第二話3/3 一夜だけの夢うつつ
――私如きが、皇子のシャツを剥くなど。本来考えられない出来事だろう。
しかし今回ばかりは違った。良く言えば思慮深い、悪く言えばじれったい皇子を待ちきれず。私はセヴルムのシャツのボタンを、指先ひとつで外した。
手先で敏感に感じ取る、セヴルムの体の凹凸。引き締まり、中身の詰まった腹筋のひとつひとつを、滑らかに撫で下ろす……この感触。
昔から《雄》を引き出す事だけは得意だった。肌に指先を這わせ、淡い愛撫を繰り返すうちに。セヴルムは覚悟を決めたような瞳で、私を見つめた。
「んぅっ……」
スカートの中に、セヴルムの手が忍び込む。太ももからお尻までの身体つきを、じっくりと味わうように撫でられ、私は少しだけ声を漏らす。
嘘の喘ぎで気分を害する訳にはいかず。感覚リミッターによる快感遮断率は、いつもの半分ほど。
やがて下着を脱がされ、セヴルムがキス出来るほどの距離まで体を沈めると。
私はそっと、彼の頬に唇を添えた。
触手のように絡み合いながら、お互いの下着を脱がす。脱ぎきれぬシャツにドレスを身に取ったまま、はだけた首すじや胸の辺りに何度も口づけを。
そしてある時。ふとセヴルムは指を咥え、唾液で濡らした指先を……私のお尻へとあてがった。力んだ所を柔くほぐすように、力強く、時に甘くマッサージされ、私は吐息を漏らす。
私もまた同じように、セヴルムの《ペニス》を愛撫していた。とろりと濡らした手のひらで、彼のペニスを優しく上下に……。……太く、大きい。私の小さな手のひらでは、両手を使ってやっと擦れるほど。
お互いの準備は出来ていた。火照り、息を荒くし、見つめ合う。
《味わいたい》。セヴルムの私を見つめる瞳から、その言葉を感じ取った。
「んぁッ……!? く、ぁっ……う……!」
「くっ……。……暖かい、カシュラ。君の中は、とてもっ……」
大きい、感じていた以上に。ぐぐぐ……と、中をかき分けるように貫かれ、セヴルムのペニスが私の中を支配する。
ペニスが中の肉壁を、ごりゅぁっ……と押し広げ。カリの部分で小刻みに、こりゅっ……くにゅっ……と、小刻みな快感をもたらす。
丁寧に濡らしたおかげか、痛みは殆ど無かった。それどころか丁度いい摩擦感で、思わず私は目を何度もぱちぱちとさせてしまう。
亀頭から漏れた愛液が、私の中で糸引いていた。一番奥に塗りたくられた愛液が、腰を引く度にとろぉ……と垂れて、また奥へと押し戻される。
「……どうして、そんな。入念にッ……。これじゃ、なんかッ……」
「全部感じたい、君をッ……。君の全てを余すところなく、感じたいんだッ……」
「嘘っ……いわな、いでっ。くっ……はぁッ……!」
いつもの客と違う。私をただ乱暴に犯すだけの、無粋な客とは。まるで本当に、《私》を求めているかのような。
単純な快感だけで言えば、当然アイロムが勝つ。だがこうして激しく抱きしめられ、じっくりと丹念に犯されてみると。なんだか少し、頭がボーっとしてくる。
むしろ快感をリミッターで制御している分、どこか独特な心地よさがあった。
「カシュラッ……出すぞ、君の中にッ……! 全部ッ……!」
そして、ラストスパート。セヴルムは果てる直前、彼は私の体をベッドに抑えつけ、一気に腰使いを激しくさせる。
外に出す理由など無かった。私はセヴルムに両腕を回し、互いの絶え絶えになる呼吸へと耳を澄ませながら……そっと快感に浸る。
しかしその呼吸音すらも。次第に、セヴルムが私を犯す嬌音で……かき消されてしまっていた。
ぱんっ……ぱちゅっ……ごりゅッッ……ずりゅぁぉっ……ぱちゅんッごりゅッァ……!
ずりゅッッぬちゅッッずぷぷぷっ……ごりゅッッッ……ごりゅァんッッ――……!
「ふっ……くッ……――……! ん……くはッ……!!」
中に注ぎ込まれる、セヴルムの精液。
どろりと暖かな白濁のそれが、私の中を一気に満たしていく。
びゅるるっ……びゅーーーー……っと。それでもなお精液は止まる事なく、私は中に注がれ続けた。
ペニスで出口を塞がれ、行き場を失った精液たちが、私の前立腺を刺激してしまうほどに。
「……出し、すぎ。です。……セヴルム様」
「んっ……すまない、抑えが効かず。……だが今までの人生の中で、一番……心地よかった」
私も、果てていた。容赦なく貫かれた前立腺によって、こそりと射精していた。
しかし今となっては、中から溢れた精液と溶け合ってしまい。どれが私の精液なのかわからない。
……悪くない感覚だった。一夜の夢にしては。
「……また次も、君に会えるだろうか」
そして私を抱きながら、セヴルムがぽそりと呟いたその言葉。私は両手で彼を抱き返しながら、「勿論です」と言う。
だがわかっていた。次など来ない事を。きっとセヴルムもまた、『彼ら』のように……私から去っていく。飽きられ、忘れ、捨てられ、置き去りに。
人形とはそういうもの。孤独な人間を慰める、一夜の道具。夜が訪れる度に私は別の誰かに愛され、忘れられ、置き去りにされる。
だがそうだとしても。本当に、今日の夜は……。……案外、悪くはなかった。