恋の形25
次々と襲い掛かって来る敵を一人、また一人と倒していく。
そして戦いが始まって十分ほどが経過したころ、残りの相手の数が三分の一ほどになり、攻撃が止んだ。
うめき声を上げながら地面に横たわっている仲間達の姿を見て今更ながら俺の強さと格の違いを思い知ったのだろう
相手側はこちらを睨みながらも戦うのを躊躇し始めた。俺はここぞとばかりに言い放つ。
「どうした、もう終わりか⁉俺はまだ食い足りないぞ、まとめて全員ぶちのめしてやるから、さっさとかかって来い‼」
まだ戦える者も数名いたがさすがに皆ビビり始めているのか、洞崎の方をチラチラと見ながら躊躇している。
「どうした洞崎、手下どもがどうすればいいのか迷っているぜ。ここはリーダー自ら戦う場面じゃねーのか?
お前にそんな度胸があれば、の話だがな。いいからさっさとかかって来い、俺はお前をぶち殺したくて仕方がないんだ、何度も言わせるな‼」
体面と恐怖が入り交じった複雑な表情を浮かべ後ずさりする洞崎。
奴が一人だけだったならもうとっくに逃げだしているだろう、洞崎とはそういう男である。
だがこれだけ仲間が倒されて自分だけ逃げだしたら明日からこいつの居場所はなくなるだろう。
だが現役時代でも俺に歯が立たなかった洞崎が空手を止めて一年たった今、俺とまともに戦えるわけもない。
行くも地獄、引くも地獄というこの状況で追いつめられた洞崎がどういう選択をするのだろうか?などという意地の悪い考えも頭に浮かんでいた。
「い、いいのか松岡、お前が暴力事件を起こした事を俺がバラせば、今度の大会には出られなくなるぞ⁉
前回の都大会王者が出場停止になってもいいのか⁉」
追いつめられた洞崎は苦し紛れの一手を打ってきた、なるほどそう来たか。
「ふっ、確かに今回の事が明るみに出れば俺は出場停止処分だろう、下手をすれば破門かも」
「だったら……」
穏便に幕を引きたい洞崎はここぞとばかりに喋ろうとしたが、俺はそれを許さなかった。
「だがそんな事はどうでもいい、俺にとって大会より沙織の方がはるかに大事だ。
俺の女に散々な事をしてくれたお前だけは許さない、絶対にだ‼一年前にお前をボコボコにして道場から追い出した時よりきついお仕置きを据えてやる。
手足の骨の一本や二本で許してもらえると思うなよ、さあ四の五の言わずにさっさとかかって来い‼」
かなりきつい脅しをかけたおかげで洞崎は完全に戦意を失いビビりまくっていた。
そんな姿を見た周りの者達も冷めた目で洞崎を見ている。もはや完全に勝敗は決したかと思われた。だがその時である。
「待ちなさいよ‼」
若い女性の甲高い声が響き渡り、一人の女子生徒がこちらに近づいて来る。間違いない、篠原さんをいじめていた女生徒の首謀者格である森本樹里である。
「さっきから黙って聞いていれば偉そうに。今回の事は絶対に問題にしてやるんだから、アンタはもう終わりよ‼」
もの凄い形相で俺を睨みつけ人差し指をこちらに向けながら敵意むき出しの森本樹里。
こいつにしてみれば俺が洞崎を追いつめる悪い奴にでも見えているのだろうか?勝手な話だ。
「終わりって、俺がどう終わるっていうのだ?」
「今からここにいる全員が診断書を取って被害者届を出すわ、警察には貴方に一方的にやられたって言うから」
「おいおい、そちらが先に手を出してきたんだぜ?」
「そんなのどこに証拠があるっていうのよ。全員が口裏を合わせればあなたを追いつめるくらいの事はたやすいわ。
それに私のパパは警察にも顔が利くのよ、ママは学生の権利や事件にはかなりうるさいし、事実なんてどうとでも捻じ曲げられるの。
随分と喧嘩には自信があるようだけれど、相手が悪かったわね」
勝ち誇るように笑みを浮かべる森本樹里。
「その理屈でアンタは沙織をいじめたのか……」
「当たり前じゃない、あの女が調子に乗っているからよ。ちょっとモテるからっていい気になって、いい気味だったわ。
どうやって自殺に追い込んでやろうかとも思っていたくらいよ」
悪びれることもなく、もはや勝ちを確信したかのように高笑いをする森本樹里。その時俺は大きく息を吐き、しみじみと言ってやった。
「馬鹿な女だ」
「何ですって?もう一度行ってみなさいよ‼」
「馬鹿な女だと言ってやったんだ、聞こえなかったのか?」
「許せない、絶対に許さないんだから‼」
先ほどまでの余裕の態度はどこへやら、額に血管を浮き上がらせ、ぶるぶると体を震わせながら怒りの表情を浮かべていた。
「なぜ馬鹿なのか、頭の足りないアンタにもわかるように教えてやる。まず自慢の権力だが、そんなモノは何の頼りにもならない」
「どうしてよ、パパは私のいう事は何でも聞いてくれるわ。パパの権力を舐めないで‼」
「お前は知らないかもしれないが篠原さんのお父さんはある有名国会議員の顧問弁護士をしている。
馬鹿なアンタでも知っているくらいの超有名議員だ。今回俺はその人の力も借りてお前らを追いつめることにした。
一都議会銀と超有名国会議員で権力比べでもしてみるか?ちなみにその人はあんたの親父とおなじ政党だぜ
その人の逆鱗に触れたらアンタの親父は間違いなく今度の選挙は落ちるぜ、下手をすれば立候補すらもさせてもらえないかもな、全部アンタのせいでな」
今まで饒舌に喋っていた森本樹里の顔から血の気が引く。
本当のことを言えば相手が権力を振りかざしてきた場合は、みのりからこう切り返せと聞かされていただけで、その大物議員とやらの事を俺は何も知らない。
「何よ、それ……そんなの卑怯じゃない」
「おいおい、どの口が卑怯とか言っているのだ?自分が先に権力を振りかざしてきたんじゃねーか
アンタは暴力にも権力にも上には上があるって知っておいた方がいいな、それともう一つ。今までのやり取りは全て記録させてもらったぜ」
俺は懐からスマホを取り出し今までの会話を録音していたことを話した。
「何よ、そ、そんなの証拠にならないわ。盗聴で録音したモノなんてどうとでも捏造や変更できるじゃない、裁判になっても証拠不十分よ‼」
「まあそうかもしれないな、だが録音だけじゃない、ちゃんと映像にも残してあるぜ」
「うそ、どこにそんな?……」
慌てて周りを見渡す森本樹里、そして黒塗りの高級車の存在に気が付いた。
「そうだ、あの車から今回の一部始終を記録していたぜ。なあ、みのり」
俺が声をかけると、高級車の中からビデオカメラを持ったみのりが出てきた。
「松岡さんに言われた通り、今までのやり取りは全て記録しています」
森本樹里は絶望的な顔を浮かべ、今にも崩れ落ちそうであった。
「教育委員会のお偉いさんの娘であるアンタが、酷いいじめの首謀者だったとわかれば世間はどういう反応を見せるかな?
お母さんがクビになるだけじゃすまないぜ」
「そんなの……証拠にならないわよ。所詮盗撮じゃない、でっち上げと言い張れば……」
「確かに裁判ではそうかもな、でも今の時代SNSという個人で発信できる便利なツールがあるからな。
この映像と音声を発表したら、アンタら親子にはどれほどの総バッシングが待っているかな?
大炎上した人間の末路ってやつを体験してみるといいぜ。アンタらはそれだけのことしたんだ、自分のやった事をせいぜい反省しな」
森本樹里はがっくりと肩を落とし、焦点の合わないうつろなまなざしで下を向いていた。
正直そこまでするつもりは無いが反省を促すためにもこれぐらいの脅しは必要だろう。
そう思っていた時である、森本樹里は突然背中を向けて走り始めたのだ。
俺はあまりに突然の事で呆気にとられてしまっていた。そして彼女が向かった先は何とみのりの方だったのだ。
「しまった、まさかそんな行動に出るとは⁉」
俺も慌てて追いかけるが出遅れた事と、向こうの方が距離も近く、すでにみのりのすぐそばまで迫っていた。
「そのビデオカメラをよこしなさい、それさえなければ何とでもなるわ‼」
半狂乱のように叫びながらみのりに迫る森本樹里、突然の事でみのりも固まってしまっていた。
まさかこんな行動に出るなんて……完全に油断していた俺は自分の浅はかさを悔いた。
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