07 初登校
「本当にいけるのかなぁ。」
「大丈夫、私に任せて。」
校門から数メートル離れた電柱の影で2人がコソコソと何かを企んでいる。
隠れているつもりになっているが、登校中の生徒からは「あれ、何してるの?」「百合だ。」と、明らかに目立っていた。
「じゃあいくよ。【白紙の弾】」
茉白が銃の引き金を引き自身のこめかみを撃ち抜く。だが、こめかみに傷はなく、茉白に異変が起きたようには見えない。
「いったい、何を消去したの?」
「【違和感】だよ。これで、私のことを戦乙女だと思わないし、生徒として紛れ込んでも誰も違和感を持たない。」
「便利ー。」
「よし、行こう。」
茉白の制服は当然無いので、私の私服を着た茉白が校門をくぐる。生徒達は茉白のことをちらちらと見ているが、それはきっと茉白があまりにも美人だからだろう。私服であることに違和感を持っている様子は無い。私も少しずつ慣れてきてはいるが、初対面の人が見れば釘付け待った無しだ。
◇◆◇
予鈴のなる5分前、いつもより少し早い時間に教室へと到着する。隣に並ぶ茉白にとてつもない違和感を感じた。
「とりあえず、空き教室から持ってきた机と椅子は私の後ろのスペースに置くからそこに座って授業受けてね。」
「あぁ。任せてくれ。」
そう言って茉白は私が置いた席に腰を下ろす。
うわ、絵になるなぁ、私が男だったら一目惚れしてるわ。ファンクラブでも設立した方がいいんじゃないか?
「おっすー、おはよ。」
振り返ると、私の数少ない友達、清水 華澄が小さく手を振っていた。
「おはよ。」
「ね、あの子すっごい可愛くない?知り合い?」
「あー、近所に越してきたんだよ。」
「なるほどねー、転入生って最初っから教室にいるもんだっけ?」
「最近はそんな感じだよー。」
「ま、いっか。」
違和感を感じないだけで、茉白の記憶が書き加えられる訳じゃない。気をつけないとな。
キーンコーンカーンコーン
「はーい、席ついてー。」
チャイムと同時に夢見賀先生が教室に入り生徒に促す。私は茉白をちらりと見て、直ぐに自分の席に腰を下ろす。
「みなさんおはようございます。今日も良い天気ですね。昨日実家から苺が届きまして、春が来たなって感じがしますねー。」
「せんせーってどこ出身なんですか?」
生徒の1人が手を挙げ質問する。
「ベリベリキャンディ王国ですよー。」
「えっ?」
教室中に緊張が走った。
「せんせー、それってどの辺に?」
「魔法の力で行ける別世界にあるんですよー。」
「あ、両親はどんな人ですか?」
「とっても優しいですよー。幼い頃はピアノやメルヘン学を学ばしてくれたり、色んな経験をさせてもらいましたー。」
「……メルヘン学って何ですか?」
「作法とかですねー。」
「あ……そうなんですね……」
それきり、生徒は口を出すことは無かった。世の中には首を突っ込まない方が良いこともある。
きっと両親が諸悪の根源だ。夢見賀先生は被害者なんだ。彼女が幸せなら……良いか。
ちらりと後ろの茉白を見る。茉白はとても興味深そうに夢見賀先生の話を聞いていた。手元にはメモ帳のようなものが見える。
やめてね、メルヘンが増えたら私達の手に負えないよ?