第十七話 2人目の聖女
ここは深夜の植物園。
閉園時間はとうに過ぎ、いるのは警備員だけであった。
「うー。何か出そうだよねー。こうも暗いと。」
警備員はブツクサと文句を言いながら見回りを続けた。
角を曲がったところで巨大な影があった。
警備員はひっくり返りながら叫んだ。
「うわぁ!って何だサボテンか。」
それは巨大なサボテンであった。
「全く驚かせやがって…」
サボテンに背を向けブツクサ言いながら再び歩きだす警備員。
「昔の特撮ドラマとかだとこうやって歩きだすと後ろからあのサボテンが襲ってきたりしてさ…」
「ボテン!こんなカンじかい?」
話しかけられて後ろを振り向くとそこにはサボテンの姿をした魔女がいた。
叫ぶ間もなく、警備員はサボテン魔女に抱きつぶされてしまった。
警備員の死体を自分が元いたところに引きずっていき、埋め始めるサボテン魔女。
そこにパチパチと手を叩きながら近づいてくる影が一つ。
白衣を着た20代後半ぐらいに見える女性はサボテン魔女に言った。
「よしよし、言われた通りにやってるな。」
「ボテン!女医サマ、いらしていたのですか!」
女医と呼ばれた女性は胸ポケットからスルメの干物を出しかじりながら言った。
「そうやって世間では騒がない程度の都市伝説みたいな事件を起こしていれば聖女はいずれ現れる…それは私の最高傑作の魔女ドラゴンヴァルキリーが証明してくれたからね。」
「ボテン!ワレらガワのドラゴンヴァルキリーをコロしたニクき聖女!カタキはカナラずや!!」
「それはどうでもいいのだよ。」
女医はプチリとスルメを食いちぎった。
「私は興味があるだけだよ。聖女ドラゴンヴァルキリーに。」
香矢が志穂から預かった写真を見ながらボソっと呟いた。
「結局、どうなったんっスかねぇ…」
あれから半年近く過ぎようとしていた。
あの日以来、志穂はまだ帰ってきていない。
ユリが香矢の頭をポンポンと叩いて言った。
「多分、志穂ちゃんが勝ったのよ。」
「何を根拠に?」
「カン。」
香矢は頭をポリポリと掻いてから言った。
「あの日、富士山が噴火かとか騒がれたっスけど…やっぱりあれって二人の戦いに関係あるっスよね?」
ユリは香矢の写真をひったくって言った。
「…かもね。多分、どっちかが魔法で引き起こしたんでしょ。」
「あーもう!ユリさんは何でそんなに平気そうなんスか!!」
「だって無事だと思っているから。」
「だから何を根拠に!」
「だからカン。」
香矢は立ちあがり、ユリから写真を受け取ると言った。
「…まぁ信じてみますか。ユリさんのカンを。」
話しているうちに扉を開けて店内にマリが入ってきた。
ユリが聞く。
「あれ、今日はマリのシフトじゃないでしょ?」
マリは少し焦った風に言った。
「もしかしたら、志穂ちゃんがいるかもと思ってきてみたんだけど…」
「何スか?」
香矢も身を乗り出して聞いてくる。
コーチがミルクを出したのでそれを一杯、二杯と飲み干してからマリが話し始めた。
「ちょっと気になる話を見つけてきたの。ある植物園で人が行方不明になったって…」
ユリが首をかしげて言う。
「別に行方不明事件なんて珍しくないでしょ?」
マリがもう一杯ミルクを飲んでから首を振って答えた。
「だって植物園にいたのは間違いないんだよ?行方不明になったのは植物園の警備員でね。IDカードみたいなので出入りをチェックしていたわけ。その日は確かに入っているのに出ていった形跡がない。山に入って失踪したのとはわけが違うんだから。」
コーチも話に入ってくる。
「ねっ、植物園のどっかに隠れているって可能性は?」
マリは再びミルクに手をつけてから言った。
「いいえ、マスター。一体、何のためにそんな事をするんですか?」
香矢が立ちあがって言った。
「丁度、閉店時間っスし、その植物園に行ってみるっスよ。そんで隠れているアホ警備員を見つけ出せばマリさんの疑問も万事解決っスよ。」
そして一呼吸置いてから言った。
「ところでマリさん…牛の乳を何杯飲むつもりっスか?」
植物園は閉まっていた。
というか臨時休園していた。
無理もない、行方不明者が出ているのだから。
「でも、これじゃ入れないっスね…」
香矢がそう言った後にマリがユリの方に向けて言った。
「それじゃぁユリ、頼むわね。」
「ほいほい。」
ユリが持っていたポシェットから何やら道具を取り出し、閉まっている入口のカギをいじりだした。
「ねっ、まさか不法侵入…」
コーチの言葉にマリがにっと笑い言った。
「大事の前に小事は仕方のない事なのですよ、マスター。」
香矢が心配そうに聞く。
「でも、こういうのってセキュリティみたいのとつながってて無理やり開けると警報が鳴るんじゃないっスか?」
マリは誇らしげに言う。
「それは私が前もって調査済み!このドアはただのドアでセキュリティは中のあの…ここから見えるゲートからです。後は入った後にセキュリティを解除すれば問題なし!」
「あっ開いたよー。」
ドアはあっさり開いた。
コーチと香矢はため息をついた。
「魔女対策本部って…盗賊集団スかね?」
中のセキュリティもあっさり解除して四人は堂々と入って行くのであった。
ユリがポシェットに道具をしまいながら言った。
「セキュリティを解除する時についでに調べたんだけど…まだ、行方不明になった警備員さん、いるみたいだね。IDが残ってるよ。」
香矢は呆れながらも言った。
「警備員さんがまだいる可能性があるのは分かったっスけどどうやって探すっス?ここ意外と広いっスよ。」
コーチが香矢の肩をポンポンと叩き言った。
「ねっ、そこは人が探さないところを探すべきじゃないか?見つからないんだからさ!」
ユリが指差して言った。
「あっ、土の中とかどう?ほら、あのサボテンの下の土、他とは違う感じだよ。」
マリが笑いながら言う。
「おいおい、忍者じゃないんだからさ…」
「ボテン!オオアたり!!」
目の前のサボテン…サボテン魔女が動き出した。
驚いた香矢が言う。
「大当たりって…忍者!?」
「ボテン!そっちではない!ケイビインはこのシタでネムっているぞ!!」
「ねっ、逃げるぞ!!」
コーチの声に四人は走り出そうとしたが
「ボテン!逃がさん!!」
サボテン魔女が体中の針を飛ばし四人を壁にはりつけた。
「ボテン!おマエらから聖女のニオいがする!」
「…こいつの狙いも志穂さんっスか。」
香矢は顔をしかめた。
「ボテン!聖女をコロしてあのおカタにホめてもらう!!」
その時、フルートの音色が園内に鳴り響いた。
「ボテン!ナンだ?どこだ!」
「…志穂さん?」
香矢はかつてカマキリ魔女から助けに来てくれた志穂の姿を思い出していた。
「ボテン!そこか!!」
針を廊下の近辺の壁に向けてぶつけた。
その奥から一人の影が出てくる。
それは志穂ではなく…
「友知ちゃん…」
マリが驚いて呟いた。
「そんな…魔女の方のドラゴンヴァルキリーが出てくるなんて…」
香矢がうなだれて言うと友知はフルートをしまって答えた。
「魔女…?魔女ドラゴンヴァルキリーは富士山の上での戦いで聖女に敗れて死んだよ。」
コーチが疑問を口にする。
「ねっ、それじゃあ、お前は一体…」
友知は胸の十字架を指で弾いて言った。
「そうね、志穂がⅠだとするのなら…アタシは聖女・ドラゴンヴァルキリーⅡ!!」
胸には銀色の十字架のネックレスと…志穂の金色のネックレスがあった。
そして左手で銀の、右手で金の十字架を握りしめた。
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!!」
そう叫ぶと左手で銀の、右手で金の十字架を引き千切った。
友知の体は2つの十字架を中心に輝きだし
両手の十字架は柄の宝石が赤と青のハーフの入った剣になり、
髪は銀色になり、
服は赤と青のチェックのミニスカートになり
胸は爆乳(by香矢)になり
背中には黒い小さなコウモリの羽が生え
お尻には恐竜のような緑色の短めの尻尾が生え
そんな姿に
なった。
そして叫んだ。
「聖女・ドラゴンヴァルキリー!ダブルドレス!!」
ユリはその姿を見て涙に目を潤ませながら言った。
「夜葉寺院ちゃん…帰ってきたのね…」
香矢はその姿を見ながら言った。
「何か志穂さんより正統派ヒロインっすねぇ…」
コーチはそれを聞いて言った。
「そうかねっ、ただ格好つけてるだけに見えるけど…」
対峙したサボテン魔女は憤慨した。
「ボテン!ウラギったのですか、ドラゴンヴァルキリーサマ!」
友知は「ちっちっちっ」と指を振り言った。
「正義の心に目覚めた、と言って欲しいですわ。」
「ボテン!ならばおマエはシュクセイだ!」
そう言って針を飛ばしたが友知は右手の剣から水のバリアを出し防いだ。
そして友知は得意げに言った。
「このダブルドレスはですわね…二つのドレスの力を同時に使う事が出来るんですのよ?この色合いならレッドドレス+ブルードレス。つまり、水と炎を同時に使う事が出来ますの!!」
今度は左手の剣先から炎を放出し、サボテン魔女を包み込むのであった。
「ボテン!ナゼだー!」
息絶えるサボテン魔女を見つめながら友知は呟いた。
「生まれ変わったら、今度は…」
その先は言わずにモゴモゴと友知は固まってしまった。
「ん?何に生まれ変わればいいのかな?サボテン…はそのまんまだし、人間じゃありきたりだし…」
友知は何やら小声でブツブツ言っている。
「ねっ、おーい助けてくれよ。」
コーチの声に我に返った友知は変身を解いて近づいてきて言った。
「ごめん…今、その針外すね?」
ユリがクスリと笑い言う。
「変身解くといつもみたいな喋り方になるのね。」
その言葉を聞いて嬉しそうにポーズを決めながら友知は言った。
「それはそうよ!オンとオフは使い分けなくちゃ!何しろアタシは聖女・ドラゴン…」
「だー!いいから針を外すっスよ!!」
痺れを切らした香矢が叫んだ。
「ぶー」
友知が頬を膨らませながらみんなの針を外して行く。
最後に香矢の針を外し終えたところで
「ぶー」
と再び言った。
その様子に香矢が言う。
「何スか?何が言いたいスか?」
突然、ガバっと香矢のズボンを下ろした。
「んなっ!」
「うわっ、きたねぇの!」
香矢は真っ赤に震えながらズボンをあげ叫んだ。
「ちょ!汚いってどういう意味っスか!!あっ、こら待ちやがれ糞ガキ!!!」
逃げる友知を追いかけて行った。
「やれやれねっ…」
コーチが呟いた。
「でも、良かったね。」
「うん、良かった。」
ユリとマリが嬉しそうに言った。
家が乗っ取られる!?
そんな噂を聞いて駆けつけた友知と香矢。
そこで二人はウィッチの魔女の罠にかかるのであった…
「ぐははは!思い知ったか!!」
次回 第十八話
「死を招く口づけ」
見よ、新たなる聖女の戦いを!