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恋の形  作者: 雨乞猫
16/30

恋の形16

家に帰ると早速タッパーをレンジでチンして食卓に並べる。


母親が何かを言いたそうに妙にニヤニヤしながらこちらを見てくるが、もちろんガン無視である。


「何?それ女の子の手料理?」


「そんなんじゃねーよ、その……バイト先でもらったから」


「ふ〜ん、そうなんだ〜」

 

ニヤニヤと楽しそうに意味深な言葉で探りを入れてくる母親。


もはやバレバレのようだが、ここまできたら嘘を突き通すしかない。


まだ付き合ってもいない彼女の事で母親に茶化されるとか考えただけでも最悪である。


そもそも思春期の男子高校生の心にズケズケと土足で踏み込んでくるこの無神経さ。


母親という生き物は青春と共にデリカシーという言葉を置き忘れてくる生き物なのだろうか?

 

いつもの年寄りくさい夕食メニューの中で燦然と輝くカキフライ、俺は両手を合わせて感謝の思いを込める。


「いただきます」

 

まずはノーマルカキフライを口に運ぶ。揚げ物すら滅多に出ない上に牡蠣が嫌いな母親


我が家にとってカキフライが食卓に並ぶ事など記憶にないほどの奇跡なのである。


「うめ〜」

 

涙が出るほど美味かった。そんな俺の姿を見て、母親が箸を伸ばして一つ横取りしようとするが俺はそれを全力で阻止する。


「一つぐらいくれたっていいじゃない」


「ダメだ。そもそも母さんは牡蠣が嫌いじゃないか、揚げ物も苦手だと言って全然作ってくれないし


そんな有り難みのわからない人間に食べさせるわけにはいかねーよ」


「ふ〜ん、ケチ」

 

言葉ではそう言いながら、妙に嬉しそうな母親。もちろん本当に食べる気などなく


俺の反応を面白がっての所業だろう。それがわかっているだけに余計に腹立たしい。

 

そんな母親からのハラスメントを受けながら、俺はもう一つのカキフライへと手を伸ばす。


そしてそれを口に入れた時、脳天に衝撃が走り、体が硬直した。

どうしたの、優斗、それ美味しくなかったの?」


「いや、そんなことはないよ……」

 

俺の様子がおかしいことに気がついた母親が問いかけてきたが、俺は必死で平静を装う。


もう一つのカキフライはチーズ風味のものだった


ふんわりと香るチーズの風味が何とも食欲をそそり牡蠣とチーズのマリアージュが渾然一体となって口の中に広がる。


味は申し分なく美味しい、そう、文句のつけようもなく美味しいのだ……


ではなぜ俺がこんなに驚いているのかというと


このチーズ風味のカキフライは前に香奈ちゃんが作ってくれたものと同じだったからだ。


二人で出掛けた時、初めてお弁当を作ってくてくれた香奈ちゃん。


そのおかずの中にこれと全く同じ物が入っていたのである。その時の記憶が蘇りものすごく複雑な気持ちになる。


「ご馳走様」

 

全てを食べ終わった俺はそそくさと自室へと戻りいつもの様に今日あった事をみのりに報告した。


「……と、いう訳だ」


〈そうですか、手作り料理をわざわざ持ってきてくれたとか、いい傾向じゃないですか〉


「ああ、そうだな」


〈そのいい流れのままデートに誘って……って、どうしたのですか?何か元気がないですね〉

 

俺の様子に何か感じたのか、みのりがすかさず問いかけてくる。


「そんな事はない、少しバイトで疲れているだけだ」


〈そうですか、ならいいのですが。では引き続き頑張ってくださいね、松岡さん〉


「ああ、わかっている」


〈それでは、おやすみなさい〉


「ああ、おやすみ」

 

俺は今日あったことだけを簡潔に説明し電話を切った。


この心の中にあるモヤモヤが何なのか俺自身にもわからない。それをはっきりと自覚するのはもう少し後の話である。


「昨日はありがとう、おいしかったよ」


「そう、それなら良かった。美味しくなかったとか言われたら少し凹んでいたし」


「そんな事、いう訳ないじゃん」


「でもその言い方だと、(本当は美味しくなかったけれど、とりあえずそう言っておこう)という風にも聞こえなくはないよ」

 

俺の顔を覗き込むように悪戯っぽく言う篠原さん。それに合わせて俺もおどけた感じで返してみる。


「バレたか」


「あっ、ひどい‼︎」

 

俺たちは思わず吹き出し、笑ってしまった。


「でも本当に美味しかったよ、篠原さん料理上手だね」


「今更、フォローのおべっかですか?」


「いえ、決してそのようなことはございませぬ。拙者の本心からの言葉でござるよ」


「うむ、苦しゅうない。もっと褒めても良いぞ」


「はい、拙者がミシュランの担当者ならば星を五つ差し上げているところでござる」


「うむ、ミシュランの星は最高で三つ星であるが、そこは不問に処す」


「あれ、そうだっけ?」


「ホテルとかだと五つ星とかだけれどね。レストランとかだと三つが最高だよ」


「じゃあ、その枠に収まりきれなかったということにしておいて」


「調子いいわね、でもありがとう。やっぱり料理を褒められるって嬉しいから……」


今度は少し恥ずかしそうに俯く篠原さん。こういった仕草も含めてこの子は本当にかわいいと思う。


男心をくすぐるというのはこういうことなのだろうか?


「今回のお礼に今度食事とかどう?流石にミシュランに乗っている店とかは無理だけれど」


 篠原さんは少し考えた後、小さく頷く。


「うん、いいよ。でも割り勘で」


「えっ、お礼をしたいのだからせめて奢らせてよ……それにこちらが誘っておいて割り勘とか男として何かカッコ悪いし」


「そんなのいいよ。私たちまだ高校生だし、そこまで気にしなくていいよ。


それに私美味しい物を食べ歩くって趣味みたいなモノだから、中学の頃から友達とよく行っていたのよ」

 

これ以上奢る、奢らないで突っ張って篠原さんの機嫌を損ねても嫌なので、ここは引き下がることにした。


「わかった、じゃあ割り勘ということで。それにしても中学の頃から趣味で食べ歩きって、凄いね。


じゃあ篠原さんは美味しい所とかいっぱい知っていそうだね」


「うん、それなりには……でも味覚って人によって感じ方が違うじゃない。あくまで私が好きってだけなのだけれどね」

 

嬉しそうに話す彼女の姿を見ると、本当に料理や美味しい物を食べるのが好きなのだな、と感じさせる。


「まあ確かに、ネットやテレビで評判の店に行ったけれど、実際はあまり美味しくなかったとかいう話もちらほら聞くし」


「人によって味の好みは違うし、食材にも好き嫌いもあるしね。松岡くんは何か嫌いなものとかあるの?」


「俺は椎茸が苦手だな。あれだけはどうにも……それなのに母さんはよく料理に入れてくるのだよ。


何度もやめてくれって言っているのにさ」


「クスッ、何だか想像すると笑える光景だね。さっきまで(男としてカッコ悪い)とか言っていたくせに


椎茸が食べられないとか」


「あっ、笑ったな⁉︎篠原さんはどうなのだよ?苦手な食べ物とかはないの?」


「あるけれど、教えない」


「あっ、それずるいじゃん‼︎」

 

目を細め、楽しそうにクスクスと笑う彼女を見るとこちらまで幸せになってくる。


そしてこんな何でもない会話がすごく心地いい。


少し前まで女の子とはまともに喋れなかった俺が、香奈ちゃんや早紀と過ごした経験により


篠原さんとこんなに自然と話せることが自分でも不思議に感じていた。これも成長というのだろうか?


「じゃあ、今でもちょくちょく友達と食べ歩いたりしているの?」


「最近はちょっと、バイトと勉強で忙しいから……」

 

先ほどまで満面の笑みを浮かべていた彼女の顔が少し曇る。何だ、この反応は?


「どうしたの、何か悩み事でもあるの?」

 

少し踏み込んだ質問だが、正直気になってしまったので、日本の未来とか作戦とか関係なしに純粋な気持ちで聞いてみた。


「何でもないよ、本当にバイトと勉強で忙しいだけだから」

 

微笑みながらそう答える篠原さん。だがその笑顔は先ほどまでのものとは明らかに違っていて、俺には作り笑いに見えた。


「そう、ならいいけれど。俺頼りないかもしれないけれど、何かあったら言ってよ


少しは力になれるかもしれないからさ」

 

柄にもないことを口にしてしまったが、これは本心である。もちろん日本の未来の為に


そして彼女の命もかかっているという理由もあるが、本当に彼女の力になりたいと思ったのだ。


「ありがとう、松岡くんいい人だね」

 

優しい目でそう口にした篠原さん。だがその何気ない一言は俺の心に突き刺さった。


「そんなことないよ、俺はいい人なんかじゃない……」

 

俺はすぐにその言葉を否定する、篠原さんは謙遜だととってくれた様だが俺はその時はっきりと気がついたのだ。


ここのところ感じていた心のモヤモヤと自分自身に……その後、お互いそれ以上踏み込んだ話はせず、その日は別れた。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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