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聖女ドラゴンヴァルキリー  作者: BALU-R
第Ⅴ部   最後のドラゴンヴァルキリー
37/41

第三十七話 温もりが欲しくて、母を求めて

「よっと。」

「うまいね、ヨッコちゃん!」

ヨッコとコーチがスキーで滑って降りてきた。

鳥羽兎の店員達は雪山にスキーに来ていた。

ヨッコはピースをして言った。

「3回目ですから滑るぐらいでしたらね。それにしても…」

二人は自分たちが降りてきた中級者コースとは別の上級者コースを見る。

タイミングよく友知が滑ってきて、その後ろを香矢が滑ってきた。

友知はスキー板を履いたまま器用に飛びあがって言った。

「おっしゃ!これで3勝4敗だ!あと1回で並ぶ!!」

香矢は笑って言った。

「何の何の!このまま勝ち越してやるっスよ!」

ヨッコは溜息をついて言った。

「子供の頃から経験がある香矢ちゃんはともかく…友知ちゃんは初めてだよね?コーチに少し教わっただけなのに…」

コーチも苦笑いをする。

「さっきまで転がって雪だるまになっていたと思ったのにね…スポーツだけは得意だな、夜葉寺院は。」

その言葉に友知はプクーと膨れて言った。

「スポーツだけはってひどい…否定はできないけど。そういえば、もう一人のスポーツだけは少女は?」

「あれっスよ。」

香矢が指をさした方向には人だかりができていた。

香矢が説明する。

「小枝子ちゃんのTVロケみたいっスよ。気付いた瞬間に志穂さん、スキー板外していっちまいやした…」

友知は首を鳴らしながら言った。

「ふーん…まぁ、ああなると手に負えないから放っておこうか。香矢、次の滑りに行くよ!」

「望むところっスよ!」

友知と香矢はリフトの方に向かって行った。

コーチも遅れてリフトに向かいながら言った。

「さてと…もう一人の初心者の面倒を見に行くかね?」

ヨッコはクスリと笑い言った。

「トッコちゃんですよね?結構、時間が経つのに初心者コースから帰ってきませんね…」

コーチは笑って言った。

「まぁ、それが普通なんだけどな。」


「寒い、冷たい、足痛―い。」

トッコは初心者コースの途中で転んでもがいていた。

滑っていく人達にクスクス笑われながら。

トッコは呟いた。

「そして恥ずかしーい!」

そこでクスクスと笑い声がした。

また、笑われたと思いその方向を見ると女の子が立っていた。

年は5、6歳といったところだろうか。

しかし、違和感がある。

(この子、スキー板とか履いてない…それに格好も…昔の雪国ドラマとかに出てくるみたいな…地元の子?)

女の子は話しかけてきた。

「ねえねえ、何やってるの?面白い格好。」

トッコは大股開きで寝転がる姿で倒れていた。

トッコは苦笑して言った。

「確かに客観的に見るとひどい姿…じゃなくて!手を貸してくれませんか、お嬢さん?」

女の子はトッコの頭の近くで屈んで言った。

「そんな事よりも何か面白い話を聞かせてよ?」

トッコは言った。

「そんな事って…まぁ、起き上がるのも面倒だし、救援がくるまでいいか。どんな話がいい?」

女の子は嬉しそうに言った。

「何でも!お姉さんの町の話とか。」

トッコは言った。

「そうだなぁ…その前に君の名前は?私はトッコって呼ばれてるよ。」

「ウチの名前は雪子。普段はもう少し山の下の方におじいちゃん達と一緒に住んでるんだけど、今日はお母さんに会いに来たの!お母さんはもう少し山の上の方に住んでいるの。」


「それは雪ん子って奴じゃないかね?」

スキーを終えた夜、旅館でトッコの話を聞いたコーチが言った。

ヨッコが口を挟む。

「雪ん子って言うと雪女の娘のですか?」

友知が言った。

「雪女なら知ってるよ!雪山で遭難した人とエロい事する妖怪でしょ?」

志穂が言った。

「微妙に違う気が…」

トッコが言った

「もう、普通の人間の子供でしたよ!勝手に妖怪扱いしないでください。」

コーチが笑って言った。

「あはは、すまんね!その方がロマンがあるかなと思って…」

友知はつまらなそうに言った。

「妖怪の方が面白いのに…あっでも、子供の雪女じゃ面白くないか。エロい事できない。」

香矢が指をチッチッチと振って言った。

「甘いっスよー。最近はそんぐらいの年齢でも需要が…」

トッコが溜息をついて言った。

「妖怪と変態、どっちがマシかなぁ…」


「ただいまーお母さん。」

雪子は山奥のバンガローにやってきた。

「今日は町の事とか教えてくれるお姉さんに出会ったよ。あんねー、町にはドラゴンヴァルキリーってかっこいい人がいるんだって!それでねー…」

雪子が話しかけていたのは人間ではなかった。

ハンガーにかけられた白い着物。

それに向かって「お母さん」と話しかけていた。

その着物は他界した雪子の母親が来ていた物であった。

なぜ、このバンガローにかかっているのかは分からない。

だが、これを見つけた雪子はこれに話しかけるのはお母さんに話しかけるのと同じ、そう思うようになったのだった。

夢中で話す雪子の後ろに人影があった。

話し終えて一息ついた雪子は後ろの気配に気付き叫ぶように言った。

「!だっ誰!?」

「ちょっと遅れてきたサンタクロースだよ。」

それは女手であった。

TVを見ない雪子は目の前の人物が小枝子であると知らなくて言った。

「わー綺麗な人!サンタさんって綺麗なお姉さんだったんだね!」

女手はテクテクと着物の前まで歩いて行き、言った。

「お前、お母さんに会いたいか?」

雪子は満面の笑顔で言った。

「もちろん!」

女手はハンカチで鼻を覆いながら言った。

「会わせてやるよ。」


次の日の朝、香矢とヨッコはスキー場の近くの商店街を歩いていた。

香矢が口を開いた。

「全く、買い出しジャンケンに負けるなんて…でも、納得いかないっスよ!足腰痛くて起き上がれないトッコしゃんはともかく朝早くに追っかけに姿を消した志穂さんまでじゃんけん免除なんて…」

ヨッコが香矢をいさめて言った。

「まぁまぁ…こうして普段とは違うところを歩くのも楽しいじゃない?」

香矢は言った。

「それは確かに…あれ、あの店は何スかね?入ってみましょう!」

香矢が店に入って言った。

「すみませーんス。この店は何を売っている店っスか?」

「ひ、ひどい質問…」

香矢とヨッコの会話に返事は返ってこなかった。

「おろ?いらっしゃらない?」

店の奥に入っていくと人の形をした氷の彫像が置いてあった。

「よくできてるっスね…まるで本物の人みたい!」

「!違う!!これは本物の人間が凍ったものよ!!」

トッコの叫びに香矢がギョっとする。

その時、近くの店で悲鳴が上がった。

「行ってみやしょう!!」

香矢の叫びにヨッコは頷き走り出した。


「ほ、本物の…雪女!?」

スポーツ用具店の店主が驚いて叫ぶ。

その目線の先には白い着物を着た肌の白い女性…雪女が立っていた。

雪女は無言で口を開いた。

その口から白い煙が放出され、店主を襲う。

「ひい!冷たい冷た」

店主はたちまち氷の彫刻と化した。

「ひどい…」

店に着いたヨッコが言った。

香矢も言う。

「こいつも魔女なんスかね…でも、今までの奴らと違う感じがするっスよ。まるで感情がないみたいな…」

雪女はゆっくりと二人に近づいてくる。

ヨッコが言った。

「とりあえず、逃げて志穂ちゃんか友知ちゃんを呼ばないと…」

香矢が走り出そうとするヨッコを引きとめて言った。

「そう、焦らなくても大丈夫っスよ。こういう時、黙ってても現れるもんスから。」

雪女が口を開く。

ヨッコが叫んだ。

「そんな事言ってて死んだら間抜けそのものじゃないの!!」

その時、フルートの音色が鳴り響いた。

雪女は口を閉じ、周囲を見渡す。

ヨッコが言った。

「本当に来るなんて…」

香矢が得意げに言った。

「だから言ったじゃないスか!!」

そして、外から友知が現れた。

フルートから口を離して言った。

「悪い子はいねえがー?」

ヨッコが言った。

「…どうしちゃったの?」

香矢が呆れて言う。

「多分、雪女に対抗してなまはげをやってるんでしょうスけど…対抗できたのは寒い空気だけっスね。」

友知は手をブンブン振って叫んだ。

「せっかく助けに来たのにこの扱い!」

ヨッコが言った。

「いや、そんな事を言ってる場合じゃ…」

雪女が再び口を開く。

友知は言った。

「なまはげとか関係なく…悪い子にはお仕置きが必要なのは世界共通ね。」

胸の十字架を握りしめ叫んだ。

「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!」

友知は白い聖女の姿に変身した。

そして叫んだ。

「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」

雪女は相変わらず無表情のまま、口から白い息を吐きかけた。

友知は水のバリアで息を防ぐ。

「この水は凍らないの?」

友知の後ろに隠れたヨッコが言った。

友知は答えた。

「この水はね、高温の水ですの。ワタクシは炎も水も操る聖女。凍らせない水を作るのはお手の物ですわ!」

今度は香矢が口を開いた。

「もし、相手がこの熱湯を上回る冷凍息をかけてきたら…」

友知はニヤリと笑って答えた。

「温度の下限は-273.1℃が限界。絶対零度ってやつですわね。一方、高温は何万度までいっても限界はない。つまり冷気を武器にした時点でもう勝負はついてますわ!」

雪女は口を閉じた。

冷気を吐き続けるのも限界になったのだろう。

友知は剣を構えて言った。

「さてと、とどめとまいりましょうか?」

「やめて!」

その時、店の外から女の子の声が響いた。

雪子であった。

もっとも、3人とも彼女の事は知らないが。

雪子は泣きながら叫んだ。

「お母さんを…お母さんを殺さないで!!」

友知はビクっとして言った。

「お母さん…?」

その隙を見て、雪女は外向かって走り去った。

後には3人と泣きじゃくる雪子だけが残っていた。


この戦いの様子を伺っていた人物がいた。

女手だ。

女手は呟いた。

「単なる暇つぶしだったが…聖女が出てくるとは面白くなってきたな。」


3人は雪子を連れてホテルに戻ってきた。

ホテルにつくまでブスっとしていた雪子であったが、ホテルでトッコの姿を確認すると表情をやわらげた。

トッコに懐いている雪子をトッコに任し、3人は話し合いを始めた。

「…雪子ちゃんはお母さんって言ったけど…」

ヨッコが口を開いた。

「もしや、お母さんを魔女に改造されたのかな?」

友知は首を振って言った。

「あれは魔女では…生物ではなかったよ。魔力の塊とでも言うべきかな。あんな事ができるのは、女手レベルの魔法だね。」

香矢が言った。

「でもでも、雪子ちゃんは「お母さん」って言ったスよ?」

「それはねっ、雪女が着ていた着物のせいだよ。」

コーチが外から部屋に入ってきて言った。

「雪子ちゃんの保護者…祖父母に電話で今聞いてきたね。あの子の母親は1年前に他界している。生前に着ていたのが雪女が着ている着物らしいぞ。」

ヨッコが溜息をついて言った。

「あのぐらいの年では母親の死なんて理解しづらいでしょうに…だからあの子にとっては母親の着物の化身である雪女は本物のお母さんと一緒なんだろうな…残酷な話だわ…」

その時、ホテルのロビーの方から悲鳴が響いた。

そしてトッコの叫び声も続く。

慌ててトッコと雪子が遊んでいた部屋に行くと、雪子の姿がなかった。

トッコは腰を押さえながら言った。

「筋肉痛じゃなければ止められたのに…いてててて。雪子ちゃん、「お母さんだ!」って言って飛び出して行っちゃった。」

友知は胸の十字架を握りしめながら部屋を出て行こうとする。

香矢が叫んだ。

「どうするんスか!戦えるんスか!?」

友知は振り向かずに言った。

「大丈夫。あの子の事はよく分かってるよ。アタシも似たような境遇だから。」

そして白い聖女の姿に変わって部屋を出て行くのであった。


ロビーはまるで冷凍倉庫のようであった。

ただし、凍っているのは豚肉などの食材ではなく人間であった。

「お母さん!」

嬉しそうに飛び出してきた雪子であったが、ロビーの惨状を見て青くなった。

雪女は無表情に雪子を見つめている。

雪子は泣きつくように言った。

「どうしちゃったの!?こんな事止めてウチと遊んでよ!」

雪女は口を開いた。

雪子は必死に訴える。

「やめて!ウチの事を忘れたの!?雪子よ雪子!お母さんの娘だよ!!」

雪女の口から白い息が放出され雪子の体を…

凍らさなかった。

間一髪のところを友知の水のバリアが防いだのあった。

二人の間に入り友知が言った。

「忘れましたの?絶対零度がある限り、いくらでも上昇できる高温には敵いませんわよ!」

(とは言っても時間稼ぎにしかならないのよね…さてどうしたものか。)

その時、異変が起こった。

友知のバリアが凍り始めたのであった。

友知は驚いて言った。

「何事ですの!ワタクシは温度を下げたりしてませんのに…!!まさか、絶対零度を超えた冷気を出してる…!?」

慌てて後ろに隠れていた雪子を吹き飛ばした。

次の瞬間、友知の体はバリアごと凍ってしまった。

雪女はゆっくりと友知に近づき凍った友知を殴り飛ばした。

友知は派手な音を立てて床に倒れ、手足が砕け散った。

雪女はまるで小学生が氷の張った水たまりを割るように友知のバラバラになった体を踏み砕いた。

ボキボキと嫌な音を立てて友知の体は砕けていく。

「そんな…」

コーチ達が遅れてあらわれその惨状に絶句した。

香矢が唖然としながら言った。

「嘘っスよね…うつせみとかそんなのスよね…友知!」

友知をバラバラにして満足したのか今度はコーチ達の方に雪女は向かってきた。

「待ちなさい!」

反対方向から叫び声がした。

志穂であった。

「これ以上、犠牲者は出させないよ!!」

二人は胸の十字架を握りしめ叫んだ。

「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」

志穂は白い聖女の姿に変身し、叫んだ。

「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」

「志穂ちゃん!友知ちゃんが!!」

ヨッコの叫びに志穂はバラバラになった友知を見る。

志穂はニヤリと笑って言った。

「心配いりませんよ。私達はバラバラになったぐらいなら、少し時間があれば元通りになれますから。」

「んな、でたらめな!」

香矢がこけながら叫んだ。

「それよりも…」

志穂は剣を構えながら言った。

雪女は口を開く。

コーチが叫んだ。

「気をつけろ田合剣!そいつは絶対零度より低い冷気を出せるみたいだぞ!夜葉寺院はねっ、それでやられたんだ!!」

雪女は冷気を吐き出した。

「なるほどね。友知は受け止めようとして失敗したわけね…なら、私は跳ね返す!」

志穂の剣から竜巻が放出され冷気ごと雪女の体を包み込む。

雪女は窓を突き破り外に投げ出された。

地面に叩きつけられると凍った右腕がポキリと音を立てて折れた。

志穂が外に出てきて言った。

「絶対零度を超えた冷気は雪女でも耐えられないってわけね…とどめよ!」

「駄目!」

雪子が叫ぶ。

「お母さんなの!殺さないで、ドラゴンヴァルキリー!!」

志穂は固まる。

(お母さん…?それじゃあ、攻撃できないじゃない!)

雪女は口を開いた。

(どうする?このままじゃ私も友知みたいに…どうする!?)

その時、志穂の目に氷漬けにされた人の姿が入ってきた。

志穂は雪子の方を向いた。

泣いて訴えている。

背中を向けて言った。

「…許して!」

志穂が剣を構え叫んだ。

「六竜トルネード!」

志穂の剣から竜巻が放出され、雪女の体を打ち上げる。

さらに炎、水、雷、草、毒、5つの色が竜巻の中に入っていく。

雪女はもがく。

ボロボロになった雪女のところに志穂は飛びあがり叫んだ。

「エンドドラゴン!」

そして横一文字に雪女の体を切り裂いた。

雪女は氷の結晶となって飛び散った。

「必殺…七竜剣!」

志穂は変身を解きながら言った。

雪子が志穂の背中を叩きながら泣き叫んだ。

「バカバカバカバカ!やめてって言ったのに何で殺したんだ!返してよ、お母さんを返してよ!!」

「甘ったれるな!」

その時、元通りになった友知が怒鳴りながら歩いてきた。

「あれは君のお母さんなんかじゃない…分かってたんでしょ!?」

雪子の動きが止まった。

友知は続けて言った。

「君のお母さんはもういないんだ…」

雪子はその言葉に泣き崩れた。

「お母さん…うわー!」

友知は無言で雪子を見つめていた。



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