恋の形23
翌日、俺は篠原さんの学校へと乗り込んだ。とはいえいきなり校内へと侵入したわけではなく
放課後に彼女が学校から出てくるのを校門前で待ち伏せるという手段に出ただけだ。
授業が終わり校門から続々と生徒が出てくるのを物陰から見守る。ガラの悪い学校だと聞いてはいたが
出てくる生徒は楽し気に話をする者達や、スマホ片手に歩いているといった普通の生徒達に見えた。
校門の近くで待ち伏せしている俺は不審者に思われても嫌なので学生服を着てカバンを持つ普通の学生を装う。
見た目には他校の生徒が友達を待っている、という感じで誤魔化したのである。
待つこと十分ほど、校舎から出てくる篠原さんの姿が見えた。
一人でうつむきながらトボトボと歩く姿は心なしか怯えている様にも見えた。
俺はそんな彼女の前に姿を現し、右手を上げてこれ見よがしに大げさな態度で声をかけた。
「よっ、待っていたよ」
突然現れた俺の姿に驚きを隠せない篠原さん、目を丸くし一瞬唖然としていた。
「松岡君……どうして?」
「迎えに来たのに決まっているだろう、さあバイト行こうか」
彼女は俺の言葉に驚き茫然とするが急に周りをキョロキョロと見回し、小声で告げてきた。
「松岡君、ここでそういう話はちょっと……」
ひどくおびえた様子で回りを気にする篠原さん、その時である。
「あ⁉何だ、テメエは?他校の生徒が馴れ馴れしくしているんじゃねーよ」
ロン毛で鼻ピアスをしているガラも頭も悪そうな男子生徒が俺に絡んできた。
鋭い視線をこちらに向けながら威嚇気味にゆっくりと近づいて来る。
こちらに対して明らかに敵意示す言葉と態度に俺は平静を装いながらも心の中でほくそ笑む〈かかった‼〉と。
「違うんです、この人は……」
慌てて俺をかばおうとする篠原さんだったが、俺はそんな彼女を右手で制し
スッと前に出ると、彼女にしか聞こえないぐらいの小さな声で伝えた。
「ごめん、少し俺に話合わせて」
驚きの表情でこちらを見る篠原さん、だが俺はそのまま目の前の男に向かって言ってやる。
「あ⁉自分の女を迎えに来て何が悪い、テメエこそさっさと失せろ、この雑魚が」
あえて挑発するような言葉をチョイスして相手にぶつける。
「何だと、テメエ……」
俺の言葉がよほど気に障ったのか、体を小刻みに震わせながらこちらを睨みつけてくる。
しかし俺にしてみれば〈計画通り〉と、むしろ喜んでいた。
こんな弱そうな奴がいくら凄みを利かせても怖くもなんともない、やったら必ず俺が勝つからだ。
「おい、どうした‼」
騒ぎを聞きつけて来たのか、仲間と思われる男が二人駆け寄ってきた
一人は細身で背が高く髪を金髪に染めている、そしてもう一人は
背は低いがガッチリ系の体格でドレッドヘアーの男だ。それにしてもこの学校の校則はどうなっているのだ?
二人の援軍が駆け付けて来て心強かったのか、ロン毛男は思わずニヤリと口元を緩めた。
「調子に乗っているんじゃねーぞ、コラ‼」
勢いに任せて顔を近づけ威嚇してくるロン毛男。しかしコイツ無警戒にも程があるな
ポケットに手を突っ込み無防備のまま距離を詰めてきた、これでは殴ってくださいと言わんばかりの隙だらけじゃないか。
言っている事といい、本当に雑魚丸出しだな。
先程の二人も加わり益々激しく威嚇してくる馬鹿ども。だが俺は一歩も引くつもりは無い
こんな雑魚共が何人増えようが俺の敵では無いからだ。にわかに周りがざわつき始める。
さすがの馬鹿共も学校の校門前で騒ぎを起こすのはマズいと思ったのか周りをキョロキョロと見回し、舌打ちをする。
「ちっ、ここじゃ何だから場所を変えるぞ」
ロン毛がこちらを睨みつけながら〈ついて来い〉とばかりに顎でクイっと合図する
もちろん俺もそれに従う。こんなところで騒ぎを起こして大騒ぎになってしまうと誤魔化しようがないため
俺にとってもその方が好都合だからだ。そのやり取りを見ていた篠原さんは血の気が引いた顔でガタガタと震えている
そんな彼女にそっと声をかけた。
「驚かせてごめん、先に帰っていて、俺は大丈夫だから」
彼女にそう告げると俺は三人の後ろについていった。
五分ほど歩くと川沿いにある市営の球場に到着する。平日の夕方なので利用者もいない。
周りには人家もなく人気は無い、大立ち回りをするにはもってこいの場所かもしれない。
「ここまで来た度胸だけは認めてやるが、ボコボコにしてやるからな‼」
「今、ここで土下座すれば二、三発殴られるだけで許してやらなくも無いぜ」
「何を余裕かましているんだ、クソが。調子に乗っているんじゃねーぞ‼」
お決まりのテンプレ台詞を吐きながら威嚇してくる三人組。ここまでくると清々しさすら感じてしまい
思わず吹き出してしまった。
「何がおかしい、殺すぞ、コラ‼」
ドレッドヘアーの小男が勢いに任せて俺の胸ぐらをつかんできた。
そいつは怒りに満ちた表情を浮かべ今にも殴りかかってきそうな勢いだったが、おれは冷静な表情で静かに忠告する。
「いいのか?今お前、完全に俺の間合いに入っているぞ?」
俺の言葉に何かを感じたのか、ドレッドヘアーの小男は腕を振りかぶり殴りかかってきた。
「なめているんじゃねーぞ‼」
凄みを利かせて力いっぱい殴ろうとしているのだろうが、こんなど素人のパンチなど俺に当たるはずもない。
俺はその大ぶりのパンチを難なくかわすと、相手の腹に膝蹴りをくらわせてやった。
「ぐえっ」
うめき声を上げながら前のめりに崩れ落ちるドレッド頭の小男。両手で腹を抑え胃液を吐きながら額を地面につけていた。
「テメー、ぶっ殺してやる‼」
怒り狂った残りの二人が襲い掛かってきたが当然相手にもならない。
三秒後には二人とも膝から崩れ落ちていた。俺はその内の一人
ロン毛野郎の髪の毛を掴んで引きずり起こすと今度はこちらが顔を近づけて淡々と言ってやった。
「お前ら程度の雑魚じゃ相手にならねえ、さっさともっと強い奴連れてこい」
ロン毛野郎は悔しさをにじませながらも反論せずに走り去った。
すると倒れていた金髪細身男がゆっくりと立ち上がりニヤニヤしながら口を開いた。
「テメーはもう終わりだ、少しくらい強いからって調子に乗りやがって。
今から仲間が押し寄せてくるぞ、それに俺達のリーダー洞崎さんは滅茶苦茶強いからな、今更後悔しても遅いぜ」
勝ち誇ったようなその顔がむかついたので俺は金髪野郎に顔を突き合わせるぐらいに近づいて言い放つ。
「で、それまでお前が俺の相手をしてくれるのか?今度は手加減なしでいいんだな?」
長身である金髪男は身をすくめて視線を逸らした。先ほどまでの勢いはどこへやら、完全にビビっている様子だ。
こんな奴は殴る価値もない、そのまま放っているとしばらくして後ろの方から大勢が近づいて来る声が聞こえてくる
どうやら団体様でお越しになったようだ。
「へへへへ、テメエも終わったな」
今度はドレッドヘアーの小男が勝ち誇る、もはや相手にする気も起きないので無視していると
後ろから大勢の人間が近づいて来る音が聞こえてくる、そしてその中の一人の男の声が聞こえてきた。
「この俺に喧嘩を売って来たという馬鹿はどこのどいつだ‼」
その声を共にドレッド小男と金髪のっぽの表情がパッと明るくなる。
「洞崎さん‼」
「こいつです、洞崎さん、やっちゃってください‼」
「テメエ、ウチに喧嘩売ってタダで済むと思うなよ‼」
背中越しに威嚇してくる声を聴き、俺は余裕綽々で振り向いた。
「タダで済まなかったらどうするつもりだ、洞崎?」
「て、テメエは松岡じゃねーか、どうして……」
驚きの表情を浮かべこちらに問いかけてきた。
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