ジェネラルリザード
瘴気迷宮の二十四階層の広間にて、俺は大量のソルジャーリザードに襲われていた。
ソルジャーリザードは、二足歩行をしている大きな蜥蜴だ。
そいつら全員が鉄製の防具を纏い、武器を持っている。
「おらぁっ!」
一体のリザードマンを吹き飛ばすが、その穴を埋めるように丸い盾と剣を持ったリザード二体が前に出てくる。
他の棍棒を持ったリザードマンたちも俺を囲むためにゆっくりとにじり寄ってくる。
魔物とは思えない統率された動きだ。やりづらい。
「ソルジャーリザードだからって、ここまで連携ができるもんか!?」
ソルジャーリザードは確かに集団行動が得意な魔物だが、ここまで息を揃えたような連携ができるものだろうか?
相手の攻撃をかいくぐりながら視線を凝らすと、ソルジャーリザードたちの奥に仰々しいヘルムを被りながら指示らしきものを飛ばしている個体がいた。
ジェネラルリザード
LV32
体力:116
筋力:88
頑強:68
魔力:54
精神:77
俊敏:66
スキル:【指揮】【片手剣術】【盾術】【瘴気耐性(中)】
【鑑定】してみると、あいつだけ個体名が違い【指揮】をはじめとする複数のスキルを所有している。
「あいつのせいか!」
あのジェネラルリザードが広い視野を確保しながら、リザードたちに指示を出しているのだ。
リザードマンたちの連携がやけにいいわけだ。
そうとわかればまずは頭を潰すに限る。
俺は【身体強化(小)】を発動させると、盾を構えているリザード三体を力づくで吹き飛ばした。
吹き飛んだリザードたちは、後ろで待機していたリザードにぶち当たり、前衛が一気に崩れる。
その隙に俺は一気に跳躍し、ジェネラルの前に躍り出た。
ジェネラルに指示されて、傍を固めていた二体のリザードが守るように盾を構える。
俺は盾を一切気にすることなく、スキルとステータス数値を頼りに大剣を薙ぎ払った。
それだけで二体のリザードは吹き飛び、身を守る者のいなくなったジェネラルの胴体を袈裟斬りにした。
しかし、次の瞬間、俺の胴体めがけて剣が突き出される。
大剣を振り下ろして隙が出来ていた俺は何とか身をよじって回避しようとするが、躱しきることができない。
「【硬身】」
咄嗟に俺は手に入れたスキルを発動すると、ジェネラルの突き出した剣は硬質化した俺の皮膚によって弾かれた。
「ギエッ!?」
ただの人間の皮膚がこれほどの硬度を持っているとは思わなかったのだろう。ジェネラルが戸惑いの声を上げる。
その隙に距離を取ると、ジェネラルの周囲を再びリザードたちが固め始めた。
「あぶねえ、スキルがなかったら一撃貰っていたな」
先程のスキルは奈落にいたアーマーベアーという硬い鎧を纏っていた魔物を喰らって手に入れたスキルだ。使用するのは初めてで咄嗟にやってみたが、上手く発動できたみたいで良かった。
「にしても、なんでピンピンしてやがるんだ?」
俺の振るった大剣は確かにジェネラルの胴体を捉えた。
それなのにジェネラルの体には一切の傷がついていない。
単純にステータスは俺の方が上だし、数値が頑強に特化しているわけでもない。
俺の一撃を食らって無傷というのは明らかに変だ。
なにかからくりがあると思って周囲に視線を巡らせると、後ろで瀕死になっているリザードがいた。
ただ瀕死になっているだけなら何も違和感はないのだが、そのリザードの胴体には袈裟斬りにされたかのようなバッサリとした裂傷ができており、多くの血を流している。
まるで、ジェネラルが受けてしまった一撃を貰い受けたように。
ソルジャーリザード
LV25
体力:88
筋力:54
頑強:55
魔力:32
精神:21
俊敏:37
スキル:【片手剣術】【盾術】【瘴気耐性(中)】【肩代わり】
瀕死になったリザードを鑑定してみると【肩代わり】というスキルがあった。
「お前がジェネラルの一撃を肩代わりしているのか!」
そんなスキルがあるとは思わなかった。あったとしてもジェネラルの代わりにダメージを貰い受けることなど普通はしないだろう。
実力主義の魔物社会だからこそ、命じて実行できるスキルだろうな。
俺は念のために他のリザードも【鑑定】していく。
どうやらダメージを貰い受けるようなスキルを持っているのはあのリザードだけのようだ。
だったらジェネラルを倒す前に瀕死になったあのリザードを倒してしまう。そうしないと先ほどのように思わぬ反撃を貰ってしまうからな。
俺はジェネラルに武器を向けて襲いかかるとみせかけて、背後にいる【肩代わり】を持つリザードに襲いかかる。
まさかいきなり俺に狙い撃ちされるとは思っていなかったのだろう。ダメージを肩代わりして瀕死になっているリザードは俺の動きにロクに反応することができず、首を跳ね飛ばされた。
「ギャエエエエエエッ!」
いざという時の保険が潰されたことによりジェネラルが怒り狂った声を上げた。
ジェネラルの咆哮を聞いて、リザードたちが一気に押し寄せてきた。
「まとめてやってきてくれるなら助かる。【麻痺吐息】」
黒蛇から手に入れたスキルを使用し、黄色い霧を吹きかける。
「ギ、ギエエエッ!?」
放出された麻痺毒はまとめてやってきたリザードたちを包み込み、その動きを停止させた。
先程の【鑑定】でこいつらに麻痺耐性が無いことは確認済み。
リザードたちはまとめて戦闘不能となる。
俺の行く手を阻む奴らがいなくなれば自由だ。俺はジェネラルを守っている残りのリザードを瞬く間に始末する。
「後はお前だけだな」
強さの源である集団行動と連携を奪ってしまえば、ジェネラル一体を相手に苦戦することはない。
俺の振るった大剣はあっさりとジェネラルの首を吹き飛ばした。
●
「……さて、どうやって食べるかだな」
平和になった二十四階層の広間で腰を落ち着けて悩んでいた。
周囲には多くのリザードたちの遺骸がある。強くなるために食べるしかないのだが、どうやって食べるかだ。
普通の蜥蜴なんかは食べたことがあるが、大体が串に刺して丸焼きか、鱗や内臓を取って素揚げだ。
しかし、これほどの大きさになるとそれは厳しい。
マジックバッグの中に魔物を調理するための道具や調味料は一通り持ってきているが、この大きさの魔物を調理できる道具まではなかった。
となると、腕や脚だけを切り落としてそこを食べるか?
魔物とはいえ、リザードは二足歩行する人間に近しいタイプだ。
それを思うと妙に生々しくて食べづらい。
いや、ミノタウロスも同じ人型だったし、何を言っているんだって思うかもしれないが、あの時は色々と限界だったから考える余裕すらなかった。
だけど、今は余裕がある故に色々と考えてしまう。
「……変に考え過ぎるな。これも強くなるために必要なんだ」
人間に近しいから食べたくないなどと言っている場合じゃない。
こいつらの持つ【指揮】【盾術】【肩代わり】【瘴気耐性(中)】といったスキルは俺にないものだ。
喰うだけでそれを手に入れることができるんだ。強くなるためには喰べる以外の選択肢はない。
そもそも既に魔物を喰べる禁忌を犯しているんだ。
強くなるために人に近しい見た目をした魔物を喰うことになんの躊躇いがあるというのか。
Sランク冒険者を目指す以上、これくらいのことでまごついている暇はない。
そう決意して手でも脚でも喰らってやろうと解体をしてみたが、リザードたちの体はかなり細身なせいか可食部が少なかった。
食べられる僅かな部分も筋張っているようで調理をしてもあまり美味しくなさそうな気配。
それでも食べられるには違いないが、どうせ食べるなら美味しく食べたいと思うのが人間だ。
「他に食べやすそうな部位だと尻尾か……」
尾骶骨の辺りからすらりと伸びている尻尾。
表面を触ってみるとザラりとした皮膚の感触。
鱗も少なく、肉質もぷにぷにとしており柔らかそうだ。骨も少ないようで単純な可食部も多いように見える。
剣ですっぱりと尻尾を断ち切ってみると、中央に小さな骨があるだけで綺麗な肉質の断面が見えていた。
「尻尾が一番美味そうだな」
腕だろうが脚だろうが喰ってやると覚悟を決めたのにカッコ悪いが、美味しく食べられる部位があるならそこを食べるに越したことはない。
マジックバッグから調理道具を取り出すと、包丁を使って尻尾にある僅かな鱗を削いでいく。
鱗がなくなると黒蛇の時のように断面に切れ目を入れて、そこからざらついた皮膚を引っ張って剥がした。
尻尾の下処理を終えると、広間にある石を積み上げて竃に見立て魔法で火を起こす。
その上に油の敷いたフライパンを設置し、リザードの尻尾を食べやすい大きさにカットすると塩、胡椒を振りかけて投入。
「って、うおおおおお! 脂の量が尋常じゃねえな!」
開幕から派手にジュウウウッと油の弾ける音が鳴った。
リザードの尻尾肉は一般的な肉よりも脂身が強いのか、熱を通すと脂が滴る。
それと同時に香ばしい匂いが漂う。見た目からしてあっさりとした味かなと思っていたのだが、これは期待できそうだ。
やがていい具合に肉が焼き上がると、お皿へと盛り付ける。
魔物の肉をきちんと調理するのは初めてなので楽しみだ。今までは原始的な食べ方ばっかりだったからな。
「喰うとするか」
ナイフで切り分けると、じんわりとした肉汁が出てくる。
冷めない内に頬張ると、口の中で尻尾肉の旨みと脂身が弾けた。
「美味い!」
やはり特筆すべき点はギュッと詰まった脂身だろう。
噛めば噛むほど肉から脂と旨みが染み出てくる。
肉質はとても柔らかく非常に食べやすい。
濃厚な脂身がシンプルな塩、胡椒の味わいと非常に合っている。
「調味料があるって最高だな……」
奈落では調理道具や調味料なんて贅沢なものはなかった。
それだけマズかろうが、美味しい食材だろうが、ただ焼いて食べるしかない。
それのなんと味気なかったことか。
しかし、今の俺にはマジックバッグがある。
荷物を手軽に大量に持ち歩けるようになったことで迷宮の中でもこうして調理をすることができ、魔物を美味しく食べられるようになった。
これだけで二十万レギンを払った甲斐はあるというものだ。
リザードの尻尾肉を食べ終わると、同じようにジェネラルの尻尾も食べてみる。
こちらはリザードと比べると脂身は薄かったが肉の弾力が強かった。
味のインパクトは劣るかもしれないが、これはこれで食べ応えもあり、脂身もちょうどいいと言える。悪くない。
名前:ルード
種族:人間族
状態:通常
LV46
体力:235
筋力:195
頑強:157
魔力:146
精神:120
俊敏:140
ユニークスキル:【状態異常無効化】
スキル:【剣術】【体術】【咆哮】【戦斧術】【筋力強化(中)】【吸血】【音波感知】【熱源探査】【麻痺吐息】【操糸】【槍術】【硬身】【棘皮】【強胃袋】【健康体】【威圧】【暗視】【敏捷強化(小)】【頑強強化(小)】【打撃耐性(小)】【気配遮断】【火炎】【火耐性(大)】【大剣術】【棍棒術】【纏雷】【遠見】【鑑定】【片手剣術】【指揮】【盾術】【肩代わり】【瘴気耐性(中)】【瞬歩】
属性魔法:【火属性】
自分のステータスを確認してみると、ジェネラルリザードとソルジャーリザードのスキルを獲得し
ていた。
それだけでなくレベルも四ほど上がっている。レベルこそ俺よりも低かったもののかなりの数がいたので、その分多くの経験値を獲得することができたのだろう。
ジェネラルによる指揮によるリザードの連携や思わぬスキルに翻弄されたが、俺はまだまだこの階層を潜ることができそうだ。
確かな実感を抱いた俺は食事を終えると、瘴気迷宮の階層をさらに深く潜っていくのだった。
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