第二章:前世探偵団 ~遣唐使説vs剣闘士説の大論争~
輪廻田転生博士の研究室は、古今東西の転生資料で埋め尽くされていた。博士は前世記憶研究の権威として知られ、これまで数千件の前世調査を手がけてきた。
「検討田さんのケースは実に興味深いですね」転生博士は研吾の夢日記を詳しく読みながら言った。「『けんとう』という一つの言葉に、二つの異なる前世の可能性が込められている」
博士は助手の記憶田回想と共に、研吾の前世を科学的に調査することになった。
まず行われたのは「前世回帰セッション」だった。催眠状態で前世の記憶を掘り起こす手法である。
催眠術師の深層田潜在が研吾を深い催眠状態に導いた。「では、あなたの魂が『けんとう』という言葉を覚えた最初の記憶に戻ってください」
催眠状態の研吾の表情が変わった。姿勢が正され、まるで別人のような威厳が漂い始めた。
「我は遣唐使、和気平麻呂の子、和気清麻呂なり」
一同は息を呑んだ。研吾が流暢な古代日本語で話し始めたのだ。
「唐土にて科挙に挑み、見事合格を果たせり。玄宗皇帝陛下より『汝の学識、特に物事を慎重に検討する能力は天下一品なり』との御言葉を賜りたり」
記憶田が急いでメモを取った。「これは遣唐使説の強力な証拠です!」
催眠状態の研吾は続けた。「宮廷にて『検討使』の官職を拝命。あらゆる政策を検討し、皇帝陛下に献策することが我が使命なり」
転生博士は興奮していた。「素晴らしい!前世で『検討』の専門家だったからこそ、現世でもその記憶が残っているのです!」
しかし、セッションが進むにつれて、話は予想外の方向に向かった。
「だが...だが...」催眠状態の研吾の表情が苦痛に歪んだ。「牛が...巨大な牛が現れた...!」
急に研吾の話し方が変わった。今度は荒々しい口調になったのだ。
「俺は剣闘士グラディウス!牛との戦いこそが俺の生き甲斐!『剣闘』の技で必ず勝利する!」
一同は混乱した。同じ人物の中に、まったく異なる二つの前世が存在するかのようだった。
深層田が慎重に質問した。「あなたは検討使と剣闘士、どちらが本当の前世ですか?」
催眠中の研吾は苦しげに答えた。「わからない...二つの記憶が混在している...でも『けんとう』という言葉だけは、どちらの記憶でも重要なキーワードだ」
セッション後、研究チームは分析に入った。
転生博士の仮説:「もしかすると、研吾さんは複数回の転生を経験しており、ある時代では遣唐使、別の時代では剣闘士だったのかもしれません」
記憶田の仮説:「または、一回の前世で両方の経験をした可能性もあります。遣唐使として唐に渡った後、何らかの事情で剣闘士になったとか...」
この論争に決着をつけるため、転生博士は歴史学者の古代田史実教授を招いた。
史実教授は資料を調べた結果、驚くべき事実を発見した。
「8世紀の唐の記録に『日本の検討使』という役職についての記述があります。これは正式な遣唐使とは別に、特別に『検討』を専門とする使者が存在していたことを示しています」
さらに史実教授は続けた。「そして面白いことに、同じ時代の記録に『異国の剣闘士が牛と戦った』という記述もあります。この剣闘士は『検討』という不思議な掛け声を発していたそうです」
一同は息を呑んだ。二つの前世説が、どちらも歴史的事実として存在する可能性が出てきたのだ。
研吾本人は複雑な心境だった。「僕の前世は結局何だったんでしょう?遣唐使なのか、剣闘士なのか...」
転生博士は新しい仮説を提示した。「もしかすると、あなたの魂は『けんとう』という概念そのものに深く結びついているのかもしれません。遣唐使として『検討』を、剣闘士として『剣闘』を、それぞれ究めた結果、『けんとう』への強い執着が現世に持ち越されたのです」
この仮説を検証するため、研究チームは「けんとうパワー測定実験」を実施した。
研吾に様々な「けんとう」関連の単語を見せて、脳波の反応を測定するのだ。
結果は予想以上だった:
「検討」を見た時:前頭葉の活性化(思考・判断機能) 「剣闘」を見た時:運動脳の活性化(身体運動機能) 「建討」を見た時:無反応 「献討」を見た時:無反応
研吾の脳は「検討」と「剣闘」の二つの「けんとう」にのみ、特別な反応を示したのだ。
記憶田が結論づけた。「研吾さんの魂は、前世で『検討』と『剣闘』の両方を極めたマルチタレント型転生者です!」
転生博士も同意した。「稀に見るケースです。一つの魂が複数の専門分野で最高レベルに達し、その記憶の断片が現世に継承された」
しかし、研吾には新たな疑問が生まれていた。「でも、なぜ現世の僕は『剣闘』の記憶を活かせていないんでしょう?『検討』ばかりで...」
深層田が答えた。「それは現世の環境が『検討』を求めているからです。政治家として『剣闘』は必要ありませんが、『検討』は重要なスキルです」
研吾は理解し始めていた。「つまり、僕の魂は自動的に現世で必要なスキルを選択して発現させているということですね」
転生博士は頷いた。「その通りです。そして面白いことに、あなたの『剣闘』の記憶も完全に眠っているわけではありません。適切な条件が揃えば、覚醒する可能性があります」
この言葉が、研吾の運命を大きく変えることになるとは、まだ誰も予想していなかった。




