恋の形24
そう、俺はこいつらのリーダー洞崎をよく知っている。
こいつは一年前まで同じ道場に通っていた同学年の門下生である。
洞崎は俺より体が一回り大きく階級も一つ上だが道場では洞崎に負けたことは一度もない。
こいつは昔から性格が悪く道場の後輩をいつもいじめていた。俺が何度注意しても一向に聞き入れる事は無く
仕方がないのである日道場でボコボコにしてやった、それ以来洞崎は道場に来なくなった。
「こら、洞崎。てめえ俺の女に色々とちょっかい出してくれたそうじゃねーか。そんな事をしてタダで済むと思っていないよな⁉」
俺の脅しに一瞬たじろぐ洞崎。こいつの事はよく知っている、弱い者にはとことん強く出る性格だが強い者には絶対に逆らわない
基本ビビりの性格なのだ。みのりから資料を見せられた時、男子側の首謀者がこの洞崎だと知って運命を感じたものだ。
「ふ、ふざけんなよ、松岡。いくらテメエが強くてもこの人数差で相手になると思っているのかよ‼」
「おいおい、いきなり人数だよりか?変わってないな。どうした喧嘩自慢の洞崎さんよ、手下共もお前の勇士を見たそうだぜ」
洞崎は慌てて周りを見渡す、これだけの人数の頭を張っているのならばこいつにもメンツというものがあるはずだ。
「いつまでも見下しているんじゃねーぞ、コラ‼」
精一杯の虚勢だろうが、ビビり倒していることは明白である。俺は余裕を見せつけながらこう言ってやった。
「見下す?馬鹿な事を言っているんじゃねーよ。見下すという事は視界に入っているという事じゃねーか。元々テメエなんか眼中にないんだよ」
戦いにおいて相手にビビったらその時点で負けである、もうこれで洞崎に負ける要素は万に一つもなくなった。俺はとどめとばかりに追い打ちをかける。
「御託はいいからさっさとかかって来いや洞崎、俺は立場上自分から仕掛けることはできないからな
かかって来てくれないとお前をボコボコにできないじゃねーか、俺はお前をぶち殺したくて仕方がないのだからな‼」
俺の言葉に完全にビビってしまう洞崎、だが周りの男どもはまだやる気の様だ。
「洞崎さん、あいつがどれだけ強いのか知りませんが、この人数でかかれば楽勝ですよ。ここまで馬鹿にされて黙っていたら教陵高が舐められます、やってしまいましょう‼」
このまま洞崎がビビって引いてくれれば事を荒立てずに済んだのだが、お仲間は納得いかなかったようだ。
時代錯誤も甚だしい台詞を吐き、やる気満々の様子である。しかもなりふり構っていられないのか
一人が武器を取り出すと、ほかの人間も次々と武器を手にし始める。特殊警棒に小型ナイフ、いつの間にか金属バットを持っている奴までいた。
「おうおう、揃いも揃ってこの人数差に武器まで、お前らウケを狙っているのか?」
終始余裕綽々の態度で見下し続ける俺の態度に相手側も少し動揺が見られた。
「ふざけんな、松岡。いくらお前でも獲物を持ったこの人数相手に勝てる訳ないだろうが‼」
このままではマズいと感じた洞崎が味方を鼓舞するように言い放つ。
いつの間にか教陵高の女子生徒まで集まって来ていた、おそらく騒ぎを聞きつけ来たのだろう、篠原さんをいじめていた女子の首謀者も来ているはずだ、よし計画通り。
よく見ると篠原さんの姿も見えた、俺を心配で見に来たのだろう、ヤレヤレ、帰れと言ったのに……
そして、よく見るとこの光景に似合わない黒塗りの高級車が一台近くに駐まっている
おそらくあの車はみのりが手配したモノだろう。安心した俺はすかさず洞崎に言い返した。
「確かに。そんな物で殴られたら怪我どころか打ち所が悪ければ死ぬ可能系だってある、ナイフとか刺されたら普通に死ぬからな」
俺の言葉に洞崎の表情が一瞬ほころぶ。だが俺は相手の思惑をぶち壊すように話を続けた。
「という事は、正当防衛が成り立つという事だよな?」
俺は洞崎を睨みつけ、持っていたカバンから武器を取り出した。
「それはトンファー、何でそんなモノを⁉」
「一人で乗り込んでくるのに丸腰で来るわけないだろうが」
両手にトンファーを構え戦闘態勢をとる俺に対し、完全に当てが外れた洞崎は思わずたじろいだ。
トンファーというのは沖縄から伝わった空手の武器の一つである。
45cmほどの取っ手の付いた棒を両手に構え攻撃と防御を同時にこなせる武器である。
使いこなすには長い修練が必要とされるが、俺はこのトンファーという武器が好きで子供のころから練習していた甲斐もあって今ではかなり使いこなせるようになっていた。
「トンファーとか……汚いぞ、松岡‼」
「はあ?何言っているんだ。一人の人間相手に武器持った多数側が言うセリフか?それとももっとハンデが欲しいってことか?」
悔しそうに体を震わせる洞崎。だが周りの取り巻きは我慢の限界を迎えていたようだった。
「ふざけやがって、そんなモノでカッコつけているんじゃねーぞ‼」
その言葉を皮切りに武器を持った馬鹿どもが一斉に動き出す。
叫び声をあげながら武器を振り上げ猛然と襲い掛かってくるヤンキー共。うなりを上げて振り下ろされる武器
ビュンという風切り音が耳元をかすめる。そして鋭利な刃物の鋭い切っ先が俺の体に向かってくる。
殺気と怒号が渦巻く中で、俺はそれを一つ一つ見極めながら確実に一撃を加えていった。
「ぐはっ」
「うぐっ」
鈍い打撃音と共にうめき声を上げながら一人、また一人と倒れていく。俺はその光景を自分でも驚くほど冷静に見つめていた。
トンファーという武器は攻撃よりもむしろ防御に向いていて、相手の攻撃を受け止めつつすぐさま反撃に移れるのが特徴だ。
いわば攻防一体の武器なのである。そしてその攻撃が当たれば威力は素手の比ではない
一撃必殺とまではいかないが、一撃で相手を行動不能にするぐらいは訳ない
むしろ相手に重大な怪我を負わせないように手加減する方が難しい程だ。
とは言っても人数差があるので完全に相手の攻撃を受け止めるのはむつかしい
だから致命傷にならない攻撃などはダメージの少ない箇所であえて受け確実に相手を仕留めるというやり方に徹した。
息をつく暇もない攻防の中でまるでスローモーションのように時が流れ、頭が冴えわたる。
鍛えているといっても攻撃を受ければ普通に痛いし、受け方を間違えれば大怪我をしたり死ぬ可能性だってある
人数差を考えれば長期戦になれば体力的に厳しくなるだろう。だがそんな緊張感の中でも俺の心は凄く充実していた。
今まで強敵と試合をした時とは違う感覚。おそらくこんなやり方は間違っているだろうし、俺のやり方が正しいと主張するつもりもない。
でも俺にはこれしか思いつかなかった。そして後悔はしていない。
〈正しい、正しくない〉の観点ではなく俺がそうしたいからやっているのだ。
何より好きな女の為に体を張るという行為がたまらなく気持ちいい。
彼女がこんなやり方を望んでいるとも思えないが腹の底からこみあげてくる熱い思いと湧き上がる無敵感、今の俺は誰にも負ける気がしなかった。
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