恋の形30
「俺が言うのも変だけれど、そっちの世界の俺は本望だったと思うよ
大好きな彼女を守って死んだのならば同じ男として……というより同じ人間として褒めてやりたいよ」
〈ありがとう、優斗君。あなたにそう言ってもらえると少し気が楽になるわ。
だからその時決心したの、どんなことをしても優斗君を救うって。
あなたは知らないと思うけれど、私と優斗君はねクリスマスの日に初めてキスしたの。
天にも昇るぐらい嬉しかった、体は熱くなり、何も考えられないくらい頭は空っぽになった。
嬉しくて、幸せで、この時間が永遠に続けばいいと思った。その時、例の光の天使が出てきたの、私の目の前に……〉
「香奈ちゃんが観察対象者なのに香奈ちゃん自身の目の前に出てきたの?」
〈うん、私は観察対象者であると同時に依頼者でもあるからね。
だから私にもわかるように出てきたの。でもその時は頭からっぽで何も考えられなかったらから
(私が呼ぶまで出てくるな)と言ってやったの〉
「それで光の天使は一時引っ込んだという訳か。そんな事も可能なのか……」
〈うん、それからしばらくは私自身天使の事は忘れていた。ていうか天使に願う望みなど何もなかったから
優斗君と一緒にいられればそれで……〉
香奈ちゃんが再び口ごもる。だがその気持ちだけは痛い程伝わってきた。
「それで俺と早紀、沙織を助けるために天使を呼び出して過去に戻ってきたという訳だね」
〈ええ、お父様に内緒で信用できる人間はみのりしかいなかったから私とみのりの記憶だけ過去に飛ばしてもう一度やり直すことにしたの。
でも私自身が動くわけにもいかないからみのりに頼んで優斗君に動いてもらうことにした。
それが全ての種明かしよ、本当にごめんなさい。私ひどい女よね
優斗君を救うためとはいえ、ひどい事を……私にできる事ならばどんな償いでもするから〉
「いいよ、そんなの。香奈ちゃんが俺と早紀、沙織の命を助けてくれて未来の日本を救ったのだろう?
そんな君をどうして責められるのさ、もう謝らなくていいよ」
〈ありがとう、そう言ってもらえてうれしい、やっぱり優斗君は優しいね〉
「そんな事は……」
なぜかそれ以上の言葉が出なかった。
〈私ね、もう一度優斗君に出会えた時、本当に嬉しかった。
早紀に連れられて空手の大会に行って、会場であなたの姿を見た時、色々な思い出がよみがえって来て思わず涙が出た。
それから過去に失敗した経験を生かして二度目は完ぺきな彼女を演じようと頑張ったの。
だから前とは全然違う感じになったけれど後悔はしていない、私が優斗君を守ると決めたから。
あの時優斗君が私を守ってくれたように、今度は私が……って〉
俺は黙って香奈ちゃんの話に耳を傾けた。
〈二度目だったけれど、優斗君の彼女として過ごした日々は楽しかったよ
あの頃に戻った気分で本当に幸せだった。でも今回の計画ではどうしても優斗君とお別れしなくちゃいけないから
それまでは目一杯彼女であることを満喫した。でもその日が来て優斗君とお別れしなくちゃいけなくなった時
精一杯の演技でお別れを告げた。心が引き裂かれるように辛かったけれど
こうしなければ優斗君が死んでしまう、だから頑張って平気なふりをしたの
嫌な女と思われてもいい、優斗君が助かるならばそれで……って〉
「あれが演技とは、全然わからなかったよ。香奈ちゃんに突然別れを告げられた時は
目の前が真っ暗になって、何も考えられなくなっていたから」
〈頑張ったからね、でもあの後家に帰って凄く泣いたんだよ。悲しくて辛くて……
せっかく再び会えたのに、大好きな人とお別れしなければいけないとか。どうして?って
何度も何度も頭の中で繰り返した。意味のない事だとわかっていても……〉
「一人で辛い思いをさせてしまったね、気づいてあげられなくてゴメン」
〈気づかれないように頑張ったのだから仕方がないよ、でも少し褒めてくれると嬉しいな〉
「ありがとう、香奈ちゃんのおかげで俺は生きている
早紀も沙織も東京の人たちもみんな香奈ちゃんのおかげで生きられるんだ。
感謝してもしきれない、功績を考えればお札になってもいいぐらいだよ」
〈大げさだよ、私は日本の未来の為にやった訳じゃない、自分の思いだけで……
でも優斗君に褒めてもらえるのは嬉しいな。それでね、私今から世界一自分勝手なこと言っていい?〉
「うん、聞くよ」
〈もう一度、もう一度私と付き合って。優斗君が好きなの。どうしようもないくらい、お願いだからもう一度私と……〉
香奈ちゃんの思いが痛い程伝わって来る、俺の事をそこまで思っていてくれたなんて男みょうりに尽きるだろう、だが。
「ありがとう、香奈ちゃんの思いは素直に嬉しいよ」
〈だったら……〉
「でも、ごめん。俺今好きな子がいる、香奈ちゃんの思いには応えられない」
香奈ちゃんはしばらく何も喋らなかった、時間にしてみれば十秒くらいだったと思うのだが俺にはすごく長く感じた。
電話越しに二人の沈黙の時流れる。そして静寂を破るように香奈ちゃんが再び口を開いた。
〈そっか、そう……だよね。わた、私ね……優斗くんが生きてさえいれば、それでいいって……
そう、思って……いたのだけれど。やっぱり失恋するのはキツイね……
あ〜あ、振られちゃった……うっ、うえっ うあああああ〜〜〉
香奈ちゃんは大声で泣き始めた、スピーカーにしなくても外に聞こえるぐらいの声で泣いていた。
しかし俺にはどうすることもできない、香奈ちゃんの声を黙って聞いていることしかできなかった。
何事もスマートにこなし完璧とも思えた彼女が感情むき出しの子供のように泣きじゃくっていた。
本当に俺は彼女のことを何も知らなかったようだ。しばらくの間泣いていた香奈ちゃんだったが、無理矢理気持ちを落ち着けたのか、再び俺に話しかけてきた。
〈ごめんね、見苦しいところを見せて……幻滅したでしょう?〉
「いや、全然そんなことないよ」
〈私ね、今気づいたの、やっぱり優斗くんが好き。だから諦めないわ〉
「えっ?」
少し意外な言葉だった、つくづく俺は彼女のことを何も知らなかったのだと思い知る。
〈もう日本の未来は救われた、だったら恋愛は自由よね?
私、優斗くんを諦めない、相手が早紀でも沙織でも負けないよ
絶対にもう一度優斗くんを振り向かせて……メロメロに……してやるんだから……〉
感情が溢れるのを必死で抑え、精一杯強がる彼女は全く俺の知らない香奈ちゃんだった。
〈もうなりふり構わずアタックしてやるから、覚悟しておいてよ、優斗くん〉
「ああ」
俺はその短い言葉を返すのがやっとだった。そもそも今の状況でカナちゃんに何を言っていいのかわからない。
だが同情で優しい言葉をかけるのは違う気がした。香奈ちゃんは最後に〈じゃあね〉と短い言葉を残して通話を切った。
通話が終わった後、香奈ちゃんとの思い出を色々と思い出していた。
初めて会って告白された事。初めてのデートでお弁当を作ってくれた事。
常に優しく微笑みかけてくれた事。そして笑顔で振られた時の事。あの笑顔の裏にそんな想いが込められていたなんて……
そんな思い出を噛み締めながら通話の終わったスマホをみのりに返した。
スマホを手渡されたみのりは複雑な表情を浮かべながらこちらをジッと見つめ、静かに口を開いた。
「香奈様とお知り合い……というよりお付き合いされていたんですね?
まさか松岡さんの元カノが香奈様だったとは……いつ気づいたのですか?」
「気づいたのはついさっきだよ。みのりと香奈ちゃんは昔からの知り合いなのか?」
「はい、私の父が大河内先生の第一秘書をしています。
香奈様とは私が物心つく前からの知り合いで姉妹みたいに育ちました」
「そうなんだ」
俺の質問に答えてくれたみのりだったがその表情は複雑なままだった。
いろいろなところに視線を泳がせ、どうにも落ち着かない様子だ。
〈本当に言いたいのはそんな事じゃない‼︎〉と言いたげである。
「何か言いたそうだな?」
俺がそう声をかけるとその言葉に促されるようにみのりは話し始めた。
「香奈様、泣いていましてよね?」
「ああ、泣いていたな」
「女を泣かせる男とか、最低だと思いませんか?」
「そうだな、最低だな」
「どうして香奈様じゃダメなのですか、香奈様の何が不満なのですか?」
「香奈ちゃんに不満なんか無いよ」
「だったら元サヤでいいじゃ無いですか。早紀さんも沙織さんも松岡さんとの記憶は改ざんされていて
今では単なるお友達なのですよ、もう一度やり直したとしてもうまくいくとは限りません、だったら……」
みのりはその後の言葉は口にしなかった。しかしその口調と表情からみのりが香奈ちゃんを思う気持ちがこちらにもヒシヒシと伝わってくる。
「逆に聞くが、他に好きな人がいるのに同情で香奈ちゃんと付き合うのはアリなのか?」
みのりは俺の質問に険しい表情を見せる。
「質問に対して質問で返すとか。マナー違反も甚だしいですが……答えはノーです。
【恋愛は常に誠実であれ】が私のモットーです。悔しいですが松岡さんの言っている事が正しいです」
理性的に自分の思いとは逆の結論を出すみのり。こういうところが香奈ちゃんに信頼されているのだろう
そして俺も随分と助けられた。ここまでの思い出を振り返りつつそんなことを考えると俺はみのりに対して自然と右手を差し出していた。
「何ですか、これは?」
俺が突然右手を差し出した事に戸惑うみのり。
「感謝の印だ、みのりには色々と助けてもらって本当に助かった。
ここまで作戦が上手くいったのも、みのりのおかげだと思っている。
だから本当に感謝しているんだ、ありがとう」
これは特に頭で考えたわけでもなく、自然と出た言葉だった。
「何ですか、それは……やめてください。私はそんな……」
照れくさいのか、恥ずかしいのか。みのりは困惑しながら視線を逸らす。
そんな仕草が可愛く思えて思わず笑ってしまった。
「何がおかしいのですか⁉︎」
「いや、ごめん。なんかみのりが可愛いな……と思っただけだ」
「何ですか、それは。もしかして私まで口説こうとしています?
松岡さんごときに落とされるほど私はチョロく無いですよ。
それに香奈様に恋のライバルとか思われても嫌ですし」
「そんなつもりは毛頭ないよ、そもそもみのりは俺の恋愛の先生じゃないか。口説いたりする訳ないだろ」
「松岡さんは随分と出来の悪い生徒でしたけれどね」
俺たちは顔を見合わせて思わず笑った。
「でもみのりに感謝しているのは本当だ。だからどうしてもお礼が言いたくて」
「こちらこそ、私の無茶なお願いを聞いてもらって、感謝しています。本当にありがとうございました」
俺とみのりはがっちりと握手した。それは恋愛とは違うが何かの信頼関係で結ばれていた気がした。
「じゃあ私は帰ります、失恋で傷ついている香奈様の精神的なフォローをしなければいけないですから」
「ああ、香奈ちゃんを頼む、みのり」
「香奈様を傷つけた張本人である松岡さんに頼まれるのは釈然としませんが、香奈様は私の大事なお姉さんですから……」
そう言うとみのりはクルリと背中を向けた。そして一歩歩き出したところで足を止めると、背中を向けたまま語りかけてきた。
「もし、今後恋愛関係で悩みや相談があれば、助言しますよ。私でよければ、ですが……」
「ああ、ありがとう。頼りにしている」
みのりは肩越しに振り向きニコリと微笑んだ。その時の笑顔は本当に可愛らしく、ドキッとするほど女の子を感じさせた。
初めて会った時はガキ臭い女子中学生という印象しかなかったのに
これだから女の子というは怖い。俺の心に別の人がいなければもしかしたら本当に惚れていたかも?
などという考えが頭をよぎった。
「それと最後に聞きたいのですが、松岡さんは早紀さんと沙織さんどちらを選ばれたのですか?」
俺はみのりの質問には答えなかった。無言のまま、ただ笑顔を向ける。
そんな俺の態度に何かを察してくれたのか、みのりは目を閉じ小さく微笑むとそのまま去って行った。
これからどうなるのかは俺にもわからない、でもここから再びスタートだ。
誠実に真っ直ぐ思いの丈を伝えよう。大好きな彼女に……
この話は設定はSFでぶっ飛んでいるのですが内容はベタな恋愛ものというややいびつなモノとなってしまいました。人間はどんなに好きな相手がいても別の人を好きになってしまう事がある。というテーマで書いた作品です、〈この主人公、ちょっと軽過ぎね?〉と言われても仕方が無いのですが、まあそこは生暖かい目で見てくれると嬉しいです。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。




