第三十六話 裏切られし者
「カチカチ…ワタシがナニをしたとイうのですか、女手サマ!?」
カイコの幼虫の姿をした魔女が手術台に縛り付けられ叫んだ。
その手術台はかつて志穂が縛り付けられていたものと同じであった。
女手は面倒臭そうに口を開いた。
「トゲウオ魔女からさー。あんたが裏切るって報告があってね…今のうちに手を打ておこうと思ったわけ。」
その言葉にカイコ魔女は必死に訴えた。
「カチカチ…でたらめだ!ワタシは女手サマチョクゾクの魔女のナカでもとっぷくらすのジツリョクだとジフしております…そんなワタシがどうして女手サマをウラギるとイうのでしょうか?」
女手は頭をかきながら答えた。
「それはあたしも認めるよ…だーかーらーこそなわけ!あんたは実力だけではなく人望もあるしね…魔女だから魔女望かな?そんな奴に反乱とか起こされたら困るでしょう?」
そし手術台についていたレバーを引いた。
その途端にカイコ魔女の体に電撃が走る。
「ぐああああああ!」
カイコ魔女はたまらず叫ぶ。
女手は言った。
「まずはその優秀な魔力を奪わせてもらう…それが終わったら今度は命を…ね?」
そして女手はウインクをカイコ魔女に向けてした。
その時、カイコ魔女を襲っていた電撃が突然止まった。
それだけでなく部屋の照明も消えた。
女手は驚いて怒鳴った。
「何事なの!?」
部屋の外からかぼちゃ魔女が入ってきて言った。
「パンプキン!ナニモノかがキチのデンキケイトウにだめーじをアタえたようです…」
女手は舌打ちをしてから言った。
「聖女かしら…魔女対策本部かしら…ったく、ろくな事をしない。それじゃあ、また後でねカイコ魔女。次の次はないけど。」
そして部屋の外に出て行った。
「カチカチ…」
魔力を奪われただけとは言え、カイコ魔女の意識はもうろうとしていた。
その時、カチャカチャという音が耳に入ってきた。
自分の拘束している器具を外す音であった。
(ダレだろう…)
そう思いつつも目の前が暗くなっていった。
次に目を覚ましたのは別の廃工場の中であった。
カイコ魔女は呟いた。
「カチカチ…ここはどこだろう?ワタシはどうなったのだ?」
周りを見渡すと見慣れた顔があった。
「カチカチ…クジラ魔女とモグラ魔女じゃないか…」
カイコ魔女は盟友にそう言った。
クジラ魔女が口を開いた。
「シオー!ダイジョウブか、カイコ魔女?」
カイコ魔女は言った。
「カチカチ…もうスコしヤスめばモンダイはない…マリョクをウバわれたイガイはな…まさか、オマエタチがタスけてくれたのか?ナんてコトを…おマエタチまでショブンされるぞ?」
モグラ魔女は首を振って言った。
「ドリ!おマエのウラギりはヌレギヌなんだろう?あの、シュッセイヨクのツヨいトゲウオ魔女にはめられたんだろう?」
カイコ魔女は頷いて言った。
「カチカチ…モチロンだ。ワタシが女手サマや…ドラゴンサマをウラギるわけがない。」
その答えにクジラ魔女が嬉しそうに言った。
「シオー!ならばモンダイはない。おマエはここでマっていろ。ワタシタチがゴカイをトいてきてやる。」
そう言うと二人の魔女は部屋から出て行った。
カイコ魔女は呟く。
「カチカチ…ダイジョブだろうか?いや、あのフタリがワタシをシンジじてくれたようにワタシもシンじよう…」
そして再び目を閉じた。
何時間経っただろうか、カイコ魔女は気配を感じて目を覚ました。
(フタリがモドってきたのか?)
カイコ魔女は外の様子を窺いに部屋の外に出た。
廊下の影から覗き込むとかぼちゃ魔女が何人かうろうろしていた。
(キュウエン?いや。)
その中にはトゲウオ魔女の姿があった。
(いかん!ニげなければ…)
そう思った時に後ろから声がした。
「パンプキン!いたぞ!!」
振り向く間もなく、かぼちゃ魔女達は集まってきてカイコ魔女を取り囲んだ。
「ククク…やれ。」
トゲウオ魔女の声にかぼちゃ魔女は一斉にカイコ魔女に飛びかかり自爆した。
ものすごい煙が引いた後にはそこには何も残っていなかった。
トゲウオ魔女は叫んだ。
「ククク…女手サマ!ウラギリモノのシマツはオわりましたよ!!」
カイコ魔女は致命傷であったが生きていた。
何とか、かぼちゃ魔女の自爆に耐えきり、煙に紛れて逃げ切っていたのであった。
(しかし…)
廃工場からある程度離れてから倒れこんだ。
(ここまでか…)
夜空を見上げながら思った。
(どうせシぬならアオゾラをミナガながらシにたかったが…ホシゾラをナガめながらもワルくはないな…)
「コーチ!あれ!!」
そこで叫び声が聞こえた。
友知とコーチが歩いているのであった。
(ニンゲンか…)
カイコ魔女は立ちあがり叫んだ。
「カチカチ…ニンゲンはシュクセイする!」
しかし、そんな力は残っていなかった。
それは彼女のプライドであったのだろう。
友知は胸の十字架を握りしめたが、コーチがそれを制止した。
「やめなよっ、夜葉寺院。ひどい怪我じゃないか。ねっ?」
その言葉にカイコ魔女は憤慨して怒鳴った。
「カチカチ!ニンゲンがナめるなよ!キサマラをヤツザキに…」
最後まで言い切らずにカイコ魔女は倒れた。
友知とコーチは鳥羽兎にカイコ魔女を連れてきた。
鳥羽兎にいた志穂とトッコは驚きを隠せなかった。
トッコが言った。
「今のうちに倒した方が…」
しかし、コーチが首を振った。
「倒れている相手を攻撃するなんて聖女のする事じゃない…ねっ?」
友知は呆れ気味に言った。
「まぁ、その通りですけど…でも、連れてくる事はないんじゃないですかぁ?こいつ、ほっとけば勝手に野垂れ死にしますよ?」
コーチはコツンと友知の頭を叩いて言った。
「野垂れ死にしそうだから連れてきたんだろ?ねっ田合剣、こいつの怪我を治せないかな?」
志穂は溜息をついて言った。
「出来ますけど…治った後、どうするんですか?」
コーチは笑って言った。
「それは後で考えよう。ねっ?」
トッコも溜息をついて言った。
「危ないなぁ…寝首をかかれたりしたらどうするんですか?」
コーチは言った。
「大丈夫ねっ。こいつはそんな事しない。眼を見れば分かる。悪い魔女じゃないね。」
「魔女はどこまでいっても魔女でしかないのに…」
友知は誰ともなしに言った。
翌朝、志穂が2階から降りてきたのでコーチが声をかけた。
「おはよう。どうだったねっ?」
一晩かけて志穂がカイコ魔女の怪我を直していたのあった。
「怪我は何とか…目を覚ましてしばらくすれば動けると思います。見かけより頑丈な体をした魔女みたいですから。」
友知が言った。
「徹夜、御苦労さま。」
志穂が友知の方を向いて言った。
「別に寝る必要もない体だから御苦労でも…って友知もそうでしょ!少しは手伝ってよ!!」
友知は手をヒラヒラと降って言った。
「お生憎様。敵に塩は送らない主義なの。」
コーチが呆れ気味に言った。
「おいおい、魔女だからってすぐに敵扱いは駄目ね…」
その時、2階の窓が割れる音がした。
慌てて3人とも2階に行くとカイコ魔女が抜け出した後であった。
志穂が言った。
「まだ、動ける体じゃないと思ったのに…すごい精神力ね。」
友知は頭を掻いて言った。
「そんだけ早く人を殺したいってことでしょ。さっ、行くよ志穂。魔女退治に!」
カイコ魔女はウィッチ基地に来ていた。
(ブジか?クジラ魔女…モグラ魔女…)
基地の中は以前に比べて殺風景になっていたがカイコ魔女は気にしなかった。
いや、気にしないようにしていた。
最後の扉を開ける。
そこは、かつて自分が処刑されそうになった部屋であった。
(そんな…)
そこにはバラバラに引き裂かれたクジラ魔女がいた。
「ククク…おマエのせいだよ、カイコ魔女。ワかるか?」
トゲウオ魔女が嬉しそうに喋りながら現れた。
カイコ魔女は悔しそうに言った。
「カチカチ…ふざけるなよ!ワタシのヌレギヌも…クジラ魔女も…スベておマエのサクリャクだろう!?」
トゲウオ魔女は涼しい顔で言った。
「ククク…ユウザイかムザイかのサイバンはジゴクでやるんだな。ヒトリで。おいっ!」
その声に反応してかぼちゃ魔女が群れて出てきた。
「パンプキン!」
「ククク…さてと、マリョクをウバわれたんだってな?ウィッチサイキョウの魔女とウワサされていたおマエもイマではサイジャクの魔女だな。やれ。」
トゲウオ魔女の声にかぼちゃ魔女が一斉に飛びかかってくる。
カイコ魔女はその辺に転がっていた鉄パイプを拾い上げて言った。
「カチカチ…マリョクもなく魔法もツカえないが…ワタシはマけない!!」
鉄パイプを器用に操り、かぼちゃ魔女を吹き飛ばしいく。
「パンプキン!?」
かぼちゃ魔女は自爆のタイミングを狂わされ、カイコ魔女から離れた場所で爆発する。
「ククク…ネバるねぇ。」
トゲウオ魔女は小馬鹿にしたように言った。
カイコ魔女は叫ぶ。
「カチカチ!トゲウオ魔女!キサマだけはユルさない!」
飛びかかってくるカイコ魔女を涼しげな顔で見ながらトグウオ魔女は言った。
「ククク…イったろう?魔法もツカえない魔女はサイジャクの魔女だと!!トゲウオ魔法!ハリセンボン!!」
無数の針がカイコ魔女を襲う。
しかし、カイコ魔女は鉄パイプで無数の針を撃ち落とした。
トゲウオ魔女は驚きの声を上げる。
「ククク!?」
カイコ魔女は言った。
「カチカチ!どうだ、マリョクがなくってもキサマごときにオクれは…」
「ククク…なぁんちゃって。」
トゲウオ魔女がそう言うと撃ち落としたはずの針が再びカイコ魔女に襲いかかった。
慌ててカイコ魔女は再び撃ち落とそうとしたが不意をつかれて防ぎきれなかった。
「カチカチ…」
今度はトゲウオ魔女が勝ち誇って言った。
「ククク…これがマホウをツカう魔女とツカえない魔女のサ。じゃあ、さよなら。」
動けなくなったカイコ魔女をかぼちゃ魔女達が取り囲む。
その時、フルートの音色が響いた。
「ククク?ナンだ?」
「カチカチ…」
友知と志穂であった。
友知はフルートから口を離し言った。
「こんな内輪もめ、ほっとけばいいのに…そこの魔女!別にあんたなんか助けるつもりないんだからね!!これはただの魔女退治なんだからね!!」
志穂がクスリと笑って言った。
「嘘ばっか。」
友知も笑って言った。
「にひ、ばれた?」
カイコ魔女が呟いた。
「カチカチ…サキほどのニンゲン…ナニしにきた!?ハヤくニげろ!!おマエらも…コロされるぞ!!」
志穂は言った。
「大丈夫です。今、助けますから。」
二人は胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!」
二人は白い聖女の姿に変身し叫んだ。
「「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」」
カイコ魔女は驚いて言った。
「カチカチ…聖女だったのか…」
トゲウオ魔女が叫ぶ。
「ククク…聖女がなんだ!?やれ、かぼちゃ魔女ども!!」
「パンプキン!」
かぼちゃ魔女が襲いかかってきたが…
もちろん、二人の敵ではなかった。
全てのかぼちゃ魔女を倒してから友知が言った。
「さてと、後はあなただけですわね…ってあんれ?」
すでにトゲウオ魔女はいなかった。
志穂が言った。
「逃げられたみたいだね。」
友知が地団駄を踏んで言った。
「これからが見せ場でしたのに!必殺技を使えなかったストレスでハゲそうですわ!!」
そな友知を無視して志穂がカイコ魔女に言った。
「大丈夫ですか?怪我を見せてもらえますか?」
その時、カイコ魔女は持っていた鉄パイプを志穂に投げつけた。
それを見て友知が怒った。
「ちょっと!何をしますの!?」
カイコ魔女は立ちあがり言った。
「カチカチ…ふざけるな!おマエラが聖女ならワタシタチはテキドウシだろう?さあ、タタカえ!!」
しかし、志穂は変身を解いて言った。
「無理ですよ…貴女を手術した時に分かりました。貴女、魔力を抜かれていますね?」
友知は変身を解かずに言った。
「それにあなたはトゲウオ魔女と戦っているように見えましたわ…敵の敵は味方ってわけにはいきませんの?」
カイコ魔女は部屋の出口に向かいながら言った。
「カチカチ…タシかにワタシはトゲウオ魔女とタタかった。しかし、クサってもワタシはウィッチの魔女だ!トゲウオ魔女にフクシュウをしたらキサマらをタオす!女手サマの…ドラゴンサマのために!!よくオボえておくのだな!!」
そして、カイコ魔女は出て行った。