第十二話 蘇る魔女軍団
「…本当にもう大丈夫なんスか?志穂さん。」
「はい…」
もう一人のドラゴンヴァルキリーが現れた次の日。
鳥羽兎に帰ってきた時、志穂は大怪我を負っていた。
「…やめて。」
志穂はドラゴンヴァルキリーに変身した友知に震えながら言った。
「どうしたのー?アタシ達友達でしょー?ほら、昔みたいに楽しく遊びましょうよー。」
友知は楽しそうに剣をブンブン振りながら言った。
「…やめて!」
志穂は再び叫んだ。
友知はひたすら楽しそうに喋り続けた。
「何シテ遊ぶ?小さい頃みたいに虫の手足をもいでみようか?あんたが虫役でどう?」
「やめて…お願い…」
「それともアタシが大好きなお医者さんゴッコにしようか?はーい、オペを始めまーす。患者さんは大人しく内蔵見せてくださいねー。」
「ともちゃん!!!」
「…ここまで巻き込んでおいて今更なんだ!!!」
友知は走り出し切りかかってきた。
慌てて志穂は剣で受け止める。
友知が志穂の剣を押さえながら言った。
「あっはぁ!やっぱりチャンバラゴッコよね!でも、忘れたの?かけっこではいつも負けてたけど、チャンバラではアタシがいつも白星だったじゃないのー。」
友知は剣を引き一瞬で志穂の足を切り裂いた。
「ぐっ!」
志穂は思わず声を出す。
友知は嬉しそうに笑いながら言った。
「痛い?痛い?痛かった?ごめんね?なぁんて、この嘘つき!この体に痛覚はゼロじゃないの!!あんたの事は同じ体の私が一番分かってるんだからね!!!」
志穂は膝をつきながらも剣を構えたがすぐに降ろした。
「何それ?あたしは炎の魔女。あんたは水の魔女。水の魔法使えば勝てるのに、なーにハンデつけてんの?」
そう言いながら友知は志穂に近づき動かなくなった足に向かって上からザシュザシュと何度も刺した。
「あっははははっは!何かに目覚めそう!!あんたはどう?」
「うわあああああああ!」
その時、香矢が二人の体に体当たりをした。
友知はすっとそれを避け、香矢の体は志穂に覆いかぶさるように倒れこんだ。
友知は怒鳴った。
「ちょっとぉ!危ないじゃないの!!あんたもまぜてほしいの?」
「もう、やめるっスよ!親友同士でこんな…」
「い・や・よ。人の楽しみをとらないでちょうだい。」
「だったらもっと嬉しそうな顔をするっスよ…」
その言葉に友知は顔を歪めて言った。
「あぁん?」
香矢は友知の方を振り返って言った。。
「さっきから目が笑ってないっスよ!まるで今にも泣きそうな…」
その言葉に友知は唾をぺっと吐き言った。
「…あんたいいお尻してるわね。四つにしたらもっといい感じ。切ってあげようか?」
その言葉を聞いた瞬間に志穂の剣から水が放出され、香矢と友知の間に割って入った。
「ふぅん、仲間の危機には使うってわけ?つまんないの…」
友知は蔑んだ目で二人を見降ろした後に背を向けて言った。
「まぁ、いいや。今日は挨拶代わりだから。決着は次にしといてあげる。じゃあ、また遊びましょうねー聖女!あっははははっは!」
笑いながら友知はどこかに消えていった。
志穂は巻いていた包帯をはがした。
傷は完治していなかったので腕の内部の機械が剥き出しになる。
「ちょっと志穂さん!何やってるんスか?」
香矢が慌てて言った。
「行かないと…ともちゃんを止めないと…!このままじゃあの子は本当の魔女になってしまうよ!」
志穂は立ち上がったが香矢は言った。
「…志穂さん、言いにくいスけどあの子はもう…」
それは志穂も分かっていた。
(恐らくあの感じだと脳改造もされているはず。でも…)
志穂は首を横に振り言った。
「私を助けてくれた黒猫さんは偶然、脳改造による洗脳が解けたと言っていました。ともちゃんももしかしたら…!」
「だからってそんなに急がなくても…」
志穂は再び首を振り言った。
「急がないと…!今なら私への怨みで他の人間には興味を示さないと思いますが、いつ本物の魔女になって間違いを起こすか…!!そうなったら手遅れです!」
店の奥で聞いていたコーチが出てきて言った。
「ねっ、本当は見せようか見せまいか迷ったんだがな…」
そして手紙を出して言った。
「ねっ、ポストに入っていたんだ…」
志穂はその手紙をひったくる。
「復讐する。件の病院に来たれ。」
とだけ書かれていた。
志穂はその手紙を握りしめて鳥羽兎を飛び出して行った。
志穂は病院に一人で来た。
「ともちゃん!来たよ!姿を見せて!!」
叫んだが返事は帰ってこない。
しばらくすると聞こえてきた。
「キュブキュブキュブ!」
現れたのは、以前に志穂が倒した蜘蛛魔女だった。
「!生きていたの!?」
志穂の驚きはそれだけではなかった。
「グルグルグル!」
「カサカサ…」
「キチキチキチ」
「トチュトチュトチュ!」
「ァー!」
「キィーキ!」
「グブブブブ!」
「ソーリーソーリー!」
蜘蛛魔女だけではなかった。
犬魔女、ゴキブリ魔女、アリ魔女、冬虫夏草魔女、鮭魔女、蝙蝠魔女、カメレオン魔女、蠍魔女、
いままで志穂が倒してきた魔女達だった。
志穂は叫んだ。
「どうなっているの!?確かに倒したはずだったのに…」
「カサカサ…おマエへのオンネンをあのおカタがサッしてくれヨミガエらしてくれたのだ。」
「グブブブブ!しかし、ワレらのフッカツはフカンゼン!ユエにジカンがない!!
「グルグルグル!ジカンがないのならせめてこのウラみだけでも…!」
魔女達は志穂を囲んだ。
志穂は胸の十字架を掴んで言った。
「…私を殺すために地獄から戻ってきたってわけね。だったら何度でも倒してあげる!!」
十字架を引き千切り変身した。
悲しみの青い姿に。
「キチキチキチ!まとめてかかれ!1タイ1ではカナわないぞ!!」
鮭魔女と蠍魔女が同時に飛びかかってきた。
志穂は鮭魔女に話しかけた。
「!あんたは!もう乙芽ちゃんの事は忘れてしまったの!?」
「ァー!ダレだそれは?おマエはダレだ?ワタシはダレだ!!」
「…もはやあんたは以前とは別人ってわけね…」
志穂は悲しい顔で鮭魔女の体を裂いた。
しかし、その隙を狙った蠍魔女の針に刺される。
「ぐっ…!」
蝙蝠魔女が志穂の目の前に飛び出し言った。
「キィーキ!イゼンはツカうヒマもなかったブキだ!!」
蝙蝠魔女は超音波を発した。
「くっ、平衡感覚が…」
「カサカサ…いまだ取り押さえろ!!」
魔女に押さえつけられる志穂。
「キュブキュブキュブ!やったぞ!!」
「キチキチキチ!ばらばらにしてやる!!」
その瞬間、当たりにフルートの音色が鳴り響いた。
「ソーリーソーリー!ナンだ?」
志穂はこの光景を知っていた。
それはカマキリ魔女の時に気をひくために自分が、香矢がやった事…
そういえば、この場にはカマキリ魔女がいなかった。
(まさか、香矢さん?)
志穂が顔を上げるとそこには香矢、ではなくフルートを咥えた友知がいた。
以前のように手術着ではなくまるでジュニアモデルのような格好をしていた。
友知はフルートから口を外し言った。
「こいつに聞いたんだけど…どうだった、この登場?」
背中に背負っていた物を降ろした。
それはカマキリ魔女の首だった。
どよめく魔女達。
「グルグルグル!ワレらガワのはずのドラゴンヴァルキリーが…」
「トチュトチュトチュ!ウラギったか!」
その言葉に心底つまらなそうな顔をして友知は言った。
「はぁ?別にそんなつもりないけど?」
「キュブキュブキュブ!ならばナゼカマキリ魔女を…!」
「あぁ、これ?だってこいつ弱すぎるんだもん。アタシは弱い奴が大嫌いなの!!」
友知はカマキリ魔女の頭を蹴った。
「カサカサ…ワレらガワのドラゴンヴァルキリーがランシン…!シュクセイせよ…!!」
「ふん、死にぞこないが何言ってるんだか…」
友知はあくびをした後に胸の十字架を引き千切り緑色の姿に変身した。
(ともちゃん…?助けてくれてるの?)
しかし友知の顔はあくまでつまらなそうだった。
「臭い顔近付けないでよ。」
蜘蛛魔女の首を切り落とし
「…フン!」
犬魔女を蹴り殺し
「正直、触りたくないんですけどー。」
ゴキブリ魔女を近くの鉄柱で刺し殺し
「アタシ、あんたを見ると無性に踏みつぶしたくなるのよねー。」
アリ魔女を踏み殺し
「あんた、何か気に入らないのよ。」
冬虫夏草魔女を千切りにし、
「コウモリの生き血って美貌に効くのかしら?」
コウモリ魔女に噛みつき血を吸いつくし
「もう少しものまねの勉強をしてから出直してきなさい。」
カメレオン魔女を袖から伸びた植物で締め上げ
「そういえばあんた殺したのは私じゃなかったっけ?」
蠍魔女の頭を叩きつぶした。
(強い…)
志穂はその光景をただ見ていた。
「さってと」
全ての魔女を秒殺し、柔軟体操をしながら
「前座は終わり。遊びましょうか聖女さん。」
剣を志穂に向けた。
「ともちゃん、正気に戻って…」
「何で戦闘能力の低い緑色の服を選んだか分かる?だって聖女さんまた青い服なんだもんねー。植物の力で聖女の体中の水を吸いつくそうかなって。」
「聞いて、ともちゃん!」
「お前こそ聞け!!」
友知は切りかかってきた。
志穂は水のバリアを張った。
友知は嬉しそうに言った。
「今度は魔法戦?そうそう、これこそアタシが求めていたものよ!!」
友知の袖から再び植物が伸び、水のバリアを吸収した。
「はい、ごちそうさま。」
そのまま植物は伸び続け、志穂の体に巻きついた。
友知はニヤリと邪悪に笑い言った。
「やったー、聖女を捕まえたぞ!チャンバラに続きアタシの2連勝だね!あっ、これで終わりだから完勝かぁ。」
友知は無邪気にピョンピョン跳ねている。
志穂はもがきながら言った。
「負けられない…ここで負けたらともちゃんはもう戻れなくなる…」
その言葉にピタと友知は止まり言った。
「そうだね…これはゲームです。聖女が負けたら罰ゲームは人間の皆殺し…つ・ま・り・これから人間が滅ぶのは全部アンタのせい。罪深い聖女ですねぇー。あっははははっは!」
「私が…勝ったら…」
「あん?」
小さな声だが強い意志を持ったその声は友知に届いていた。
「つまりアタシへの罰ゲーム?言ってみなよ。なるべくソフトなのをお願いしますぅー。聖女様ぁ―。」
祈るポーズをとりながら馬鹿にする友知に今度は力強く志穂は言った。
「私の命はあげる!それでともちゃんの気が済むのなら!!でも、これからは私の代わりにドラゴンヴァルキリーとして生きて!魔女の手から人間を守って!!」
友知は無表情で何か考えた後に言った。
「…勝ってもあんた死ぬじゃん。」
「それが…」
志穂は再び力強く言う。
「それが私の罪ならば…ともちゃんのお母さんをともちゃんを巻き込んだ罪は償わないと。」
友知は後ろを向き呟いた。
「開き直ってんじゃねーよ。」
そして志穂を解放し立ち去ろうとする。
その後ろ姿に志穂は話しかけた
「と、ともちゃん?」
友知は変身を解いて後ろも向かずに言った。
「…勘違いすんなよ。アタシがまだ遊び足りないだけ。ここでエンディング迎えるのが気に入らないだけ。もっと楽しませてもらうよ。」
そう言って去って行った。
その姿を見ながら志穂はまだ友知に人間の心があると思うのだった。
「ともちゃんを止めるには言葉だけじゃ駄目なのかな…」
「ちょっと早いけど、ここでエンディングにする?」
次回 第十三話 「弱点」
これは二人の友情の物語である。