第三十五話 双子の別れ、分かり合い
私はいつもお姉ちゃんの背中ばかりを見てきて育ってきた。
気の弱い私は小さい頃からよくいじめられた。
「お前の双子の姉は勉強も運動もできるのにお前は何もできないな?」
「双子の悪い部分の余りがお前なんだな?」
「やーいみっそかす!」
そんな心ない悪口に泣かされてきた。
「ヨッコをいじめんなー!」
そんな私をお姉ちゃんはいつも守ってくれた。
「恐怖の姉がきたぞー!」
「わー逃げろー!!」
TVに出てくるような小悪党みたいなセリフを吐きながら私をいじめていた奴らは逃げていった。
「ったく、誰が恐怖だよ。…もう、泣くなってヨッコ。」
お姉ちゃんの優しい言葉に私は言う。
「…うん、ありがとうお姉ちゃん。」
お姉ちゃんは照れ臭そうな顔をしながら言った。
「気にすんなって!あんたは私が守るよ。姉妹でしょ?」
いつも私を守ってくれたお姉ちゃん。
いつも私に勉強を教えてくれたお姉ちゃん。
いつも遊んでくれたお姉ちゃん。
口下手な私の考えを完璧に理解してくれたお姉ちゃん。
大好き。
彼女はそこまで日記を読むと本を閉じた。
彼女の名前は洋子。
日記の中でヨッコと呼ばれた少女…
つまりこの日記の主である。
「いつからだろう…お姉ちゃんと話をしなくなったのは…」
ヨッコはボツリと独り言を言った。
「どこに行ってしまったの…キョウちゃん…」
ヨッコは双子の姉、鏡子の無事を祈った。
次の日。
香矢は学校で昼食をとりながら友達と雑談をしていた。
香矢は特定の誰かとつるんだりせず、その日の気分で適当なクラスメイトを捕まえて食事をするのが日課であった。
「香矢。」
突然、自分の名前を呼ばれ振り向いた。
ルリであった。
ルリとは他のクラスという事と、バイトで一緒にいる時間が長いため、学校ではあまり会わないようにしている。
香矢は席を立ち上がり言った。
「およっ珍しいスね、ルリっち。バイトのシフト代わってとかはお断りっスよ。友知にでも押し付けてくだせい。」
ルリは少し笑って言った。
「いつも代わってあげてるのに…そうじゃなくて、あんたに相談があるって子を連れてきたのよ!」
そう言うとルリの後ろからヨッコがおずおずと出てきた。
香矢は言った。
「ええと、確かルリっちのクラスメイトのヨッコさんスよね。何の御用ざんしょ?あちきは恋愛相談、学業相談、金銭相談、何でもござれっスよ!聞くだけなら。」
香矢のノリに少し緊張が解けたのかヨッコは話し始めた。
「ええと、田鶴木さんって探偵みたいな事もしてるって聞いたんだけど…」
ルリがフォローした。
「彼女はわらにもすがる思いなんだって。」
放課後、香矢はヨッコを連れて鳥羽兎に来た。
「コーヒーをどうぞ。」
志穂がヨッコにコーヒーを出して下がって行った。
それを見てヨッコは言った。
「可愛いね!お家のお手伝い?」
香矢は頷いて言った。
「そんなとこっス…それよりも事件の話を聞かせてくらはい!どんな難事件も即解決しちゃうっスよ!!」
はりきる香矢を見て呆れたコーチが呟いた。
「うさ耳バンドのメイドにそんな事を言われてもねぇ…」
「コーチが言う事じゃないと思いますよ。」
志穂がすかさず、突っ込みを入れる。
ヨッコは写真を取り出し言った。
「人を探してほしいの。探してほしいのは私の姉。」
香矢は写真を見て言った。
「そっくりスね。まるで双子みたい!って、そういえばヨッコさんは双子でしたっけっ?」
ヨッコは感心して言った。
「よく知ってるね。キョウちゃんは学校が違うし、私が双子なのはあんまり言ってないのに…」
香矢は胸を叩いて言った。
「あちきに知らない事は何もない!」
コーチと志穂が
「だから…」
「だから…」
と先ほどのやり取りを繰り返しそうになった。
香矢はもう一度写真を見ながら言った。
「何でも知ってると言ったスけど…失踪したとか、何があったスか?」
ヨッコは言った。
「ちょっとした姉妹喧嘩。よくそれで家出するの。私と違ってキョウちゃんは社交的だから友達の家にほとぼり冷めるまで泊まったり…だからお父さんもお母さんもあんまり心配してなくて…だけど…」
香矢がニヤリと笑って言った。
「姉妹の絆が何か危険を知らせてるスね?あちきも双子じゃないけど弟がいるから何となくその感覚は分かるスよ!」
ヨッコは言った。
「そんな大層なもんじゃないけど…どちらかというと女の勘かな?今、見つけとかないと大変な事になりそうな…」
香矢は立ちあがって言った。
「あい分かった!早速、探しに行きやしょう!!心当たりのあるところは?」
そこでコーチが言った。
「っておい、バイト中だねっ…」
「心配なし、友知に代わってもらいやすよ!友知は部屋したっけ?」
そう言うと香矢は店の奥に入って行き、2階からギャーギャーと争う声が聞こえ、しばらくして香矢が降りてきた。
そして言った。
「こころよく引き受けてくれました!さささ、行きましょうヨッコさん。」
コーチは言った。
「絶対、嘘ね…そうだ、香矢ちゃん。ついでにマユの散歩もしてくれない?番犬代わりになるし…」
香矢は首を傾げながら言った。
「えー!?こいつ、そんな役に立つスかねぇ…」
マユは任せておけと言わんばかりにワン!と吠えた。
「見つからないスねぇ…」
香矢が疲れた表情で言った。
鏡子の友達の家からまず周って行き、次に行きそうなところを渡り歩いたのだが、鏡子が失踪してから訪れた様子はなかったようだ。
ヨッコは申し訳なさそうに言った。
「すっかり遅くなっちゃったね…今日はもう終わりにする?」
香矢は言った。
「いいや、ここで辞めたら探偵の名がすたる!ねっ、マユ!」
マユはあくびをした。
その時、ヨッコが指をさして言った。
「あの建物…」
その先には使わなくなった倉庫があった。
ヨッコは続けて言った。
「小さい頃、お姉ちゃんとの二人だけの秘密基地にしたんだっけ…懐かしい…まだあったんだ。」
香矢は少し考えてから言った。
「キョウさん、あそこに潜んでるって可能性はないスか?」
ヨッコは首を振って言った。
「まさか…子供の頃の話だよ?生活できるような環境じゃないから…」
香矢は言った。
「まぁ、行ってみる価値はあるんじゃないスか?何かしらの痕跡を残してるかもしれないスし…」
倉庫の中は予想以上に狭く、殺風景であった。
香矢は苦笑して言った。
「はずれみたいっスね…」
その時、暗い部屋の中で影がゆらりと動いた。
「キョウちゃん?」
ヨッコが声をかけると影は答えた。
「チー…ニンゲンはシュクセイ!」
それはチーターの姿をした魔女であった。
ヨッコが小さく叫ぶ。
「ば、化け物…」
香矢も叫ぶ。
「もー、魔女はお呼びじゃないっスよ!」
マユが激しくワン!ワン!と叫ぶ。
そんなマユにひるむことなくチーター魔女はじりじりと二人に近づいていく。
その時、フルートの音色が響いた。
友知が香矢達の後ろから現れた。
香矢が叫ぶ。
「友知!さすがっスね!頼りになる!」
友知はフルートから口を離し言った。
「香矢、アタシの息抜きを邪魔してくれてありがとね。今度、カンチョーするからお尻の穴はしっかり締めておくことね。」
そして胸の十字架を握り叫んだ。
「ドレスアッ…」
「キョウちゃん!?」
ヨッコが突然、叫んだので友知は変身を中断させられた。
チーター魔女も動きを止める。
「チー…?」
ヨッコは続けて叫んだ。
「キョウちゃんでしょ?そうなんでしょ!」
「チー…シらん、知らん!」
そう叫ぶとチーター魔女は姿を消した。
香矢が言った。
「消えた…瞬間移動?透明になる魔法?」
友知が十字架から手を離して言った。
「いや、人間の目では追えないくらい早いだけ…それよりもヨッコさんでしたっけ?あの魔女は知り合い?」
ヨッコは言った。
「…何でキョウちゃんだと思ったんだろう。でも、分かるの。あれはキョウちゃんだって。理由はないけど…分かるの。分かってしまうの!」
「ヨッコ?ヨッコ…」
チーター魔女は頭を抱えながらブツブツと言った。
「誰だ?私を知っている…私は知っている!私は…私は…」
「ああ、臭い!」
突然、声がした。
闇の中からハンカチで鼻を覆った、女手が現れたのであった。
女手は続けて言った。
「人間臭いったら!本当に嫌になる!!」
チーター魔女は女手に言った。
「女手様、ここには人間など…」
「ここだよ!」
女手はいつの間にかチーター魔女の目前に移動しチーター魔女の頭をコンコンと叩いて言った。
「人間の記憶で臭いわ!…そうだ消してしまおう。そうしよう、そうしよう!」
そう言ってハンカチをビリビリと真っ二つに切り裂いた。
ヨッコは家に帰ってきた。
鳥羽兎に戻った後に香矢達から魔女の事を聞かされた。
ヨッコは呟いた。
「キョウちゃん…化け物にされてしまったの?」
両親は出かけていた。
自分の部屋に真っ直ぐ向かう。
「例え、化け物にされたとしても…」
そして、扉を開けるとそこに人影があった。
チーター魔女であった。
ヨッコは言った。
「キョウちゃん…!」
チーター魔女はヨッコの方を見て言った。
「チー…女手サマがワタシのアタマのイタみをケしてくれた。」
先ほどと違い、チーター魔女の頭は切り開かれ、脳が剥き出しになっていた。
「チー…アトはおマエをケせばカンペキだとおっしゃった…シュクセイ!」
そういってヨッコに飛びかかり、ヨッコの体は引き裂かれ…
なかった。
間一髪のところを志穂が助け出した。
志穂は言った。
「大丈夫ですか?」
その後ろの友知が言った。
「げー、脳を再改造ってところかしら…それにしてもずさんな手術!」
志穂はヨッコをかついで言った。
「馬鹿な事言ってないで一旦、外に出るよ!」
3人は家から飛び出した。
そこには
「パンプキン!」
無数のかぼちゃ魔女が待ち構えていた。
友知はそれを見て言った。
「どこから湧いて出たんだか…まぁ、調度いいや。さっきは変身できなくって鬱憤がたまってたとこなの!志穂?」
志穂は言った。
「うん、やるよ友知。」
二人は手を叩くように合わせた後に、胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!」
二人は白い聖女の姿に変身し叫んだ。
「「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」」
「チー…聖女か…」
チーター魔女は身構えた。
志穂は友知に言った。
「友知はかぼちゃ魔女の相手をして…あいつは私が止める!」
友知は頷いて言った。
「ええ。面倒なのは志穂にお任せしますわ。」
友知はかぼちゃ魔女の方に向かって行った。
チーター魔女は叫んだ。
「チー…チーター魔法!チョウカソクソウチ!」
チーター魔女の姿が消えた。
しかし、志穂の目線は何かを追っていた。
「ツバメ魔女よりも早いかも…でも、今の私なら!」
そう言って志穂の姿も消えた。
キン!キン!と何かがぶつかり合う音だけがヨッコには聞こえた。
ヨッコは友知の方を見る。
友知はかぼちゃ魔女を全て倒していた。
一息つこうとした瞬間に友知の体がドン!と大きな音を立てて吹き飛んだ。
友知は叫んだ。
「ちょっと志穂!気をつけてくださいな!!」
志穂が動きを止め言った。
「ごめん、友知…相手が予想以上に強くて…何とか倒さずに動きだけを止めたいんだけど…」
その時、ヨッコは小さい頃の事を思い出した。
「すごい、お姉ちゃん!何で私のしたい事が分かったの?」
自分の行動を先読みされヨッコは声を上げた。
鏡子は言った。
「ヨッコにもできるって!双子だもん。自分がこうして欲しいって事を考えれば簡単だよ?」
ヨッコの目から涙が一粒、流れた。
「ドラゴンヴァルキリー!」
ヨッコの叫びに志穂と友知は振り向いた。
ヨッコは続けて言った。
「お願い、キョウちゃんを倒して!」
その言葉に二人は驚き、友知は言った。
「でも…」
ヨッコは涙を流しながら言った。
「あれはもうお姉ちゃんじゃない…もう見てられないの!これ以上、手を血に染めないうちに…」
その言葉を受けて志穂が剣を構え叫んだ。
「六竜トルネード!」
志穂の剣から竜巻が放出され、チーター魔女の体を打ち上げる。
さらに炎、水、雷、草、毒、5つの色が竜巻の中に入っていく。
チーター魔女はもがく。
ボロボロになったチータ魔女のところに志穂は飛びあがり叫んだ。
「エンドドラゴン!」
そして横一文字にチータ魔女の体を切り裂いた。
「チー…」
断末魔の声を上げチーター魔女は息絶えた。
「必殺…七竜剣!」
そう言ってから志穂は剣を胸に持ってゆき変身を解いた。
ヨッコはチーター魔女の横に行き呟いた。
「これで良かったんでしょ?これがあんたの望みだったんでしょ?私達、双子じゃなければ良かった…あんたの考えてる事なんか分からなければ良かった!お姉ちゃん…うぅっ…」
そしてヨッコは泣き崩れた。