第三十八話 カイコ魔女、再び
「ゲコゲコ…」
「ば、化け物!」
カエルの姿をした化け物が女性を襲っていた。
「ゲコゲコ…女手サマのナのモトにおマエをシュクセイしてやる…コウエイにオモうのだな!」
「そこまでよ!」
その時、舌足らずな幼い声が響いた。
「ゲコゲコ…?まさか、聖女か!?」
カエル魔女が振り向くと背の小さな女の子がポテトチップスを片手に立っていた。
「ゲコゲコ…?ナンだ、ただのがきじゃないか!」
カエル魔女を無視して少女は顎をクイクイと引いた。
カエル魔女がその動作に疑問を持っていると後ろから走り出す音がした。
襲われていた女性が逃げたのであった。
カエル魔女は怒鳴った。
「ゲコゲコ…!エモノがニげてしまったじゃないか!こうなればキサマをカわりのイケニエに…」
「それはどうかな?」
その言葉を受けて少女の後ろから黒いフード付きコートを着た長身の人物が現れた。
カエル魔女は四つん這いになって飛びかかる構えをして言った。
「ゲコゲコ…エモノがフえただけではないか!女手サマのナのモトにシュクセイする!」
カエル魔女がコートの人物に向かって飛びかかってきた瞬間、
ザシュン
コートの中から取り出した剣でカエル魔女は斬り飛ばされた。
「ゲコゲコ…!?」
「カチカチ…ダイジョウブだ、キュウショはハズしている。」
そう言うとコートの人物はフードを外した。
その顔は
「ゲコゲコ!?キサマはカイコ魔女!?」
カイコ魔女はカエル魔女を掴み起こし言った。「カチカチ…そうだ、ウラギリモノのカイコ魔女だ!イえ!トゲウオ魔女と女手はどこにいる!!」
「ゲコゲコ…シらん!フタリともサイキンはスガタをミせないのだ!」
「カチカチ…ワがメイユウ、クジラ魔女にしたツミのダイショウをシハラってもらうぞ!」
「ゲコゲコ!マってくれ、ワタシはナニもしとらん!クジラ魔女のショケイのトキにそのバにはいなかったのだ!」
「カチカチ…ウソをつくな!」
「ゲコゲコ…ホントウだ!ショウニンもいる!」
カイコ魔女はカエル魔女を投げ飛ばし言った。
「カチカチ…イけ!おマエにはヨウはない。」
「ゲコゲコ!」
カエル魔女は一目散に逃げて行った。
「あらら、いいの?逃がしちゃって?」
少女がポテトチップスを食べながら言った。
カイコ魔女はフードを被り直してから言った。
「カチカチ…チョコよ、テオイいのワタシをカクマい、科学のサイシンソウビまでアタえてくれたコトはカンシャしている。」
チョコと呼ばれた少女は誇らしげに言った。
「まぁね。その超振動ブレードよくできてるでしょ?魔女の堅い体もチェーンソーのように細かく振動したその剣なら豆腐みたいに簡単に切れるってもんだ。」
カイコ魔女は続けて言った。
「カチカチ…しかし、ワタシはおマエタチニンゲンのミカタをするつもりはない!」
そこまで言うとカイコ魔女は歩きだした。
チョコはポテトチップの裏地を舐めて言った。
「でもね、あたいの大富豪である母親譲りの能力、「人の善悪を見極める勘」ってやつが言ってるのよ。貴女は正義の味方だって!」
そしてカイコ魔女の後をちょこちょことついて行った。
「せっかく魔女対策本部をも吸収したのに…まーたライバルっスよ!」
鳥羽兎で不機嫌そうに香矢が言った。
志穂が言った。
「どっちかと言うと吸収されたように思えますけど…で、何の話ですか?」
香矢がパソコンからプリントアウトした紙を見せた。
ネットの記事のようだ。
「これっスよ!」
近くにいたヨッコが読み上げる。
「ええと、「聖女ドラゴンヴァルキリーに代わる新たな救世主か!?黒いコートの謎の正義の味方が魔女の脅威からみんなを救う!」…何か宣伝文句みたいだね。」
香矢が言った。
「そんな文章表現方法よりも!「聖女ドラゴンヴァルキリーに代わる」って何スか!?勝手に過去の人にしないで欲しいスよ!先日だって、魔女退治したのに…」
コーチが言った。
「まあまあ、一般の人達にとってはドラゴンヴァルキリーの存在自体が希薄なんだから…ねっ?」
友知が言った。
「そういえば先日倒したカエル魔女のお腹にでっかい傷があったっけ…もしかしてコートの人がやったのかな?」
志穂は立ちあがり言った。
「どちらにしろ、味方になってくれれば…いいなぁ…」
「ほら、見てよカイコ魔女。こないだのカエル魔女の手柄、ドラゴンヴァルキリーに持って行かれたみたいだよ。」
そう言ってパソコンからプリントアウトした記事を見せた。
カイコ魔女は溜息をついて言った。
「カチカチ…さすがだな聖女。それにしてもカエル魔女め。ミノガしてやったのにウンのないヤツ。」
ここはもう使われていない廃ビル。
カイコ魔女が隠れる場所に使っているのだが、そこにチョコが押し掛けてきた。
チョコは記事をしまって言った。
「そうじゃなくって!悔しくないの!?」
カイコ魔女は顔を伏せて言った。
「カチカチ…イマのワタシには聖女にタイしてドウリョウのカタキをウラむシカクはない…」
今度はチョコが溜息をついて言った。
「駄目だこりゃ…会話がずれとる。」
カバンからポッキーを取り出し1本ポキリと食べてから言った。
「食べる?」
カイコ魔女は首を振って言った。
「カチカチ…いらん。」
その時突然、カイコ魔女はチョコを抱き寄せた。
チョコはカイコ魔女の胸元で叫んだ。
「ちょっと!もう抱っこされる年じゃないわよ!」
「カチカチ…ダレだ、デてこい!」
扉の外から姿を現したのは…
女手であった。
カイコ魔女は呟いた。
「カチカチ…女手…」
女手は睨みつけて言った。
「サマをつけろよ、裏切り者。私を誰だと思っているんだ?」
カイコ魔女は睨み返して言った。
「カチカチ…もう、おマエをジョウシだとオモってはいない…それにウラギられたのはワタシのホウだ!」
女手はハンカチで鼻を押さえ言った。
「それにしても、人間臭いと思ったら…それがお前の新しい仲間かい?」
カイコ魔女は言った。
「カチカチ…ワタシのナカマはおマエがコロしてしまったのだろう!?」
飛びかかろうとするカイコ魔女を制止して女手は言った。
「まぁ、待て。お前に面白い事を教えてやりたんだ。ついてこい。」
カイコ魔女はチョコを引き離し言った。
「カチカチ…チョコ、おマエはカエれ。」
チョコは言った。
「でも…」
「カチカチ…カエるんだ!アトでそのおカシをイッショにタべよう。」
そしてカイコ魔女は一人で女手について行った。
「カチカチ…ここは…」
そこはクジラ魔女が処刑された基地であった。
クジラ魔女の死体はカイコ魔女が墓を掘って埋めたのでもうないが。
女手はハンカチをしまって言った。
「やはり真相を話すには現場でなくてはな…おい、出てこい!」
すると部屋の奥から一人の魔女が出てきた。
「ドリ!」
「カチカチ!モグラ魔女!ブジだったのか!?」
カイコ魔女がかつての仲間に話しかけると女手は笑いながら言った。
「ははは!そりゃあ、無事だろうさ!何しろクジラ魔女を処刑したのはこいつなんだからな!」
カイコ魔女は叫んだ。
「カチカチ!でたらめを…イうな!」
「でたらめかどうかは、後はこいつに聞きな!」
そう言うと女手は煙のように消えてしまった。
「ドリ!シカタがなかったんだ…」
モグラ魔女のその言葉にカイコ魔女は言った。
「カチカチ…どういうコトだ…」
モグラ魔女は泣き叫ぶように話し始めた。
「ドリ!コワかったんだ!女手サマのホントウのオソろしさ…それをおマエはミたコトがないから…あれをミればダレだって!!」
カイコ魔女は茫然としながら聞いた。
「カチカチ…だからコロしたのか…シンユウであるクジラ魔女を…だからコロしたのか!」
モグラ魔女は言った。
「ドリ!カったホウを…アイテをコロしたホウをタスけてやると女手サマはイうから…だから…」
その時、カイコ魔女の体が重くなった。
「パンプキン!」
「パンプキン!」
部屋の隅に隠れていたかぼちゃ魔女がカイコ魔女を取り押さえたのであった。
カイコ魔女は力なく言った。
「カチカチ…モグラ魔女…」
モグラ魔女は右手をドリルに変化させ言った。
「ドリ!女手サマはおマエをコロせとメイじた!」
カイコ魔女は言った。
「カチカチ…やれ。それでおマエがタスかるのならワタシもマンゾクだ。」
その時、フルートの音色が鳴り響いた。
モグラ魔女とかぼちゃ魔女は辺りを見回す。
部屋の外から志穂と友知が現れた。
友知がフルートから口を離して言った。
「アタシは満足しなーい。」
志穂が言った。
「どちらかが死んで助かるなんて…そんなの友情じゃないよ!!」
そして胸の十字架を握り叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!!」
胸の十字架を引き千切り二人とも白い聖女の姿に変身した。
そして同時に叫んだ。
「「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」」
モグラ魔女は叫んだ。
「ドリ!かかれぇ、かぼちゃ魔女ども!」
カイコ魔女を押さえているかぼちゃ魔女以外が一斉に襲いかかってきた。
友知が溜息をついて言った。
「だーかーらー。学習能力がないんですの?ネクストドレスのスピードは」
二人の姿が消えた。
かぼちゃ魔女達のそばを風が通ったかと思うと再び友知が姿を現した。
「雑魚如きでは捕らえられませんわよ?」
そう言うと、かぼちゃ魔女達はバタバタと倒れた。
モグラ魔女は叫んだ。
「ドリ!くそぅ…!もうヒトリはどこだ!」
友知は指を指した。
「あそこですわ。」
志穂はカイコ魔女に怪我がないか見ていた。押さえていたかぼちゃ魔女は既に倒されていた。
「ドリ!聖女が魔女をタスけるなんて!」
「余所見禁物ですわよ!」
そう言うと友知はモグラ魔女の右手のドリルを叩き斬った。
「ドリ!」
「とどめですわ!」
友知は剣を構えた。
その時、カイコ魔女が叫んだ。
「カチカチ!マってくれ!そいつをタスけてやってくれ!」
友知はカイコ魔女の方を振り向いて言った。
「何を言ってますの?こいつは貴女の命を狙ってますのよ。」
カイコ魔女は言った。
「カチカチ…それはそいつのイシではない…ワルいのはそいつではない!スベてはそいつのヨワさにつけこんだ、女手がワルいのだ!!」
志穂が言った。
「でも、またその弱さにつけこまれたらあなたの命を狙ってきますよ?」
カイコ魔女は叫んだ。
「カチカチ!そんなコトはもうさせない!モグラ魔女がヨワいというならワタシがマモる!!」
友知が剣を下ろして言った。
「力なきものは力を持つものが守るか…嫌いじゃないですわ、そういうの。」
志穂もカイコ魔女の体をポンポンと叩いて言った。
「じゃあ、私達も守るとしましょうか。力を持つ者として。」
モグラ魔女は地に伏せて言った。
「ドリ…すまない、すまないなカイコ魔女…ユルしてくれるのか?」
カイコ魔女はモグラ魔女の肩に手をかけて言った。
「カチカチ…サイショからおマエのことはウラんじゃいないさ…」
「ドリ!?」
その時、モグラ魔女の様子がおかしくなった
「ドリ!?ドル!?ドリャ!?ドリリッリ!!!」
モグラ魔女の体が真っ赤に変化し、やがて爆発した。
基地もろとも。
炎上する基地を眺める三つの影があった。
志穂、友知、そしてカイコ魔女であった。
友知は呟いた。
「危ない所でしたわね…女手は最初からこうするつもりで?」
志穂は頷いて言った。
「最後まで利用されていたのね。あの魔女は。カイコ魔女の言うとおり、犠牲者だったのね…」
カイコ魔女はコートを再び着て、二人に背を向けて立ち去ろうとした。
志穂はその背中に叫んだ。
「待って!私達と共に戦う事はできないの!?」
友知も言った。
「それとも、まだワタクシ達も敵だとでも…?」
カイコ魔女はポケットに手を入れると異物を感じた。
取り出して見るとポッキーが一本入っていた。
チョコがこっそり入れたのだろう。
「カチカチ…さあな。」
カイコ魔女は振り返らずに言った。