第一話 待つ人
とある灰色の野原を、少年は歩いていた。
そこはもう、野原と呼べる場所ではなかった。枯れ果てた草木の残骸だけが風に揺れ、虫の声は消え、無機質な雨音だけが降り注ぐ。
雨さえも、まるで自分を責めているように感じた。
少年の足は重く、視界には散らばった草の残骸だけが映った。前を向く気力は、もうなかった。
足を引きずるように、彼は前へ進んだ。
彼の背中は曲がり、それは立っているのさえ億劫である心の表れだった。
だが、少年は歩みが途切れることはなかった。
巨大な影が歩いている少年の上に覆い被さった。
彼はようやく歩くのを止め、ゆっくりと首を上にあげる。
そこには、厳かな雰囲気を放っている古びた洋館が、どっしりと構えていた。
後もう少しだ。
よろよろと洋館の前に行くと、そこには黒ずんだマホガニーの木でできた木製扉があった。
少年は緑青色の錆がこびりついた真鍮のリングハンドルに手をかける。
少年のわずかな力を振り絞りながら、少しずつ扉を開けた____________
少年は、洋館に入った途端、ドアにもたれかかって座りこんでしまった。
雨を凌げたとしても、この洋館に飲み物や食べ物があるはずがない。
それでも、少年にとっては雨に沈んだ泥の上で命を終えるよりは、まだ幾分ましだった。
少年の顔に後悔の色は浮かんでいなかった。
むしろ、それは安堵の表情だった。
ついに、ゆっくりと床に倒れこみ、眠りについた。
「う、うあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」
少年は突然に飛び起きた。過呼吸が止まらない。赤いカーペットや階段が、ぐにゃりと波打って見える。
(なんなんだこれは、、、!?急に悪寒が走って、、、体が、、、!!)
呼吸を整え、辺りを見渡す。変わった様子はない。ただ、衝撃で体を動かすことができなかった。
すると、上のほうの階段からコツコツと音が聞こえてくる。少年はもともと白い肌をさらに蒼白にした。
(まさか、、、こんな古い館に、人が、、、!?)
しかし少年にはもう逃げる気力は残っておらず、よろよろと立ち上がることが精いっぱいだった。
「誰かいるの?」
声の主を確認できないまま、恐怖は増していく。
「あ"、あ"、、、、、」
かすれ声が出るだけ。
そうしている間にも、コツコツと足音は近づいてくる。暗闇で姿は見えない。
そうこうしているうちに、声の主は少年の目の前まで来てしまった。
そして、少年のほうにぐいっと顔を寄せた。
彼女は長いまつげと赤い瞳を持っており、端正で大人びた顔をしていた。
「誰?」
少年は彼女の問いに答えなければと思い、乾いた喉に唾を無理やり飲み込んで言葉を発した。
「僕は、カルトだ、、、」
少女の瞳は動かない。
カルトは口を開けたまま、目を合わせ続ける。
「そう、カルトね」
どれくらい時間がたったかわからない。ふいに、少女は目をずらした。
カルトは力なく座り込んだ。
「そういうお前は、誰なんだ、、、、」
「私?私の名前はルーズ」
「お前は何者なんだ?こんな館にいるなんて、正気の沙汰じゃない、、、」
「あら、それはあなたもでしょ?」
「、、、、、、、、」
それを言われて、カルトは何も言い返せなくなってしまった。
「それより貴方、酷い恰好ね。生きる気があるなら、私についてきたら?」
そう言って、ルーズは颯爽と闇に消えていく。
「ちょっと待ってくれ!」
カルトはよろよろと立ち上がり、ルーズの後をついて行った。