恋の形5
なんじゃそりゃあ⁉宇宙規模の壮大な話からいきなり恋愛シミュレーションゲームみたいな話になってきたぞ?
日本の未来と二百万人の命というとんでもないモノがかかっているのに
それを防ぐ手段が〈ターゲットの女の子を惚れさせろ〉だと?色々な意味で俺には荷が重すぎるだろ。
「いやいやいや、無理だろ?そういう役目はもっとモテる男とか
女慣れしている男がやることであって、どう考えても人選が間違っているぞ。そもそもどうして俺なのだ?」
「それを今からご説明します、この二人が今回の対象人物なのです」
みのりはカバンからある資料を出して俺に差し出す、そこには二人の女子高生のデータが事細かく記されていたのだが
そのうちの一人を見て自分の目を疑った。
「おい、これって……」
「ええ、一人は貴方のクラスメイトであり幼馴染でもある大沢早紀さんです」
「早紀が……これは偶然なのか?」
「いえ、全てが偶然という訳ではありません。貴方も知っての通り大沢早紀さんは高校進学を境に空手道場を止め
特定の部活動もしていません。バイトや習い事もしていないので
彼女と接点を持つには学校しかないのです。だから私は大沢早紀さんと同じ学校
同じクラスの男子生徒の中で適任者を探していました。
そこに松岡さんが現れてくれたのでまさに渡りに船といった所なのです」
渡された資料の中には、俺のクラスの男子生徒一人一人の細かいデータも記されていた。
身長、体重、成績、特技、性格、趣味、家族構成、行動パターンと
凄腕の探偵を数人雇わなければこれほどのデータを集めることはできなかったのでは?
と思えるほどの膨大で細かなデータがそろっていた。そこには当然俺の名前も載っていて
備考欄には〈他校の女子生徒と交際も三か月で破局〉と書かれていた。
まだ心の傷も癒えていないのに、こうやって文字にされると余計に腹が立つ。
「この資料を見ていたから、みのりは俺の事を知っていたのか?」
「はい、ですから助けていただいて、名前を聞いた時には〈この人だ‼〉と思ったのです」
ある意味では運命の出会いという訳か。意味合い的には少し微妙だが
柿澤の言ったこともあながち的外れではなかったという事になる。
「しかしその言い方だと、この大事な使命を誰に託すかは事前に決めていなかったのか?」
「はい、そこは資料をしっかりと読みこんだ上で直に見て決めてほしいと、あのお方から私が一任されたのです」
日本の未来がかかっているこんな大事な人選を俺より年下の女の子に一任するとか。
何を考えているのだ、その〈あのお方〉とやらは?
何か釈然としない話だったが、みのりが嘘を言っているとも思えない。
早紀については今更資料を見なくてもわかっているので、俺はもう一人の女子の資料に目を通した。
その子の名は篠原沙織。俺とは同い年の十七歳、早紀と違って身長は低く、写真を見た印象だとおとなしそうな人物に見える。
「この篠原沙織という子は全く知らないが、この子も俺が落とさなければいけないのか?」
「はい、篠原さんは都内のお弁当屋さんでバイトをしているので
松岡さんはそこに入ってもらいます。彼女とは学校よりもバイト先の方が接触しやすいですから」
「ふ~ん、そうなのか。それにしてもこれって簡単に言えば早紀とこの子を俺に惚れさせろという事だろ?
そんな事が俺にできるとは思えないし、心境的にもあまり気が進まない。
とどのつまりは二人をだますって事だろ?」
「はい、申し訳ありませんがそういうことになります。
ですがこれを放っておけば二百万人の人が犠牲になるのです、そしてこのお二人も……」
「おい、それって。まさか……」
「ええ、未来ではお二人ともクーデターに巻き込まれて死亡します。
ですからこれは二人を救うための事でもあるのです。松岡さんには無茶なお願いをしていることは百も承知です。
ですが、どうかお願いします、人助けだと思って協力してください」
みのりは深々と頭を下げる。ここまで言われて嫌とは言いづらいが、本当に俺にできるのか?と問われると全く自信がない。
「わかった、やるよ。日本の未来はもちろんだが、早紀を死なせるわけにはいかないからな。
でも本当に俺にできると思うのか?こう言っては何だが、全く自信ないぞ」
「できますよ、松岡さんなら‼」
両こぶしを握り締め、食い気味に言い切るみのり。でもあなた俺の何を知っているの?
「それで、サンプルは三人だと聞いているけれど、みのりをこの時代に戻してくれたもう一人の子はいいのだよな?」
「はい、その人は来年の十月、恋人と最高に幸せな思いをしたという事でミッションコンプリートです
ですがその時には例のクーデターが勃発していましたので
その人はそれを防ぐべく、私を過去へと送ってくれたのです」
「そうか、だが恋人と最高の思い出を過ごせたその子と違って
俺は好きな人とクリスマスすら迎えることができなかった
こんな俺が二人の女の子を惚れさせるとか、そんな大それたことをできるとは思えないがな」
少し自嘲気味に言ってやった。日本の未来を背負って必死で頑張っているみのりに向かって
随分と心の狭い発言だとは思ったが、振られたばかりの俺にこんな事を頼むなよ‼
というのが正直な気持ちであり、俺の心はまだそこまで回復していないのだ。
「すみません、松岡さんに辛い役目を押し付けてしまって……」
「別にみのりが謝ることじゃない、俺やみのりに全てを押し付けて裏でのほほんとしている
その〈あるお方〉という奴に少し腹を立てているだけだ」
自分が振られたいら立ちを年下のみのりにぶつけるとか、我ながら最悪だと思う。
それでも素直に謝れないのはプライドなのか意地なのか、自分でもよくわからなかった。
「あのお方は本当に日本の未来を憂いての事なのです。お優しくて立派なお方で……
お願いですから悪く言わないでください」
絞り出すような声で懇願してくるみのりの姿に、思わず罪悪感が押し寄せてきて余計に俺をみじめにさせた
「悪かった、みのりを責めるつもりはなかった。ごめん」
「いえ、もともと無茶な事をお願いしているのはこちらですから。
失恋したばかりで傷心状態の松岡さんにこんな無神経なお願いをするとか、怒るのも当然だと思います」
「今の一言が一番傷ついたのだが?」
「えっ⁉すいません、私また失礼なことを……」
動揺してあたふたする姿を見ると、しっかりしているように見えてまだまだ中学生なのだなと思う。
いや中身は高校生だったか?まあどっちでもいいや。彼女を見ていると少しだけ不安が消えていき、気がまぎれた。
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