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聖女ドラゴンヴァルキリー  作者: BALU-R
第Ⅳ部   復活・ドラゴンヴァルキリーⅠ編
27/41

第二十七話 記憶喪失の少女

彼女は泉に写った自分の姿を見て呟いた

「これが私…」

そこには茶色い長い髪の少女が写っていた。

泉から目を外し呟いた。

「私は…誰?」

彼女は記憶を失っていた。

自分の名前すらも思い出せなかった。

疑問ばかりが口から出てくる。

「ここはどこ?何故、こんなところにいるの?」

そこは誰も人のいない…森の泉であった。

「私は…誰?」

再び呟いた。

その時、背後に気配を感じた。

「誰?」

彼女は問いかけた。

木の裏で影がガサゴソと動いていた。

「あなたは…私を知っているの?」

彼女は問いかける。

ふいに影がピタリと止まって答えた。

「…」

「えっ?」

その声は…人間の声とは思えないものであった。

(人間じゃなかった?無駄な事をしたのかな?)

彼女が考えているうちに影が再び喋った。

「…!シっているとも。」

今度は人間の言葉が耳に入ってきた。

彼女がホッとした瞬間に、それは木の裏から飛び出してきて叫んだ。

「ブワーヒ!おマエは、聖女・ドラゴンヴァルキリー!夜葉寺院友知だ!!」

それは豚の鼻にワシの翼をつけた黒い豹という異形の姿…醜悪といっても良い生き物であった。

友知と呼ばれた彼女は恐怖で固まりながら呟いた。

「化け物…」

醜悪な相手は忌々しそうに言った。

「ブワーヒ!ダレのせいだとオモってる?おマエのせいでワレらはアルジをウシナい、このようなキメラ(合成獣)になるしかなかったのだぞ!!」

彼女は後ずさりながら聞いた。

「私の…せい?」

キメラ魔女は言った。

「ブワーヒ!そうだ!だからおマエもこのカラダのイチブにしてやる!!」

彼女は相手に背を向けて一目散に逃げ出した。

キメラ魔女はニヤリと笑い彼女を追った。

友知はイカ魔女との戦いで命を落としたはずであった…

彼女は本当に友知なのだろうか?


「今日も良い天気っスね~。」

香矢がマユのリードを持ちながら呟いた。

コーチが手を離せないので代わりにマユの散歩をしているのだった。

「散歩日和っスね!マユ?」

香矢が話しかけるのに答えるかのようにマユは電信柱におしっこをした。

香矢はブスッとして言った。

「…どういう意味っスか。タイミングが悪かったと信じてるっスよ…」

その時、マユは急に顔を上げたと思ったら急に走り出した。

香矢は思わず叫ぶ。

「わわわのわ!危ないっスよ!何事っスか!?マユ乱心、乱心!!」

マユに引きずられるまま香矢は路地裏に入り込んだ。

そこには、少女が倒れていた。

マユは少女の横に駆け寄り、ワン!と吠えて尻尾を振った。

香矢も駆け寄り、少女に声をかけた。

「大丈夫っすか!?もしもし、もしもーし…ここは眠る所じゃないっスよ。」

少女を抱き起こし、その顔を見て香矢は驚いて言った。

「…!!!友知!?」

先ほどの少女であった。

香矢は少女に話しかける。

「友知!友知なんでしょ!?生きてたんスか!?しっかりして!!」

少女はぐったりしていた。

香矢は言う。

「とにかく、鳥羽兎に戻らないと…」

少女は夢うつつに言った。

「化け物が来る…怖いよ…」


鳥羽兎で友知の姿を見たコーチも驚いて言った。

「よかったねっ…私はあの時、てっきり…」

目を覚ました少女は言った。

「…私の事を知っているのでしょうか…」

香矢がその言葉を聞いて言った。

「ま、まさか…冗談っスよね?もしくはお得意の演出っスよね?」

少女はきょとんとして言った。

「あなたも私の知り合いでしょうか…思い出せない…ここの事も、あなた達の事も、私の事も…!」

コーチと香矢は目を合わせ、溜息をついた。

そして、コーチが言った。

「…これは本当に記憶喪失みたいねっ。」

香矢も言う。

「確かに…この大根役者が記憶喪失を演じているには上手すぎるっスね。」

その時、少女が立ちあがって言った。

「そうだ…!私の事を知っているならあのバケモノの事も知っていますか!?私、追われているんです!!でも、何で追われているのかも分からなくて…」

コーチは答えた。

「化け物…まさか、魔女の事か!?じゃあ、やはり君は…」

少女は怯えている。

香矢はそんな彼女を励まして言った。

「大丈夫っスよ!ここには魔女からみんなを守ってくれる方がいるっスから…あれ、そういえば志穂さんはどこへ?」

店内を見回しても志穂の姿がなかった。

コーチが言った。

「田合剣には買い出しに行ってもらっているんだがねっ…」

少女は恐怖をごまかすかのように足元のマユをなでていた。

マユは相変わらず尻尾を振って少女にすりよっている。


志穂はデパートで買い物をしていた。

志穂は買い出しのメモを見ながら呟いた。

「りんごとみかんとトマトと…コーチも取り寄せればいいのに、こんな食材。」

その時、志穂に近づく人影があった。

「…志穂殿。」

影は志穂に耳打ちをした。

志穂は影の方を見て言った。

「…ミカさん。日本にきていたのですか。」

ミカと呼ばれた女性は事務的に答えた。

「リーダの命によりマリとユリと交代で志穂さんのサポートに参上しました。エミと共にこれからは鳥羽兎でお世話になります。」

志穂は答えた。

「そうですか…でも、無茶はしないでくださいね?エミさんもあなたも普通の人間なのですから。」

「ご心配ありがとうございます…それでは自分は現在追っている近くの魔女の調査に戻るのでこれにて。」

そう言ってミカは音もなく走り去っていた。

本人は目立たないようにしたのだろうが、逆にその走り方がデパートでは注目を浴びてしまった。

志穂はそんな彼女を見ながら呟く。

「まるで忍者ね…友知や香矢さんが狂喜しそう。」

そして志穂もデパートを後にした。


鳥羽兎に着いた志穂は友知そっくりの少女の姿に気付き驚いた。

「…友知!!」

少女も志穂の姿に驚いて言った。

「聖女…ドラゴン…ヴァルキリー!?」

全員が少女の方を見た。

「志穂さんの事…覚えてるっスか!?」

香矢が思わず聞く。

少女は首を横に振って言った。

「分かりません…今の言葉は無意識にでてきたものです。でも、私はあなたを知っている?」

少女は志穂の方を見つめている。

志穂も少女の方を見つめながら言った。

「…彼女から魔力を感じます。」

香矢が言った。

「分かるんスか!?そんな能力が志穂さんに…ってお約束か。」

コーチが志穂に聞く。

「それじゃあ、やっぱり彼女は友知ねっ…」

志穂は少し考えて言った。

「でも、友知の魔力とは違うような…以前より弱い、そんな感じがします。」

少女は志穂に泣きついて言った。

「教えてください!私は誰なんですか!?あなたを見た瞬間に私は無意識にあなたの名前を呼びました…知ってるんでしょ、私の事を!?」

志穂は少し困って言った。

「どうしましょう?」

コーチや香矢が何かを言う前に彼女は叫んだ。

「知りたいんです!自分の事を!!何故、私が化け物に追われなければならないのかを!!」

「ブワーヒ!それはおマエが聖女だからだ!!」

突然、声が響いた。

香矢がきょろきょろと見渡して言った。

「どこっスか!?」

志穂が叫んだ。

「そこです!!」

志穂の指の先には少女の背中に小さなゴミくずのような物があった。

「ブワーヒ!ハナシはキかせてもらった!!おマエもそこにいるもうヒトリの聖女とともにホウムってやる!!」

志穂は少女の服からそのゴミくずをとり踏みつぶした。

ゴミくずはその見かけと違い、バキッと機械の壊れる音を出した。

志穂は言った。

「まずいですね…今の機械はこちらの場所を特定させる事もできたみたいです。」

香矢が驚いて言った。

「盗聴器とスピーカーと発信機の機能を持ち合わせていたって事スか…!あんな小さい中に!相変わらず、ウィッチの技術は半端ないスね。」

少女は志穂に聞いた。

「…それでは私はここにあいつらをおびき寄せてしまっているのですか。」

コーチは慌てて言った。

「いや、それはだねっ…」

少女は叫んだ。

「自分に優しくしてくれた人を巻き込んで!!私は…私は!!」

そして鳥羽兎を飛び出していった。

慌てて志穂と香矢は追いかけて行ったが、すぐに見失ってしまった。

香矢が言った。

「まずいっスよ!狙われてるこの状況で!!」

志穂は携帯を取り出した。

(お父さんの話では魔女対策本部のメンバーの番号は全て登録されているって話だった…さっき会ったミカさんは近くの魔女を追っているって言っていた。彼女にその魔女の居場所を聞いて先におさえれば…!)

ミカの名前は登録されていた。

志穂がその名前を押そうとした瞬間に声をかけられた。

「お呼びですか?」

いつの間にか、ミカが立っていた。

香矢が言う。

「さすが志穂さん…召喚魔法スか?」

志穂が否定して言う。

「そんな力、持っていません!ミカさん、今電話しようと…」

ミカは言った。

「自分は携帯が嫌いなものでして…」

志穂は気を取り直して聞いた。

「そ、それよりもミカさん。さっき近く魔女の事を調べているって言っていましたけど。」

志穂は事情を話し、ミカから魔女の居場所を聞いた。


「…どうしてこんな事に?」

彼女は再び最初にいた森にきて呟いた。

答えは出なかった。

何も覚えていないのだから。

「私は聖女…あの化け物と戦うの?」

「ブワーヒ!そうだ。」

少女の疑問に答えるようにキメラ魔女が出てきた。

キメラ魔女は言う。

「ブワーヒ!タタカえ!そしてシね!!それがおマエとワレらのシュクメイなのだ!!」

そこに走る音がしてくる。

志穂であった。

キメラ魔女は嬉しそうに言う。

「ブワーヒ!キたか!!」

志穂は叫んだ。

「させないよ…友知にはこれ以上戦いなんか!!」

変身しようと十字架を握りしめた瞬間にキメラ魔女の後ろから人影が現れた。

女教授であった。

志穂は叫んだ。

「やっぱりあなたの仕業だったのね!」

女教授はキメラ魔女の方を見てから言った。

「いや、こいつは私の予定外でな…予定外と言うならこの状況もだが…だが、これを利用しない手はないな。」

女教授は唖然としている周りを無視して続けた。

「さぁ、思い出すが良い!私との日々を!!共に戦おうぞ!!!」

そう言って口紅を女教授は塗りなおした。

その光景を見て少女は言った。

「…女教授サマ。」

志穂は少女の方を見て驚いて言った。

「えっ!?今、なんて!?」

そして、少女の姿は友知からタヌキの魔女の姿に変わった。

女教授は笑いながら言った。

「そういう事だよ聖女!ドラゴンヴァルキリーに化けようとしたんだが上手くいかなくて記憶を失ってしまってな…その上、仲間の魔女につけ狙われるとは!」

魔女達はジリジリと志穂によって来る。

女教授は言った。

「さて、2人の魔女を相手にどう戦うね?いや、4人かな?」

その時、フルートの音色が鳴り響いた。

「これは…」

「ブワーヒ!まさか?」

志穂とキメラ魔女が同時に叫んだ。

フルートを吹いていたのは…友知であった。

志穂は叫ぶ。

「友知!今度こそ本物!?」

友知は志穂の目の前まで歩いて行き言った。

「今、証明するよ…本物にしかできない事を!」

そして志穂の胸の銀色の十字架を握り叫んだ。

「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!」

十字架をもぎ取ると黄色い姿に変身した。

「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!イエロードレス!!!」

志穂は驚いて言った。

「友知!自分の…銀の十字架だけで変身して大丈夫なの?」

友知はニヤリと笑い言った。

「死線をさまよったワタクシは洗脳すらも乗り越えましたの…それよりも、さぁ志穂!」

そして志穂も胸の十字架を握りしめて叫ぶ。

「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」

十字架をもぎ取り赤い姿に変身した。

「聖女!ドラゴンヴァルキリー!レッドドレス!!!」

「タヌー!ホンモノだと!!」

タヌキ魔女が叫ぶ。

友知はふっと笑い言った。

「ワタクシの偽物とワタクシの倒した出戻り魔女が現れたんですもの…ワタクシの出番は当然ですわ。」

志穂は言った。

「友知!油断しないで!!」

「ブワーヒ!キメラ魔法!ブラックトルネード!!」

キメラ魔女が叫んだ。

黒い竜巻を見て友知が言った。

「油断するなと言うのが無理ですわ…以前に敗れた魔法を使ってどうしますの?」

今度はタヌキ魔女が叫んだ。

「タヌー!ならばタヌキ魔法!バけヘンシン!!」

タヌキ魔女はキメラ魔女と同じ姿になった。

そして叫んだ。

「タヌー!合体魔法!ダブルトルネード!!」

2匹の魔女の黒い竜巻が重なり合う。

友知は言った。

「もともと合体魔法だったのをまた合体させてどうしますの!」

志穂は言った。

「解説はいいから…」

黒い2重の竜巻がジリジリと近寄ってくる。

しかし、友知は平然として言った。

「合体魔法には合体魔法…志穂!やりますわよ!」

「…何を?」

志穂はキョトンとして言った。

友知は志穂の剣を無理やり構えさせて言った。

「いいから!合わせてくださいな!!」

そして友知は志穂の剣と自分の剣をクロスさせた。

雲が出てくる。

友知は言った。

「この火の雨…その強さは以前にも経験済みですわよね?」

雲が出てき、そこから火の雨が降り注いだ。

「ブワーヒ!」

「タヌー!」

2人の魔女は火の雨の前に倒れた。

友知は叫んだ。

「見ましたか!二人の愛の結晶、合体魔法を!!」

「女教授は!?」

そんな友知を無視して志穂が叫んだ。

いつのまにか女教授の姿は消えていた。


「無事だったのね…」

お互いに変身を解いた後に志穂が友知に聞いた。

友知は答えた。

「イカ魔女との戦いはアタシの体へのダメージが大きすぎたの…だから、少し休養が必要でね。身を隠していたってわけ。」

そして自分の十字架を志穂に渡して言った。

「もう少し休養が必要でね…そうね、リーダのところにでも行ってようかな?もうしばらく、アタシの力を預かっておいてね。」

そして背を向けて歩きだそうとしてピタリと足を止めて言った。

「そうそう、さっきの言葉だけど…」

志穂は聞く。

「何の話?」

友知は振り返って言った。

「もう、アタシを戦わせないって話。まーだ、アタシを巻き込んだつもりなのかね君は。これはもうアタシの戦いでもあるのだよ。アタシが戦いから解放される日はアンタも解放されなきゃ駄目。でしょ?」

何か言おうとした志穂に対して耳を塞ぐジェスチャーを友知はした。

「それじゃまたね。相棒。」

そう言って、友知は歩きだした。



志穂の前に新たな敵が現れる!

一体、いくつの敵と戦わなければならないのか?

しかし忘れるな、君は一人ではない事を…

次回  第二十八話 「仲間の在り方」


友知の想いを受け継ぎ、志穂は戦い続ける!

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