長所
そして数日後、新年を迎えたこの世界で塔を見上げる者がまた1人。
赤マントをなびかせ、赤い鉢巻をした白髪頭の痩せた老人である。
背中には立派な長剣を携えているが歳は70を超えているだろう。
「フン・・・相変わらず忌々しい・・・」
老人はそう言うと塔の中へ入っていく。
老人が9階に差し掛かると
「何ッ・・・すでに9階が攻略されているだと・・・」
「まさか、俺以外に塔を攻略できる者がいたとは・・・」
老人は落胆しながらも塔を登り29階に辿り着いた。
「なんだこのジジイは・・・」
29階で待ち構えていたブザンは見下した目線を送るとそう呟いた。
「おお、やはり居るではないか!ブサイクな鬼が!」
老人はハツラツとした表情でブザンを罵った。
「40年ほど前に受けた恨み今晴らそう」
老人は両手で印を結び、右手の人差し指と中指をブザンの方に向けた。
〜吉術「幸運鋭波」〜
プシュッ!
「グッ・・・なんだ!?」
老人の指から放たれた光線がブザンの右肩を貫いた。
「まさか、今の光は!?」
ブザンは肩を押さえ膝から崩れ落ちる。
「あの時俺が塔攻略に抜擢されたのは強かったからではない」
「そして、この世界にかつて現れた魔王を討伐できたのも強さだけではなかった・・・」
「俺よりフィジカルの強い者は世界にいくらでもいる」
「その事に改めて気づかされたよ」
勇者ガルバタンはブザンの方に向かって歩き出した。
「ウッ・・・!」
ブザンは状態を起こし、すぐさま手刀を作り振り上げた。
目の前にいる老人が放つ危険なオーラはブザンに咄嗟の判断を迫っていた。
「ムリアッ!!!」
ブザンが勢いよく手刀を振り下ろすと不吉な思念体が刃となり勇者ガルバタンに襲いかかった。
勇者ガルバタンが背に携えた剣を右手で掴むと身軽に飛び上がり思念体を躱した。
そして、左手で印を結ぶと宙に浮いたまま抜刀した。
〜吉術「一陽来復」〜
長剣が眩い光を放ち一瞬世界を包み込むと勇者ガルバタンは剣を振り下ろし静止していた。
「グワアアアアアアアアアアアッ」
ブザンが悲鳴を上げると共に、頭から正中線上で真っ二つに裂け、その後弾けて消滅した。
「俺が一度世界を救えたのは幸運だったからだ」
「だからその長所を伸ばすことに決めたのだよ」
勇者ガルバタンは長剣を鞘にしまうと次の階へと歩き出した。