暗殺術
白衣の老人とスーツ姿の男が塔に入ってから約1ヵ月。
1人のみすぼらしい中年男性が塔を見上げていた。
「確かに嫌な感じがするぜ」
男は顎髭を触りながら呟いた。
彼を紹介するためにはその壮絶な出生まで遡らねばなるまい。
とある施設で産声を上げた彼は同様に生まれた100人の赤子と共に虫のように育てられた。
4歳になる頃には人間を無力化する八千通りの術を叩き込まれ、8歳になる頃には過酷な訓練によって淘汰され仲間の半数が命を落とした。
そして16歳になる頃、100人の子供たちはわずか4人に絞られていた。
施設の支配人は優秀な戦士に成長したことを讃え「ワイヤー」という人間の名前を彼に与えた。
その後、裏社会で名を知らぬ者はいないほどの暗殺者に成り上がっていくのだった・・・
ある日、政府からの依頼が入った。
依頼はもちろん塔の攻略のことである。
世界最強のボクサー、世界最強の総合格闘技、世界最強の剣術、兵器使い、勇者、あらゆる世界最強が敗れたこの塔を打開できるのはもうこの男しかいなかった。
どんな武器の使用も許可されるのであれば、ワイヤーの暗殺術から逃れられる人間は存在しないのだ。
そして、ワイヤーは29階の番人ブザンと対峙した。
「・・・むっ!?」
ブザンは唸り声を上げる。
ズドン!ズドン!
ブザンがワイヤーを視認した瞬間には、すでにワイヤーの右手に拳銃が構えられていた。
そして、ブザンの脳天と心臓の位置に弾丸がすっぽりとハマっている。
「アチッ・・・!」
ブザンは2つの弾丸を丁寧に摘んで取り除いた。
「なるほど、通常兵器では効果が薄いのか」
「他に手がないわけではないがね」
と言うとワイヤーはすでにブザンの背後に回り込んでいた。
スピッ・・・ツ・・・
ブザンは左腕を振り上げ裏拳を繰り出す。
しかし、ワイヤーは紙一重で躱していた。
「これは、信じられないパワーとスピードだな」
ワイヤーは頬の血を拭いながら言った。
「貴様ーッ、何をしたッ!?」
右脚を押さえながらブザンは叫んだ。
「実は白衣の爺さんから武器を買ってくれと持ちかけられてな」
「頑丈で細い針を頼んだんだが、それを膝の関節に撃ち込ませてもらった」
ワイヤーはニヤッと笑って答えた。
「よもや奴の・・・!」
ブザンが思い浮かべたのはシモン博士だった。
「機動力は封じた、あとはゆっくり料理させてもらおう」
ワイヤーはバックステップで3メートルほどの距離をとりながら言った。
ブザンは俯いて何か喋っている。
「キエイッ!!!」
怒声と共にブザンの手刀から不吉の思念体が繰り出されるとワイヤーの身体を通り抜けていく。
ワイヤーの上半身と下半身は両断され、重い音を立てて床に転がった。