不吉王
突如としてこの世界に建設された「不吉の塔」。
この塔は全99階で構成され、各階には「番人」と呼ばれる魔人の様な生命体の存在が確認されている。
この塔の上には「レイム・スフィア」と呼ばれるエネルギー球が存在し、これを破壊することができれば、塔は構造上消滅するという研究結果が報告されていた。
(50年以内に塔を破壊しないと人類は絶滅する)
(上空には強力な結界が張られており、ミサイルなどで破壊することは不可能)
世界各国に存在する強者たちはこの塔を攻略しようと立ち向かったが、残念ながら塔を攻略できた者はいない・・・。
しかし今全世界の期待を背負った男が1人、塔の前に姿を見せた。
「全人類の最大の課題である不吉の塔!」
「人類滅亡まであと4年に迫った今、1人のヒーローが塔の攻略に名乗り出ました!」
「その名は、黒谷 凶作!」
記者が意気揚々と1人の男を紹介している。
その男は凶作、周囲から「不吉王」と呼ばれていた。
「かつて、魔王から全世界を救った勇者ガルバタンでさえ、塔9階の攻略を断念し撤退を余儀なくされています」
「ぜひ、意気込みを聞かせてください!」
記者は凶作にマイクを近づける。
「不吉の塔・・・、俺はここに来るために生まれてきたのかもな・・・」
凶作はミステリアスな笑みで答えた。
「では、行ってこよう・・・」
そう告げると凶作は不吉の塔に向かって歩き出した。
俺の名は凶作。
ただの一般男性だ。ただの一点を除いては・・・。
とにかく不吉な出来事が纏わりついてくる人生だった。
俺が不吉王と呼ばれ出したのは小学生の頃だっただろうか。
まずは俺の不吉エピソードを紹介しておこう。
・俺が生まれた時、出産に立ち会った全員がその産声を聞いて「不吉」の2文字が頭をよぎった。
・小学生時代の登下校中、約30羽のカラスが俺の周りを旋回していた。
・中学時代、右手から黒い靄が出始める。
・高校時代、黒い蛇が足に纏わりつく。
・不吉すぎて高校を退学させられる。
・黒い靄で俺の体が見えなくなる。
・黒い靄をコントロールし始める。
・「お前、一時期、黒い靄で体が見えなくなってたよな?」と友人にからかわれる。
と上げ出したらキリがない。
しかし、この件について不幸だと思ったことはない。
俺にとって不吉こそがニュートラルだからだ。
最近、俺のことをこの塔が呼んでいる気がしていた。
人類滅亡などと言う迷信は知ったことではないが、この塔には興味がある。
とりあえず、俺に今課されたミッションは勇者ガルバタンが攻略できなかった塔の9階の番人を倒すことのようだ。
そんなことを考えていると、凶作は塔の9階に到着していた。
「貴様が今回の挑戦者か?」
部屋の中央で紫色の鬼の様な生物が腕を組んでいる。
〜9階の番人、ジャキ〜
「番人というものを初めて見たが、実に興味深いな・・・」
凶作は平然と歩みを進める。
「あの人間、勇者ガルバタンと言ったか。
奴は実に強かったが、貴様はどうかな?」
ジャキはそういうと戦闘態勢に入った。
しかし、凶作は歩みを止めない。
「おい、止まれ」
飄々(ひょうひょう)とした雰囲気にジャキは動揺を見せるが、凶作は歩みを止めなかった。
凶作がジャキに10メートルの所まで近づいた時。
「!?」
ジャキの体が吸い寄せられ、凶作の体と向かい合わせにピタッっとくっついてしまった。
「不吉が俺を呼ぶのか、俺が不吉を呼ぶのか・・・」
凶作は歩みを止めなかった。
「うおおおおおおおおおおおお・・・!」
ジャキの体は徐々に黒い靄となり、凶作の体に吸収されていく。
「不吉とは俺の体に纏わりつくもの。番人とて例外ではなかったか・・・」
ジャキの体は消滅し、凶作の体に完全に吸収された。
その事に気にも止めず、凶作は次の階段に足をかけるのだった。