第十八話 死を招く口づけ
ここはどこにでもある家族が住む家。
父親の帰宅を待つ家族がいた。
そこにチャイムが鳴る。
「あっお父さんかな!?」
子供が玄関に向かって走っていく。
玄関を開けると
「マイマーイ!いらっしゃいませぇ!」
マイマイカブリの姿をした魔女が立っていた。
「うわぁ!」
慌ててドアを閉めて、子供は奥に逃げて行く。
「マイマーイ!ムダムダムダ!」
マイマイカブリ魔女はカギ穴に口をつけ白い煙を放出する。
白い煙はカギ穴から家の中に入って行き、やがて家中を覆った。
「マイマーイ!もういいかな?」
マイマイカブリ魔女がドアを開けると、白い煙は完全に消えていた。
家も家具も何事もなかったようにきれいだった。
しかし、住人は…
人間の形をした白い液体になっていた。
「マイマーイ!」
マイマイカブリ魔女は嬉しそうにその白い液体をすすった。
ドアの外から女医がパチパチと手を叩きながら現れて言った。
「相変わらずお前の煙は見事だねぇ。獲物だけを消し去るとは、まさに完全犯罪!」
「マイマーイ!女医サマにホめられた!」
「もっとホめて欲しくないかい?」
そう言って胸のポケットから出したスルメをプチリと食いちぎった。
「ねっ、みんな揃ったよ。そろそろ話してくれる?何があったのかを。」
コーチがそう切り出した。
結局、あの後みんな疲れていたので自分の家に一旦帰宅したのであった。
友知はコーチの家に泊まったが、
「何回も話すの面倒。みんな揃ったら話します。」
と言って事情を話そうとしなかった。
友知は椅子に座って足をプラプラしながら話し始めた。
「いいけど…その前にみんなの格好は何?」
全員、バイト衣装のバニーメイドに着替えていた。
香矢は言った。
「これはバイトの制服で…いや、話のコシを折っちゃ駄目っスよ!!」
「香矢ちゃんは人の事を言えないと思うけど…」
ユリに突っ込まれ、香矢はむぐぐと黙る。
友知が再び口を開く。
「志穂は無事だよ。リーダー…お父さんも一緒。」
全員が安堵する。
マリが聞く。
「じゃあ、どこに行ったの?」
「リーダーへの頭に脳を戻すのは成功したけど…少し療養が必要でね。ちょっとイタリアの方へ。」
友知はそう言って髪を持ちあげながら続けて話した。
「あの時、アタシは志穂の一撃に敗れた…でも、この体はそう簡単に死ねないみたい。志穂は自分の父親と一緒にアタシの治療までしてくれてね…」
「ほうほう、その時の感謝の気持ちが友知を正義の心に目覚めさせたんスね?」
いつの間にか友知を呼び捨てにしている香矢が言った。
友知は哀しそうな顔をして言った。
「なら良かったんだけどね…ウィッチの脳改造はそんな簡単に解ける程、甘くはないの。だから志穂はアタシにこれを預けたの。」
友知はチャラっと首にかかっている金色の十字架のネックレスを持ちあげて言った。
「これは志穂の良心…志穂自身。これがあるからアタシは聖女でいられる。」
マリが驚いて言った。
「それじゃあ、志穂ちゃんは今、変身できないって事?」
友知は十字架から手を離して言った。
「そ。だからアタシが志穂の代わりにやるの。聖女・ドラゴンヴァルキリーとして!!」
香矢が顔をそらした。
「あれぇっー?香矢さんってば泣いてるのぉー?」
友知がニヤニヤしながら聞いた。
「うっうるさいッスよ!退屈な話であくびが出ただけっスよ!!」
香矢が強がりを言って涙を拭いた。
「そういえばウィッチって何スか?」
香矢の質問に今度は友知が驚いた。
「えっ!?今まで知らずに戦っていたの…魔女を作ってる会社の名前だよ…」
「ねっ、この場合は会社より組織とか秘密結社とか言うべきだと…」
コ-チが突っ込む。
友知が続けて言った。
「まぁ、仕方ないか。ほとんどの魔女はウィッチに魔女に改造されて後は、ほったらかしだもんね…ウィッチから直接命令もらってるのは一部のエリートだけなんじゃない?」
「元エリートだった友知はもちろん、その組織のボスを知ってるっスよね?」
友知は少しブスっとしながら言った。
「女医とか名乗ってたな。見た目はただの医者のおばさんだけど、相手をジロジロ見る目が何とも不気味でぇー。」
友知はそう言ってTVのリモコンをとって言った。
「TVのニュースにたまに出たりする表の顔があるんだけど…」
やっていたのはニュース番組だった。
「昨日未明、またしても一家揃って失踪するという事件がありました。昨日の夜まで普通に生活していた痕跡が残っており、夜逃げする雰囲気ではなかったとの事です。この事件は先週から立て続けに起こっており…」
ニュースでは失踪事件について報道していた。
「これはもしや…」
「魔女の仕業!?」
友知と香矢が同時に叫んだ。
「ねっ、怪しい事件は全部魔女かよ!!」
コーチが突っ込んだ。
そんなコーチの言葉を無視して友知が言った。
「行くわよ、香矢!!」
「ラジャーっス!…ってさりげなく呼び捨てっスか!?」
そう言って二人は鳥羽兎を飛び出していった。
ユリがその光景を見ながら言った。
「行っちゃったね…というか夜葉寺院ちゃん、香矢ちゃんを連れていくんだね。」
マリが答える。
「あれじゃないの?学校の休み時間に仲の良い子にトイレ付き合ってもらう感覚の…」
「ねっ、魔女事件がトイレ感覚かよ…」
コーチが洗いものを始めながら言った。
香矢のバイクに乗って二人は件の家についた。
「ここが事件現場か…」
バイクを降りた友知が言った。
後からバイクを降りた香矢がぐったりしながら言った。
「つーか、友知。バイクの後ろに乗ってる時、人の体を掴むのはいいっスけど胸につかまるのはやめてくれないっスか?」
「ああ、ごめんごめん。何か、母さんの事を思い出しちゃって。」
「あっ、そうっスか…」
「間違えた。思い出したのはお父さんとの思い出。」
「んがー!どういう意味っスか!!」
夜に大騒ぎする香矢。
それを友知がいさめた。
「シーッ!もう遅いんだから静かにしなさい!!」
「誰のせいっスか…」
しかし、誰かが出てくる様子はなかった。
「静かっスね…」
「静かだね。」
気を取り直して件の家の中へ二人は入って行った。
家の中は綺麗に片付いていた。
「もう、警察の捜査とか終わった後みたいっスね…TVで言っていた生活の後とかも残ってないッスよ。これじゃ魔女事件かどうかも分かんないっスよ。」
香矢が解説をしていると、友知が何かに気付いて言った。
「いや…ちょっとここ見てくれる?何か人形になっているような。」
友知が指差したところを見たが香矢には分からなかった。
「…何の変哲もない畳に見えるっスけど…」
「いや、確かに…あっ、そうか。普通の人間の肉眼じゃ見えないんだった。」
「マイマーイ!ワナにかかったな!聖女め!!」
声の方を振り返るとドアのところにマイマイカブリ魔女がいた。
「マイマーイ!聖女スープになるがいい!!」
そう言って、ドアを閉めた。
そして鍵穴から白い煙が出てきた。
それを見た友知が言った。
「あっ、まじぃ!あれを普通の人間が吸ったら溶けてジュースになるよ!!」
「えっ!じゃあ早く窓から逃げるっスよ!!」
慌てる香矢に友知は言った。
「そんなことしたら外に漏れて被害が拡大するよ。大丈夫。香矢はアタシの後ろに隠れてて。」
香矢が友知の後ろに隠れてから友知は叫んだ。
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!!」
胸の二つの十字架を引き千切り、
両手の十字架は柄の宝石が青と紫のハーフの入った剣になり
服は青と紫のチェックのマキシスカートになり
胸は貧乳になり
そんな姿に
なった。
「聖女・ドラゴンヴァルキリー!ダブルドレス!!」
決めゼリフを叫んだ後に、友知は二つの剣をカンカンと叩いて言った。
「さぁて、毒と水のバリアを破る事ができまして?」
そう言うと色の濁った水が友知と香矢を包み込んでいく。
香矢が思わず叫んだ。
「うぇ、汚い!」
「大丈夫ですわ。人間には害がなくてよ!!」
濁った水のバリアに吸い込まれるように白い煙は消えていく。
やがて煙がなくなったので、友知はバリアを解いた。
「煙は打ち止め…?さぁ出てらっしゃい!あなたの罪を裁いてあげる!!」
友知は剣をドアに向けて言った。
その時香矢が叫んだ。
「ちょ!まだ、煙が残ってるっスよ!!」
わずかだが白い煙がフヨフヨと漂っていた。
友知はそれを見て、
「フン!」
と言って吸い込んだ。
驚く香矢が叫ぶ。
「何やってるんスか!腹壊すぐらいじゃすまなっスよ!!」
「大丈夫ですわ。この煙は人間には効いても、ワタクシ聖女には効き目がありませんわ。それに今のアタシは水と毒の戦士。どんな毒も通用しなくてよ!!」
とそこまで言ったが、
「うぎゅう。」
と言って友知は倒れた。
「わぁー!しっかり効いてるっスよ!!」
香矢が混乱する。
「マイマーイ!やりました女医サマ!聖女にカちました!!」
マイマイカブリ魔女がドアを開けて入ってきた。
「マイマーイ!とどめをサしてやる!」
「うわぁー、こんなやられ方するヒロイン、聞いた事ないっスよぉ!」
香矢は泣きそうになって叫んだ。
マイマイカブリ魔女が友知に近づいた瞬間、
友知はガバッと立ちあがり、マイマイカブリ魔女の唇に自分の唇を吸いつけた。
「ぶちゅう。」
唇を離すとマイマイカブリ魔女が今度は倒れた。
友知は口をゴシゴシと袖で拭きながら勝ち誇って言った。
「ぐははは!思い知ったか!!ドアの外から煙を出していたのは自分で吸わないためだったんだろう?それを見抜いたアタシはやられたフリをしてたんじゃー!」
そんな友知を見て香矢が言った。
「いや、そんなに足を震わせながら勝ち誇られても…言葉づかいも無茶苦茶っスよ。」
まだ、口をゴシゴシしながら友知は香矢を睨みつけて言った。
「うるせー!…じゃなくて、うるさくてよ!少しでも殺された人の苦しみを味あわせて反省させようとあえてワタクシが泥をかぶったんですのよ!!」
「はいはい。さぁ、鳥羽兎に帰って休むっスよ?」
香矢が友知に肩を貸しながら言った。
その時、パチパチと手を叩く音が外から響いてきた。
姿を現したのは女医であった。
女医は楽しそうに言う。
「お見事お見事!さすがは私の最高傑作、ドラゴンヴァルキリー!いや、今は聖女であったか?」
「こいつはもしや…」
香矢の問いに答えるように友知が言った。
「お久しぶりですわね、女医様。」
女医は友知をジロジロ見ながら言った。
「その姿、実に興味深い!もう一人の聖女の力を借りて自ら進化したというのか…実に素晴らしい!!」
友知は香矢の肩から腕を下ろし、剣を構えて言った。
「それで?」
「もう少し観察を続けさせてもらう事にするよ。その力を研究すれば…」
そこまで言って女医は胸ポケットに入れたスルメをプチリと噛み切り再び喋った。
「これ以上は喋りすぎかな?では、また会おう。」
そう言うと闇夜に消えるように姿が消えて行った。
「消えたっスよ…」
香矢が驚いて言った。
「…驚く事はないよ。魔女の総大将だもん。あのくらいの魔法は使いこなせるよ。」
いつの間にか変身を解いていた友知が言った。
まだ、口をゴシゴシ拭いていた。
自然公園にてトカゲ魔女を退けた友知。
はしゃぐ友知をコーチが一一喝する。
「ねっ、自信も過ぎると油断だよ…」
そして、女医の手により強化されたトカゲ魔女の魔法が友知を襲う!
追い詰められた友知に勝機はあるのか!?
次回 第十九話 「見抜け!本物を!!」
見よ、新たなる聖女の戦いを!