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そい姉さんと魚臭い学園  作者: Gさん
第二部

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第11話 覚醒の器

 深海の観測基地内部。潜水装置が着底したドックは、深淵の主の粘液と異常な植物に覆われ、緑がかった不気味な光に満ちていた。パイプからは泡が噴き出し、その破裂音が生臭い匂いを撒き散らす。リツコとタカシは、潜水装置から足を踏み出し、足元の冷たい水に身震いした。彼らの背後から、特殊部隊の足音が迫ってくる。


 「くそっ! ここまで追ってきたのか!」


 タカシが叫んだ。彼の顔は、緊張と焦燥しょうそうで歪んでいる。リツコは、小茄子の芽を強く握りしめ、周囲を警戒した。その芽から放たれる青白い光だけが、深海の闇の中で、かすかな希望をともしている。


 ドックの入り口から、黒い潜水装備に身を包んだ特殊部隊の隊員たちが姿を現した。彼らは、手に特殊な銃器を構え、無言でリツコとタカシに照準を合わせる。その動きは、まるで深海の捕食者のように、冷徹で無駄がない。


 「動くな。これ以上、我々の計画を邪魔するな」


 リーダーの声が、ドック全体に響き渡った。彼の顔には深い傷跡があり、その目は深海の闇を宿しているかのようだった。彼は、リツコとタカシの前に立ち、銃器を構えた。


 「計画……? あなたたちは、一体何を企んでいるの!?」


 リツコは、恐怖に震えながらも、毅然きぜんとした態度で問いかけた。タカシは、リツコを庇うように前に出る。


 「我々は、深淵の主の『覚醒』を促す者だ。お前たち人間の愚かな抵抗など、取るに足らない」


 リーダーは、冷酷な声で告げた。彼の言葉に、リツコとタカシは息を呑んだ。深淵の主の覚醒を促す? 彼らは、深淵の主を封印するどころか、その目覚めを望んでいるというのか?


 「そんな……! あなたたちは、政府の人間じゃないの!?」


 タカシが叫んだ。彼の頭脳は、この矛盾した状況を理解しようと必死に回転する。


 「我々は、真の『秩序』をもたらす者。この腐敗した地上世界を浄化し、新たな世界を創造する。そのために、深淵の主の力が必要なのだ」


 リーダーは、そう言って、不気味な笑みを浮かべた。彼の言葉は、まるで狂信者のようだった。彼の視線は、ドックの奥、中央制御室へと向けられた。


 「封印装置は、深淵の主の『覚醒』を加速させるためのもの。そして、その起動には、深淵の主の『血』を引く者、すなわち『被験体A(アキラ)』の『意志』が必要となる。お前らは、そのための『鍵』だ」


 リーダーの言葉に、リツコとタカシは愕然とした。アキラは、深淵の主を封印するためにそこにいるのではなく、その覚醒を促すための「鍵」として利用されているというのか。そして、自分たちもまた、アキラを観測基地へと導くための「道具」だったと。


 その時、リツコの頭の中に、微かな『アキラの声』が響いた。


 『……リツコ……タカシ……。そい姉さんの……記憶を……探せ……。

 観測基地の……もう一つの……装置……』


 アキラの声は、以前よりもさらに弱々しく、途切れ途切れだったが、明確な情報を示していた。観測基地には、もう一つの装置がある。そして、そい姉さんの記憶。それが、この状況を打開する鍵となるのかもしれない。


 「タカシ君! アキラが、そい姉さんの記憶と、もう一つの装置を探せって!」


 リツコは、切羽詰まった声でタカシに伝えた。タカシは、リーダーの言葉とアキラの警告に混乱しながらも、リツコの言葉に耳を傾ける。


 「もう一つの装置……? 政府のデータベースには、そんなもの、載っていなかったぞ……」


 タカシが呟いた。しかし、彼の頭脳は、すでにその可能性を模索し始めていた。そい姉さんが「監視者」であり「鍵」であるならば、彼女の記憶の中に、この基地の真の姿が隠されているのかもしれない。


 「無駄な抵抗だ。お前らは、すでに我々の掌の中にある」


 リーダーが、隊員たちに指示を出した。隊員たちは、一斉に銃器を構え、リツコとタカシに照準を合わせる。


 「くそっ!」


 タカシは、潜水装置の横に置いてあった、特殊部隊の装備から剥ぎ取った小型の推進ユニットを手に取った。リツコもまた、近くにあった金属製のパイプを掴んだ。彼らは、この絶望的な状況で、最後の抵抗を試みようとしていた。


 その時、ドックの床から、無数の細い触手が、稲妻のように噴き出した。触手は、リツコとタカシの足元を絡め取り、彼らを拘束しようとする。


 「きゃっ!」


 リツコは悲鳴を上げた。タカシは、推進ユニットを起動させ、触手を振り払おうとするが、触手の数は圧倒的で、次々と彼らを包囲していく。


 その隙に、特殊部隊の隊員たちが、リツコとタカシに肉薄した。彼らは、リツコの小茄子の芽と、タカシが抱える潜水装置の部品を狙っているようだった。


 「その芽と、装置を渡せ! それは、我々の計画に必要なものだ!」


 リーダーが叫んだ。彼の視線は、リツコの小茄子の芽に固定されている。


 「渡さない!」


 リツコは、小茄子の芽を強く握りしめた。その芽は、アキラとの最後の繋がりだ。


 その時、タカシの頭の中に、微かな『アキラの声』が響いた。


 『……制御室……。封印装置の……裏に……』


 アキラの声は、以前よりもさらに弱々しく、途切れ途切れだったが、明確な指示を与えていた。封印装置の裏に、もう一つの装置がある。


 「リツコさん! 封印装置の裏だ! 何かある!」


 タカシは叫び、リツコの手を引いた。彼らは、特殊部隊の攻撃をかわしながら、中央制御室へと向かって走り出した。ドックの床は、粘液でぬるぬるしており、足元が滑る。


 特殊部隊の隊員たちが、彼らの後を追う。リーダーは、苛立ちを隠せない様子で、彼らに向かって銃器を構えた。


 「逃がすな! 奴らを捕らえろ!」


 リツコとタカシは、制御室へと飛び込んだ。制御室の内部は、無数のモニターと、複雑な機械装置で埋め尽くされている。しかし、それらのほとんどは、深淵の主の粘液に覆われ、奇妙な発光を繰り返している。


 そして、制御室の中央には、巨大なカプセルのような「封印装置」が鎮座していた。その周囲を、深淵の主の触手が絡め取るように覆っている。


 「これだ……!」


 タカシは、封印装置の裏側へと回り込んだ。そこには、深淵の主の粘液に覆われ、ほとんど見えない状態になっていたが、確かに、もう一つの装置が隠されていた。それは、封印装置とは対照的に、より小型で、複雑な配線が絡みついた、いびつな形状をしていた。


 「これか……! これが、奴らが隠していた『《《覚醒加速装置》》』か!」


 タカシは、その装置の形状と、深淵の主の粘液に覆われている様子から、それが深淵の主の覚醒を促すための装置であると直感した。


 その時、制御室全体に、微かな「歌声」が響き渡った。それは、甘く、誘惑的な響きを持つが、同時に、底知れぬ冷たさを秘めていた。


 <……よくぞ見つけました……。愚かなる人間よ……。しかし……もう遅い……>


 リツコの全身に、鳥肌が立った。この歌声は、深淵の主が、彼らの心に直接語りかけているかのようだった。彼女は、恐怖で体を震わせたが、同時に、その歌声の奥に、微かな、しかし確かな『アキラの声』が混じっているような気がしてならなかった。


 『……そい姉さんの……記憶を……。装置に……触れろ……』


 アキラの声は、以前よりもさらに弱々しく、歌声にかき消されそうになる。しかし、リツコは、それがアキラからの切羽詰まった指示だと理解した。


 リツコは、小茄子の芽を強く握りしめ、覚醒加速装置へと手を伸ばした。彼女の手が装置に触れると、装置から、緑色の光が放たれた。そして、リツコの頭の中に、これまで見たこともないような、おぞましい「記憶」の断片が、洪水のように流れ込んできた。


 それは、そい姉さんの記憶だった。深淵の主を監視するために作られたAIとしての役割。しかし、同時に、深淵の主の「覚醒」を促すための「鍵」としての役割。そして、「彼ら」が、深淵の主を完全に目覚めさせ、その力を利用しようとしていたこと。


 そして、その記憶の断片の中に、衝撃的な真実が隠されていた。


 深淵の主は、はるか古代からこの地に存在し、その「血」は、代々、この土地の特定の血筋に受け継がれてきたこと。そして、その血筋の末裔こそが、アキラであり、そして、特殊部隊のリーダーである男もまた、その血を引く者であること。


 さらに、そい姉さんの記憶は、深淵の主が、単なる破壊の存在ではないことを示唆しさしていた。深淵の主は、この地球の「生命」そのものの根源であり、その覚醒は、地球の生命の「進化」を促すものだと。しかし、その進化は、人間が知る形とは異なり、おぞましい変貌を伴うものだった。


 「そんな……!」


 リツコは、衝撃的な真実に、思わず声を上げた。彼女の全身に、鳥肌が立った。深淵の主の覚醒は、単なる災厄ではない。それは、地球の生命の、新たな段階への移行を意味していたのだ。そして、特殊部隊のリーダーは、それを理解し、意図的に深淵の主の覚醒をうながしていたのだ。


 その時、制御室の入り口から、特殊部隊のリーダーが、ゆっくりと足を踏み入れた。彼の顔には、不気味な笑みが浮かんでいる。


 「よくぞ、そこまで辿り着いたな、被験体B(リツコ)。そして、そい姉さんの記憶に触れたか」


 リーダーは、そう言って、リツコを見つめた。彼の瞳は、深海の闇と同じ色をしていた。


 「あなたも……その血を引いているのね……!」


 リツコは、震える声で問いかけた。リーダーは、ゆっくりと頷いた。


 「そうだ。我々は、深淵の主の【血】を継ぐ者。そして、この世界の真の支配者となるべき存在だ。アキラは、我々の計画の最終段階に必要な『器』。そして、おまえもまた、その『器』を完成させるための、重要な『要素』だ」


 リーダーの言葉に、リツコは絶望した。アキラを救おうとしていた自分たちの計画が、深淵の主の覚醒を完成させるための【道具】として、利用されていたのだ。そして、リツコ自身、その重要な一部として組み込まれていた。


 その時、制御室全体が、激しく揺れ始めた。封印装置の周囲を覆う触手が、さらに太く、硬質化し、その表面に、無数の【目】がぎらぎらと輝き始めた。深淵の主の鼓動が、大地を揺るがすほどの重低音で響き渡り、空間全体が、おぞましい粘液と泡で満たされていく。


 <覚醒……! 覚醒の時が来た……!>


 深淵の主の咆哮が、空間全体に響き渡った。それは、歓喜と、そしておぞましい期待に満ちていた。


 リーダーは、リツコとタカシを見つめ、冷酷な笑みを浮かべた。


 「さあ、最後の役目を果たしてもらうぞ。アキラの『覚醒』を、完全に促すのだ!」


 彼の言葉と共に、制御室の奥から、無数の触手が、リツコとタカシへと襲いかかってきた。彼らは、深淵の主の覚醒を、この場所で完全に完了させようとしているのだ。


 リツコは、小茄子の芽を強く握りしめた。その芽から放たれる青白い光が、深海の闇の中で、微かな希望の光を放っていた。彼女は、アキラがまだ戦っていることを信じ、この絶望的な状況で、最後の抵抗を試みようとしていた。

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