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人の顔が殴れなくなりボクシングを止めようと思ったのに、気になる女性がボクシング好きだと知ってしまった話。  作者: コヨコヨ


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ゴング

 ――ど、どうしよう、桃澤さんがいきなり泣き出してしまった。周りの人の目が痛い。僕のタオル、泣くほど臭かったのかな。それはショック以外の何ものでもないんだけど。とりあえず、泣き止んでもらわないと会話……、は出来ないか。


 僕は泣きまくっている桃澤さんの背中をさすり、河川敷の階段に座らせる。周りの人の迷惑にならない位置で彼女にとことん泣いてもらった。きっと感情を飲み込み過ぎて耐えられなくなったのだろう。


 桃澤さんは僕のスポーツタオルに顔を埋めながらひっく、ひっくとすすり泣き、少しずつ落ち着いていく。泣き終わると僕の方を一切見ず、頭を下げた。感謝しているとわかる。

 タオルをごしごしして洗濯してから返すと言った軽いジェスチャーゲームのようなやり取りをしたら、彼女から自然と笑みが戻った。ほっと一息ついて、住宅街の方にある自販機で百円の缶ジュースを買ってちょっとカッコつけようとしたが、お金を持っていないことに気づく。こういう時のために二百円くらい持っておけよと思いながら、階段に座る桃澤さんのもとに情けなく戻った。


「ごめん、お金持ってなかった」


 そう言うと、桃澤さんはぶっと吹き出して、お腹を抱えていた。息をひいひいっと吸いながら、大爆笑。ちょっと傷つく……。でも、笑っている彼女の顔はただひたすらに可愛らしかった。

 夕日に照らされている彼女の表情は幸せそうで、この一瞬を心から楽しんでいた。頑張っている彼女が笑ってくれると僕の方まで嬉しくなってくる。

 桃澤さんは両手を合わせて謝罪の雰囲気を醸し出す。僕は「気にしないで」と返した。


「桃澤さんは言葉を話せないように、僕もボクシングで相手の顔が殴れないんだ。出来ていたことが出来なくなるって、凄く辛いし、そうなった原因のせいでもっと辛いと思う」


 桃澤さんは僕の言葉を聴き、頭を縦に振っていた。


「でも、似た状況の桃澤さんが必死にもがいている姿を見ていたら、何もしてない自分が情けなく思って、凄く悔しかった。だから、少しでも桃澤さんの役に立つにはどうしたらいいのかって走りながら考えてた。途中から意識が無かった気がするけど」


 桃澤さんは僕の話を真剣に聞き、ところどころ頷いたり、首を振ったりして相槌を打ってくれる。その時の彼女は辛そうな顔を一切見せなかった。


「僕、次の県大会に出る……。僕が出来ることなんて、ボクシングしかないし……。ボクシングを見て勇気が貰えるのなら、あながち間違いでもないと思う。まあ、相手の顔を殴らずに勝のは相当難しいというか、ボクシングを舐めている行為だけど、桃澤さんに勇気を与えられるように頑張るよ」


「…………」


 桃澤さんは大きな目を見開いて、口を半開きにしていた。目尻から先ほど流しまくっていた涙がまた溢れ出てきて情緒不安定なのかと心配してしまう。身振り手振りでどうにかして心情を伝えようとしてくるが、顔がグチャグチャになり過ぎて全くわからない。

 彼女は胸に手を置いて、腹式呼吸をした後、口を閉じ、目を見開いて両手を握りしめた。そのまま拳を突き出しす。一瞬、殴られるのかと思って身構えたがどうやら違う。


 フィスト・バンプ……、いわゆるグータッチを求められているのだと僕は理解する。


 どうやら、桃澤さんも何かしら決めたようだった。夕日に照らされている瞳の奥がまるで燃えているようだ。一人で青春を謳歌することは出来ないかもしれない。でも、他の人の夢を応援するのもまた一つの青春なんじゃなかろうか。


 僕と桃澤さんは拳を合わせた。その瞬間、青春という名のゴングが鳴り響いた。

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