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恋の形  作者: 雨乞猫
26/30

恋の形26

「そのカメラをよこせ‼」

 

鬼のような形相でビデオカメラに手を伸ばす、みのりは恐怖で身をすくめ思わず目をつぶってしまう。


だが次の瞬間、森本樹里の手を掴みビデオ強奪を防いだ者がいた。


「誰よ?」

 

森本樹里が顔を上げると、そこには黒服に身を包んだ屈強そうな男が二人、みのりを守るように立ちふさがっていた。


見るだけでわかる、ここにいるヤンキー共とは格が違う、間違いなく強い。


おそらく俺が一対一でも勝てるかどうか?というレベルだろう。


おそらく俺が奴らにやられてしまった場合も想定してみのりが手配していてくれたのだろう。


そんな男たちが森本樹里をジロリと見降ろし、無言のまま圧力をかける。


さすがの彼女もその迫力に押され思わず後ずさりした。ようやく追いついた俺はみのりをガードするように立ちふさがると


二人の男たちは示し合わせたようにお互いに顔を見合わせ、歩き始めた。


そして倒れているヤンキー共の服をまさぐり学生書を取り出すとそれを写真に収め始める。


倒れている奴らの学生書を全て写真に収めると今度はまだ立っているヤンキー共に近づき、無言のまま学生書を出すように圧力をかけた。


ほとんどの者は渋々ながら学生証を差し出し撮影されていた


中には抵抗する者もいたがそういう奴らは胸ぐらをつかまれ、片手で軽々と持ち上げられると


自分から学生書を出すまで下ろしてはもらえなかった。こうして凄まじい圧力をかけられた森本樹里とヤンキー共は今後何もできなくなるだろう


誰もがうつむき負けを受け入れていた。だがそんな中で沈黙を破るように洞崎が叫んだ。


「調子に乗っているんじゃねーぞ、松岡‼俺だけが落ちてお前が勝ち誇るとか絶対に認めねえ


お前だけは何が何でも道連れにして引きずりおろしてやるぞ。


今度の大会は絶対に出場させない、必ず出場停止に追い込んでやるからな、覚悟しろ‼」

 

今回の事で仲間からの信用も後ろ盾も失った洞崎はやけくそ気味に言い放った。


「まあ、確かに、俺は大会に出るよりも篠原さんを守ることを優先した。だからこの選択に後悔はない。


だが前回王者として大会に出られないとなると、それはそれで気分が悪いな……」


「ざまあみろ、今更後悔しても……」


「で、俺が大会に出られなくなったら、その怒りの矛先はどこに向ければいいのだろうな、教えてくれないか、洞崎?いや、ホコサキ」


 目一杯の敵意を込めて洞崎を睨んでやった。


「それとお前、昔は散々後輩をいじめてきたよな?今ではあいつらも随分強くなったぜ


もし俺が〈洞崎をシメるからついて来い〉と言ったら、あいつら喜んで来るぜ。


家の住所はまだ変わっていなのだろう?昔のツケをその体で払うのだな。特に俺は入念にいじめてやるからな、覚悟しておけよ」


 我に返った洞崎は完全にブルっていた。よし、もう一息脅してやればもう……


 そう思った時である、突然俺の背中に小さな衝撃が伝わる。驚いて振り向くと、そこには俺の背中に抱き着いてきた篠原さんがいた。


小さな体で俺の背中を力いっぱい抱きしめ、顔を背中に着けたまま絞り出すように言葉を発する。


「もう止めて、もういいから、もう十分だから、お願い……」

 

体と声を震わせながら懇願するように語りかけてくる。俺としても本当にそこまでするつもりは無かったので、ちょうど良かった。


「沙織がこう言っているのだから、今回だけは見逃してやる。だが今後彼女に……


いや、俺の女に変なちょっかい出したらわかっているな?例えそれが別の人間がやった事だろうと


洞崎と森本樹里に制裁を加える、絶対にだ。よく肝に銘じておけ」

 

俺はそう言い残したっぷりと脅しをかけた後、奴らに背中を向けた。あまりスマートなやり方ではなかったがこれで彼女に対する嫌がらせはなくなるだろう。


問題は解決したが肝心の篠原さんはまだ怯えていた。ここまでの出来事がよほど怖かったのか


顔面蒼白のまま小刻みに肩を震わせている。よくよく考えれば普通の女の子には少々刺激的過ぎたかもしれない。


俺自身頭に血が上って感情のままに作戦を立てたから今になってみれば少しやりすぎたかと反省している。


だが後悔はなかった、どんなことをしても彼女を守りたかったからだ。


俺は震える彼女の肩をそっと抱き寄せ、小さな声で〈ゴメン〉と告げる。


彼女は無言のまま何度も首を振った。それは〈許さない〉という意思表示ではないだろうが


彼女をこれほどまでに怯えさせてしまった事を素直に謝りたい。


俺は何度も彼女に謝罪の言葉を告げ、そのたびに彼女は首を振った。


みのりの手配してくれた黒服男たちの手助けもあって何とか騒ぎは収まり、洞崎たちはスゴスゴと帰って行った。


俺たち以外は誰もいなくなった球場は先ほどまでの騒ぎが嘘のように静まり返り、球場横の川のせせらぎが聞こえてくるほどであった。


「大丈夫、篠原さん?」


 怯えていた彼女の肩をそっと抱き、落ち着くのを待つ。


みのりたちが乗ってきた高級車の後部座席で俺と篠原さんは二人だけの時間を過ごした。


この車の後部座席は窓が黒いスモークガラスになっている為、外からは見えない


つまり疑似的ではあるが二人きりの密室に近い状況ともいえる。この状況はみのりが気を利かせてセッティングしてくれたシチュエーションだ


何から何まで本当に用意周到で気が利く女である。


「うん、もう平気……」

 

蚊の鳴くような小さな声でようやく返事をする篠原さん、だがその様子を見れば本当に平気かどうかは一目瞭然だが


彼女がそう言っている以上、こちらもそれに合わせてやるのが優しさなのだろう。


「ゴメン、勝手に変なことして……怖かったよね?」


「謝らないで、松岡君。全部私の為にやってくれたのでしょう?それなのに文句を言ったらバチが当たるよ……少し怖かったけれど」

 

様子を見れば怖かったのは少しどころじゃなかっただろうが、精一杯こちらに気をつかってくれている彼女のやさしさに益々心動かされた。


「普通の女の子があれだけの喧嘩騒ぎを見せられたら怯えるのが当然だよ。俺の配慮が足りなかった、本当にゴメン」


「だから謝らないでって言っているじゃない。寧ろ謝りたいのはこっちだよ。


私の為にあんな危険な事を……怖かったのは喧嘩騒ぎじゃない、あんなに大勢の人が武器を持って襲い掛かって来ていたから


松岡君が大怪我でもしたらどうしよう……って、それが怖かったの。それを想像しただけで怖くて、怖くて……こちらこそごめんなさい、私のせいで……」

 

彼女は再び両脇を抱えながら震えだし、両目からボロボロと大粒の涙を流す。


「守るべき人をこんなに泣かせて、俺は最低だな」


「そんなこと無いよ、そんなことない。松岡君は最低なんかじゃない、私にとって……」

 

とめどなくあふれ出る涙をぬぐいながら上目遣いでこちらを見てくる。


俺はどうしようもなく彼女を愛おしく感じ、抱きしめたいという衝動のまま彼女の小さな体を力いっぱい抱きしめた。


彼女もそれに応えてくれて俺の胸に顔をうずめながら抱き着いてきてくれた。


「話の流れとは言え、名前を呼び捨てにしてしまってゴメン」


「ううん、いいよ。というか、嬉しかった。〈俺の女に手を出す奴は許さない〉って言ってくれて、凄く嬉しかったよ」


俺の胸に顔をうずめたまま、絞り出すように言葉を発する。そして彼女の話は続いた。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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