第一話 逃れられないカルマ
歯車仕掛けの我々であろうとも、精液を吐き出したいという欲求からは逃れられないのだと悟った。
厳密に言えば精液ではなく、我々の体を動かす際に用いられた燃料――《魔力》を使った際に出る、残りカスのようなそれを排出しているに過ぎない。
しかしそれがあえての白濁色であることや、とろりとした粘り気、独特の臭みと苦みを併せ持つ代物だったのは、今にして思えば神の慈悲だったのだろうか。
到底人間とはなり得ない、しかし人間への夢を捨て切れるほど馬鹿でもない、中途半端な我々への。
「カシュラ。その、手、握ってもいいかな」
我々ですら人の温もりを欲してしまう。本来人が発する熱量と比べれば、あまりに微弱過ぎる我々の体温。
それでも性行為による発熱と、抱き合い、愛し合っているという疑似体験による心理効果のせいか、それなりに温かみはあった。少なくとも、我々にとっては。
ベッドの軋む音に紛れ、我々の関節による駆動音が響く。カション、カション。次第に発熱を抑えるための冷却水が――いわゆる所の《汗》により、我々の体が濡れてくると。その無機質なはずの駆動音が、何とも言えない色気を妊むのだから不思議だ。
いっそ、本当に孕めばいいのに。避妊が不要であるということは、生物として不要であるということ。繁殖が不可能であるということは、生物として生きていくことが不可能であるということ。
所詮、我々は《使い捨て》なのだ。物好きな、あるいは男を買う度胸すらもない人間を慰めるための。使い倒され、飽きられ、忘れ去られていく。
それならいっそ、我々も使い捨てればいい。今この瞬間のように。――それを実行出来るのなら、私はもっと幸せだった。
「アイロム。中に出してくれ」
「えっ。だ、だけど」
「いいから。……忘れさせてくれ」
私がそう言うと、アイロムは一瞬間を開けて腰の動きを早めた。その瞬間に私は感覚リミッターを解除し、途端に襲ってくる激しい快楽に喘ぐ。
どんなものなのだろうか、私を鳴かせる気分というのは。完全に無防備になった私の鳴き声は、アイロムしか知らない。少なくとも普段私を鳴かせようと躍起になっている客からすれば、よだれが出るような一瞬なのは間違いないだろう。
比べるまでもなかった。アイロムが腰を引き、打ち付ける度に、私の体がびくんと跳ね上がる。臀部からの快感が全身へと染み渡り、足先、指先、そして脳へと辿り着き。理性も何もかもをとろけさせてしまう。
やがて快楽に支配された私は、自然的に自慰を始めた。アイロムに犯される一方で、私は自分のペニスを握り、激しく上下に動かす。テクニックなんぞ何も無い、更なる快感を引き出すための乱暴な上下運動。……結局、こういうのが一番気持ちいい。何も考えず、ただアイロムに犯されているこの時だけが。
そのうち私とアイロムは目が合い、離せなくなる。アイロムが必死に私を見つめ、やがて快感に耐えきれず表情を崩してしまう様子は、自慰の材料としてあまりに充分過ぎた。
可愛らしく、愛らしい幼い少年顔。それをより一層際立たせている、ボーイッシュな青髪。ああ、たまらない。こんなに細身でか弱そうな少年が、私を全力で犯している。……アイロムの鎖骨が、首筋が、二の腕が。汗で濡れていく度に、私のやましい心が悦んでしまうのだ。
射精が近いのだろう。やがてアイロムは歯を食いしばり、私に覆い被さるようにしてストロークを激しくする。自然と私も亀頭を重点的に刺激し、狂いそうなほどの快感に嬌声を漏らす。
ああ。いっそ、永遠に続けばいいのに。そんな事を考えながら、気がつけば私達は互いの口に舌を入れていた。舌先を絡め合わせ、自分がいつ果てそうなのかを必死に伝えようとする。もちろんそんな器用なことが出来るはずもなく、実際はただ欲望に従い、貪り合うようにしていただけだったが……。
――今だ。ある時私は、それを直感した。
「ふっ……くっ……! くぁっ……ぁぁぁっっ……つぁっっ……!!!! んぁぁぁぁあっっっつ……!!!!!!」
浮き上がった膝下が、痙攣する。臀部から急激に放たれた絶頂感が、一気に全身を駆け抜けてペニスを刺激する。瞬間、亀頭から私の精液が噴射され、アイロムと私の胸を白濁したそれで濡らす。
臀部の奥へ注がれるアイロムの精液。見ずとも伝わる、圧倒的な射精量。それはペニスが脈打つ度に増していき、抜け出しようのない快楽を私に教え込む。もしもお前が人間だったのなら、今これで孕んでいたぞ、と。
それでよかった。孕ませて欲しかった。せめて、この私の心を。――今この瞬間だけは。