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私と、わたくしと、お父さまとお母さま



「「宣誓」」


「ソフィア・マーベル」

「リュドシエル・ヴァニス・ローデリヒ」


「「私たちはここに、永遠の愛を誓います」」


美男美女が柔らかな微笑みと共に告げた言葉に、拍手喝采が巻き起こる。王太子と聖女の婚姻式を誰もが祝福しようと国立公園広場に詰めかけていた。より多くの人に見えるように整えられた壇上で、新郎新婦は幸せそうに笑いながら集まった民衆に手を振る。

それを、路地の陰から見つめる男が一人。建物に背を預けて腕を組み、めいっぱいの幸福に包まれた光景を彼は鼻で笑うように顎をあげた。

「カワイソウになァ?ゴ主人サマ。誰ももう、アンタのことは覚えちゃいねェとよ」

ポツリと一言を零し、男は路地の奥闇に姿を消していく。そして画面は白く染まり……スタッフロールとエンディング曲が流れるのだ。




「んぁぁぁぁああ!ギル好きぃぃぃぃいい!」




ドッタンバッタン、とベッドの上で悶絶しているのは私。生まれも育ちも日本の一庶民高校生女子。一体何をしていたのかと言われると、私は今、大好きな乙女ゲーム【永遠の愛を誓って】略称【とわちか】の最推しが出るシーンを再生していたのだ。

「はぁぁぁ、やっぱりこのゲームはギルが一番カッコイイよ……ギル大好き、愛してる、結婚しよ……」

今でこそこんな風に乙女ゲームにどハマりしている私だが、別にゲーマーなわけでもなければ、乙女ゲーが大好きだった訳でもない。ただただこの作品のたった一人だけに惚れ込み推しているのだ。

その推し、というのが。

「ギル……うぅぅぅ、ギルぅ……」

ゲーム内でもイレギュラーな褐色肌に、短く切り揃えられた黒髪。吊り上がった三白眼、常に不敵な笑みを浮かべる口元。ぶっきらぼうな口調はいかにも敵役らしく、ストーリー上ではライバル皇女の手先としてあれやこれやと主人公たちに嫌がらせをしてくる。


そう、つまり彼は――脇役(モブ)なのである。


「お願いだから、私にギルを攻略させて……神様仏様運営様……」

今日もまた、数少ない彼の登場するシーンを何度も何度も見返し、やりきれない気持ちに心が暴れる。私が主人公だったら王子でも騎士でも公爵でも隣国の皇子でもなくギルを選ぶのに。

「公式設定も少なすぎて分かってるのは見た目と愛称と悪役令嬢の奴隷ってことぐらいだけど……」

できれば本名が知りたくて何度も何度もアンケート書いて送ってるのに。今のところ公式はギルについてうんともすんとも言ってくれない。

「ギルと結婚できるなら死んでもいいのになぁ……」

保存したスクリーンショットを見つめながら、ひとりごちる。



そこで、私の意識は閉じられた。

――神の雷によって。






「……え…………?」


突如として頭を駆け巡った短く薄い誰かの一生。それが前世の私であると気づいたのはすぐのことでした。

「どういう……ことでしょう……?」

こてり、と首を傾げて考えていると、手紙を差し出してくださっていたお父さまが心配そうな顔で私を見ます。


「どうしたんだ、大丈夫か?」

「リュドシエル王子からのお手紙を見た途端、急にぼうっとして……具合でも悪いの?」


お医者様に診てもらう?とお母さまが私の額に手をあててくれる。違うんですお母さま、私は具合が悪いわけではないのです。ただ……ただ。



「わたくしは……だれ、ですか……?」



過去の自分と、今の自分が。曖昧になってしまっていたのです。


くらりと視界が揺らいで、重くなる瞼に逆らわず目を閉じます。お父さまとお母さまの焦ったような声が聞こえた気がしたけれど、今の私にはもう何がなんなのだか分からず。私は一体何者なのか、ということだけが。頭の中をぐるぐると巡って。


ついには、そのまま倒れ込んでしまったのでした。



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