第二十五話 志穂の新たな戦いの始まり
ここは噴水のある公園。
噴水の前に30代前半ぐらいのホームレス風の女性が座っていた。
懐から食パンを取り出し、モグモグと食べ始めた。
近くをカップルが通ったが、この女性を見て慌てて逃げ出してしまった。
「カメラ!女教授サマにごホウコクがあります!」
背中の噴水の中から話しかける声が響いた。
女教授と呼ばれたその女性は声に気を止めずに食パンを食べ続ける。
噴水の中の声は構わずに続ける。
「カメラ!女医サマが聖女にイドみジュンシされました!カナしいコトです…」
女教授は食パンを食べ終えて自分の食べカスをつつきにきたハトを眺めている。
そして声は続く。
「カメラ!それとはベツにワレらのコトをサグっていたニンゲンをツカまえました!どうやら聖女のカンケイシャのようです!!いかがしますか?」
空気が変わった。
パン屑を食べていたハトが逃げ出す。
女教授は立ちあがりよれよれのコートを脱いだ。
するとスーツをパリッと着た女性に変身した。
そして言った。
「その人間、使えるな…一度、逃がせ。聖女と接触させろ。」
後ろの噴水からザバーとカメの姿をした魔女が出てきて言った。
「カメラ!女医サマのトムラいガッセンだ!!」
女教授はカバンから口紅を出し、自分の唇を塗りながら言った。
「女医め、改造にばかり興味を持つからこうなるのだ…だが、聖女よ。魔女を狩るだけならともかく我が同志にまで手をかけるのはやりすぎたな。」
「助教授っスか?」
香矢が鳥羽兎で志穂に聞いた。
志穂は首を振り言った。
「違います。女に教授と書いて女教授です。私は友知に戦いを任せている間、お父さんと一緒にウィッチの事を調べたのです。そして幹部の名前…女医と同位の人物、女教授という幹部がいる事を突きとめたのです。」
香矢がふーっと溜息をつき言った。
「女医がラスボスじゃなかったんスね…って事はまだその上にも誰かが?」
志穂は答えた。
「さあ…今、分かっているのはその二人だけで…」
香矢は腕組をしてうなった。
「むむむ…これは強敵の悪寒…じゃなくて予感…」
志穂は少し笑いながら言った。
「どっちでも同じようなものじゃないですか?それにいずれ戦う事になるかもしれないですけど、向こうから来る事は少ないと思いますよ。女医は私達に個人的に興味を持っていただけで、ウィッチは事を公にしたくはないみたいですし…」
その時、地味な着信音が響いた。
香矢が驚く。
「何スか、この初期設定の着信音は…」
志穂がポケットから携帯を取り出して言った。
「あっ、私です。」
香矢が言う。
「もう少し、可愛い着信音にするっスよ…というか志穂さん、いつの間に携帯を?」
志穂は照れ臭そうに言った。
「お父さんにもらったんですよ。連絡用に…!大変です!!エミさんからの連絡が途絶えたそうです!!」
香矢が聞いた。
「いや、エミたんって誰スか?」
志穂は答えた。
「エミたんとは言ってません!エミさんは魔女対策本部の新メンバーです!!」
香矢が納得して言った。
「なるほど、いつの間にか勢力を拡大してたんすね…」
志穂が立ちあがって言った。
「とにかく、エミさんがいなくなったところに行ってみます!!」
香矢も立ちあがって言った。
「あちきも行きやす!」
「しかし…」
「志穂さん、そこは歩いて行けるところっスか?バイクは必要ないスか?」
「…結局このパターンですか。お願いします。」
そして香矢は言った。
「それに…」
「それに?」
ニヤリと笑い香矢は言った。
「新キャラに挨拶しておかないと、どんどん影が薄くなっていくスよ。」
エミは廃屋の前で立ち止まっていた。
(何で私は解放されたんだろう?確かにここで魔女に捕まったはずなだったのに…)
考えられる理由は一つ。
囮。
(となると下手に志穂さんやリーダーに連絡をとるわけには…かと言ってどうしたら…)
だから動けずにいた。
そこにバイクの音が聞こえてきた。
(誰?)
現れたのは見知らぬ子と…
「志穂さん!?」
エミは思わず叫んだ。
香矢が言った。
「げっ、自分以外に「志穂さん」って呼ぶキャラ登場スか…嫉妬の炎がメラメラと。」
そんな香矢を無視して志穂が言った。
「エミさん!大丈夫ですか?」
エミは一瞬嬉しそうな顔をしたがすぐに険しい顔に戻って言った。
「どうして来たんですか!これは罠ですよ!!」
「カメラ!その通り!!」
廃屋の影からカメ魔女が出てきて言った。
「カメラ!そのニンゲンがナカナカウゴかないのでコマっていたところだ!ジブンからきてくれるとはありがたい!さて、どちらが聖女だ?それともただのニンゲンのナカマか?」
香矢が不思議そうに言った。
「あり?こいつ志穂さんの顔を知らないみたいっスよ?今までの魔女は知ってる感じだったのに…」
志穂はその疑問に答えた。
「魔女の間でも派閥があるみたいですね。今まで戦ってきたのは女医寄りの魔女だったのでしょう。」
カメ魔女は言った。
「カメラ!そのトオり!ワタシは女教授サマチョクゾクの魔女だ!」
香矢が言った。
「あっらー、こいつ自分でペラペラばらしてるっスよ…」
志穂は静かに言った。
「女医だろうが女教授だろうが…魔女は魔女!」
胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
左手で銀の、右手で金の十字架を引き千切った。
志穂の体は2つの十字架を中心に輝きだし
両手の十字架は柄の宝石が青と黄のハーフの入った剣になり、
髪は金色になり、
服は青と黄のチェックのミディスカートになり
胸は巨乳になり
背中には黒い小さなコウモリの羽が生え
お尻には恐竜のような緑色の短めの尻尾が生え
そんな姿に
なった。
そして叫んだ。
「聖女・ドラゴンヴァルキリー!ダブルドレス!!」
香矢が目を輝かせながら言った。
「志穂さんも魔女っ子としての自覚が出てきたんスね…」
カメ魔女は言った。
「カメラ!キサマが聖女か!!」
志穂は剣を構えて言った。
「そうよ…あんた達、魔女を地獄に連れ戻す聖女よ!!」
「待ちなさい。」
そこに声が響く。
その場に不釣り合いなスーツ姿の女性…女教授が現れた。
「私にも自己紹介をさせてくれ。私はウィッチの幹部、女教授というものだ。」
「あなたが…」
「女医を倒したそうだな?別に仇うちとか言うつもりはないが…他の魔女と違ってあの頭脳が消えたのは痛手なのだよ。」
そう言ってカバンをゴソゴソと探りだした。
中から出てきたのは石器時代で使われていそうな石のナイフだった。
そして女教授は言った。
「ウィッチの邪魔をするものは許さない。」
「カメラ!シュクセイだ!!」
女教授がナイフを志穂に向けると散弾銃のようにパラパラパラと弾丸が発射された。
志穂はうまくかわし、雷雲を呼び出しカミナリを剣に落とし相手に向けて放った。
しかし、当たる直前にカメ魔女が前に出てきて叫んだ。
「カメラ!カメ魔法ハンシャコウラ!」
背中の甲羅を向けると志穂の電撃を跳ね返した。
跳ね返された電撃は志穂を襲う。
「カメラ!やったぞ!!」
喜ぶカメ魔女を女教授が制する。
「まて、あの姿は並みの電撃は吸収してしまうようだぞ?」
そういって再びナイフを志穂に向けた。
志穂は体勢を立て直し水のバリアを張ってそれを防ぐ。
女教授は言った。
「ほう、真正面からでは駄目か…カメ魔女!」
「カメラ!」
カメ魔女は志穂の横に移動した。
次に女教授は志穂の方ではなくカメ魔女の方に発砲するのであった。
「カメラ!カメ魔法ハンシャコウラ!」
発砲した弾丸を乱反射させた。
志穂はかわそうとしたが足に何発かうけて倒れてしまう。
「うっくっ!」
女教授は言った。
「はっはっはっはっ!終わりだな聖女。」
香矢がやきもきしながら言った。
「あうー、あいつら今までにないコンビネーションっスよ!」
志穂も焦っていた。
(カメ魔女から肉弾戦で倒そうにも女教授の弾丸がこちらを狙ってるし…女教授を狙おうにもカメ魔女が反射するし…充電する隙は与えてくれないだろうし…どうすれば?)
「カメラ!とどめだ!」
その瞬間、志穂はひらめいて剣をクロスさせた。
すると、雷雲…ではなく雨雲が呼び出された。
雨がポツポツと降ってきた。
「カメラ!ナンだ、ただのアメじゃないか!」
しかし、女教授は気づいて言った。
「!まずい!!これは霧雨だ!!」
遅かった。
志穂の体は霧の中に消えた。
「カメラ!?どこにイった!?」
「…ここよ!」
志穂はカメ魔女の後ろに現れカメ魔女の甲羅を叩き割った。
「カメラ!!!」
カメ魔女はしばらく悶えた後、動かなくなった。
志穂は女教授を睨みつけて言った。
「さぁ、次はあんたの番。」
女教授はカバンから口紅を出して言った。
「…さすがだな聖女。ここは仕切りなおさせてもらうとしよう。」
唇に口紅を塗ったと思ったら女教授の姿は消えていた。
香矢がそれを見て言った。
「はー、女医の時も思ったスけど、あんなすごい事できるならそれを戦闘に使えばいいのに…」
志穂が変身を解いて笑いながら言った。
「それだと私、負けていましたよ?…まぁ、逃げるためだけの奥の手魔法なのでしょうけど。」
そして決意の目で空を見て志穂は呟いた。
「女教授…恐ろしい相手…」
女教授の新たな刺客、ツバメ魔女。
志穂と対決の途中でコーチの姿をみたツバメ魔女の様子がおかしくなった…
コーチの思い出が蘇る。
次回 第二十六話 コーチの過去、武士の生き方
友知の想いを受け継ぎ、志穂は戦い続ける!