07. イエスッ! アリヤ!
同胞と再会した後、私はとある部屋に向かった。
ジャンヌダルク専用の、執務室だ。
潜入した軍基地にも、ジャンヌダルク専用の執務室はあったが、ここは質素だ。扉の前で周りを見て、そう思う。金の装飾もない、木材の扉、壁、床。しかし壁は、ひどく頑丈。
私はここで、ふと思った。
「まさかジャンヌダルクは、私を密室に閉じ込めてここで始末しようとしているのか!?」
餌で(同胞に合わせること)私を釣って、もてあそんだり――――――いやいやいやいや!
ジャンヌダルクがそんなことをするようには、もう見えない。
じゃあ何故、私をこんなところに呼ぶ?
やっぱり、殺すんじゃ。
すると突然、扉が開き、
「何故入ってこない? お前を待ってる人がいるんだぞ?」
ひょこっと、ジャンヌダルクが顔を出す。
気を取り直し、私は中へ入る。
「し、失礼する」
こういうのが、礼儀なのかなっと思って挨拶も。
「――――――、えっと、これは?」
中に入り、驚いた。
まず、部屋が広い。外からじゃ予想できないほどの広さだった。机と、二つの本棚。あとは、部屋全体に引かれた丸い絨毯。
それ以外は何もなく、広い空間がある。
机の横に、全く知らない女性が立っている。二十歳くらい、私より大人に見える。
嫌悪感がないのは、多分彼女が人間でも、ロボットでもなく、ノインだからだ。
ストレートの蒼い髪、切れ長な蒼い瞳。何だかとても、威圧感が強い。
右手にはなぜか、教鞭が握られている。
ジャンヌダルクは彼女の隣で自己紹介をした。
「彼女は、アリヤ。偵察部隊の担当だ。ここで二番目くらいにえらい人だ。これからは、君の教育係だ」
「……はじめまして」
私が手を出すと、アリヤはニコリと笑って握ってくれた。
「はじめまして、カレン。貴方のお話は、隊長からお聞きしました。なんでもオークションに売られていたところを助けてもらったとか」
――別に、ジャンヌダルクが助けたわけではないのだが……、それにしても。
「隊長?」
「ああ、軍では大佐だが、ここでは隊長だ」
ジャンヌダルクは、自慢げに言う。
「本当は、もっと仲間がいるんだけどみんな出払っててね。全員集まるのは、もう少し先かな。帰ってきたら、紹介するよ」
ジャンヌダルク曰く、まだまだ仲間はいるらしい。確かに、先ほどの彼ら(同族)だけでは、軍に対抗するのは無理だろう。
私は、今だこの「反逆」の全体像すらつかめていない。
「それで、私はこれから何を?」
「何って? 決まってる、訓練だ」
その言葉を聞いて私は驚いた。
「訓練? 訓練など必要ない。戦いにおいては、私はここでトップを張れる」
その言葉に、ジャンヌダルクも、アリヤもすごい形相で私を睨み付けた。
「っな、なんだ、その目は!」
「―――君ね、ここじゃ最下位だよ」
低いトーンで、話すジャンヌダルク。
「そんなはずはない! お前、私を引き入れるときにトップに成れるといっただろう!」
「トップになれると確かに言ったが、それは別に入隊した瞬間からトップであると言ったわけではない。成長すれば、確実にトップを張れる。そう言ったんだ。今のままじゃ、戦場には立たせられない」
「―――私は今のままでも、トップを張れる。私には、私にしかない武器がある。ただのノインとしてではない、もっと私にしかないものが」
軍基地から逃げたとき、あの時にとっさに現れた「あれ」を使えば、確実に。
「私は君の言う武器を知っている。だが、それは君が使うにはあまりにも諸刃の剣過ぎる。正しくは、君が脆いからその武器を使いこなせない、というべきかな」
ジャンヌダルクが構える。武器一つ持たずに。
「ほら、やってみたまえ」
ニヤつきながら、私を煽るジャンヌダルク。
こいつ、何とわかって―――――――。
頭で考えるより、先に動いた。ジャンヌダルクに走って近づき、頭を蹴る。
それを避けられる。
右に、左に蹴っても、蹴っても避けられる。
隙ができれば、もう一度あれを発動できるかもしれない。あれさえ、あれさえ発動できれば。
そこにスッと、割り込んでくるように迫るジャンヌダルク。
「―――――――っ!」
驚いてとっさに拳を入れ―――――――それを、掴まれる。
右手も、左手も拘束された。足も動かすまいと踏まれている。
あの時と同じだ。全てが読まれてしまう。
「そう、あの時と同じようにやられている。言っておくが、私はここではそれほど強くない。下から数えて二番目くらいだろう。そんな私にやられているんだ」
足掻けど、足掻けど、足は動かない。
足に集中していれば、それを読まれパッと離される。
だから、私は、反動で倒れる。
「ひとまず、私から一本取れるくらいまで、成長してみたまえ。そうじゃなきゃ、お前を戦場には連れていけない。お荷物さんは、厨房で料理長の手伝いをしてもらうかな」
ジャンヌダルクは、デスクに戻り座る。
「私は!」
「それ以上無駄口を叩くなら、包帯でぐるぐる巻きにしてしまうぞ。黙って、話を聞きたまえ」
「っ……」
「我々に残された猶予は少ない。私が、完全に軍を抜けたのだ。早くて数日、遅くても二週間が経つ前に、動き出す。だから我々から、戦争を打つ。よって」
「一週間だ。一週間で、強くなれ」
ジャンヌダルクは、私をあしらい出ていくよう言う。
「以上だ。出ていくがいい」
「……クソ!」
「カレン、おいでなさい」
アリヤが、私を廊下へ連れていく。
一週間。一週間で私に何ができるだろうか。
「―――どこに行くのです」
一応敬語で、私はアリヤに話しかけた。
「訓練場です」
「今から訓練をするのですか?」
「何か問題でも?」
いや、問題というか……もう夜も更けてくる時間なのだが。
この基地に着いたのは、夜の七時ごろ。食事もなく、ここまで来た。現在時刻、九時。
この人……思った通りスパルタか?
「時間はいくらあっても惜しいもの。隊長に任せられた以上、私はあなたを強くさせる必要があります。ですので、全力で」
そう言って、やってきたのはだだっ広い野原。雨が降っていたのか、地面がドロドロだった。
最悪だ。ここで何をやらされるんだ。
「先ほどの軽い戦闘から、あなたに必要なものは基礎的な技術、筋力、そして持久力、そして――――――」……多いな。
最後の方はついていけず、話は右耳から左耳へ流れていく。
「ですから、基礎的なものを補わせていただきます。基礎的なものを補うには、やはり原始的な訓練を行うのが適切!」
火の玉のような顔をして、アリヤは言う。
「手始めに、腕立て伏せ一万回!」
「一万っ!?」
「何か問題でも?」
問題ありありだろ。いくらノインと言えど、それは無理だ。
「い、いえ……問題ありません」
「十二時になる前に、それを終わらせなさい」
「そんなことっ、無理であります!」
反射的に、言ってしまった。
「否定は不要! 発言は『イエス! アリヤ!』以外認めぬ! 始め!」
パンッといい音を鳴らす、鞭。
喝ッ! と言わんばかりの表情。
口調すらも、全くの別人。
「い、イエス! アリヤ!」
私は思わず動きだし、腕立て伏せを始める。
「腰が反っているぞ! 腹筋に力を入れろ!」
「……イエス、アリヤ!」
私はなぜ、こんな野原で腕立て伏せを? それに本当にこれしか言えないのか?
「考え事をするな! 遅くなっているぞ!」
「イエス、アリヤ!」
ぜーぜー、はーはーと息を吐きながら、腕を上げる。
「―――――――66、67、68……」
と言ったところで、アリヤは私の背中に乗った。
「何故ッ!?」
「負荷を掛けなければ、ただのトレーニングだ。これは訓練である」
「ッひ」
重い重い、重い! いやいやいやいや……女性と言えど、筋肉量の多い。恐ろしく重い。
「貴様、今何を口から発した!」
「なんでもありませっ」
「違う!」
「イエエスッ、アリヤァァァアアア!」
「左様ッ! 続けろ!」
バシン、バシンと鞭で叩かれる。何故! 私は言う通りにできたではないか!
怖くて怖くて、腕が速く動く。なのに。
「遅い、遅い! もっと速く、強く!」
「――――――っ」
「返事はどうしたぁぁぁぁぁぁぁああああああッ!!」
「イエス、アリヤッ!」
どうやっても怒るじゃないかぁぁぁぁぁああああッ!
「考え事は不要だと言っているだろうが!」
また鞭を打たれる。
「イ、イエス! アリヤッ!」
「―――――――――――――――はあ、はあ、はあ、9996、9997……」
速度はだいぶ落ちてきた。ここまで来ると、腹筋も、背筋も、腕も、感覚がなくなってくる。
アリヤは私の背中に乗りながら、懐中時計を開いた。
時刻は、11時57分。それを見ても何も言わず、ただ乗り続ける。
「……9998……9999……10000!」
言うと同時に、私は地面に突っ伏した。
オークションの時から変わらず着用しているぼろぼろの服は、ぼろぼろなだけでなく、びしょびしょの雑巾へと退化した。
また服にとどまらず、あたり一帯が私の汗でびちょびちょのどろどろ状態。
そして、水分不足の私は、唇だけが乾燥していた。
ぜーぜー、はーはー、汚く呼吸する私に、アリヤは言う。
「今日の訓練は終いとする。部屋まで戻れるか?」
「―――――――――ぶくぶくぶくぶく」
口から泡を吹く私の状態に、アリヤはため息をつき私をおぶった。
何も言わず。
中へ入り、廊下に出る。たくさんある部屋から、一つ選ばれる。
202号室。
「今日からここが、貴方の部屋だ」
貴様から貴方へ、口調が戻っていた。
私はというと、もうほとんど意識がない。目の前が眩んで、よく見えない。
アリヤは部屋に入って明かりをつけ、私をベッドの上に置く。
「明日は日が昇る少し前に、あの場所に来るように」
「イエス、アリ――」
私の頭の上に、置かれたアリヤの手。それが、私の目を閉じるように撫でる。
「今は訓練中ではありません。おやすみなさい、カレン」
そう言って、部屋を去る。
「待、って……」
「何か?」
アリヤは振り返った。
「――――おやすみなさい、アリヤ」
気力を絞り出した、一言。私はそれと同時に、眠りについた。
彼女は何も言わず、部屋を出た。
そして、廊下の掃除をしていたメイドに声をかけた。
明日のプラズマハッピーエンドのエピソードが、いまだ思いついていない……どうも! 夏神ジンでございます! まずいです! 時間が本当にありません! 授業中の副業でなんとか食いつないでいくしかないのか! それにしても、全然思いつかない、どうしよう! な状況でございまして……もしかしたら明日で毎日投稿終了!となってしまってもおかしくはない!
明日も読むよ!という方は是非ともブックマーク、コメント、評価等々よろしくお願いします!
長くなりましたが、読んでいただき本当にありがとうございました!