第二十一話 死を呼ぶノート
「死ねっ!」
夜月はボソっと呟いた。
その格好は水着にランドセルという異様な姿であった。
彼女はいじめられっ子であった。
今日は水泳のあとに着替えようと思ったら着替えがなくなっていた。
あいつ等はすっとぼけるだけで返してくれなかった。
担任の教師もいつも通り見て見ぬふりであった。
「どいつもこいつも死ね!!」
またボソっと呟いた。
(仲間内でシンナーを奪い合って殺し合え!)
(トラックに全員仲良く引き殺されろ!)
(他の子をいじめ殺した罪で刑務所内で自殺しろ!)
(警察に捕まって死刑になれ!)
(宇宙からきた正義の味方に倒されて死ね!)
いじめられた後、彼女はいつもこんな妄想をするのであった。
バラバラの妄想であったが、一つだけ共通点があった。
全て、自分の手では殺さず勝手に死んでいく。
人目を気にして歩いているうちに無意識に橋の下を歩いていた。
(うわー…何か怖い…)
ふとノートが落ちているのに気づいた。
一見するとただのノートだが…
夜月は何故か拾った。
何故、そうしたのかは自分でも分からない。
家に帰って親にバレないうちに着替えて自分の部屋にかけこんだ。
「死ねっ!」
今度はさっきよりも大きな声で叫んだ後にランドセルを投げた。
教科書や筆箱と一緒にさっき拾ったノートが転がった。
きまぐれでノートを持ち上げて開いてみると最初のページに
「しののート」
とクレヨンで書かれていた。
次のページを開くと、
「こののートになまえおかかれたしとは3にちいないにへんししま。」
(このノートに名前を書かれた人は3日以内に死にます…?)
次のページには色々な人の字で様々な名前が書いてあった。
「くだらない。こないだヒットしてた映画ごっこか。世間は病んでるね。」
ノートを閉じて片付けようとしてランドセルの裏に気付いた。
「ブス」
と書かれた紙が貼られていた。
「くっ…!」
夜月は涙ぐみながらノートとシャーペンをとり、机に向かった。
「いつも思うんスけど…」
まかないをバクバク食べる友知に向かって、香矢が問いかけた。
「そんだけ食ってるのに友知がお手洗いに行ってるところを見た事がないんスけど…」
友知はピタリと食べるのを止めて答えた。
「聖女はうんこしないの。考える事が下品だねぇ、香矢は。」
「どっちがスか!説明になってないスし!それじゃあ、食べた物はどこに行ってるんスか!?」
「それは聖女の24の秘密の一つ。」
そんな二人のやりとりを見てコーチが言った。
「ねっ、今日は平和だなぁ…」
着替え終わったマリが奥から出てきて言った。
「店長、ところがそうでもないんですよ。TV見ましたか?」
と言ってTVをつけるとニュースキャスターがニュースを読み上げた。
「またしても刑務所に服役中の囚人が変死しました…」
香矢が立ちあがり言った。
「あっ、これ知ってるス!ネットでは「死のノートに書かれたんだろう」とかみんな言ってるスっよ!いやーもろに例の映画の影響を受けちゃって、ネットにしがみついたバカどもときたら!」
「と、バカが申しております。」
友知の言葉に香矢がキッと睨みつけたが、素早く友知は目をそらした。
TVを消してからマリが話し始めた。
「ん、まぁ死のノートかどうかはともかく同一犯の可能性が高いと思うよ。」
香矢が聞く。
「どういう事っスか?」
マリはいつものようにミルクを飲み干してから続けて言った。
「実はね、「死のノートに殺してほしい人」ってサイトがあってね。殺された獄中犯はみんなそこに書かれた人物なの。」
香矢は感心して言った。
「あっ、そのサイトは知ってるスけど…そこは気づかなかったスね。」
マリは照れ臭そうにミルクをまた飲み干してから言った。
「ちなみにそのサイトが出来る前はね獄中犯じゃなくてTVで実況された強盗とか、容疑者…そんな人達が変死してたの。つまりサイトが出来るまではTVに出た人の名前を参考にしてたってわけ。」
香矢は手を叩きながら言った。
「すごいっス!でも、それだけじゃ犯人は分からないスよね?」
マリは再びミルクを飲み干してから言った。
「と思う?もう少し突っ込んで調べてみたよ。殺された人達が放送されたチャンネルも時間帯もバラバラでね。全ての番組を見れた地域…そこを探してみたの。すぐに分かったわ。最初の犠牲者以前に変死が出ている地域でもあったわ!後はその地域での最初の犠牲者に怨恨がある可能性の人物が犯人ってわけ!」
香矢が再び手を叩き言った。
「ブラヴォー!さすが魔女対策本部の臨時リーダー!!」
「香矢、本当に分かった上で言ってるの?」
友知が不審そうな顔で言った。
香矢が逆に問い返す。
「そういう、友知は分かってないんスか?」
友知は頬を膨らませて言った。
「分かってるよ!犯人は一番怪しくない人なんでしょ!?」
夜月は一人で留守番をしていた。
暇つぶしにとノートを開こうとした瞬間にチャイムがなった。
玄関に出ると見知らぬ人達が立っていた。
マリと香矢と友知であった。
マリが口を開いた。
「ごめんなさい、君が夜月さん?」
夜月は3人を見ながら言った。
「そうですけど…」
その瞬間に友知が叫んだ。
「犯人はお前だ!」
その言葉に夜月はペコリとおじぎをし、
「ごめんなさい!」
と謝った。
香矢は驚いて言った。
「えー!?もう自白しちゃうんスか!?」
家に入って夜月は泣きながら説明した。
死のノートの事。
自分をいじめていた子達と見て見ぬふりをした担任の名前をかいた事を。
そして夜月は続けて話した。
「まさか、本当に死んじゃうなんて…怖くなって捨てようかとも思ったんだけど、それならせめてこの世の悪人の名前を書いてから捨てようと思って…」
泣きじゃくる夜月をなだめながらマリが言った。
「それでそのノートはどこに?」
夜月は自分の部屋からノートを持ってきた。
「ほほう、これが…」
香矢が変な感心をする。
夜月はノートを置いてから言った。
「私…捕まるんですか?」
「いいえ。」
友知がノート眺めながら断言をした。
「アタシには見えるよ…このノートから真犯人が!!」
「メエー!」
ヤギの姿をした魔女がある占い館の地下で水晶を眺めていた。
「メエー!ツギはダレをシマツするんですかね?のーとのヌシよ!ヤギ魔法!のートテンシャ!」
すると水晶に文字が浮かんできた。
「メエー!ナニナニ、田鶴木 香矢?ワかりました!」
そう言うと占い館を後にした。
ヤギ魔女は香矢の家に着いた。
「メエー!まだカエっていない!カエってきたらシュクセイ!のートのヌシのせいでな!!」
その時フルートの音色が鳴り響いた。
「メエー!?」
友知であった。
どこから用意したのか探偵の格好をしている。
「犯人はお前だ!」
友知は叫んだ。
「メエー!?まさか聖女がデてくるとは…しかし!女医サマにもらったこれがある!!」
そういうとヤギ魔女はラジカセを取り出した。
「メエー!ワレらのもとにモドれ!!ドラゴンヴァルキリー!!」
ラジカセから曲が流れてくる。
「あっぐぅ!!」
頭を押さえながら悶える友知。
「メエー!おマエもワタシとイッショにのートにカかれたニンゲンをシュクセイするのだ!…おっサッソクのートにカきコまれたぞ?ナニナニ…ガンバれドラゴンヴァルキリー?ナンだこれは?」
(頑張れドラゴンヴァルキリー!)
その言葉は魔女に戻そうとする曲よりも友知の心に響いた。
曲を振り切って立ちあがり胸の十字架を握りしめて友知は叫んだ。
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!!」
そう叫ぶと胸の二つの十字架を引き千切り、
両手の十字架は柄の宝石が黄と紫のハーフの入った剣になり
服は黄と紫のチェックのロングスカートになり
胸は巨乳になり
そんな姿に
なった。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ダブルドレス!!!」
そう叫ぶと剣を構えて言った。
「人のせいにして罪を重ねるのは楽しくって?でも、それもここまでですわ!!」
友知は雷雲を呼び出し剣にカミナリを落とした。
「痺れながら…腐っていくとよくてよ!」
剣をクロスさせると紫色のカミナリがヤギ魔女を襲った。
「メエー!」
ヤギ魔女の体は崩れていく。
友知は変身を解いて呟いた。
「そして誰もいなくなる…なんてどうかな?」
数週間後、休校していた学校が再開したので夜月は再び登校していた。
(もうあいつらはいないんだ…!これからは楽しくやろう!!)
自分の席に座っていると誰か近づいてきた。
「あなたが夜月さん?何か生徒と担任が減ったから緊急でクラス換えなんだってさ。」
そう言うと、夜月の椅子を蹴っ飛ばした。
転げる夜月。
「あら大丈夫?勝手に転んでどうしたの?」
相手は白々しく言った。
「これから楽しくやろうね?」
初恋の人…
初恋の人の恋人…
その恋敵が魔女に狙われたらどうしますか?
「香矢は間違っていないと思うよ。」
次回 第二十二話 「恋は残酷」
友知は負けない、志穂の想いがある限り…