12.ジャンヌダルクという悪女
ジャンヌダルクは、突然現れた。赤い軍服に身を包み、青天の霹靂のごとく。
ここに舞い降りた。
もう軍を裏切った彼女が、軍服を着る理由があるというのだろうか。
しかし、今そのようなことを聞ける雰囲気ではなかった。
辺りは一瞬沈黙。
そして、ジャンヌダルクに跪くジル。
「貴方をお待ちしておりました」
「ああ、君か」
そんないつもの調子で話す、ジャンヌダルク。
「ジャンヌダルク大佐」
それは、彼女が軍にいたころの名前。
「約束をお忘れではないですね」
そう問いかけるジル。
「? なんのことだか」
だが、その問いに反してジャンヌダルクは何の事かピンと来ていないようだった。
ジルは少しがっかりとしたが、すぐに立ち直り。
「言ったではありませんか! 私が昇格したら、私を右腕として隣に置いてくれると……」
だから私は、こんなに頑張ったというのに。
そこでようやく思い出したのか、ジャンヌダルクは言う。
「ああ、忘れてた。そんな話もしていたよね」
ジャンヌダルクにとっては、その程度の話だった。
「貴方様が、こんなところにいる必要はありません。共に軍に帰りましょう」
ジャンヌダルクへ手を伸ばしたジル。その顔は、心からジャンヌダルクを慕い愛している証拠だ。
そんなジルを、真正面から踏みつけるようにジャンヌダルクは言った。
「なんで私が、君なんかの為に軍に赴かなきゃならんのだ」
「――――――え?」
「もう十分だろう」
「子守りも、たくさんだ」
ここにいる誰もが、口を閉ざした。
私はなんとなくわかっていた。
彼女が今までたくさんの努力をしていたことを。
そして、その努力はすべて、ただジャンヌダルクの為であったことを。
「……何を、言っているんですか。大佐」
「君は必要ないから、帰っていいよって――そう言ってるんだ」
「ジャンヌダルク、そんな言い方は」
私は思わず言いかけた。
しかし彼女は私の言葉など気にせず、続ける。
「君に用はないし、何より我々の敵だ」
「―――貴方は、私を見捨てるのですか」
「……それが?」
「それが何だ。軍を裏切った程度なんだって言うんだ。君を見捨てた程度で、数百、数万という命が救われるなんて、合理的最適解があるというのに」
「それを、私が、取らないはずがないだろう」
もう見ていられなかった。
今日のジャンヌダルクはおかしい。私にだって、こんな言い方をしたことはなかった。
こんな、残酷な言い方―――。
「この際だから言うけれど、君はいつまでたっても弱いね。私の真似っこばかりで、まるで自分がないみたいだ」
「―――だから負けちゃうんだよ」
「昇格したと言っても、強くなったわけじゃない。現に、そこにいる私のお気に入りには、敵わなかった」
お気に入り……なんて、思ってもいないことを平気で言ってのける。
やっぱり、此奴は本気でジルを潰しにかかってる。
「君の事はずっと見てきたよ。生まれたばかりの頃からね。だから君が強いなら、軍に戻ってもいいと思った。だけど」
「こんなに弱いなら、いらないかな」
いつものような顔をくしゃくしゃにして、わははは、がはははと声を出す笑い方じゃない。
ふっ、とまるで小馬鹿にするような笑い方。
「―――――――っ」
ジルは居てもたってもいられなくなって、その場を逃げ出した。
現れたときと同じように、すさまじい砂嵐を立てながら飛び去って行った。
「撃つな」
ジャンヌダルクが、強く指示を出す。先ほどの見えない狙撃手に向けて。狙撃手は何も言わず、銃を収めた。
「しかし、それでは逃がしてしまうぞ?」
勇者がジャンヌダルクに問いかける。
「……いいんだ。逃がしておけ」
終始立ったまま何もできなかった私は、ジルが飛び去った後も動けなかった。
あんなにも至当繰り広げた仲だったというのに……何なのだろう。
何か、違和感がぬぐいきれなかった。違和感というか……。
「さあ、みんな戻ってきたことだし、宴を開くよ! 準備して! アリヤも、いつまで倒れているつもりだい? さっさと起きて、アランの手伝いをしてくれ!」
と、いつもの調子で言うジャンヌダルク。
ジャンヌダルクがそう言えば、皆今までの事はなかったかのように動き出す。
私一人だけが、動けず。しかし私もまた、誰かによって基地の中へと連れ戻されるのだった。
「―――――隊長」
ふいに、声がする。
森の茂みから。
「……アンバー。電話をつないでくれ」
「誰にお繋ぎしましょうか」
とてつもない低い声。それは、どちらもだ。
アンバーの腹部が分解し、電話が現れる。
「もちろん、黒幕にだ」
電話を取ると、ジャンヌダルクは調子を取り戻したかのように、明るい声色で喋り出した。
「――――っやあ! やあ、やあ、やあ! 久しぶりかな父上!」
「少々時間をくださりますか? 少々聞きたいことがあって」
「主に、私を模した人形について事なんだが」
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