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十六猫目 夢の蝙蝠

 暗い、暗い、夢の底。


 黒い、黒い、夢の奥。


 目を閉じた暗闇に、思い描かれる夢模様。

 ただの脳内の出来事として、ただの幻として捨て置くのはあまりにももったいない。

 だって、夢とは人が現実以外で唯一視ることができるものなのだから。







 仄かな光が灯る。

 本が山積みとなった書斎のような部屋。出口の無い小部屋で、ネコサマは蝋燭の光を頼りに本を読んでいた。


『にゃんこの気持ち』


 もっとも、それが役に立つものであるとは限らない。しかしネコサマは真剣な眼差しでネコの絵と文章を追っていた。


「……尻尾をくねらせる時はワクワクしてる時」


 自分の尻尾を見ながら、ぎこちなくくねらせ始めるネコサマ。意識して動かすのは難しいと感じたのか、尻尾を止めてゴロンと寝転がった。


「モウ終ワリ?思ウヨウニ動カセナクテモドカシクナッタ?」


「やめてよノクたん〜。その通りなんだから余計悔しくなっちゃうじゃん」


 天井で逆さにぶら下がっていたノクタヌスに見破られ不機嫌そうに尻尾をだらんと下げた。無意識であれば尻尾はちゃんと動くようだ。


「勉強ハイイケド、ソノタメニ夢ヲワザワザ使ワナクテモヨクナイ?」


「だって〜……恥ずかしいじゃん。猫の神様が猫の勉強なんてさ」


「一人ニナレバイイデショ」


「やだ。起きてるなら誰かに構ってもらいたいよ」


「猫ジャナクテ兎ナンジャナイノ」


 そうかもしれないと笑った後、少し元気が出たのかまた尻尾を動かし始めるネコサマ。その様子をノクタヌスは傍に降り立ち見ていたが、何やらユラユラと揺れ始めた。


 どうしたのかとネコサマが横目で様子を見てみれば、ノクタヌスは顔の中心にある縦に裂けた黄色い瞳を眠たげに瞬きしていた。ついには耐えられなくなったのだろう。完全に目が閉じられ、その場で動かなくなってしまった。


 暗く静かな部屋で、しばらくページをめくる音のみがするのみだった。しかし自分の横から伸びた影が僅かに揺れたのをネコサマは見逃さなかった。


「もうあの子も寝たでしょ。暇なら本でも読んだら?」


「ふむ……しかし、ここは私の世界だ。ここにある本の内容は全て把握している。読んだところで意味は無いと思うのだが」


 流暢な言葉遣いが返ってきた。真ん中の目は閉じたままだ。しかし、その周囲にある6つの赤い目はネコサマの方を向いていた。ノクタヌスの返答にネコサマはいやいやと手を横に振る。


「知ってるのとやってみるのとではまるで違うよ。僕が尻尾を上手く動かせないのを見てればわかるでしょ?内容を知っていても、実際に絵や文字を見るのは一つの楽しみにできるものなんだよ〜」


 人によるけどね、とネコサマは続ける。ノクタヌスは少しばかり顎に異形の手をあてて思考したあと、近くにあった本の山から適当に一冊取り出してみた。


『猫の家族』


「………………」


「僕の読むものだからほとんど猫のものだけど、それは中々良かったよ。飼い猫の家族のハートフルストーリーだね。きっとノクタヌスも気に入るよ」


「……そうか」


 それ以降に言葉は無く、ノクタヌスは表紙をめくった。ネコサマもまた、続きのページを開きつつ書かれている動きを真似していくのだった。







 ある日、クッションの上でお父さんねこがねむっていました。


 そのクッションをねらっているのでしょうか。子ねこがやってきて、においを一生けんめいかぎながらお父さんねこにちかづいていきます。


 子ねこに気づいたお父さんねこは、にじりよってくる子ねこからはなれてクッションをゆずることになりました。


 子ねこは歩いていくお父さんねこを見つづけます。かいぬしさんはけんかしたのかとふあんになりました。


 お父さんねこは、まどのちかくまできました。開いたまどからはすずしい風とお日さまがあたっていい気もちです。


 カーペットの上で体をよこたえたお父さんねこは、まんぞく気なはな息を鳴らしてねむりこみます。


 しばらくじ間がすぎて、かいぬしさんはまどをしめようとへやに入りました。


 あっ!


 かいぬしさんは小さくおどろきました。


 ねむっているお父さんねこに、ぴったりと子ねこがくっついてねむっているのです。


 子ねこはお父さんといっしょにねむりたかったんだね。


 それから、お父さんねこと子ねこはかいぬしさんとしあわせにくらしました。







「………………」


「読み終えた〜?その本、そういう小話がたくさん入ってるんだよ。他にも色んな本があるけど、見てみる?」


「……いや、私はこれでいい」


 ノクタヌスは本を懐にしまうと、その場から消えてしまった。よほど気に入ったのだろうとネコサマはクスクス笑う。何にせよ、自分の紹介した本を好いてくれるのは嬉しいものがあった。




「……あれっ、ノクタヌスー!?キミがいなくなったら僕この世界から出られないんだけどー!!」


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