恋の形10
翌日、学校の教室で早紀と週末デートの約束をする。またもやデートプランはみのり任せだが
俺が考えてもピント外れのデートになりかねないから正直ありがたい。
そして週末、待ち合わせ場所はいつものハチ公前。みのりに言われたこともあるが
今日は決めてやる‼という強い意気込みの元、デートに挑んだ。
「お待たせ、優斗」
早紀は初めてのデートの時と同じ服装を身に着けていた。
「早紀、その服は……」
「気が付いた?この服は優斗と初めてデートしたときに着てきた服だよ。
正直同じ服はどうか?ていうのもあったのだけれど私バイトとかしていないし
あまり服も持っていないから」
「俺、ファッションとかわかんないし、早紀が似合っている服なら何でもいいだろう。
その服も似合っているし」
「ありがと、優斗に褒められるのも悪くないね。女性のファッションとか全然興味なさそうだけれど」
もちろん、女性ファッションのファの字も知りません。
みのりに〈服や髪型、化粧にアクセサリーの類はわからなくてもとにかく褒めろ〉
と散々聞かされていたので頑張ってみた。そして〈女性は褒められた分だけ綺麗になるのです〉
というご指導までいただいた。
「この服、結構高かったけれど、頑張った甲斐があったかな」
嬉しそうに笑う早紀は本当に輝いて見えた。話半分で聞いていたみのりの助言が案外的を射ていたのだと改めて思い知らされる。
「でも優斗の事だから〈女は何も着ていないのがベスト〉とか言い出すかと思ったけれどね」
今度は俺の顔を覗き込むようにいたずらっぽく笑う早紀。
コロコロ変わる表情と嬉しそうに話し掛けてくる仕草がたまらなく可愛い。
「お前は俺を何だと思っているのだ?」
「格闘技にしか興味がないスケベ男と思っていますが?」
「何だ、それは?言っておくけれどな、男は皆スケベだぞ。
全世界の男は、女性は何も来ていない姿が一番美しいと考えているはずだ」
「凄く偏った思想と妄想で全世界の男を代表してしまっていいの?
多分かなりの男性から反対意見が来ると思うのだけれど?」
「これに関して異論は認めない、別にSNSとかで発信するわけじゃないのだからかまわないだろ。
早紀だってヌード姿が一番美しいのではないか?知らんけど」
いつものノリで軽く言ったつもりだったが、早紀は突然顔を赤くして視線を逸らす。
「止めてよ、そういう事言うの……」
えっ、何だよ、その反応は?これじゃあまるっきり俺がセクハラ親父みたいになっているじゃねーか⁉
「冗談だよ。冗談。だからセクハラとか言い出すなよ?」
「私は綺麗なんかじゃないよ、胸もおしりも小さいし、顔だって……
だからこうやって頑張っているの。私の裸なんて、見たってがっかりするだけだよ」
「そんな訳ないだろ」
急にしおらしくなって顔を伏せる早紀を見て、俺はすぐさま否定した。
「他の人間がどう思うかは知らんが、少なくとも俺は早紀のヌードを見たいぞ
凄っごく見たい。頭の中で何度か想像したこともあるしな」
俺は何を言っているのだ?この話題と言葉のチョイスは明らかに間違っている
絶対に間違っているとわかっている。もしもこの事をみのりに聞かれたら一時間コースで説教だろう。
だがなぜだかわからないが言わずにはいられなかったのだ。
「何よ、それ……」
「ごめん、これこそ完全なセクガラだな。でも本人が何と言おうと
俺が憧れている早紀のヌードをそんなふうに言ってほしくなかった。変な言い方だがどうしても言いたかった」
「最低、自分がスケベだって言っているだけじゃない」
「そうだ、その通りだよ。悪いか?」
「悪いに決まっているじゃない、何を開き直っているのよ」
「それに関しては全面的に俺が悪い、裸で土下座しろというのならばするぞ」
「いらないわよ、そもそもアンタが脱いでどうするのよ、全く……」
早紀は少し呆れ顔で軽くため息をつく。今日は決めようと思っていたのに、初っ端から最低の滑り出しだ。
しかし早紀は恥ずかしそうに視線を逸らし、小さな声で呟いた。
「でも……ありがとう」
「えっ⁉俺、今お礼を言われるようなこと言ったか?」
「別に……優斗風に言うならばどうしてもお礼が言いたかった、それだけよ」
何だかわからないが、怒ってはいないようだ。それに何となくだが、今凄くいい感じになっている気がする。
どうする?え~い、男は度胸、ここで言うか‼
俺は早紀がこちらを向くのを待って真剣な顔と口調で語りかける。
「なあ早紀、本当はデートの最後に言うつもりだったのだけれど……」
「な、何?急に改まって……」
いざとなると緊張して言葉に詰まる、胸の鼓動が急激に早くなり、やたらとのどが渇く。だがここまで来たら言うしかない。
「あのさ、その……俺と正式に付き合わないか?」
「えっ、それって……」
「うん、俺の彼女になって欲しいという事なのだけれど……ダメか?」
ありったけの勇気を絞り出し覚悟を決めて告白したのだけれど、想像以上に緊張してしまった。
香奈ちゃんの時は向こうから告白してきてくれて、その流れで付き合うことになったが
今回は俺の方から切り出した。空手の試合よりも緊張し、自分の心臓の音が聞こえてきそうなほど激しく高鳴る。
返事を聞くまでの時間がやけに長く感じた。
早紀は再び背中を向けうつむいて何かを考えているようだった。
今回の告白は日本を救うための一環だとわかってはいるが
正直今はそんな事どうでもいい。今では本当に早紀の事が好きで本気で付き合いたいと思っているからだ。
「私で、いいの?」
「ああ」
「でも、私、香奈みたいに可愛くないし、綺麗じゃないし、女っぽくないし……」
「それでもいい」
「でも私は……」
まだ踏ん切りがつかないのか、背中を向けながらモジモジしている早紀。
俺はしびれを切らせて後ろを向いている早紀の両肩を掴み、強引にこちらを向かせた。
「返事を聞かせてくれ、俺と付き合うのは嫌なのか、それともOKなのか、どっちだ?」
やや強引すぎるかとは思ったが、何かモヤモヤしたので思い切って迫ってみた。みのりには
〈女性にはとにかく優しくですよ、いいですね?〉と散々念を押されたのに
また言いつけを破ってしまった、出来の悪い生徒ですまない。
両肩を掴んで強引に迫るという脅迫まがいの告白に、早紀も戸惑いを隠せない様子だった。
「別に、嫌じゃないよ。全然嫌じゃない。むしろ嬉しいよ」
「だったらOKなのか?」
「その……優斗は香奈に振られたばかりでその代わりとして……とか、私、そういうの……」
「香奈ちゃんは関係ない、何度言っているだろう、俺は早紀と付き合いたい」
「だって……私は香奈みたいに性格可愛くないし、あんな美人じゃないし、女っぽくなくて…本当にいいの、私が彼女で?」
「早紀じゃなければ嫌だと言っているのだ。いい加減返事をくれ」
すると早紀は背筋を伸ばし、まっすぐにこちらを見ながら言葉を発した。
「はい、私を優斗の彼女にしてください」
その言葉を聞いた瞬間、俺は嬉しさよりも全身の力が抜けその場にへたり込んだ。
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