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恋の形  作者: 雨乞猫
18/30

恋の形18

「ごめん優斗、遅くなっちゃって……」

突如帰ってきた母親とみのりが鉢合わせになる


母さんはみのりの姿を見て、目を丸くして固まっていた。まずい、何もないはずなのにこれはやたらと気まずい。


「初めまして、私は宮里みのりと申します、バイト先で松岡先輩にはお世話になっています」

 

咄嗟に丁寧な挨拶をするみのり、驚きのあまり固まっていた母さんもハッと我にかえる。


「あらあらあら、これは、これは。こんなむさ苦しい所へようこそ。随分と可愛らしい子ね、やるじゃない優斗」

 

母さんがニヤニヤしながらこちらを見てくる。


「違う、みのりはそんなんじゃない、ただのバイト先の子だ」


「そんなこと言って、下の名前を呼び捨てとか。あんたもすみに置けないわね、母さん帰って来るのが早すぎたかしら」


「だから違うって言っているだろうが‼︎」

 

苛立つ俺とは対照的に母さんは嬉しそうに俺の顔を覗き込むように見つめている。


ああ、面倒臭い。本当に彼女ができた時もこんな感じになるのだろうか?そう思うと今から憂鬱だ。


「あの、本当に松岡先輩とは何もないのです。私が家の鍵を無くしてしまって帰れなくって困っていたところを


松岡先輩が(親が帰ってくるまでうちに来てもいいよ)と言ってくれたのでお邪魔しただけなのです」

 

俺をフォローするようなみのりのナイスアシスト、だがよくもまあ咄嗟にこんな嘘をつけるものだと感心してしまう。


そしてみのりの話は続いた。


「それに松岡先輩には他に好きな人がいて、その相談というか


その人とうまくいくように協力してほしいと言われていたのです。ですから本当に私とは何もないですよ」

 

みのりの奴、話に信憑性を持たせるためとはいえ余計な事を……


「あらあら、そうだったの。それでもこんな遅くに男の子と二人っきりは危ないわよ」

 

おい、あんたは自分の息子を何だと思っているのだ?


「はい、今それを、身をもって感じていたところです。


ちょうどいいところでお母様が帰ってきてくれたので助かりました」

 

さわやかな笑顔でとんでもない事を言い出すみのりさん。母さんの表情が一変しこちらに鋭い視線を向けてくる。


「ちょっと、いい加減にしろよ、みのり。俺がいつお前をそんな目で見た⁉︎」


「先ほどまでずっとそんな目で見られていましたが?私の気のせいだったですかね」

 

含みのある言葉と笑みを浮かべて嬉しそうに語るみのり。こいつさっきの仕返しでもしているつもりか⁉︎


「優斗、あんた……」

 

気がつくと母さんがものすごい顔でこちらを見ていた。


「違う、そんなことは決してない‼︎」

 

言い訳すればするほど深みにハマっていく、母さんの後ろで終始ニヤニヤしているみのりがとにかく腹立たしい。


そんな時、みのりのスマホが突然鳴った。


「はい、わかりました、すぐ行きます」

 

端的な会話で電話を切るとみのりはニコリと微笑み頭を下げた。


「父が迎えに来てくれたので私は帰ります、お邪魔しました」

 

丁寧な挨拶と、とんでもない爆弾を置いてみのりは帰って行った。


その後、母さんから鬼刑事のような尋問があったのはいうまでもない。


俺はこの夜、女の怖さというものを知った気がした。


 

翌日、いつものようにバイト先で篠原さんと顔を合わせ、さりげなく今度のデートの話をする。


俺の予算の都合もあるのであまり高くない店をなるべく多く回れるようにと頼んだ。


「私たちバイトをしているとはいえ高校生だものね、年相応のお店巡りをしましょう」

 

ニコリと笑ってそう言ってくれた。篠原さんのお父さんは凄腕の弁護士であり


政治家の顧問弁護士を務めるほどの有名人である。だから家はお金持ちのはずなのだが


家の方針なのか本人の希望なのかはわからないが、こうしてバイトを続けている。


しかも平日は学校が終わるとほぼ毎日、そして土日も毎週びっちりとシフトを入れていた


だから週末に二人揃ってバイトを抜けるのは厳しいかもしれないと思ったが


デートに行く日には別のバイトの人がシフトに入ってくれる事になった。


おそらくみのりが裏で手を回してくれたのだろう。


「私、行きたい店があってね。半年ぐらい前にテレビで紹介された店なのだけれど


今なら少しは空いているかなって。でも一人では何か入りづらくて


松岡くんが一緒に行ってくれるなら嬉しいな」

 

屈託のない笑顔で話しかけてくる篠原さんは本当に可愛い。


俺の心は激しく揺れると共に、胸の奥では葛藤が渦巻く。


「へえ、それってどんな店?」


「イタリアンパスタの店よ、シェフが本場で修行した店だとか言っていたわ。


パスタとしては少々お高めだけれど二千円ちょっとあれば食べられるし、ダメかな?」


「二時間分の給料か……いいよ。俺も篠原さんと行きたいし」

 

俺の返しが少し意外だったのか、篠原さんは少し驚いた様子で顔を逸らした。


「もう、そんなことばっかり言って……」

 

顔を赤くして恥じらう姿が何とも男心をくすぐる。昨夜みのりに胸の内をさらしたせいで


今の俺には怖いものは無くなっていた。言い換えれば自己嫌悪による半ばやけくそ気味というのもある


だからこそこんな歯の浮いたセリフを恥ずかしげもなく口にできたのだ。


自分の発言を冷静になって思い返せば逃げ出したいぐらい恥ずかしいのだが。

 

そんな会話のやり取りをしていた時、一人の客がきたので俺はすぐさま接客モードに切り替えた。


「いらっしゃいませ、ご注文の方は……」

 

そう言いかけた時、俺は思わず息を呑んだ。


「よっ、頑張っているみたいだね」


 客として俺に声をかけてきたのは制服姿の早紀だった。


「どうして……」

 

驚きのあまり言葉を失っていると、早紀はニコニコしながら口を開いた。


「いや、優斗がバイトを始めたって聞いたからさ、どれどれ少し見てやろうかな?と思って見にきたの。


頑張っているみたいじゃん、そのエプロン結構似合っているよ」

 

早紀がここに来たのはからかい半分、興味半分と言ったところか。


今度はニヤニヤしながら俺のエプロン姿を眺めている。だが目の前にいる早紀は先日の俺との事を忘れているのだ。


あのデートした日の事を、涙ながらに俺を好きだと言ってくれた事、そして口づけを交わした事も……


「今バイト中だから、からかい目的なら帰れよ」

 

精一杯の平静を装い、突き放すようにぶっきらぼうに言い放つ。


今の俺にはそれが精一杯だった。俺がこれほど動揺しているのは早紀の笑顔が


〈この前私の事を好きだと言って唇まで奪っておいて、今度は他の女にちょっかいをかけているの?〉という風に見えてしまうのだ。


もちろん早紀はそんな事を微塵も考えてはいないだろう


何せ早紀にはあの時の記憶がないからだ。しかし俺にはそう聞こえてしまうのである。


「そんなに邪険にする事ないじゃん、ちゃんと客として買いに来たのだし。ここの弁当は何がおすすめ?」


「唐揚げとか美味いよ」


「じゃあ、唐揚げ弁当一つで、ご飯は普通でいいよ」

 

この何気ないやりとりが一々心に突き刺さる。二人で過ごした時間はあれほど楽しく


あっという間に時間が経った印象なのに、今ではものすごく長く感じてしまう。


「じゃあね、邪魔して悪かったよ、バイト頑張ってね」

 

そう言い残して早紀は帰って行った。本当にそれだけの事だった、その言葉に裏などない


純粋に俺のバイトを見に来ただけなのだろう。だがそれが俺には何より辛かった。


「松岡くん、今の人は……」

 

篠原さんの問いかけに俺はハッと我にかえる。


「ああ、あいつはクラスメイトだよ。昔から知っている幼馴染というやつかな?」

 

咄嗟に誤魔化すが篠原さんは無言のままジッとこちら見つめている。


その目は〈本当にそれだけ?〉と言っていた。たったあれだけのやり取りで何かを感じ取ったようだ。


どうして女という生き物はどいつもこいつもこう勘が鋭いのだろうか?


ここで下手に誤魔化して信用を落とすより、ここは素直に白状してしまった方がいいのではないか?


と考えた俺は意を決し話すことにした。


「実は俺、あいつのことが好きだったのだけれど、ちょっと前に振られてさ……


だから少し思うところがあって……」

 

全ての真実を話すわけにはいかないので本当半分、嘘半分くらいの内容で話しをした。


「そうなんだ、あの子が松岡くんの……でも振った相手のバイト先にまで見にくるなんて、ちょっと……」

 

思わぬ流れで矛先が早紀に向いてしまう。篠原さんは早紀のことを無神経な女だと思ったのかもしれない。


「違うんだ、振られたと言っても俺は早紀に告白していない。


ていうか告白する前にあいつには他に好きな人がいることを知って


勝手に落ち込んでいたというだけなのだよ、だから……」

 

俺は慌てて否定した、早紀の事を無神経で嫌な女だと思われるのが我慢できなかったのだ。


「ふ〜ん、彼女の事を必死で庇うのね」

 

何とも含みのあるお言葉である。俺は必死で思考を回転させた


脳の糖分がカラカラになるほど考えたが上手い返しが見つからない。


これはどう答えれば正解なのでしょうか?教えてみのり先生‼︎

 

俺は背中に冷たい汗をかきながら生きた心地がしないでいると


篠原さんはクルリと背中を向けて小さな声でつぶやいた。


「でも松岡くんがどういう人か、また少しわかった気がした……」


「えっ?何、なんて言ったの?」

 

何を行ったのか、うまく聞き取れなかったので聞き返したのだが、彼女は悪戯っぽい笑顔を浮かべながら口を開いた。


「ふふっ、教えない」

 

その笑顔はまさに小悪魔という言葉が似合う魅力的な姿であった。益々彼女に心動かされていくのを感じた。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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