恋の形2
いつもより少し遅く登校したので、教室内ではすでに大勢の生徒が登校しており
仲の良いクラスメイト同士が楽しそうに会話をしている。
昨日のドラマがどうの、人気ユーチューバーのアップした動画がヤバいだの
ソシャゲの課金がどうの、と話題はそれぞれだが特に気になることもない
よく聞くごく普通の会話だ。もちろん俺はそんな会話に加わるつもりのなく無言のまま自分の席に座り
〈誰も俺に話しかけるな〉オーラを全開にして机に伏せて寝たふりをする。
「おっす、優斗。何だ、朝から寝不足か?」
空気を読まず、俺のオーラをなんなく突破してきた男は、柿澤弘也。
茶髪に軽くパーマをかけた髪型、見た目はチャラいが、性格はもっとチャラい。
コイツはいうなれば見たままの性格で、クラスの誰もが〈よく喋るお調子者〉という認識をしている。
しかしどこか憎めない性格で、話していると普通に楽しいのでクラスの男子生徒の中では一番仲が良い。
だが今日に限ってはこいつと関わり合いたくはなかった。
「うるせえぞ、柿澤。今日は気分が悪いんだよ」
わざとぶっきらぼうに言うことで機嫌が悪いことをそれとなく伝えるが
それを汲み取ってくれるほど、この男が気遣いできる訳もない。
「おいおい、朝から随分だな。まあこの鬱陶しい雨で気分が沈むのもわからなくはないが
そんなことで一々落ち込んでいたら青春の一ページはあっという間に過ぎ行ってしまうぜ。
それよりどうした、彼女と喧嘩でもしたか?」
当たらずとも遠からずというか、実に嫌なところを突いてくる。
コイツのこういう変に鋭いところも、今日の俺にとっては嫌なのだ。
「おはよう、優斗。それと、柿澤」
そんな俺達の会話に割って入るように話しかけてきたのが大沢早紀。
クラスメイトというより、こいつとは子供の頃からの知り合いで同じ空手の道場に通っていた仲であり
世間一般で言う幼馴染というやつになるのだろうか?
背が高く、スラリとした体型、ややつり目がちで面長の見た目から、実際よりさらに背が高く見える。
特に部活には入っていないが運動神経が抜群で、たまに他の部から助っ人として頼まれることもある。
当然空手の方もかなりいい線まで行っていたのだが、高校に入ってスッパリと辞めてしまった。
何でも〈高校生になったのだから、もう少し女っぽいことがしたい〉というフワッとした理由らしい。
だが早紀にとってそれは重要なことらしく。〈女らしくなる〉というのが高校に入ってからのテーマらしい。
確かに早紀はさっぱりとした性格で、あまり女の子っぽくはない。
それどころかかなり男前な性格で俺もこいつと話していても女性と話しをしている気がしないため
とにかく気兼ねなく話せる、それを裏付けるエピソードとして
後輩の女性からラブレターのような手紙をもらったことが二度ほどあるらしい。
高校に進学するのをきっかけに地元の空手道場を辞めた際には
道場の後輩からラブレターのような手紙をもらいそのことで相談を受けたのをハッキリと覚えている。
「なあ、優斗。私はどうして後輩の女子からラブレターみたいな手紙をもらうのかな?
実は中学の卒業式でも違う後輩からもらってさ、男子から告白された事は一度もないのに……」
「そんなの簡単じゃねーか、その子達はお前のことをずっと男だと思っていたのだろう?まあわからなくはないし……ぐはっ‼︎」
会話の途中でいきなり腹に強烈な一撃を喰らい、話を強制終了させられたのだ。
「テメエ、いきなり何するんだ⁉︎」
「乙女に向かってデリカシーのないことを言うからだ」
「デリカシーのある乙女はいきなり腹パンとかしねーよ‼︎」
当時はまだショートヘアだったので更に男っぽさが強かった
今でも髪型以外はそれほど変わってはいない印象だが……
そんな早紀が言葉を濁しながら、バツが悪そうに話しかけてくる。
「あのさ、優斗……その……何か、ゴメン」
「どうして早紀が謝るのだよ?」
「いや、その……一応、友人としてというか……香奈を紹介したのは私だし……」
視線を逸らしながら申し訳なさそうに謝ってくる早紀。
どうやら事の顛末を全て知っているようだった。そう、俺に香奈ちゃんを紹介してくれたのは早紀だった。
早紀とは子供の頃からの知り合いだったが、学区の関係で小中学校は別の学校だった。
香奈ちゃんと早紀は同じ中学で、性格は正反対と言ってもいい二人だったが妙に馬が合ったらしく
親友と呼べる間柄らしい。たまたま早紀が空手の試合を見に行く際に香奈ちゃんを誘ったらしく
その縁で俺と香奈ちゃんは知り合うことになったという訳である。
「まあ、その……香奈も気まぐれなところがあるし……悪い奴じゃないのだけれど……」
言葉を選んでいるつもりなのだろうが、そういった気の使われ方が余計にキツイ。
早紀らしいといえば早紀らしいのだが。
「えっ⁉︎もしかして優斗、彼女と別れたのか?」
柿澤のデリカシーの欠片も無い一言が胸に刺さる
そしてこれから答えたくもない質問攻めに合う未来を想像するとウンザリする。
だが柿澤からは意外な言葉が返ってきた。
「え〜っと、さっきは色々と無神経な事を言って悪かったな。まあ元気出せよ」
予想外の言葉だった。そもそもこの男の頭に気遣いという概念があったこと自体に驚いた。
「そうだぜ、優斗、落ち込んでいても仕方がないし、香奈の事とかすぐに忘れてしまえよ。
私たちでよかったら気分転換にでも付き合うし」
ニコリと笑いながらいい感じ風のことを口にする。これで気を遣っているつもりなのだから実に早紀らしい。
これが第三者としてならば滑稽で笑えるかもしれないが
昨日の今日で当事者である俺にとっては傷口に塩を塗られているのと同じだ、
正直そっとして置いて欲しいというのに……
「まあ、それだけじゃないのだけれどな」
これ以上失恋話を突かれてもキツイだけなので、無理矢理話題を逸らすことにした
もちろん精一杯の強がりである。
「それだけじゃないって、彼女と別れた以外に何かあったのか?」
「まあ、あったといえばあったな。今朝変な女に絡まれて……」
俺は咄嗟に今朝あったことを二人に話すことにした、今考えると不思議な体験と言えなくもない出来事ではあった。
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