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恋の形  作者: 雨乞猫
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恋の形6

さて、翌日からいよいよ未来の日本を救うための作戦が始まった。


とはいえ二人の女の子を自分に惚れさせるという任務はどうにも抵抗があった。


最初のターゲットは早紀、よく知っているという理由と失敗してもセカンドチャンスがありそうなので


練習がてらちょうどいいと思ったからだ。しかしよく知っているがゆえに物凄い抵抗がある


。ハッキリ言ってやりにくい。


〈なあ、早紀、俺と付き合わない?〉とか言って、〈はあ?何言っているの、優斗?


香奈に振られてついにおかしくなったの?〉とか言われたら軽く死ねる。


そもそも俺と早紀で彼氏彼女という関係がどうしても想像できない。


「いけますよ、幼馴染とか、恋愛ものでは鉄板じゃないですか‼」

 

と、異星人並みの豊富な恋愛知識を持つみのりさんが太鼓判を押してくれた。

 

昨日までとは違い、別の意味で学校へ向かう足取りが重い。


教室にはいると相変わらずとりとめのない会話が飛び交い、ざわざわとしている。


いつもの空間、いつもの空気。この教室の中でいつもと違うのはおそらく俺だけだろう。


「おはよう、優斗。今日は早いね、体の調子はもういいの?」

 

朝一番に声をかけてきてくれたのは攻略対象である早紀だった。


「お、おはよう、早紀。体の調子とは?」

 

変に意識しているせいか声は裏返り、妙にドキドキする。おい落ち着け、相手は早紀だぞ⁉


「何それ?優斗昨日休んだじゃん、風邪でも引いたのかと思ったのだけれど、違うの?」


「あっ、え~っと、違わない、違わない。風邪だ、うん、多分風邪」


「おかしなの、まだ熱でもあるの?」


「無い、無い、もうすっかり熱も下がった、今日は三十二度まで下がったし」


「それ普通に死ぬじゃない?今日の優斗、変だよ」

 

明らかにキョドっているぞ、俺。こんな時になぜ柿澤がいない⁉


過去にこれほど柿澤を求めた事は無かった、彼を探すようにキョロキョロとあたりを見渡すが見当たらない


あの騒がしい男が教室にいれば一発でわかるはずだが……


「もしかして柿澤の事を探しているの?でも多分今日休みだよ」


「えっ、どうして?」


「昨日柿澤も休んだの、多分インフルエンザだって。昨日インフルで休んだのなら今日は出てこられないと思う」

 

何という間の悪い奴だ。いや、早紀と二人で話すにはあのうるさいのがいないのは歓迎すべき状況なのだが


素直に喜べない。結局早紀には朝から告白どころかまともな会話すらできないまま、昼休みへと突入した。


「ダメだ、やっぱ俺には向いていない」


〈何を言っているのですか⁉しっかりしてくださいよ、松岡さん‼〉


 昼休み、校舎裏でスマホを使ってみのりに経過報告をするが、手厳しい叱咤を受ける。


「俺だって頑張っているのだよ、でもいざとなると緊張して……」


〈早紀さんとは長い付き合いなのでしょう?〉


「だからかえって言いにくいのだよ、この微妙な気持ちをわかってくれ」


〈何を、乙女みたいなことを言っているのですか。松岡さんは少し前まで彼女がいたのでしょう?


だったらそこまで女性に免疫がない訳ではないでしょう〉


「いや、彼女と付き合ったときは向こうから告白されたし、基本俺は付いていくだけだったというか……」


〈ハア、空手のチャンピオンなのに随分とヘタレなのですね〉


「おい、今何て言った?言うに事欠いてそれは言いすぎじゃねーか?」


〈いきなりの告白が厳しいというのであれば、デートに誘うというのはどうですか?〉


「デート?どこに誘うのだ?」


〈そんなの自分で考えてくださいよ。共通の趣味とか彼女の好みとか


付き合いが長いのならば知っているでしょう〉


「まあ、知らなくはないが……わかった、やってみるよ」


〈頑張ってください。いいですか、最初のデートは凄く重要ですから


常に女の子の気持ちを考えて行動してください、いいですね⁉〉


「はい、わかりました」

 

年下の女子中学生に一方的に言われたまま通話を切った。何か男としてダメ出しをされたようで凄くへこむ。


「仕方がない、腹をくくって早紀をデートに誘ってみるか」

 

俺は両手で頬を叩き気合を入れた、おそらく今の俺は試合前より緊張しているだろう。

 

放課後、皆がガヤガヤと教室を出ていく、帰りにどこか寄って行こうという者達やこれから部活でダルいと嘆く者


早く帰ってゲームしたいと急いで帰る者とそれぞれであったが


早紀が一人になるところを見計らっていよいよ声をかける。


「な、なあ早紀、今からちょっと時間取れないか?」

 

帰り際、突然声をかけたので早紀は少し驚いている様子だった。


「別に家に帰るだけだから、特に予定はないけれど……」


「そ、そうか、それならちょっと買い物に付き合ってくれないか?」


「買い物?私と?」


「お、おう。ダメか?」


「いや、別に、ダメじゃないけれど……」

 なぜだかわからないが、早紀の反応が思っていたのと少し違う。

うつむきながら少し恥ずかしそうに答える早紀。あれ?何だ、この反応は?俺の想像では


〈何で私が優斗の買い物に付き合わなくちゃいけないのよ〉とか


〈何かおごってくれるなら、考えてやらなくも無いよ〉という感じを想像していただけに


いきなり想定外の事態で戸惑う。


「どうして私なの?」

 

何だ、その聞き方は?あなた本当に大沢早紀さんですよね?


俺の知っている人とはずいぶんと違う気がするのは俺だけですか?


「べ、別に……理由がいるのかよ。早紀と行きたいと思ったから誘っただけだが……」

 

何だ、これ?急に凄く恥ずかしくなってきたぞ、今まで早紀の事を女だと感じたことなどなかったのに


今日に限って妙に女っぽい反応するじゃねーか。


「じゃあ、いいよ」

 

早紀はボソリとつぶやくように答えた、想定していたのとはずいぶん違ったが、結果的には当初の計画通りである。


俺たちは学校を出て二人で電車に乗った。子供のころから知っているのに


こうやって改めて二人で出かけるとなるとなにか照れ臭く、どこかむずかゆいような不思議な感覚。


周りの乗客が自分たちを見ているような気がしてとにかく恥ずかしい


俺も身長はソコソコあるが早紀も背が高いので並んでいるとバランス的にカップルに見えるのだろうか?


別にそれが嫌じゃないし、嬉しい訳でもない。香奈ちゃんの時とは明らかに違う感覚に戸惑ってしまっていた。

 


向かったのは電車で二駅隣のスポーツショップ、デートとしては味気ない所だが


今の俺にはこれが精いっぱいである。特に欲しい物がある訳でも無いので適当に何か安いものを買い


とりあえず今日の作戦は終了、さてこれからどうするべきか……


「優斗、今日は道場の方はいいの?」

 

何を話そうと思っていたところで早紀の方から話し掛けてくれた。


「ああ、昨日風邪をひいたので、今日は休むつもりだった」


「そうなんだ、でもそんなさぼってばかりいると、今度の大会では無様な結果になるんじゃない?


前回のチャンピオンが一回戦負けとかになったら、師範に怒られるよ」

 

おっ、ようやくいつもの感じに戻ってきたな。


「いいんだよ、それにどれだけさぼっても俺が一回戦なんかで負けるかよ」


「おーおー、都大会チャンピオンはいう事が違うね


でもそれって一回戦負けへのフラグに聞こえるのは私だけかな?」


「おかしなフラグを勝手に立てるな。でもまあその時は


一緒にさぼっていた早紀も同罪だからな、何かおごってもらうぜ」


「わ、私でいいなら、おごるくらい別にいいけれど……」

 

また急にテンションが下がり照れ臭そうに顔を背ける早紀。


えっ?急に何、その乙女チックな態度は。誰この女?こんな人、知らん、知らん。


お前がそんな態度取るからこっちまで照れ臭くなってくるじゃねーか……

 

それから俺たちは会話を交わすことなく電車に乗り家路へと向かう。


駅に着いた頃には回りもすっかり暗くなっていて、心なしか人気も少なく感じる。


「その、今日は付き合ってくれてありがとうな、もう暗くなってきたし家まで送るぜ」


「今日はどうしたの、優斗?急に私を誘ってきたし、暗くなってきたから送るとか……」


「べ、別に普通だろ、早紀だって女だし。暗くなってきたから男が送るのは当然じゃねーか」


「私の事、女だって見てくれるんだ?」


「そんなの当たり前だろうが」


すると早紀は嬉しそうに微笑み、再び口を開いた。


「もうここでいいよ、家近いし」


「いや、そんな事で遠慮するなよ」


「いいの、ふふっ……じゃあさ、今度は優斗が私に付き合ってよ」


「付き合うって、何処に、だよ?」


「原宿にある評判のパンケーキの店、一度行ってみたかったんだ」


「原宿のパンケーキ?それじゃあまるっきりデートじゃねーか?」


「そうだよ、優斗をデートに誘っているの」

 

まっすぐこちらを見つめ、優しい笑顔で俺に話しかけてくる女子は俺の知っている早紀とはまるで別人だった。


あれ?こいつこんなに可愛かったっけ?


「ああ、いいよ」

 

戸惑いを隠せない俺はまるで気の利かない返事を返すのが精いっぱいだった。


「良かった、断られたらどうしようかとドキドキしていたし」


「えっ、今、何て……」

 

小さな声で聴きとれなかったが、何か重要な事を言われた気がして思わず聞き返す。


「内緒だよ、じゃあ、また明日学校で‼」

 

早紀はそのまま背中を向けて走り去っていった。何だ、これ?妙にドキドキする


相手はあの早紀だぞ⁉どうして俺はこんなに動揺しているのだ。


頭の中でそんな不毛な自問自答を繰り返しながら、走り去る早紀の背中が見えなくなるまで目で追いつづけた。



頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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