恋の形9
「と、いう訳なのだ。これって結構順調に進んでいるよな?
最初は気乗りしなかったのだけれど実際にやってみると案外楽しくて。
早紀の意外な面というか、知らなかったところも次々と発見できてびっくりだよ。
未来の日本を救うとか、忘れそうになるぐらい楽しくてさ……って
おい、聞いているのかみのり?」
〈ええ、聞いていますよ。良かったですね〉
いつものようにみのりに経過報告をしているのだが、なぜか反応が鈍い。
感情のない言葉でやけにそっけない対応が気になる。
「どうした?みのりが立ててくれたデートプランが上手くいって早紀ともいい感じで来ているというのに
何だ、その反応は?前はもっと前のめりに来てくれていたじゃないか?若い女の子は恋バナが好きなんじゃないのか?」
〈ええ、恋バナは好きですよ、でものろけが好きな女子はいません〉
「それって同じじゃないのか?」
〈全然違います、正直計画が順調なのは嬉しいですし
松岡さんが失恋からマッハの速さで立ち直れたのはいい事だと思いますが
なぜか素直に喜ぶ気持ちにはなれません〉
「何だよ、それは。言葉に悪意を感じるぞ⁉」
〈私の気持ちなど、どうでもいいです。松岡さんは早紀さんとこのままデートを重ねてもらって
さっさと恋人同士になってください〉
「言い方にとげがあるぞ。でも早紀と恋人か……何か複雑な気持ちだが
告白して断られたりしないかな?ほら、俺は彼女と別れたばかりで軽薄な男と思われても嫌だし……どう思う?」
〈知りませんよ、今の感じで本気で振られるとか思っていませんよね?
適当なムードのいい場所に行って、甘い愛の言葉をささやいて
キスの一つでもぶちかませば大丈夫です〉
「投げやりすぎるだろ⁉みのり、俺たちの計画には日本の未来がかかっているのだろう?」
〈そうでした、すみません。松岡さんが調子に乗っているのが何かムカついて、つい……〉
「それ、謝ってないだろ。悪かったな、調子に乗っていて」
〈いえ、私も悪かったです、すみません〉
私も、って……俺のどこが悪かったというのだ?まあいい、このまま上手くいければ……
その後、今後の事を含めて夜遅くまで話し合った。
母親は夕飯も取らずに電話している俺にあまりいい顔をしなかったが
通話の相手が女子だと知り生暖かい目で見てくれた。
まさかその会話の内容が〈未来の日本を救うために、女子中学生に恋愛相談をしている〉
とは夢にも思わないであろうが。
その日以来、俺と早紀は何度もデートを重ねた。正式に付き合っているわけではないし
事をあまり大っぴらにできない為、学校では今まで通りにしている。
しかし早紀とは今までよりも自然と会話が弾み、目と目が合ったりすると
ついお互いアイコンタクトで何かを伝え合うという青春っぽいこともしていた。
「何か、最近優斗と早紀、仲良くね?」
柿澤だけが俺たちの異変に気づく。この男はつくづく余計な勘だけは冴えているようだ。
「そ、そうか?そんなことないと思うが……」
とっさに誤魔化すが、柿澤はそれ以上突っ込まないでくれた
この男なりの気遣いなのか?それとも単に興味がないのかは知らないが、とにかく助かった。
だが正直、俺と早紀はもう付き合っていると言ってもいいぐらいのレベルだと思うのだが
みのりからはまだOKは出ない。というか、どうなったらOKなのだろうか?
「なあみのり、細かくは聞いていなかったが俺はどうなれば作戦終了というか、目的を達成できるのだ?
俺としては早紀とも上手くいっているし、もうこのままでもいいぐらいなのだが」
〈何を自分だけ満足してしまっているのですか。松岡さんの目的はあくまで未来の日本を救う事であって
彼女作ってハッピーエンドではないのですからね〉
「それはわかっているよ。でも最終的にどうなれば未来の日本を救うことになるのか、わからないのだよ。
早紀と恋人同士になればそれでOKなのか?それは〈俺と付き合ってください〉とか正式に言わないとダメなのか?
それとも、その……恋人同士で行われる色々な事をすればいいのか?その、キスとか、その先とか……」
〈何をいやらしい事を考えているのですか、松岡さんって意外とスケベですよね?〉
「スケベとか言うな‼異星人的にどうなればOKなのか?と、聞いているだけだ‼」
スケベな展開を全く考えていないわけではなかったが、ここは無かったことにしよう。
〈異星人はあくまで精神的なモノを探求しているのであって
松岡さんの考えているようなスケベな事は一切含まれていません
純粋な恋心による感情の動きや高揚感、それによって心が幸福感で満たされれば目標はクリアです。
つまり早紀さんが松岡さんと恋人同士になることによって
これ以上ないくらいに幸せを感じることができればOKなのです〉
「う~ん、具体的なようで抽象的な表現だな。心が幸福感で満たされるとか、どうやってわかるのだよ?」
〈対象となる女性には心の動きを測定する観測装置みたいなモノが付けられているそうです〉
「えっ、それってマイクロチップみたいな物が早紀の体内に埋め込まれているってことか⁉」
〈わかりやすく言えばそんな感じですが、体内に埋め込まれるとか
そういった外科的手術を必要とするようなものではないらしく、全く人体に悪影響はないそうです〉
「心の動きや感情を測定するって、異星人の科学力凄いな。それでどうなったらOKなのだ?」
〈早紀さんの心が幸せで満たされたとき、恋人である松岡さんにだけわかるように
早紀さんの中から光の天使みたいなモノが出てくるらしいです〉
「光の天使だと?なんだ、そりゃあ⁉随分とファンタスティックだな」
〈私もそう聞いただけで、実際に見たことは無いので……すみません〉
「例の〈あのお方〉とやらの情報か。それでその光の天使が出てきたらOKなのだな?」
〈はい、その時、光の天使は【何か一つ願い事をかなえてやろう】と言いますので
その際に松岡さんは【松岡さんに関する早紀さんの記憶を改ざんし
恋人だった事実をなかったことにしてくれ】とお願いしてください〉
「どうしてわざわざそんな事をしなければいけない、せっかく早紀と恋人になれたのに⁉」
〈申し訳ありませんが、松岡さんにはその後すぐに篠原沙織さんの攻略に取り掛かってもらわねばなりませんから〉
「俺が早紀を担当して、その篠原さんには別の男に頑張ってもらう訳にはいかないのか?」
〈くれぐれも一人の男性にと仰せつかっていますので。内容が内容だけにあまり多くの人に聞かせたくはないのです〉
「その理屈はわかるけれど……」
みのりの言っている事も理解はできるが納得はできなった。
早紀と恋人になることによってようやく香奈ちゃんの事を忘れられそうなのに
早紀との出来事をなかった事にして、全く知らない女の子と恋人になれるように頑張るとか……
「どうしても俺じゃないとダメなのか?」
〈はい、申し訳ありません〉
それからしばらくスマホ越しに無言のまま沈黙の時間が流れる。みのりに言ってもしょうがない事だが
この人の心を弄ぶような作戦には怒りを覚えずにはいられなかった。
しかし俺がやらなければ早紀を含む大勢の人が死ぬのだ。
「……わかった、やるよ」
〈すいません、松岡さん〉
やりきれない気持ちを抱えながら俺は通話を切った。
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