第二十話 地獄から響く曲
ここはある公園の…便所。
「ウホッ!」
そこにはゴリラ魔女がいた。
そこにコツコツと女医が現れる。
ゴリラ魔女は言った。
「ウホッ!おマちしておりました、女医サマ!」
「呼び出してすまなかったな。実はお前に聖女と戦って欲しいと思ってな。」
ゴリラ魔女は大喜びで手を叩き言った。
「ウホッ!それではサイカイゾウをおネガいします!!」
「それよりももっと面白いものをお前に渡そう。」
そう言って取り出したのは昔のカセットタイプのテープレコーダーだった。
「ウホッ?それは?」
女医は胸のポケットから取り出したスルメをプチリと食い千切り言った。
「秘密兵器さ。」
「ねっ、夜葉寺院。マユに餌をやってちょうだい。」
コーチが友知に餌皿を渡した。
「はーい、了解ですコーチ。ほら、お食べ香矢。」
そう言って香矢に渡すのであった。
「あちきのご飯じゃありやせん!マユの!!」
「あれ?香矢ってば、いつも犬食いしてるから間違えちゃったぁー。てへっ。」
ユリはその光景を横から見ながらクスクスと笑い言った。
「もしかして夜葉寺院ちゃん、まだ犬が苦手なの?」
友知は無表情になり、首をブンブンブンと振った。
「ユリ姉、それは昔の話…あんな畜生ごときに正義のヒロインとなったアタシがビビルわけないじゃん!」
「じゃあ、早く渡してくるっスよ。」
弱みを見つけて嬉しそうな香矢が言った。
「もう、ただ渡すだけじゃんよ…」
友知はブツクサ言いながら外にいるマユに餌を渡した。
そして得意げにみんなの方を振り返りながら友知は言った。
「どうだ!」
「いや、そんな腰が引けた状態で凄まれても…」
香矢が笑いをこらえながら言った。
その時だった。
友知の耳に怪しげな曲が聞こえてきたのだった。
(何これ?)
そして目の前がブラックアウトした。
(何?何?何?何なのこれ!?)
「…知…友知!」
「ちゃん…夜葉寺院ちゃん!!」
香矢とユリの声で友知は我に返った。
「大丈夫?そんなにマユの事駄目だった?」
ユリの問いには答えず友知は言った。
「…曲が。」
香矢が聞きなおした。
「曲っスか?静かな午後っスけど…電波でも受信したんじゃないっスか?」
「それにしても…」
ユリがしぶりながらも言った。
「一瞬だけど夜葉寺院ちゃん、すごい怖い顔をしていた。まるで、魔女だった頃みたいな。」
その夜。
コーチが眠った後に友知は着替え、静かに鳥羽兎を出て言った。
まるで夢遊病者のように夜の街を歩いて行く友知。
(夜葉寺院ちゃん?)
偶然、友知の姿を見つけたユリはその後ろをつけて行った。
そしてついたのは、公園であった。
「…そろそろ、出てきたら?」
友知のその言葉にユリはバレたと思い出て行こうとしたが、それよりも先に便所からゴリラ魔女が出てきた。
「ウホッ!ホントウにキたキた!」
「こんだけ耳障りな曲を聞かされればね…何、この不快な曲は?」
「ウホッ!オシえない!」
友知は胸の十字架を握りしめた。
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!!」
そう言うと胸の二つの十字架を引き千切り、
両手の十字架は柄の宝石が赤と紫のハーフの入った剣になり
服は赤と紫のチェックのロングスカートになり
胸は貧乳になり
そんな姿に
なった。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ダブルドレス!!!」
友知はそう叫んだ後に剣を相手に向け言った。
「さぁて、何が目的かは知りませんけど…悪い事考えてる子にはおしおきですわ!!」
「ウホッ!ゴリラ魔法!ニクタイキョウカ!!」
ゴリラ魔女が胸をバンバン叩くと筋肉がさらに膨れ上がった。
「へぇ、自分の長所をさらに強めようというわけですわね。でも、」
友知が話している間にゴリラ魔女は突っ込んできた。
友知の首根っこを掴み上げ、お腹にパンチを連発して叩きこみぶん投げた。
トイレの壁を突き破って倒れこむ友知。
すぐに立ち上がり開いた壁の穴から出てきて言った。
「大した力ですけど…人の話は最後まで聞きなさい!というか…」
友知は自分の髪の先をクンクン嗅ぎながら言った。
「便器の水に髪が入ったぁー!自慢の髪なのにぃー!バカぁー!!」
泣きごとを言う友知に再び掴みかかるゴリラ魔女を今度はひょいと避けて友知は剣をクロスさせて言った。
「ダブルドレス最大の攻撃…たっぷりと味わいなさい!!」
クロスさせた剣から炎と腐食ガスが放出されゴリラ魔女の体を覆っていく。
「ウホッ!?女医サマぁー!」
腐り焼けゴリラ魔女は倒れていった。
友知はそんなゴリラ魔女を見ながら言った。
「髪は女の命…!あなたの罪の重さを思い知りなさい!!」
そう言って変身を解き、先ほど便器の水に浸かった髪を慌てて見る。
「大丈夫かな?変身解けば大体治ってるもんだけど…」
その時、後ろからパチパチと手を叩く音がした。
友知はその顔を忌々しげに見ながら言った。
「女医…!」
「大したもんだよ!いや、この場合はゴリラ魔女の間抜けさを後悔すべきかな?せっかく渡した秘密兵器を使うのを忘れるとは…」
そう言う女医の手にはラジカセがあった。
友知はそれが自分をおびき出した曲のを流していた物だとすぐに分かった。
そして友知は言った。
「それが秘密兵器?ただ不快な音楽を流すだけじゃないの!」
「と思うだろ?」
そう言ってラジカセを地面に置いた。
「あれはおびき出すための曲。ここからが本番。お前の本性を暴きだす曲だ!」
そう言って胸のポケットから取り出したスルメをプチリと食い千切ったとたん、ラジカセから怪しげな曲が流れだした。
「!?ぐあぁっ!!」
その曲を聞いた途端、友知は苦しみだした。
(何これ!?心の奥底からもう一人の自分が出てくるような…かつて魔女だった自分が…!)
「どうした?苦しそうだな?」
嬉しそうにそう言いながら女医はラジカセの音量を上げた。
「がぁぁぁ!」
耳を塞ぐ友知。
だが、苦しみから解放されない。
「無駄だよ。この曲はお前の頭に直接響いてるんだから…ほら苦しいだろ?早く楽になりなさいよ。」
女医が上から見下ろしながら言った。
「ぐぁぁぁっぁ!!」
地面を転がりながら唸る友知。
「ほら、我慢せずに!自分のしたい事をしなさいよ!!丁度よくあそこにお前の仲間が隠れてるぞ!!」
そう言い女医が指を指した。
そこにはユリが隠れていた。
「ほらほら。自分の欲望を満たしなさいよ。」
女医が煽る。
友知は立ちあがりユリの方を見た。
「!夜葉寺院ちゃん…」
ユリは驚いて言った。
その顔は魔女だった頃のものだったからだ。
「がぁぁぁ!」
友知はユリを押し倒し、首を締め始めた。
「やめて…夜葉寺院ちゃん…!」
ユリの声は友知に届かなかった。
「そうだ!今こそ私の最高傑作、魔女ドラゴンヴァルキリーの復活だぁ!」
女医は嬉しそうに手をパチパチと叩いた。
その瞬間ワンワン!と鳴き声が響いた。
「マ…ユ…?」
ユリは自分の愛犬の声に気付き呟いた。
マユはなおもワンワン!と吠え続ける。
その時、友知の腕の力が緩む。
「何!?」
驚く女医の方を向き、胸の十字架を引き千切り再び赤と紫の姿に変身した。
「夜葉寺院ちゃん、正気に戻ったの!?」
ユリのその声を背に女医に向かって切りかかった。
斬撃は女医の体を切り裂いた。
しかし、女医は自分の体の傷に気も止めず友知をマジマジと見つめて言った。
「ふむぅ、変身すると効果がなくなるのか。これは興味深い。」
そう言うと再びスルメをプチリと食い千切り闇に消えた。
変身を解き崩れ落ちる友知のところにユリとマユが駆け寄った。
「大丈夫!夜葉寺院ちゃん!!」
ユリが声をかけると友知は答えた。
「ごめんねユリ姉…苦しかった?」
「そんな事…」
「ありがとうね、マユあんたがいなかったらアタシはまた魔女になっていた…」
友知の体にすり寄るマユに友知はそう声をかけた。
「ところでさぁ…」
なおも体をすり寄せるマユに友知は言った。
「できればそろそろ離れてほしいんだけど?」
少女が川原で拾ったノート…
それは書き込むだけで人の命を奪うノートであった。
「どいつもこいつも死ね!!」
友知は少女を止める事ができるのだろうか!?
次回 第二十一話 「死を呼ぶノート」
友知は負けない、志穂の想いがある限り…