黒色世界
凶作の体には不吉が纏わりついてくる。
番人とて例外ではなかった。
凶作は次々に番人を吸収して、気がつくと19階に到達していた。
「黒谷凶作、恐ろしい男だ」
「ジャキは不吉度が低かったからな、無理もない」
赤紫色をした鬼の様な生物が部屋の中央に立っている。
〜19階の番人、ムゲン〜
凶作はそれから発せられる黒い靄を認めると、初めて足を止めた。
「悪いがお前を倒すために、不吉度が高い俺がこの19階に選出された」
どうやら番人は普段別の場所から選出されるシステムらしい。そんなことはどうでもいいが。
凶作は感じていた。この不吉は取り込めるほど大きさではない。
凶作はそれを察すると左手で印を結んだ。
〜吉術「蝙蝠乱舞」〜
無数の吸血コウモリを召喚し標的を襲わせる技。
凶作は齢15の頃、これを天啓により習得していた。
凶作が右手を突き出すと激しいコウモリの嵐がムゲンを包み込んでいく。
「やったか・・・!?」
と言いつつ凶作は次の術の準備を始める。
コウモリの群れが黒い靄となって、ムゲンの体に纏わりついていく。
その黒い靄は凶作がジャキに行なった様にムゲンの体に吸収されていた。
「貴様、そのレベルにいるとは・・・
凄まじい不吉度だ」
ムゲンは感心の笑みを凶作に向けた。
「やはり生かしてはおけん!」
ムゲンは高速で凶作に襲いかかった。
それと同時に凶作は両手で別の印を結ぶ。
〜吉術「黒色世界」〜
凶作の体から放たれた黒い靄が辺りを包み込んでゆく・・・
不吉の塔を外から見ていた人々は19階から漏れ出している黒い靄を眺めていた。
その中に1人の少年がいた。
「あの力はよもや・・・」
少年はそう呟くとその場を後にした。
それから約2日が経過しても相変わらず黒い靄が漂っているが、人々はその場から居なくなっていた。
凶作の敗北を皆が考えていた。
そしてそれは全人類の敗北を意味する。
世界が再び絶望に包まれたその時。
白衣を着た老人と大きめのカバンを持ったスーツ姿の男が立っていた。
このシモン博士と呼ばれる老人は、不吉の塔を建設した中心人物であり、無許可建築等の罪によって数日前まで投獄されていた。
当時のインタビューでは、「あの時はどうかしていた」と答えている。
「あの時は操られた様になっていた。何者かが私を操っていたに違いない。だが、もうそんなことはどうでもいい。問題はこれからどうするかだ」
「分かるなマイ サン」
シモン博士は隣の男に問いかけた。
「エエ、マイ ファーザー」
男は片言で答えると2人は塔に入っていった。
2人は19階に踏み入ろうとしていたが、その先を黒い靄が満たしていた。
「私は塔の構造には詳しいが、この黒い靄に関しては分からない」
老人は黒い靄に触れてみた。
「どうやら人体に害はなさそうだ」
そう言うと2人は歩みを進め、19階を通過し20階に足を踏み入れた。
中央に鬼の様な生物が存在している。
「実は9の付く階層の番人以外は大したこと無いんだ。軽く片付けてしまいなさい」
シモン博士がそういうと隣の男は
「エエ、マイ ファーザー」
と答えカバンから柄と刃を取り出して組み合わせた。
それは不吉に輝く長剣となり、男はそれを構えた。
すると男の背中が開き、ジェットブースターの様なものが現れると更にそこからエネルギー波が発生し、その推進力で番人に向かって突進した。
そして番人は微動だにせぬまま一刀両断された。
「つまりロボットだったというわけ」
シモン博士がそう言うと1人と1体は次の階へ歩を進めるのだった。