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三題噺もどき2

筆と

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくろくじゅう。

 


 ざわざわと人が蠢く。……犇めくと言った方がいいのだろうか。

 正直、この二つの言葉の違いがあまり分からない…なんだろう。席についてざわざわと声がしているだけで、動いているわけでもないから、犇めくだろうか……?

「……」

 まぁいいや、そういう事は。うん。どうでもいい。

 正直今すぐにでもここから出たいので、思考を他のことに持っていっていないと倒れそうなもので。

 こういう人混みは嫌いというか、もう絶対入りたくないのだが。

 せめて端の方に座れたらよかったのに…友達がものすごいはしゃいでこんな中途半端な一に連れてくるから……。

「あれ、だいじょうぶ?」

「ん?んん、平気、大丈夫」

 当の本人は、こちらのことに今気づいたらしい。もう席を立ちようがないタイミングで声を掛けてきた。

 それなりに付き合いは長いが、こういう所は直してほしいものだ。

「この辺じゃないとあんまりみえなくてさー」

「そうだね…こんだけ人が居れば…」

 見渡す限りの席が、すべて埋まっている。

 異なる服を着てはいるが、全て同じ年の、若者たち。―まぁ当然なのだが。ここに居るのは、高校生と、その引率の先生や選手(選手と言っていいのか?)の保護者達ばかりだ。

 多分、三年生だけだろうが、それでもこの人数なの恐ろしいな……。何がかは知らんが。

「……あ、始まるよ」

 ここは、県立体育館というやつなのだが。

 普段はきっと、仲で他のスポーツ大会とか、普通に練習とかに使用しているのだろう。

 今日はその体育館に、大きな、真白の紙が置かれている。

 何メートルぐらいなんだろう……。

「……」

 その上(下?)に、横一列に生徒が並んだ。

 黒の袴に、白の上衣。

 それを赤のひもでたすき掛けしている。

「……」

 先程までのざわめきが、嘘のように一瞬にして静まり返る。

 それが合図と言わんばかりに、突然音楽が響き始めた。

「…わ…ぁ……」

 それに合わせて、先程列に並んだ生徒が動く。

 中心のあたりにいた一人が、筆をとる。

 自らの身長程もあるのではないかという程に、大きな筆。

 筆先を墨につけ。

 それを、勢いよく振りかざす。

 紙の上に落とした筆先は。

 勢いそのまま、走っていく。

「……」

 それを受け、他の生とも動き出す。

 リズミカルな動きで、少しずつ言葉を紡ぐ。

 真白だった紙に、黒で彩りを加えていく。

 沢山の思いを。

 沢山の願いを。

 ぶつけた作品を作り上げていく。

「……」

 初めてこれを目にしたが。

 こうも圧倒されるものなのかと思った。

 どれだけこのために時間を費やしたのだろうと思った。

 私ごときでは、計り知れないほどの思いと願いがあるのだろうと思った。

 周りの人間が気にならないほどに。

 目が奪われた。

「……」

 白と黒。

 たったのその二色。

 モノクロの世界であるはずなのに。

 確かにそこに彩がある。

 無駄な色はいらない。

 たった二色だけなのに。

 こうも感動を与えるのかと。

 酷く心を奪われた。

「……」

 曲も終盤に向かい、各々の役目を終え、紙の上からはけていく。

 その所作ですら美しい。

 リズムにのり、筆を操り。

 彼女たちは、舞い続けた。

「……」

 一番大きな願いをこめた彼女は。

 最後まで勢いよく、筆を操り続けた。

 大きく払われたそれは、掠れてはいても。

 その勢いと、その願いの大きさと、その思いの強さは。

 確かにそこにあった。

『ありがとう、ございました!!』

 声のそろったその言葉と共に。

 ワッ―!!と、拍手が巻き起こる。

 大きな歓声と、拍手に包まれ、彼女たちはその場を去っていく。

「……」

 最後まで、彼女たちは美しかった。

「……すごかったね」

「……うん」

 思わず、そんな言葉が漏れた。

 ただその言葉だけでは足りないと分かっていても。

 それだけの言葉しか出なかった。



 お題:彩り・モノクロ・筆

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