそんな同じ想いを味わってるんでしょ?」

そして志穂のポンと叩き言った。

「私達は今日から仲間なんだから!さぁ、紹介するよ!!」

扉を開けるとそこには3つの人影が。

マリが紹介を始める。

「この子が私達の新たな仲間、志穂ちゃんです!可愛いでしょ?そして右から私の親友のユリ。その右がゴロー君。で、その右の子がメールで話した同い年の…」

「ともちゃん?」

志穂は驚いて声を出した。

髪がボサボサになっていて一瞬分からなかったが、それは親友のともちゃんだった。

「…しほちゃん?」

呼ばれて初めて気づいたようだ。

駆け寄ってきて言った。

「やっぱりしほちゃんだ!最初わかんなかったよ。どうしたのそのリボン…」

そこまで言って友知は笑いだして言った。

「ぷくく…何その似合わないリボン!?しほちゃん、クールなイメージがあったのに…本当に何があったの!?ひひひひ!」

その反応に慌ててリボンを外した志穂が言い返す。

「こっ、これはお馬鹿な女子高生に無理やりつけられて…こらっ、笑いすぎだぞ!」

そう言いながらも志穂は嬉しそうであった。

隣にいたゴローも嬉しそうに2人を眺めていた。

「あの事件以来、笑わなくなったともちゃんが笑った…」

ユリと呼ばれた女性も嬉しそうだ。

「小学生をこんな事に巻き込むなとマリに反対したけど…よかったね、よかったね。」


少し落ち着いてから教会の席に座り話し始めた。

「でも、ともちゃんコーチから聞いた話では親戚のところに行ったって聞いたけど?」

志穂の問いに友知は笑顔で答えた。

「そ、その親戚ってのがこのゴローおじさんってわけ!」

「こらこら、おじさんは余計だろ?俺は従兄だろ。」

どうやら親戚同士で、この本部に参加したようだ。

そしてマリが話し始める。

「まぁ、これから仲良くやりましょう?同じ傷を持つ者同士。」

志穂はそこで本来の目的を思い出した。

「この魔女対策本部というのは魔女と戦ったりするんですか?危なくないですか?」

「まぁ、戦えればそうしたいけどね。あなたも知ってるでしょ?魔女の強さは。だから事件を暴くだけ。それがうちらの…リーダーの方針ってわけ。」

志穂は少し安心した。

(この人達は無謀な戦いを挑もうとしているわけではないんだね…)

しかしそれでも危ない事には…

「大丈夫、いざとなればドラゴンヴァルキリーが助けてくれるって!」

突然、ユリが喋りだした。

(この人達もドラゴンヴァルキリーを知ってるのか。いざとなればやっぱり私が守らないと…)

そう、強く心に刻むのだった。

その時、志穂は見た。

みんなユリのドラゴンヴァルキリーの演説を笑いながら聞いている中での友知の顔を。

笑ってはいたが、

それは今まで志穂が見た事のない親友の笑顔だった。

「キィーキ!なるほど。」

どこからともなく声が聞こえてきた。

ユリが叫ぶ。

「どこ?」

ゴローが上を指差しながら叫んだ。

「上だろ!」

そこには蝙蝠の姿をした魔女が逆さまにはりついていた。

「キィーキ!イきチをモトめ、キてみれば…オモシロいハナシをしているものだ。まだ、ワタシタチのソンザイをオモテにダされてはやりにくいのだよ。」

マリが立ちあがって言った。

「こいつ…!」

それは最初に会ったときとは逆に憎しみに満ちた目だった。

「父さん、母さん、妹の由紀子を殺した魔女!」

「キィーキ!おやどこかでおアいしましたかね?」

怒りに震えるマリ。

「マリ!」

親友のユリが叫ぶ。

「忘れたの?私たちじゃ敵わないよ!!逃げるよ!!!」

「キィーキ!ニがすとオモってるのか?」

蝙蝠魔女は壁にかけてあったたいまつを扉に投げつけた。

途端に教会の内部が火の海になる。

「キィーキ!これでおしまいだな!!」

その瞬間、志穂の体が光りだした。


気がつくとマリ達は教会の外にいた。

志穂が空を飛んで天窓から脱出させたのだ。

マリが驚く。

「志穂ちゃんなの…?その黄色い姿は一体?」

「ドラゴンヴァルキリーだぁ!」

ユリが嬉しそうに叫ぶ。

志穂は背中を見せたまま言った。

「逃げてください。いずれまたこちらから連絡をします。」

「逃げるって、あなたはどうするの?」

マリの問いにも振り向かずに答えた。

「マリさんの家族の仇うちに。」

そう言って火の教会の中に飛び込んで行った。


「キィーキ!おマエは!?」

「放火犯には火あぶりがふさわしいんでしょうけど…」

志穂は剣を構えた。

「この姿だと雷しか操れないの…!」

どこからともなく雷雲が現れ、志穂の剣先にカミナリが落ちた。

「今まで殺してきた人達…マリさんの家族の痛みをこの電撃で少しは知りなさい!!」

剣先に溜まった電撃が蝙蝠魔女を襲う。

「キィーキ!」

バチバチっと大きな音の後には黒こげになった蝙蝠魔女だけになった。

「…火でも雷でも最期は一緒か。」


志穂は教会を出た。

どこからともなく消防車の音が聞こえてくる。

対策本部の人達は…

みんな逃げたようだ。

ほっとし変身を解いた瞬間。

「死ねっ!」

突然、電柱の裏から人影が出てきた。

友知だ。

その手にはカッターがあった。

そのまま真っ直ぐ志穂の脇腹めがけてブスリと…

は行かなかった。

服の布を裂いただけで、機械の体には刺さらずポキリと刃が折れた。

その親友の行動に志穂は驚き叫んだ。

「と、ともちゃん!?」

友知は折れたカッターを投げ捨てた

またしても知らない親友の顔がそこにあった。

しかし、今度は笑い顔ではなく憎しみに満ちた顔だった。

友知は憎らしげに言った。

「あんたがドラゴンヴァルキリーだったのね!よくも…よくも母さんを!!」

その言葉に志穂は思い出した。

「どうしてともちゃんがその事を…」

「その事…!それじゃあ、お前が殺していたのか!!」

「!違う!そういう事じゃなくて…」

友知の目には涙が浮かんでいた。


志穂と友知の再会。

それは新たな悲しい物語の幕開けだった。


「身近なところに潜んでいたのね…次に会ったら絶対に…!」

「ともちゃんはどこに行ったの?」


 次回、第十話

  「消えた少女」

 二人が分かりあう日はくるのか?

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