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04. ユール

「ヒョウテキ、カクニン」 


「―――――クソ!」

 走って、走って。右に曲がって、左に曲がって、走って。


「!」

 隠れられそうな場所を見つけ、身をひそめる。


 するとロボット達は、見失った私を探すように止まる。




「――――――――――はあ、はあ、はあっ、んぐ」

 漏れる息を、口を手でふさぐ。





「―――ヒョウテキ、ショウシツ。タンサクヲ、サイカイ」

 ロボットたちの足音が、徐々に小さくなっていく。



「……はあ」

 と安心したように、息を吐いた。



 窓から脱出を試みた私は、まんまと落下……ではなく、たまたま掛かっていた旗にしがみつき、運よく開いていた窓から再び侵入した。


 長ったらしい今の文章でご理解頂けたなら、なによりだ。





 正直もううんざりだった。


 最強種たる(ノイン)であれば、もっとすんなり行けると思っていたが。


 その考えは少々甘かったらしい。


 強いロボットを数体置くのではなく、最弱で単純な作りのロボットを大量に配置した見張りは、案外粘り強く簡単に道を譲らない。


 先ほど、道を通るために一体だけ相手にとってロボットと対峙した。

 しかし、中々道を通ることはできなかった。


 単純なプログラムしか組み込まれていない奴らには、制限がない。死ぬこと覚悟で突撃し、仲間を呼び、数で私を追いこもうとする。


 ここにいるロボット全てから一斉に攻撃されれば、私には打つ手がない。



 冒頭で私が追いかけられていたのも、そのせいである。





 なにより、あのジャンヌダルクとかいうやつがいる限り、制圧など不可能。


 アイツは只者じゃない。

 色々謎が多いうえに、身体能力も馬鹿げているぞ。人間にしては。







 作戦を変更する。制圧ではなく。

「……生き残りたければ、脱出するほかない」




 作戦を考えねば。

 まずは現在状況を、改めよう。


 表入口によくわからない敵対勢力、よって軍の者は皆、下に集中しているはず。屋上に行って、ロープで下に降りるか? 裏から出れば、きっと気づかれない。


 だが、先ほどのアナウンスが本当ならば屋上の鍵がなければ出られない。


 鍵……、鍵……、鍵……。



「あっ」

 そうか。そういうことか。


 そこで私は、ジャンヌダルクに耳打ちされた言葉を思い出した。



――――第二事務室だ。ここから出たいと思うなら、そこへ行きなさい。




 近くの地図で、その場所を探す。第二事務室は……ここから一つ右に曲がって、真っ直ぐ行けばある。角を曲がったところまでは行けるだろう。


「問題は、この通路だな」

 真っ直ぐ行けば、確かにその部屋はある。しかし、そう簡単なものではない。


 私はためしに、右に曲がって道を覗いた。

 その道は、広く、そして三体のロボットが待機している。彼らはそこを動こうとしない。


 奴らを動けないようにしてその隙に鍵を取って、螺旋階段で屋上まで行く。


 仲間との通信に使うのは、脳の部分だろう。だからそこを破壊すれば、いける!……かもしれない。


 成功確率なんて、10パーセント以下。それでも、私には生きてやらなきゃならないことがある。


 私は歩き始めた。


 ゆっくり行けば大丈夫、大丈夫。


 ふいに、ロボットがこちらを振り返る。


「っ!」

思わず、後ずさる。


ガサリ、音が鳴る。


「――――――まずい」


 音に反応するように、ロボットがこちらへ寄ってくる。

 さらに、さらに、後ずさる。その時。


ピピ―――――――――――――――ッ!


「ヒョウテキヲカク二ン! ヒョウテキヲカク二ン!」


「クソ!」 

 気づかぬうちに、後ろからロボットが近づいていた。


 ロボットの声に反応して、他のロボットが近づいてくる。前からも、後ろからも。さらに人間が加勢して。


「――――見つけたぞ! 袋叩きにしろ!」


 全部で……何人いる?


「あ、あ、あ……」


 こんな簡単に囲まれた。

 どうするどうするどうする―――――この状況下で、どうやって生き残る? 冗談じゃない。それとも私はここで、終わりなのか? 


 銃を構えた彼らは、円になって、私を囲む。


 一斉に撃たれたら、私はすぐに死ぬだろうか? 

 

 撃たれ死ぬ姿が鮮明に思い浮かべられる。


 ここから逃げ出す方法はないのか? 命乞いでもすればいいのか?

 どうすればいい。何をしたら、死なずに済む?


「な、なあ」

震えた声で言う。


「私が何をしたってんだ。私が一度だって人を殺したか?」


「……」軍人は答えない。


「理由なんてないのか? 私たちが死ぬことに、理由なんて必要ないのか? ハエを叩き潰す様に、当たり前の事なのか?」


「……」やはり軍人は答えない。


 人もロボットもそんなに偉いのか。私たちはそんなに醜い存在なのか。無条件に死ななければならないとでも言うのか。



 死にたくなんかない、こんな場所で。家族を、村を、全てを、私から奪ったやつに。

 最後の最後に、私自身も奪われるだなんて。


 人間の指揮官が前出てきて、私を指差す。

「撃て」


 その状況が、とてもよく似ていた。人間の指示で、村を焼くロボット。嘲笑う人間の声、きしむロボットの音。

 

 バン、「「ああああああああああああああぁぁぁぁああああああああああああ!」」―――――――――――バン、バン、バン、バン。


 手、足、頭、肺、心臓。

 銃弾が、私の体を撃ちぬく。痛い、痛い、痛い。

 今までのどんなものよりも痛い。


「いやあああああああああああああああ!」


 思い出す、思い出す。村を焼かれたあの日を。誰かの叫び声を。焼けたような、炭のようなにおいを。


 






〝蒼い血が、騒ぎ出す″


 体を流れる、蒼い血が、ドクドクドクドクドクドク―――――――――――――。


 蒼い血脈が、模様となって浮き上がる。

「さあ、はじめよう」



「……ふははは、ふははは、あははははははははははははははははは!」


「な、なんだ……」


 ロボットも、人間も、状況が分からず混乱する。笑っている私を見て、恐怖する。


 撃たれて動かなかった体は、鳥のように軽くなり、目も頭もよく冴えている。今がピーク。最高潮。


 私の体が、殺す喜びに飢えていた。


「撃て! 撃って撃って、撃ちまくれ!」

 全方位から銃弾がやってくる。それがどうした。


「……さあ、遊ぼうじゃないか」


 銃弾を無視し、ロボット目がけて走る。


 銃弾が、足に当たる。


 胸に当たる。


 頭に当たる。


 それでも、それでも止まらない。


「ヒョウテキ、キュウセッキン! キケン、キケ」

 頭を、ぐしゃり握りつぶす。すれば、ロボットは一言も話さなくなった。


「ははははっ、はははは!」

 なんと面白いことだろう。


 死体と化したロボットを蹴る。蹴れば蹴るほど、体がつぶれる。傷がつく。


 それが、楽しくてたまらない。


「さあ、次だ」

 後ろを振り向き、人間を見る。


「ひ、来るな、来るなぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!」

人間は、銃を連射する。顔を恐怖にゆがめ。


「はは、ははは! あはははははは!」

 目の前の弾を、手で掴んで止めてやった。手を開けば銃弾は、こなごなになっていた。


「どうした、どうした」

 眼前まで近づいて、笑った。人間は、息をすることすら忘れている。震えながら私に、銃を向け、撃つ。


 しかし撃たれる前に、私が殴る。


「ふはははははは!」

 壁にぶつかる人間を見て笑う。


「っは!」

 私は立ちはだかる人間を、ロボットを蹴り飛ばしていく。


「ひるむな! ただ撃て! 撃ち続けろ!」

 指揮官が言う。


 指揮官はそれしか言わず。ただ立ち尽くす。


「背中を狙えっ!」


 銃弾が走る。それを、潜り抜けて奴らを蹴飛ばす。蹴飛ばす。蹴飛ばす。床に転がる死体を振り回し、敵を一掃する。


 ロボットから銃を奪い、敵の体にしっかりと付け、撃つ。はじける血が、私の顔に付く。

 ロボットの中身が飛び出て、ついに停止した。ロボットは床に転がり落ちる。


 そこで、気づいた。


「なーんだ、もう誰も残ってはいないじゃないか。ああいや、まだ一人残っていたか」

 顔に付いた赤い血をぬぐい、後ろを振り返る。


 残ったのは、たった一人。腰抜けの指揮官が一人だけ。床に座りこみ、足を震わせている。


「ま、待て、殺すな! ああそうだ! 金をやる! 俺を見逃せば、いくらでも金をやる! お前がノインであろうと、特別待遇してやろう! どうだ? お前も金は好きだろう?」


「……」

 金など、あった所で今の私にどうしろというんだ。


「そ、そうだ! お前の家族を助けてやる! これならどうだ?」


「―――――」

 家族、だと?


 私の顔色が変わったのを見て、さらに指揮官が言う。

「お前の仲間にも特別待遇をしてやろう! 毎日飯が食えるし、眠れる場所だって与えてやれるんだぞ! どうだ? 良いだろう!」


 床に転がるナイフを持ち、向けた。

「私の家族は、もう死んだ」

 そんなことも知らなかったのか。軍人でありながら。


「へ?」


 もういい、これ以上の会話は不要だ。


「ひぃっ! た、頼む! お願いだ! 殺さないでくれ!」

 涙を流すその顔は、もはや軍人とは言えない。指揮官は神にすがるように、私の足を掴んだ。その行動が、心底気色が悪かった。


「――――――くだらん」

 くだらないがために、殺すのをやめた。ナイフもいらないと、投げ捨てる。


 指揮官を置いて先に進む。


「―――――――はは、はははははは!」

 指揮官は、隠し持っていた銃で私を撃った。


 バン!


「がはっ」


 血であふれた。


 指揮官の頭が。


 私に当たるはずの銃弾は、壁に当たり、指揮官の頭にはナイフが刺さる。


「―――許したりなどしない。お前たち軍人がしでかしたことは、大罪だ。お前たちは、神に歯向かう愚か者なのだ」


 血が流れ、倒れた指揮官の頭を、潰そうとした時。


 体が、突然言うことを聞かなくなった。

 

「許したりなど……許したり、な、ど――――――――」


――――――――――血が冷める。

 死体だらけの床に、転がる私の体。









 

 数分経ってから、そこに、二人がやってきた。


「―――ノイン、最強種、この世の頂点に立つ者」


「彼らがそう呼ばれたのは、神を魅了するほどの『モノ』を持っていたから」

 ジャンヌダルクは、話を続ける。


「神はそれを『ユール(蒼の反逆)』と名付けた」


「条件はわかっておらず、様々な状況で起こる、異常な身体強化。しかし簡単には発現せず、百人いて、一人現れるかどうかだ。発現したとしても、制限が難しく暴走し、そのまま自爆しやすい」


「最悪の場合、血管が破裂して、全身が爆発するようにして死ぬらしい」


「そんなものの、神はどこが良かったんだろうね」

 ねえ、アンバー。と呼びかけるジャンヌダルク。


「……それ、今言う必要あります?」

 走りながら、シャルロットこと、アンバーが言う。


「う―ん。ないね」

 あははははは、といつものように高笑いをするジャンヌダルク。


「でも、もしあの時ユールが発動していたら、私は死んでいたよ。私の左腕ともバイバイだ」

 そうこう話しているうちに、とある扉の手前まで来た。




 

どうも皆さんこんばにわ!夏神ジンです!!

なんとなんと四話目を出すことができました!毎日投稿をこんなに頑張れると思っていなかったので、びっくりです!!!

どうか、どうか、どうか!コメント、評価、ブックマーク等つけていただけましたら、うれしいです!

ぜひぜひ、あなたが一番最初の古参になってください!!!!!!

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